医療DXの推進としての電子処方箋システムの導入については、今年の9月の時点で電子処方箋運用開始済となっているのは薬局で85.5%に対し、診療所で22.1%、病院で15.3%、歯科診療所で6.1%に留まっているのが現状です。
電子処方箋等検討ワーキンググループの資料を見ると、様々な機能の追加の検討が行われ、その有用性を基に普及を図っていることが伺えます。
この間、追加機能などによる追加負担、電子処方箋のマスタと薬局システムとの紐づけなどの課題なども山積しています。
一方、欧州や北米などでは一般化され、今や国をまたいだやりとりも行われています。
この背景には、医療制度や医療情報基盤の違いがあると思いますが、2023年の厚生労働科学研究では、医療DXを推進するために検討すべき事項が示されています。
【2023厚生労働科学研究】
各国の電子処方箋の制度及び医療DXの実態の把握のための研究
https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/167747
この研究では、電子処方箋の普及が進む国々を中心に各国および地域の電子処方箋の制度および実態を把握すること目的に行われ、先進的な取り組みを行っている欧州(スウェーデン・エストニア・デンマーク・オランダ)およびアジア(台湾)では現地視察を行い、電子処方箋に関する状況を直接確認し詳細な調査が行われています。
各国における電子処方箋による調剤の流れなど詳しく記載されているのですが、報告書の分量が多くなってきちんと目を通していなかったのですが、最近になって総括研究報告書を確認したところ、医療DXの推進のために、調剤のあり方など、電子化をベースにした医療基盤の構築における課題について記されていたので紹介したいと思います。
総括研究報告書
https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/report_pdf/202306006A-sokatsu.pdf
4,医療DXの推進
今回の調査では、いずれの国および地域でも行政機関のみならず関係団体が協力し
つつ医療DXを進めていた。本邦でも行政機関の垣根を超えた連携のもと、電子化をベースにした次のような医療基盤の構築が望まれる
(ア)医療専用ID
(イ)データヘルス機関
(ウ)診療報酬の制度改定
北欧諸国では薬局に対してはシンプルな診療報酬の体系
本邦においてもこれらを参考に今後進めるべき
(エ)処方の在り方
海外では、1日の回数のみ指定するなど複雑な用法は使用されていない。
一方、現在の電子処方箋管理サービスは従来の法制度に則り構築されている。
本邦でも医師の働き方改革等も踏まえ、医師が指示すべき用法の粒度について検討が必要。
実際の服用方法は調剤時に薬剤師が確認することとして「服用方法は薬剤師に一任」などの用法指示も設定が必要。
次のような観点で見直すことにより、医薬品の処方に関する負担を軽減し、しいては医師の働き方改革にもつながる
【処方時に必要な情報の観点】
〇医薬品名
製品名まで指定する必要があるか。成分のみ指定し剤型(錠剤か散剤か)は、薬剤師が調剤時に確認することで良いのではないか。
〇 服用(使用)方法
医薬品の服用(使用)タイミングとして食事の関係まで必要あるか。必要であれば回数のみを指定し、薬剤師が調剤時に確認することで良いのではないか。
〇 用量
・薬品名の規格と数量による指定は必要あるか。成分量で指定し、薬剤師が調剤時に確認することで良いのではないか。
(オ)調剤方式の見直し
米国では「バラ調剤」が一般的であるが、欧州では「箱だし調剤」が一般的になっている。
医薬品の流通の効率化や医薬品の品質確保の観点から、本邦でも「箱だし調剤」を進めてはどうか。
さらに近年のSDGsの観点から、医薬品の安定性に問題ないものであれば、ヒートシールに包装されないバラ錠の状態での製品を使用することも有用と考える。
(カ)医薬品トレーザビリティの確保(ロット・シリアル管理)
今回の調査でも偽造医薬品の流通防止の観点から、ヨーロッパでは個々の製品自体をシリアル番号で管理している。
一方近年、本邦でも医薬品や健康食品が関連した健康被害が報告されている。したがって本邦でも各医療機関や薬局等で医薬品を使用もしくは患者に払い出す際には、当該薬品の製造番号(製造記号)などを記録する必要がある。
さらに、今後の医薬品流通のグローバル化を考えると、本邦でも医薬品のシリアル管理が必要と考える。
(キ)API連携・薬局のFHIR仕様
(ク)オンライン環境における薬剤師の役割
本邦の薬剤師の在り方では、「対物業務から対人業務」の言葉のもと、患者への服薬指導を重視した業務の比重が拡大してきた。一方、近年高額薬品が増加し、医薬品の供給に関する課題も拡大している。
ドイツでは、患者への医薬品配送のラストワンマイルは薬剤師が責任をもって実施しており、エストニアでも医薬品の患者宅への配送は専門の業者のみ対応可能など制限が行われている。
またスウェーデンでは、オンライン診療の普及により電子処方箋のオンライン調剤が増加した。その結果、宅配業者による医薬品の配送も増加したが、誤配送や未配送などが多数発生するため、法規制も検討しているとのことであった。
本邦でもドイツのように全国にある薬局を患者への配送ステーションと位置づけ、品質が保証された安全な医薬品を直接患者の手元に届けるための業務を実施すべきと考える。
(ケ)患者同意の在り方
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本邦では、従来の制度をそのままに、今ある技術を最大限に利用しつつ効率化や改善を図ってきた(例:処方箋を薬局へFAXで送信するなど)。
そのため、今回調査した各国および地域のような電子化に対するメリットを十分に享受できないもしくは実感できない状況にあると思われる。
さらに、従来の制度や手法をそのままに電子化を実施しているため、より煩雑で複雑なシステムが構成されていると危惧する。
本来、電子化のメリットを十分に享受するためには、電子的な情報が取り扱いやすいよう、判断に齟齬なく自動で処理できるよう、情報やシステムを整理することが望ましいと思われる。
近年あまりにも複雑化した診療報酬、細かな指示を求める処方や保険調剤のあり方についてもきちんと議論をしていかないといけないと思いました。
私も海外の取組参考にしながら、トレーザビリティの観点からも箱出し調剤の一般化と、細かな用法などについては薬剤師の裁量で調剤や指導ができる仕組みづくりも同時に進めないと、電子処方箋の普及、しいては医療DXはなかなか進まないように思います。
参考:
電子処方箋推進会議
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-iyaku_470779_00015.html
健康・医療・介護情報利活用検討会 電子処方箋等検討ワーキンググループ
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-iyaku_470779_00024.html
2025年10月12日 11:49 投稿