薬局の民営化がもらたしたもの(スウェーデン)

2009年に薬局が国営化から民営化となったスウェーデンですが、その後の薬局業界がどうなっているかをまとめた報告書が目に留まったので紹介したいと思います(5月1日にXに投稿したものを再構成しました。誤訳があったらご指摘下さい)

この報告書は、規制緩和以前から現在に至るまで薬局業界がどのように発展してきたのか、また今後どのように発展していく可能性があるのか、様々な側面に光を当てることを目的として、スウェーデン競争当局(KKV)が外部に委託し、4月24日に調査報告書として公表されました。

【KKY 2025.04.24】
Forskningsrapport om den omreglerade apoteksmarknaden
https://www.konkurrensverket.se/informationsmaterial/nyhetsarkiv/2025/forskningsrapport-om-den-omreglerade-apoteksmarknaden/

調査方法は、一般市民へのアンケート調査、業界や行政機関のキーパーソンへのインタビューと並行して、公文書や学術論文を分析。

また、競争、アクセシビリティ、起業家精神、サービスの多様性といった目的に加え、患者の安全性、安全文化、労働環境といった質の面も取り上げられています。

(報告書)
Den omreglerade apoteksmarknaden
https://www.konkurrensverket.se/informationsmaterial/rapportlista/den-omreglerade-apoteksmarknaden/

規制の見直しにより、薬局数は増加と営業時間の延長により、アクセシビリティは向上。一方で、薬局業界には多くの新規企業が参入が相次いだ後、統合が進み、結果、競争は悪化、小規模の独立店は生き残りが困難となった。

人口の少ない地域には国からの補助金(処方薬の売上などを参考に交付)があるにもかかわらず、薬局へのアクセスは依然として地域偏在があり、人口が少ないと分類される薬局にとっては厳しい経済状況となっている。

さらに、市場環境の悪化も競争の低下につながっており、最も重要な要因の1つは、電子商取引と医薬品およびその他の取り扱い商品の競争の激化だ。

電子商取引で処方箋医薬品を購入したと回答した患者の多数は、購入時に薬剤師からのアドバイスを受けなかったと回答。

2017年度の厚生労働科学研究での報告書によれば、スウェーデンでは対面販売は義務化されておらず、対面での情報提供の代わりに、電話や電子メールでの情報提供が一般的。インターネットで医薬品(処方箋医薬品・非処方箋医薬品)を購入しようとしている患者が、薬剤師のアドバイスが欲しい場合、購入時に「薬剤師と話したい」というボタンを押すようになっている。一方でインターネットで薬を購入した人が、「購入した薬について、薬剤師からの情報提供を希望しますか?」という質問に、「はい」と答えた人の割合は 3%程度。一方、電話や電子メールなど、他の情報提供媒体でも10%程度

したがって、電子商取引による処方箋ビジネスが実店舗と同じなのか、同じように償還され続けるべきなのか、あるいは取引マージンも販売チャネルによって差別化され得るのかが問題となる。

薬剤師不足は、薬局業界にとっても、薬剤師個人の労働環境にとっても課題である。

その背景には、薬局数の増加による薬局自体の小規模化があると考えられている。

また、労働環境の変化、特に開局時間の延長も影響し、薬局の仕事の魅力が低下している。

労働環境調査においても、薬剤師は時間の経過とともに労働環境が悪化していると報告しており、患者の安全に悪影響を及ぼすリスクもある。

また、薬剤師は安全文化にも悪影響を及ぼしていると報告している。

スウェーデン薬局協会は、薬局の役割を拡大し、医薬品やその他のサービスを公的償還で提供する可能性を提唱する中で、現在の薬剤師の仕事を近代化する必要性も強調している。

そのためには、規制の枠組みを変更する必要があり、そうでなければ、役割の拡大と薬剤師不足を両立させることは難しいだろう。

著者らはまた、市場がさらに集中するのを防ぐためには、基本的使命の資金調達や規制の枠組みの変更が必要であることを取り上げている。

報告書では、地域薬局における薬剤師サービス(Farmaceutiska tjänster)(p31~)という項目がある。

ここでは、吸入指導など日本でも行われている、薬剤師の役割と関与を高める業務が紹介されている他、英NHSのPharmacy First や、ワクチン接種に触れている

英国では、NHS内でPharmacy first のイニシアチブが進行中で、急性中耳炎、伝染性膿痂疹、女性の合併症のない尿路感染症を含む7つの症状の患者を薬局が受け入れ、管理、治療できるようにすることで、プライマリ・ケアの負担を軽減することを目的としている。

薬局は定められた臨床管理計画に従わなければならいが、限られた範囲の医薬品を処方することができる。

患者は自分で薬局に連絡してサービスを受けることができるが、医療サービスから紹介されることもある。

なおこの、Pharmacy First は、スウェーデンの薬剤師に相当する5年間の研修を受けた薬剤師のみが行うことができることを付記したい。

スウェーデン薬剤師会も、これはスウェーデンの薬局にとって望ましい展開だと考えており、同様のシステムをスウェーデンで導入できるかどうかについては政府による調査が必要だと指摘してい。

COVIDのパンデミックの際、スウェーデン薬剤師協会とスウェーデン薬局協会は、薬局をアクセスしやすい医療窓口としてアピールするなど、薬局薬剤師がパンデミックの管理に貢献できる可能性について取り上げた。

多くの国で薬局でワクチン接種が行われており、そこで薬局薬剤師がCOVID-19ワクチン接種に貢献したているという事実を踏まえ、スウェーデン薬局協会も薬局薬剤師がワクチン接種に関する研修を受けた後、将来的にワクチン接種で貢献することを提案したが、この提案はさらに進められることはなかった。

日本では国が、今の薬局業界がどうなっているのか、電子商取引(オンライン服薬指導)や在宅業務への傾注、かかりつけ薬局制度や健康サポート薬局がどのような影響を及ぼしているか、海外と比べて薬局業務はどう違うのかといった現状把握に欠けていると思う。

日本でもこうった公的な報告書をまとめて欲しいものです。

そうでなければ、次世代、世界標準の地域薬局のあるべき姿は示すことはできないでしょう。

なおスウェーデンの薬事制度や薬局事情、電子商取引の実態については、厚生労働科学研究などで紹介されています。

参考:
Tutkimus: Ruotsin apteekkiuudistus lisäsi apteekkien määrää mutta pysäytti palveluiden kehittämisen
(Ateekkari 2025.04.29)
https://www.apteekkari.fi/uutiset/tutkimus-ruotsin-apteekkiuudistus-lisasi-apteekkien-maaraa-mutta-pysaytti-palveluiden-kehittamisen/

関連情報:
北欧の薬局と薬剤師の現状について(話題)
(ファルマシア 46(4) p339-344,2010)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/faruawpsj/46/4/46_KJ00009692139/_pdf/-char/ja

各国の電子処方箋の制度及び医療DXの実態の把握のための研究
(2023厚生労働科学研究)
https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/167747

国民への安全な医薬品の流通、販売・授与の実態等に関する調査研究
(2017厚生労働科学特別研究)
https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/26406


2025年05月05日 12:48 投稿

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