麦角誘導体(エルゴタミン系製剤)の使用制限(EMA)

 バルサルタンや覆面調査の結果など、記事にしなければいけないものが多いのですが、なかなか余裕がなく(というよりモチベーションが少し低下中)、ツイートはできても記事の追加ができず申し訳ありません。

 前記事と同じ、EMA(欧州医薬品庁)のCHMPが発出した勧告で、麦角誘導体(エルゴタミン系製剤)に関する使用制限についてですが、発出は1か月以上も前のものです。

 定期的に紹介している医薬品安全情報の最新号に掲載され、見落としていたことに初めて気がつきました。特に重要だと思い、遅ればせながら記事にしました。

New restrictions on use of medicines containing ergot derivatives
(EMA 2013.06.28)
http://www.ema.europa.eu/ema/index.jsp?curl=pages/news_and_events/news/2013/06/news_detail_001832.jsp&mid=WC0b01ac058004d5c1
http://www.ema.europa.eu/docs/en_GB/document_library/Press_release/2013/06/WC500144861.pdf

麦角誘導体含有医薬品:新たな使用制限
(医薬品安全性情報 Vol.11 No.16(2013/08/01))
http://www.nihs.go.jp/dig/sireport/weekly11/16130801.pdf#page=5

 詳細は、上記日本語訳に譲りますが、エルゴタミン製剤により、線維症や麦角中毒といったリスクがこれまでの適用症のベネフィットを上回るとして、一部の適用については使用しないよう勧告を行っています。

 重要な部分を抜粋します。

医療専門職は、ジヒドロエルゴクリスチン(本邦未発売)、ジヒドロエルゴタミン(ジヒデルゴット他)、ジヒドロエルゴトキシン(ヒデルギン他)、ニセルゴリン(サアミオン他)、ジヒドロエルゴクリプチン+カフェイン合剤(本邦未発売)を含んでいる医薬品を下記の適用での処方するのを止めるべきである

  • symptomatic treatment of chronic pathological cognitive and neurosensorial impairment in the elderly (excluding Alzheimer’s disease and other dementia);
    高齢者での慢性的な認知機能障害や神経感覚障害(アルツハイマー病,およびその他の認知症を除く)の対症療法
  • ancillary treatment of intermittent claudication in symptomatic peripheral arterial occlusive disease(PAOD stage II);
    症候性末梢動脈閉塞性疾患(PAODE)での間欠性跛行の補助療法(ステージIIのPAOD)
  • ancillary treatment of Raynaud’s syndrome;
    レイノー症候群の補助療法
  • ancillary treatment of visual acuity decrease and visual field disturbances presumably of vascular origin;
    血管系の原因によると思われる,視力低下および視野障害への補助療法
  • acute retinopathies of vascular origin;
    血管系の原因による急性網膜症
  • prophylaxis of migraine headache;
    片頭痛の予防
  • orthostatic hypotension;
    起立性低血圧症
  • symptomatic treatment of veno-lymphatic insufficiency.
    静脈・リンパ管不全の対症療法

現在、上記のいずれかの適応で麦角誘導体を使用している患者については、通常の予約診察時に(緊急ではない)、治療を見直すべきである。

EU加盟国によっては、一部の麦角誘導体は、他の循環障害、認知症(アルツハイマー病を含む)の治療、急性片頭痛の治療など、別の適応でも承認されている。これらの適応はCHMPのレビューの対象に含まれていない。

 インタビューフォームを見て初めて知ったのですが、ニセルゴリンってのは麦角アルカロイド誘導体なのですね。添付文書を見ても、現時点では線維症の問題はないようなのですが、おなじ麦角類として今回の使用制限の対象として取り扱われたのでしょうか?(だったら日本で承認のエルゴタミンはなぜこのリストにないの? EUでは使われていないとか)

 ちなみに、現在日本での適応症は下記の通りです。見直しはあるのでしょうか?

ジヒドロエルゴタミン(ジヒデルゴット他)
 →片頭痛(血管性頭痛)、起立性低血圧

ジヒドロエルゴトキシン(ヒデルギン他)→
1. 下記に伴う随伴症状頭部外傷後遺症
2. 高血圧症(本剤の降圧作用はゆるやかであるので、高血圧症に用いるのは以下の場合に限る)高年齢の患者に用いる場合 利尿降圧剤投与により十分な降圧作用が得られない患者に併用する場合
3. 下記に伴う末梢循環障害ビュルガー病、閉塞性動脈硬化症、動脈塞栓・血栓症、レイノー病及びレイノー症候群、肢端紫藍症、凍瘡・凍傷、間欠性跛行

ニセルゴリン(サアミオン他)
 →脳梗塞後遺症に伴う慢性脳循環障害による意欲低下の改善

EMAのリストにはないけど、下記も同類

エルゴタミン+カフェイン(クリアミン配合錠)
 →血管性頭痛,片頭痛,緊張性頭痛

 緊急性はなく、EMAとしては各国独自の承認については干渉しないというスタンスのようですが、代替の治療法があるので、エルゴタミン系製剤は新たな治療の選択としてはしないように呼びかけていると見るべきでしょうか?

 PMDAでもレビューしていると思いますが、日本ではリスクベネフィットをレビューしたうえでの一部適応症の取り消し(使用制限)というのはこれまでほとんど聞いたことがないので、おそらく有害事象について、改めて注意喚起をするのとどまるのではないでしょうか。


2013年08月02日 10:25 投稿

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