ヨウ素剤事前配布、医師が立ち会い説明会で。薬剤師は?

  原子力規制委員会は10日、原発の半径5キロ圏内の住民を対象にした安定ヨウ素剤の事前配布の方法や放射線モニタリング(測定)の枠組みを盛り込んだ原子力災害対策指針の改定案をまとめ、パブリックコメントを開始しています。

原子力災害対策指針(改定原案)に対する意見募集について
(原子力規制委員会 2013.04.10)
http://www.nsr.go.jp/public_comment/bosyu130410_1.html

 指針では、これまであいまいになっていた安定ヨウ素剤の事前配布の方法等が

  • PAZ(Precautionary Action Zone、予防的防護措置を準備する区域。施設から5km 圏内目安)においては、地方公共団体が、原則として医師による説明や副作用・アレルギーの事前調査を行う等の適切な方法により、安定ヨウ素剤の事前配布を行うことを記載。その上で、地方公共団体には、緊急時の紛失等に備えて、予備の安定ヨウ素剤を備蓄することが必要であることを記載。
  • PAZ外においては、地方公共団体は、原則、緊急時に備えて安定ヨウ素剤の備蓄を行うことを記載。ただし、緊急時に迅速な配布が困難と見込まれる等の地域では、PAZと同様、事前配布も可能である旨を記載。
  • 緊急時の服用については、原則として、原子力規制委員会が判断を行い、その判断に基づき原子力災害対策本部又は地方公共団体が指示することを記載。

 など具体化されています。

 以下、関連部分を抜粋します。

 ③ 安定ヨウ素剤予防服用の体制
(ⅰ)安定ヨウ素剤の予防服用について
 放射性ヨウ素は、身体に取り込まれると、甲状腺に集積し、数年~十数年後に甲状腺がん等を発生させる可能性がある。このような内部被ばくは、安定ヨウ素剤をあらかじめ服用することで低減することが可能である。このため、放射性ヨウ素による内部被ばくのおそれがある場合には、安定ヨウ素剤を服用できるよう、その準備をしておくことが必要である。

 ただし、安定ヨウ素剤の服用は、その効果が服用の時期に大きく左右されること、また、副作用の可能性もあることから、医療関係者の指示を尊重して合理的かつ効果的な防護措置として実施すべきであり、副作用や禁忌者等に関する注意点等については事前に周知する必要がある。

(ⅱ)事前配布の方法
 原子力災害対策重点区域のうちPAZにおいては、全面緊急事態に至った場合、避難を即時に実施するなど予防的防護措置を実施することが必要となる。この避難に際して、安定ヨウ素剤の服用が適時かつ円滑に行うことができるよう、以下の点に留意し、平時から地方公共団体が事前に住民に対し安定ヨウ素剤を配布することができる体制を整備する必要がある。

  • 地方公共団体は、事前配布用の安定ヨウ素剤を購入し、公共施設(庁舎、保健所、医療施設等)で管理する。
  • 地方公共団体は、事前配布のために原則として住民への説明会を開催する。説明会においては、原則として医師により、安定ヨウ素剤の配布目的、予防効果、服用指示の手順とその連絡方法、配布後の保管方法、服用時期、禁忌者やアレルギーを有する者に生じ得る健康被害、副作用、過剰服用による影響等の留意点等を説明し、それらを記載した説明書とともに安定ヨウ素剤を配布する。
  • 地方公共団体は、説明会に参加できない住民に対しては、医師による説明を受けることができる公共施設や医療機関に住民が出向き、説明を受けた上で受領できるよう対応する必要がある。歩行困難である等のやむを得ない事情により説明が受けられない者には、説明会に参加した家族や公共施設等に出向いた家族等が代理受領し、説明書とともに説明内容を当該対象者に伝えることを確認した上で配布する。
  • 地方公共団体は、配布に際しては、他の者に譲り渡さないよう指示するとともに、調査票等への回答や問診の実施等を通じて禁忌者やアレルギーの有無等の把握に努める。
  • 地方公共団体は紛失等により安定ヨウ素剤を即時に服用できない住民に対して追加配布できるよう予備の安定ヨウ素剤を備蓄する。また、追加配布方法等について説明会等を通じて説明する。
  • 地方公共団体は、放射性ヨウ素による内部被ばく予防が必要な住民に対して必要な量以外に安定ヨウ素剤を事前配布しない。
  • 地方公共団体は、原子力災害時の副作用の発生に備え、事前に周辺医療機関に受入の協力を依頼する等の救急医療体制の整備に努める。
  • 地方公共団体は、転出者又は転入者があった場合は速やかに安定ヨウ素剤を回収又は配布するよう努める。また、安定ヨウ素剤の更新時期の管理方法と期限切れ製剤の確実な回収方法について
    あらかじめ定め、実施する。

