薬剤師主導の軽症疾患治療プログラムが広がる背景は(カナダ)

カナダでは、州ごとに内容は異なりますが、薬剤師による軽度疾患(minor ailments)への対応が地域薬局の薬剤師業務として広く行われていますが、2010年代半ばの時点までの動きをまとめた概説です。

Int J Gen Med. 2016 Aug 10;9:291–302】
Pharmacist-led minor ailment programs: a Canadian perspective
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4987077/

2013年には、カナダ人の15.5%(約460万人)がかかりつけ医がいないと回答した。また地域格差がある

薬剤師による軽症疾患の処方は、カナダでは比較的新しい取り組み

2007年、アルバータ州は薬剤師による医薬品の処方を許可した最初の州となりましたが、その法律は軽症疾患にとどまらず、はるかに広範囲に及んだ。その後、残りのすべての州が、さまざまな程度の処方権限を採用(または現在検討中)。

(参考)(現在の権限の付与状況)
Common Ailments(Canadian Pharmacists Association)
https://www.pharmacists.ca/advocacy/practice-development-resources/common-ailments/

PRESCRIBING AUTHORITY OF PHARMACISTS ACROSS CANADA
https://www.pharmacists.ca/cpha-ca/assets/File/pharmacy-in-canada/PharmacistPrescribingAuthority_EN_web.pdfCommon Ailments

ノバスコシア州は、2011年1月に軽症疾患を診療範囲の拡大対象に加えた最初の州の一つ。

その後まもなく、新たな法整備によりサスカチュワン州の薬剤師も同様の対応が可能になった。

2012年2月現在、同州はカナダで初めて軽症疾患の処方箋に対して報酬(1件あたり18ドル)を支払う州政府となった。
(現在は他の州でも報酬の支払いが行われている)

一方でプログラムに関する包括的な国家的な取り組みはなく、各州が独自に実施している。

サービスの必要性はどこにあるか?

処方権限を追加する背景には、より安価でありながら効果的な医療へのニーズがある。しかし、ここで問うべきは、誰がこのような主張をしているのか、そしてその主張はどれほど正当化できるのか、ということである。

軽度の病気に対する医療費は高額であり、すべての州政府もその事実を認識しているはずだ。

しかし、国民にセルフケアを促す公共広告は存在しない。軽度の病気に対するセルフケアを推進する全国的なキャンペーンはないが、州の保健当局が医療費削減に向けた新たな手法に関する議論を歓迎する可能性は極めて高い。そのため、軽度の病気に対する薬剤師による処方権限の潜在的なメリットについて政府機関に働きかけてきたのは、薬剤師団体であった。

医療へのアクセスは、実際にかかりつけ医がいるかどうか、あるいはタイリー診察を受けるためにどれほどの労力が必要かという点において、多くの国民にとって課題となっている。

ある州で薬剤師による処方箋発行が導入された際、州の保健相は「これは理にかなっていると考えている。これにより、診療所や救急外来での待ち時間が緩和されるだろう」と述べている。

多くの地方地域(rural settings)では、薬局の方が医師よりも身近な存在であると言えるだろう。したがって、軽度の病気のケアにおいて薬剤師が多くの人の理にかなった選択肢となるのは、長年にわたる関与の歴史が裏付けている事実である。

しかし、ある医療提供者へのアクセスが容易になったからといって、それが複雑な問題の解決策になるとは限らない。おそらく、答えは単に医師を増やすことにあるのかもしれない。医師は他の医療提供者よりも患者の全病歴を把握しており、身体検査も行えるため、これは(費用はかかるものの)理想的なケアと言えるだろう。

軽度の病気は定義上、医師の診察を必要としないが、研究によれば、それらは医師の時間を浪費する些細で不適切、あるいは不必要な受診よりも、はるかに複雑なケースになり得ることが分かっている。

世界各国では軽度の不調がある際に、まず薬剤師に相談するよう一般市民に働きかけている。

また、各国の国民も医療提供者に診てもらう前に、軽度の不調に対して自己治療を行う傾向がある。
(日本はどうなんだろう)

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この論文では、このあと、この時点でのノバスコシア州、オンタリオ、サスカチュワン州での取り組みや研修要件についてふれています。

薬学部学生の教育について触れており、例えば、サスカチュワン大学では、軽症疾患全般に、大学は講義に約90時間、チュートリアルに16時間、実習室での実習に10時間を割いており、さらに学生は卒業前に、2回の夏期実習(指導監督下)で、この教育内容を実践的に応用することになっているとのこと。

サスカチュワン州での取り組みの経緯も興味深い

2000年、地元の産科医から「ブリティッシュコロンビア州やワシントン州のように、薬剤師に緊急避妊薬の処方権を認めていないんだ?」当時の州の薬剤師登録官(pharmacy registrar)の提案がきっかけだだったという

その後の取り組みにより、薬剤師に緊急避妊薬の処方権限を与えるだけでなく、処方箋の調整(処方箋の延長、緊急調剤)も認める州薬事法改正に関する検討資料が作成。

同様の動きは他の州でも起きていた。医師や看護師といった医療専門職との協議が始まり、その結果、この構想は概ね支持されることとなった。

2003年、薬剤師による薬剤処方に関する規制が改正された。しかし、新たな規制では、薬剤師の処方権限は緊急避妊薬に限定された。保健省によれば、医療制度が薬剤師のこうした役割に対応できる準備が整っていなかったため、処方内容の変更に関する権限は保留となった。

