安定ヨウ素剤の配布・服用に関する解説書(原子力規制庁)

 TOPICS 2013.06.07 で、6月5日に原子力災害対策指針が改定され、事前配布等を含む安定ヨウ素剤の配布・服用の基本的な考え方が示されたことを紹介しましたが、原子力規制庁原子力防災課は19日、安定ヨウ素剤の具体的な準備や服用方法をまとめた解説書を公表しています。

安定ヨウ素剤の配布・服用に関する解説書
(原子力規制委員会 2013.07.19)
http://www.nsr.go.jp/activity/bousai/iodine_tablet/index.html

 解説書は、「地方公共団体向」「医療機関向」の2つに分かれていますが、内容はほぼ同じで、医療機関向けの方は服用方法や副作用などの付属資料がより詳しくなっています。

 解説書は、「安定ヨウ素剤配布・服用のための事前準備」「安定ヨウ素剤の服用方法」「安定ヨウ素剤の服用方法」などが詳しく具体的に記されており、これを読むと安定ヨウ素剤の実際の管理が誰が行うのかと思いました。

 目に留まったとっころを抜粋します。

(事前配布について)

  • PAZ(Precautionary Action Zone:予防的防護措置を準備する区域。原子力施設から概ね5km)の住民には、事前に安定ヨウ素剤を配布しておく必要があり、全面緊急事態に至った場合、避難の際に速やかに安定ヨウ素剤を服用する。(ただし、事前配布が可能な薬剤を用意できない3 歳未満の乳幼児や、服用不適切者には安定ヨウ素剤を事前配布しない。)
  • PAZの住民に事前配布を行う場合には「安定ヨウ素剤の受領書の例」(→リンク、併用薬のチェックの項もある)に記載のある注意事項に留意し、原則として医師による説明会を開催する必要がある。
  • 説明会においては安定ヨウ素剤の取り扱いに関する留意点等を説明し、それらを記載した資料(→リンク)とともに安定ヨウ素剤を配布する。この際、必要な量以上に安定ヨウ素剤を事前配布してはならない。
  • また、住民が安定ヨウ素剤を受け取る際に、服用方法、副作用等の安定ヨウ素剤の取り扱いに係る留
    意事項について理解ができているか等を確認するため、受領書(→リンク)を記入・提出させることが必要である。加えて、安定ヨウ素剤を配布された者に関する管理簿(氏名、日時、数量、代理受領か否か等)を作成し記録を残す必要がある。
  • 説明会に参加できない住民については、保健所等の公共施設や病院等の医療機関において、医師等からの説明を受けた上で安定ヨウ素剤の事前配布が可能な体制を整備することが望ましい。
  • 地方公共団体は、多くの住民に対する説明を行う必要があり、安定ヨウ素剤の効能や副作用、服用方法等の薬剤に関する事項について、薬剤師が説明を行う等、薬剤師に医師を補助する協力を求めることも有効である。
  • 緊急時に即時に服用できるよう取り出す必要があることから、「薬箱のように用途が明確で覚えやすい場所に保管する」、「非常時に必ず持ち出す防災袋に他の災害時用品と一緒に入れる」といった「なくさないための工夫例」等を説明会や資料等で紹介することが有効である。
  • 転出、死亡等により安定ヨウ素剤が不要になった場合には、市町村役場等でその手続きを行う際に地方公共団体に返却することも指示する。
  • 転入者があった場合には、転入手続の際に、安定ヨウ素剤の事前配布に係る説明会の日程・場所を知らせる等、安定ヨウ素剤の配布について情報を提供する。
  • 保育園、幼稚園や中学校等において保護者向けに定期的な情報提供を行うなど、安定ヨウ素剤の事前配布に係る仕組みの周知に努めることが必要である。

(緊急配布について)

  • PAZ外で全面緊急事態に至った場合、UPZ(Urgent Protective Action Planning Zone:緊急時防護措置を準備する区域。原子力施設から概ね30km を目安)では屋内退避を実施し、安定ヨウ素剤は、この避難や屋内退避の際に服用する。
  • 地方公共団体は、避難や屋内退避の際に迅速に安定ヨウ素剤を配布できる体制を整備する必要がある。また、避難と併せて安定ヨウ素剤を服用する必要がある場合には3歳未満の乳幼児も服用の対象となるため、集合場所や避難所等において薬剤師並びに訓練を受けた医療関係者及び地方公共団体職員(以下「薬剤師等」という。)が粉末剤から液状の安定ヨウ素剤を調製できる体制を整備する必要がある。
  • 避難経路途中に配布場所を設けることが困難である、配布体制の準備に時間を要する等の状況により避難や屋内退避の際に迅速な配布が困難と考えられる地域や対象者等については安定ヨウ素剤を事前配布することも可能である。
  • 配布場所は、備蓄場所と同じ、又は、その近隣の施設を配布場所や避難経路上、住宅地の近くで交通の便が良い場所等の住民が避難の際に容易に立ち寄れる所を配布場所に指定する。
  • 緊急時の配布では3 歳未満の乳幼児が服用対象となる場合もあるため、集合場所や避難所等において薬剤師等が粉末剤を用いて液状の安定ヨウ素剤を調製できる体制を準備する。
  • 被ばくを軽減するため、避難する際に搭乗するバスや、屋内にある集合場所で配布する。
  • 住民が配布のため屋外に並ぶのではなく、屋内や車内で待機できるように配布場所を指定する。

(備蓄場所について)

 備蓄場所については、緊急時に速やかに取り出し配布ができるようにする必要がある。さらに、複合災害時に備え、備蓄場所が集中しないよう方策を講じる必要がある。備蓄場所として具体的には下記のような候補が挙げられる。

