イレッサ訴訟、東京高裁判決受け上告へ

 すでに新聞報道でご存じかと思いますが15日、イレッサ東京訴訟の東京高裁判決が言い渡され、国とアストラゼネカ社の責任を認めた一審東京地裁判決を取り消し、原告側の請求を棄却しています。

東日本訴訟原告控訴理由書
(薬害イレッサ弁護団)
http://iressabengodan.com/doc/000203.html

薬害イレッサ東日本訴訟 東京高等裁判所判決
(薬害イレッサ弁護団)
http://iressabengodan.com/doc/000219.html

イレッサ訴訟 東京高裁判決要旨
(中日新聞 11月16日)
http://iryou.chunichi.co.jp/article/detail/20111116155646033

争点 判断 判断理由
死亡との因果関係 原告側の死亡患者3人中、1人はイレッサ投与により死亡したと認められない。 製造物責任法上の欠陥があったといえるかどうかを判断する場合、有害事象と医薬品投与との間に「因果関係がある」といえうる事実関係があったのかを具体的に基づき認定する必要があるが、一審の「副作用症例」であるとの認定は「因果関係がある可能性ないし疑いがある」との判断を示したにとどまり、「因果関係がある」とまで認定したものではない。
肺がん患者の死亡要因は多様で、がんの有害作用によるものか、その他の原因によるものかの判定には困難を伴うことが多く、死亡症例の中には、副作用により死亡したとはいえないものが相当な割合に上る可能性がある。
一審が認めた死亡症例は因果関係を揺るがす症状または現象が存在していた。
設計上欠陥の有無 イレッサには抗癌剤や放射線治療が効きにくい非小細胞肺がんでの腫瘍縮小効果が高く、副作用の存在ゆえに設計上の欠陥があるとはいえない。 間質性肺炎は従来の抗がん剤や抗リウマチ薬のその他の特定の疾病または症状に著効のある医薬品の投与によって生じる一般的な副作用である。
副作用の存在にもかかわらずその医薬品に有用性を認めるかどうかは、当該疾病または症状の生命・身体に対する有毒性の程度及びこれに対する医薬品の有効性の程度と副作用の内容及び程度の相関関係で決まるものである。
輸入承認時の添付文書の記載 イレッサの輸入承認時に作成された添付文書第一版に警告欄がなく、間質性肺炎の副作用につき、致死的となり得る旨の記載がなくても、合理性を欠いていたとはいえず、指示・警告上の欠陥があったともいえない。 国内の臨床試験で3例あった間質性肺炎の発症例では死亡はなく、国外の4死亡症例はがん自体の有害作用で死亡した可能性があり、イレッサ投与との因果関係があるとまではいえなかった。
間質性肺炎の記載が「重大な副作用」欄の四番目 重大な副作用欄の1番目から3番目までに揚げられた副作用も、4番目の間質性肺炎と同様に、いずれも重篤な副作用に区分され、評価対象臨床試験において間質性肺炎が高い割合で発生したとは言えない状況にあった。 間質性肺炎の記載が4番目であっても、副作用の可能性をも見とれなかったとすれば、その者は添付文書の記載を重視していなかったというほかない。
患者本人等による読解と指示・警告上の欠陥の有無 間質性肺炎について専門知識のないものが自ら読んで理解できるように記載を求めることは要指示薬及び劇薬の指定がされている医薬品の添付文書の趣旨目的の範囲を超える 投与を決定するのは、がん専門医または肺がんに係る抗がん剤治療医であり、患者本人やその家族に対しては、医師から必要に応じて説明されることが前提。

 今回の判決を受けて、原告団・弁護団は承認前に集積された副作用報告症例について、当該医薬品との「因果関係がある可能性ないし疑いがある」というだけでは足りず、確定的に「因果関係がある」と言える状態に至らなければ、安全対策をとる義務が発生しないとするに等しい極めて特異な考え方を大前提に下した判決であると指摘するとともに、国や企業でさえ主張していない、医薬品安全対策に関する基本的な理解を欠いた前代未聞の立論」「ソリブジン薬害事件の教訓を没却し、現場の医師に責任を転嫁する点においても不当である」などとした声明を出しています。、

薬害イレッサ東日本訴訟東京高裁判決についての原告団・弁護団声明
(薬害イレッサ訴訟統一原告団・弁護団 2011年11月15日)
http://iressabengodan.com/doc/000218.html

 また、薬害被害者など複数の団体も今回の判決を受け、抗議声明を出しています。

私たちは、薬害被害者団体連絡協議会は、薬害イレッサ訴訟について、東京高等裁判所が本日言い渡した判決に強く抗議します。
(全国薬害被害者団体連絡協議会 声明 2011年11月15日)
http://homepage1.nifty.com/hkr/yakugai/seimei-2011-1115.pdf

 そして、原告団・弁護団は17日、「今回の判決はこれまでの薬害事件の経験によって築かれてきた医薬品の安全性確保のためのルールを根本から否定するものであり、この判決の論理では医薬品の安全性は確保できない」として最高裁に上告したことを明らかにしています。

東京高等裁判所判決に対し、最高裁に上告しました
(薬害イレッサ弁護団 11月17日)
http://iressabengodan.com/topics/2011/000223.html

 各紙は社説で、抗がん剤の有効性や副作用について、製薬会社は医師に十分な情報を提供することや、また医師は患者にわかりやすく説明する、さらに国もこれを、きちんとチェックしていくべきと指摘しています。

 また、現在イレッサ訴訟を契機に、抗がん剤で重い副作用が出た場合に医療費などが給付される救済制度の検討が厚労省で進められていますが、今回の判決を受けてこの救済制度づくりに何らかの影響があるのではないかとの指摘もあります。

抗がん剤等による健康被害の救済に関する検討会(厚労省)
 http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000ax9a.html#shingi75

関連情報:TOPICS 2011.03.30 イレッサ東京訴訟、国の賠償責任も認める

参考:日本経済新聞、読売新聞他11月16日、17日記事、社説


2011年11月18日 00:47 投稿

コメントが1つあります

  1. アポネット 小嶋

    メデイカルトリビューン・あなたの健康百科に、今回の判決について、化学療法の専門医の立場としての意見が掲載されています。

    【提言】イレッサ訴訟は適正判決、がん医療崩壊免れた
    (あなたの健康百科 11月25日)
    http://kenko100.jp/news/2011/11/25/02

    がん薬物療法における説明と同意のむずかしさを感じます。