同年に薬剤師登録官が英国のプライマリケア施設を視察する調査ツアーに参加。そこで彼は、グラスゴーの貧困地域で勤務する薬剤師と偶然出会い、その薬剤師から英国で提案されていた「軽症疾患サービス(Minor Ailment Service)」について説明を受けた。(→TOPICS 2012.10.14, 2008.04.05

その薬剤師の患者の一人は、ホームレスであったため、一般的な病気の診療を受けるのに苦労していた。薬剤師は、その患者の足指の爪の感染症を治療するために抗真菌薬を処方する権限があればと切望していた。

これが、サスカチュワン州における軽症疾患への処方制度を構想する上で決定的な瞬間となった。薬剤師登録官はこのサービスの基盤作りを始めた。

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日本ではOTC医薬品へのスイッチ化で軽度疾患への対応を促すことで、軽度の病気に対する医療費を抑制することを考えていますが、限られた領域にとどまることでどこまで抑制が可能なのか、またOTC医薬品の購入時に薬剤師があまり関与していない状況下で実効性あるのかを改めて考えさせられます。

こういう話をすると、必ず、海外と医療制度が異なる、皆保険でフリーアクセスでかかることができる日本の医療制度にどこが問題があるのかという批判を浴びそうですが、果たして持続性が保証されているのでしょうか?

政治や職能団体は、限りある医療資源を有効活用するためには、どのような医療提供体制が必要なのか、現場の薬剤師にどのような職能が期待され、職能発揮のためにどのような研修が求められるのかを将来を見据えて改めて議論・提案をしてもらいたいものです。

参考:
Self-care and minor ailments: The view from Canada
Explor Res Clin Soc Pharm. 2024 Jan 24)
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10844728/

関連情報:TOPICS
2026.03.17 Pharmacist prescribing が医療の4つの目的に与える影響とは?
2026.03.17 軽度の疾患に対しての薬剤師処方はどのような影響をもたらしたか(加オンタリオ州)
2025.09.20 薬剤師に処方権が付与される33の病気と症状(加オンタリオ州)
2025.05.25 カナダ・ブリティッシュコロンビア州における薬局サービス
2026.02.23 日本でなぜ薬剤師の職能拡大に関心が高まらないのか
2012.10.14 英国のセルフケア支援とセルフメディケーション
2008.04.05 薬剤師はさらなる役割を担うべき(英国)


2026年03月22日 12:05 投稿

コメントが1つあります

  1. アポネット 小嶋

    もう少し新しい概説もありました(以前Xに投稿していた)

    Self-care and minor ailments: The view from Canada
    (Explor Res Clin Soc Pharm. 2024 Jan 24)
    https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10844728/

    過去15年間にカナダで導入された軽症患者(minor ailments)に対する薬剤師処方プログラムは、医療環境に大きな変革をもたらし、タイムリーで費用対効果の高い医療サービスへの患者のアクセスを改善し、プライマリ・ケア施設の負担を軽減し、待ち時間を減らし、患者の満足度を高め、政府の節約につながっている。

    2023年7月現在、カナダの10の州すべてで、軽度の疾患に対する薬剤師による処方( pharmacist prescribing for minor ailments)が現実のものとなっている。

    薬剤師の処方が進化し続ける中で、医療従事者間の連携を促進しながら、患者の転帰やセルフケア行動に対する長期的な影響を評価することが極めて重要である。

    このサービスは、患者の質の高いケアへのアクセスを向上させ、患者中心のヘルスケアサービスを推進するというカナダのコミットメントの模範となり、より広範なヘルスケア状況に大きく貢献し続ける可能性を秘めている。

    ————-

    こちらは、プログラム開始時期にカナダ薬剤師会雑誌に投稿されたもの

    Minor ailments across Canadian jurisdictions
    (Can Pharm J (Ott). 2013 Sep;146(5):296–298.)
    https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3785206/

    カナダ全土で、経済全体が低迷する中、医療費は上昇の一途をたどっています。

    現在、各政府は、医療の安全性とアクセスの向上、間接費の削減、そして費用対効果の高い施策の推進を図りつつ、こうした医療費の抑制に注力しています。

    薬剤師は、カナダ国民と政府にとって、より良い医療、健康、そして価値を実現する上で、極めて重要な役割を果たすことができます。

    近年、カナダの各管轄区域において、薬剤師の業務範囲は拡大しています。

    薬剤師は現在、患者に対して追加的な臨床的サービス(cognitive services)を提供できるようになり、患者が最も必要とする時に質の高い医療をより利用しやすくしています。

    その結果、薬剤師は、この国が直面する医療課題の解決において重要な役割を担うことになっています。

    薬剤師が貢献できる一つの方法は、軽度の疾患の評価と処方を行う能力です。

    薬剤師は幅広い教育を受けているため、どの地域の薬剤師も、軽度の疾患の治療に関する訓練と経験を有しています。

    しかし、これまで薬剤師の選択肢は、市販薬の提供、あるいは医師や救急外来への紹介に限られていました。

    軽度の症状に対する処方箋の発行は、薬剤師がプライマリヘルスケアの提供に貢献し、同時に医療システムへの負担を軽減する一つの方法です。

    このサービスの導入は、医療へのアクセスを改善するだけでなく、医師、薬剤師、そして患者間の連携を促進することにもつながります。

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