避難経路に面した公共施設  避難の際に速やかに安定ヨウ素剤を入手するためには、住民等が避難するそれぞれの経路を事前に設定し、その経路にできるだけ面した公共施設に備蓄しておき、その備蓄場所を住民にも周知しておく必要がある。
 また、この備蓄には、3 歳未満の乳幼児やそのほかの丸剤服用が困難な者の服用のために、粉末剤及び調製するための必要品(デジタル計量器、水等)を含める必要がある。ただし、調製は、原則として薬剤師等により避難所等で行うものとする。
避難所等  スクリーニング等が行われる避難所等において、安定ヨウ素剤を服用していない住民等へ配布できるように備蓄しておく必要がある。
 また、基本的に避難所等では、3 歳未満の乳幼児やそのほかの丸剤服用が困難な者の服用のために調製が行われるため、粉末剤及び調製するための必要品(デジタル計量器、水等)の備蓄が必要である。
学校等  PAZ内の学校(小学校、中学校、高等学校、専門学校、大学等)は全面緊急事態に至った場合にはそこに所在する生徒等が住民同様、速やかに避難すべきであり、特に若い年齢の生徒・学生が集まっていることから、これらの学校にも安定ヨウ素剤を備蓄しておく必要がある。また、職員の服用のための安定ヨウ素剤の備蓄も必要である。
 一方、PAZ外の学校は、校舎や講堂等があり多数の住民を収容できる場合が多いため、避難の際の集合場所等になる可能性が高く、生徒や職員のみならず、周辺住民等への配布分についても備蓄することが望ましい。
幼稚園、保育園等  PAZ内の幼稚園、保育園等は、3 歳以上の児童を対象に安定ヨウ素剤の丸剤を備蓄しておく必要がある。また、職員が服用するための安定ヨウ素剤の備蓄も必要である。
 PAZ外の幼稚園、保育園等は、学校と比較すると小規模の場合が多いが、園庭等が集合場所等に活用できる可能性がある。また、甲状腺被ばくによる発がん影響への感受性が高い乳幼児がいるため、PAZ外の施設においても丸剤の安定ヨウ素剤の備蓄の必要性が高い。
 また、備蓄に際しては周辺住民等への配布分についても備蓄することが望ましい。
病院、福祉施設等  病院、福祉施設等では患者、職員等が服用するための安定ヨウ素剤の備蓄が必要である。
保健所、保健センター等  保健所、保健センター等では職員等の服用分のみならず、災害時に住民が集まる可能性が高く、医師や薬剤師等が所在することから、安定ヨウ素剤の配布・服用の対応がとり易いこと等より、備蓄・配布場所として適している。

(備蓄数について)

  • 地方公共団体は、緊急時の安定ヨウ素剤の配布に備えて、各地域に応じた必要数を備蓄する必要がある。備蓄数については、緊急時の配布に備えた住民の人口分だけではなく、事前配布対象者のうちの未服用の者への追加配布、当該地域にある学校の学生、会社の社員、イベント参加者や旅行者等の一時滞在者の数も見込み、余裕をもった数の安定ヨウ素剤を備蓄しておくことが必要である。

  非常に詳細にわたり具体的なのはいいのですが、さまざまな想定も考え、相当数の安定ヨウ素剤の備蓄も必要となります。

 また、これまではヨウ素剤の配布は事故発生後で対象を40歳未満としていたのを40歳以上も服用するよう対象が拡大されたこともあり、朝日新聞の集計だと、現在備蓄されている安定ヨウ素剤の約2.3倍にあたる延べ1700万人分が必要だと予想されているほか、日医でも独自の必要数の集計を行っています。(日医のこういうときのレポートはさすがにすごい)

原子力発電所災害による全国的な緊急被ばく医療対策に関する研究
―国は50mSv拡散シミュレーションの実施・開示と原子力災害対策指針の安定ヨウ素剤の配布・備蓄等の再検討を―
(日医総研ワーキングペーパー 2013.07.18)
http://www.jmari.med.or.jp/research/summ_wr.php?no=515
http://www.jmari.med.or.jp/research/dl.php?no=515

 読んだ感想としては、膨大な備蓄数とさまざまな備蓄場所に広がる安定ヨウ素剤の管理について、地方自治体の担当者だけで行うことが果たして可能なのかどうかと感じました。

 地域薬局や地元の薬剤師会、学校薬剤師が安定ヨウ素剤の管理と配布にあたって、積極的なサポートを行っていくことも、もしかしたら、薬剤師職能の理解につながるのではないかと思いました。  

関連情報:TOPICS
 2013.06.07 安定ヨウ素剤の(事前)配布に薬剤師の役割が重要になる
 2013.04.10 ヨウ素剤事前配布、医師が立ち会い説明会で。薬剤師は?
 2012.07.29 原子力災害時における安定ヨウ素剤の使用と薬剤師の役割

参考:
原子力規制庁:ヨウ素剤対象全年齢に 「高齢でもリスク」
(毎日新聞 2013.07.19)
http://mainichi.jp/select/news/20130720k0000m040062000c.html
ヨウ素剤を40歳以上も服用 原発事故時、対象拡大
(47NEWS 2013.07.19 共同通信配信)
http://www.47news.jp/CN/201307/CN2013071901001724.html
安定ヨウ素剤、1700万人分が必要か 指針改定で
(朝日新聞 2013.07.19)
http://www.asahi.com/national/update/0719/TKY201307190378.html

2014.06.08 リンク修正


2013年07月19日 23:31 投稿

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