(ⅲ)事前配布以外の配布方法
 PAZ外においては、全面緊急事態に至った場合、プラント状況や空間放射線率等に応じて、避難等の防護措置を講じることとなる。そのため、以下の点に留意して、避難等と併せて安定ヨウ素剤の服用を行うことができる体制を整備する必要がある。

  • 地方公共団体は、緊急時に備え安定ヨウ素剤を購入し、避難途中に学校や公民館等で配布する等の配布手続きを定め、適切な場所に備蓄する。
  • 緊急時の住民等への安定ヨウ素剤の配布・服用は、原則として、原子力規制委員会が判断し、原子力災害対策本部又は地方公共団体の指示に基づき行う。
  • 安定ヨウ素剤の配布・服用は、原則として医師が関与して行うべきである。ただし、時間的制約等のため必ずしも医師が関与できない場合には、状況に応じて適切な方法により配布・服用を行う。
  • なお、EAL(Emergency Action Level、緊急時活動レベル)の設定内容に応じてPAZ内と同様に予防的な即時避難を実施する可能性のある地域、避難途中に学校や公民館等の配布場所で安定ヨウ素剤を受け取ることが困難と想定される地域等においては、地方公共団体が安定ヨウ素剤の事前配布を必要と判断する場合は、前述のPAZ内の住民に事前配布する手順を採用して、行うことができる。

 医師が立ち会い、配布ということになっていますが、 急時に果たして医師が立ち会い、しかも一か所に集めて説明するというのが現実可能なのかなあという気もします。(すみません。事前配布と事後配布がごっちゃになっていました)

 また、購入した安定ヨウ素剤は公共施設(庁舎、保健所、医療施設等)で管理するということになっていますが、混乱時に配布する場所にスムーズに運べるかどうかは疑問の余地があります。(原子力施設は街の中心地か離れて位置している場合もあるはず)

 いずれにしても、くすりの専門家である薬剤師やくすりの供給の責任者である薬局がこの指針には全く出てきません。

 ちなみに1999年にWHOがまとめた原子力事故時のヨウ素剤の予防投与に関するガイドラインではヨウ素剤の備蓄(保管)については次のような記載があります。

Guidelines for Iodine Prophylaxis following Nuclear Accidents
(WHO 1999 Update)
http://www.who.int/ionizing_radiation/pub_meet/Iodine_Prophylaxis_guide.pdf

If predistribution to households is not considered feasible, stocks of stable iodine should be stored strategically at points that may include schools, hospitals, pharmacies, fire stations, police stations and civil defence centres.

家庭への事前配布が不都合であると考えるのであれば、安定ヨウ素の備蓄は学校、病院、薬局、消防署、警察署と民間防衛センターなどに戦略的に保存されるべきである。(上記18ページ)

 また、広島で2000年5月に行われた国際会議 IRPA10 では、フランスのSaint-Alban原発周辺での取り組みが紹介されていて、薬剤師の役割が記されています。

PREVENTIVE DISTRIBUTION OF IODINE IN THE EVENT OF A NUCLEAR ACCIDENT
“Experience feedback on iodine distribution around Saint-Alban NPP in 1998″
http://www.irpa.net/irpa10/cdrom/00542.pdf

Pharmacists play an essential role, as they are responsible for the tablets, which are supplied in a blister pack of 10.

10錠ごとのブリスターパックで錠剤を供給するにあたり、薬剤師には重要な役割がある。

They distribute the tablets to families and establishments, the latter term being used in its broadest sense, i.e. schools, factories, health centres, commercial facilities, hotels, etc. The pharmacists’ role was consolidated by the specific training of their staff, including assistants and dispensing pharmacists.

