薬剤師によるワクチン接種の最近の世界的動向と今後の展望(FIP)

薬剤師主導のワクチン接種に関する国際的な取り組み状況などを記したレポートがこのほど公表されています。

【FIP 2025.08.22】
Global lessons in pharmacist-led vaccination highlighted in new FIP insight report
https://www.fip.org/news?news=newsitem&newsitem=655

本報告書では、支援政策、教育、アドボカシー(権利を主張し支援)、医療システム間の連携といった取り組み可能要因を検証し、薬局を通じたワクチン接種率拡大を目指す国々に向けた具体策が提示

【FIP 2025.08】
From policy to practice_Global lessons in advancing pharmacist-led vaccination
(Report from a FIP insight board)
https://www.fip.org/file/6347

現在、薬剤師によるワクチン接種が可能(PBV:pharmacy-based vaccination)となっている国と地域は現在56か国に達していますが、薬剤師の権限で行うことのできる国(both prescribe and administer vaccines)はわずか29か国で、60か国では、薬剤師主導の予防接種を規定する明確な政策が存在しない、薬剤師のワクチン接種の役割の拡大に関する正式な議論の報告がないなど、明確な法的枠組みが整備されていない状況があります。

国名
薬剤師による包括的なワクチン接種が行われている国
(国の予防接種スケジュールや旅行⽤ワクチンを含む幅広いワクチン接種が可能)
アルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、カナダ、フランス、イギリス、ニュージーランド、ノルウェー、ポルトガル、南アフリカ、スイス、アメリカ合衆国
薬剤師による限られた種類のワクチン接種が可能な国
(FLUやcovid-19など。定期的な予防接種を行う権限はない)
アルジェリア、チャド、ベルギー、カメルーン、カーボベルデ、コスタリカ、デンマーク、フィンランド、ドイツ、ガーナ、ギリシャ、アイルランド、イスラエル、イタリア、ヨルダン、ラトビア、リトアニア、ルクセンブルク、ケニア、ナミビア、ナイジェリア、フィリピン、ポーランド、ルーマニア、サウジアラビア、アラビア、シエラレオネ、南スーダン、チュニジア、アラブ首⻑国連邦、ベネズエラ、イエメン
薬剤師主導ワクチン接種が政策議論中もまだ実施されていない国 クロアチア、エストニア、ハンガリー、アイスランド(パイロットプロジェクト実施中)、インド、マルタ、セルビア、シンガポール(試験サービス実施中)、スロベニア、タンザニア、トルコ、ウルグアイ
明確な法的枠組みが整備されておらず、薬剤師がワクチン接種を行う権限がない国 日本、韓国、中国、香港、台湾、モンゴル、ネパール、フィジー、ハイチ、インドネシア、マレーシア、タイ、スリランカ、バングラディシュ、アフガニスタン、アルバニア、アルメニア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、コソボ、オーストリア、ブルガリア、キプロス、チェコ、モンテネグロ、オランダ、スロバキア、スペイン、スウェーデン、北マケドニア、ウクライナ、ロシア、キューバ、エルサルバドル、ボリビア、チリ、コロンビア、エクアドル、グアテマラ、ガイアナ、パナマ、イラク、パキスタン、クウェート、オマーン、レバノン、エジプト、モロッコ、コートジボアール、コンゴ共和国、コンゴ民主共和国、マダガスカル、マラウイ、マリ、モーリシャス、ルワンダ、セネガル、スーダン、ザンビア、ジンバブエ

FIPでは、この間、こういった現状について、13か国17組織の代表が意見交換をし、本レポートで2026年から2028年に向けた戦略や技術支援パッケージの設計を検討しています。

以下、本報告書の概要を紹介します

1.薬剤師主導のワクチン接種が広がる背景

COVID‑19パンデミックは、世界中で薬剤師主導のワクチン接種を促進する大きなきっかけとなり、薬局をアクセスしやすく信頼できるワクチン接種の場として活⽤する必要性を高め、薬剤師主導のワクチン接種サービスの拡大を加速させました。

また、限られた⼈的リソースや生涯にわたる予防接種への需要の高まりなども、その重要性を増しています。

こういった背景から、多くの国で、薬剤師の役割を拡大するための政策変更が進んでいる一方で、法的なギャップや機会の喪失が依然として大きな課題となっています。

2.薬剤師主導のワクチン接種を形作る法的変更

薬剤師主導のワクチン接種を可能にする法律は国によって大きく異なっていますが、やはり、COVID-19などの健康危機が法的変更を促進しています

ドイツ:
 感染防止法の改正により薬剤師のワクチン接種が認可

イタリア、ポルトガル:
 パンデミックを契機に一時的な権限が与えられ、後に正式な法律に移行

豪州:
 COVID‑19パンデミックに加えて、日本脳炎、Mpoxといった公衆衛生上の脅威が、法律の変更とサービス拡大に

スペイン:
 生涯予防接種スケジュールの拡大とプライマリケアにおける医療従事者の不⾜が相まって、代替的な供給チャネルの必要性が浮き彫りに

3.薬剤師主導のワクチン接種の拡大を妨げる障壁

薬剤師主導のワクチン接種の実施は、さまざまな障壁によって制約されています。

  • 法的な認められていない国や、同じ国内でも州など地域ごとに異なる規制が存在
  • 毎年交渉が必要など償還制度に⼀貫性がなく、また患者の自己負担額も国や地域、ワクチンの種類によって異なり、公平性に懸念があるなど、資金調達に課題がある
  • GPなど他の医療従事者の抵抗や、協力の欠如が進展を妨げている
  • 接種記録データが整備されていないために、ワクチンカウンセリングを困難にしている
  • 政治的背景とイデオロギー的課題が存在
  • ワクチンへの不安や誤情報が、科学的エビデンスを覆い隠すことがある

こういった障壁に対して、薬学部のカリキュラムにワクチン研修を取り入れたり、各国では組織的な提言活動や政策議論などの取組が行われている

4.ステークホルダーの影響と協⼒

薬剤師主導ワクチン接種は、複数の主要なステークホルダーの行動と影響⼒によって形作られていることから次のような取り組みが必要です

  • 保健当局や省庁が政策改革の支柱となるかどうか
  • 薬剤師会等がワクチン接種に関わる考え方や指針をつくる
  • 地域薬局がアクセスしやすく、安全で便利であるという認識を広める
  • 医療関係者や関連団体との分野横断的な連携と率直な対話が不可⽋

5.薬剤師主導のワクチン接種の将来の可能性

薬剤師主導のワクチン接種の拡大には、次のような取り組みが必要です

  • 薬剤師が接種できるワクチンの範囲を広げる
  • 国家予防接種戦略に日常的かつ統合された⼀部として組み込まれる
  • 薬学教育や継続的なトレーニングとして義務付ける
  • 包括的な患者の予防接種記録へのアクセスを可能にする
  • ワクチンに対する啓発とともに、薬剤師のアクセスの良さ、安全性の実績、そして研修を強調することで、信頼できる医療提供者としての薬剤師の役割を強化する
  • 安定した安定した資金調達モデルを確立する

わが国だけではなく、周辺アジア各国もまだまだですが、医療ひっ迫や限られた医療資源の有効活用、そして国民のワクチンへのアクセス向上のためにも、我が国でも政策的に進める必要があるのではないでしょうか。


2025年08月27日 16:31 投稿

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