薬剤師は、錠剤を家庭と公共施設(学校・工場・ヘルスセンター・商業施設・ホテルなど)に配布するとともに助手を含めた特別なトレーニングによって役割が強化されている。

 今回の指針は、あくまで国の考え方であり、具体的な態勢は各自治体が今後策定する地域防災計画の中で整備されることになりますが、是非、原子力施設が身近にある地域にお住い・お勤めの薬剤師の方には、自分たちの問題として考えて頂ければと思います。

 関連情報:TOPICS
 2012.07.29 原子力災害時における安定ヨウ素剤の使用と薬剤師の役割

 安定ヨウ素剤投与に関する基準
―原子力安全委員会基準,東電福島の事故への対処および近年の欧州の動向―
(保健物理 Vol. 46 (2011) No. 3 p 179-183) 
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jhps/46/3/46_179/_article/-char/ja/
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jhps/46/3/46_179/_pdf

緊急被ばく医療に関する検証
― 福島第一原発事故の教訓を踏まえた今後の体制・対応のあり方 ―
(日医総研ワーキングペーパーNO.275)
http://www.jmari.med.or.jp/research/summ_wr.php?no=502
http://www.jmari.med.or.jp/research/dl.php?no=502
(本文38ページから、安定ヨウ素剤の配布や服用状況についての記載があります。)

関連記事:
毎日新聞4月10日
http://mainichi.jp/select/news/20130410ddm012010047000c.html
Sankei Biz 4月10日
http://www.sankeibiz.jp/compliance/news/130410/cpb1304101157001-n1.htm
47NEWS 共同通信 4月10日
http://www.47news.jp/CN/201304/CN2013041001001246.html
NHKニュース4月10日
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130410/k10013820951000.html
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130410/k10013825301000.html

4月11日9:00訂正


2013年04月10日 23:14 投稿

コメントが3つあります

  1. アポネット 小嶋

    ツイートをたどっていたら、非常に詳しい資料が出できました。

    原子力災害時における薬剤による放射線防護策に係る調査 報告書
    (平成21年度内閣府科学技術基礎調査等委託)
    (独立行政法人 放射線医学総合研究所 2010.3)
    http://www.nsr.go.jp/archive/nsc/senmon/shidai/hibakubun/hibakubun028/houkokusyo.pdf

    薬局を活用している州や国もちらほらあります。特に、これまでに紹介したフランスの取り組みは注目です。

    保管場所の環境、不要になった場合や期限切れになった場合の廃棄の検討も必要みたいです。

    関連資料

    防護措置の中での安定ヨウ素剤の取り扱いについて
    (原子力規制委員会「原子力災害事前対策等に関する検討チーム」2012-12-13)
    http://www.nsr.go.jp/committee/yuushikisya/pre_taisaku/data/0003_01.pdf

  2. アポネット 小嶋

    4月26日開催の薬・食審医薬品第一部会で、のヨウ化カリウム丸に「放射性ヨウ素による甲状腺の内部被曝の予防・低減」の効能効果追加が報告され、近く適応症として追加されるものと思われます。
     
    薬・食審医薬品第一部会 資料
    (日刊薬業行政情報資料)
    http://nk.jiho.jp/servlet/nk/release/pdf/1226608238536#page=8

    上記、資料によれば、用法・用量は、「ヨウ化カリウムとして通常13歳以上には1回100mg、3歳
    以上13歳未満には1回50 mg、生後lヵ月以上3歳未満には1回32.5mg、新生児には1回16.3mgを経口投与する」となっています。
    (となると、子どもはこの量で飲めるような状態にしなければならない)

    インタビューフォーム等が出たら見てみましょう。

  3. アポネット 小嶋

    4月30日付けで適応追加になったそうです。

    ヨウ化カリウム丸50mg「日医工」の【効能・効果】追加のお知らせ
    (日医工 2013.05.07)
    http://www.nichiiko.co.jp/finance/gif/4541_20130507_373334646244157.pdf

    【PMDA】ヨウ化カリウム丸・添付文書
    http://www.info.pmda.go.jp/go/pack/3221002L1074_1_04/