高齢者の終末期の医療およびケアでの立場(老年医学会)

 TOPICS 2011.12.08 で、日本老年医学会(http://www.jpn-geriat-soc.or.jp/)の作業部会がAHN(高齢者の終末期などで行われている胃ろうなどの人工的水分・栄養補給)の導入と中止(撤退)をめぐる選択や意思決定のプロセスなどについてを記した医療・介護従事者向けの指針案をまとめていることを紹介しましたが、28日、高齢者の終末期の医療およびケアにおける同学会としての立場の表明が行われています。

「高齢者の終末期の医療およびケア」に関する日本老年医学会の「立場表明」2012
(日本老年医学会「立場表明2012」 2012 年1 月28 日理事会承認)
http://www.jpn-geriat-soc.or.jp/tachiba/jgs-tachiba2012.pdf

 高齢者の終末期の医療およびケアに関しては、2001年に同学会による「立場表明」が既に行われていますが、近年の医療における患者の権利についての認識の高まりや、医師主導の医療から患者中心の医療へと移行など、高齢者の終末期における医療やケアをとりまく状況が大きく変わりつつあることなどから、同学会の倫理委員会が立場の再検討を行い、今回の表明となったようです。

 同学会では『人の「老化」と「死」に向かい合う高齢者医療は、人文・社会・自然科学で得られた幅広い成果に基づく生命科学を基盤にした、「生命倫理」を重視した全人的医療であるべきであると考える』とした基本的な立場を示した上で、下記の11項目について、同学会の考え方や提言を行っています。

  1. 年齢による差別(エイジズム)に反対する
  2. 個と文化を尊重する医療およびケア
  3. 本人の満足を物差しに
  4. 家族もケアの対象に
  5. チームによる医療とケアが必須
  6. 死の教育を必修に
  7. 医療機関や施設での継続的な議論が必要
  8. 不断の進歩を反映させる
  9. 緩和医療およびケアの普及
  10. 医療・福祉制度のさらなる拡充を
  11. 日本老年医学会の役割

 立場5で、「死にゆく患者を対象とした医療およびケアは、チームアプローチによって実施されることが望ましい。そのチームのメンバーには、医師のみならず、看護職、ソーシャルワーカー、介護職、リハビリテーション担当者、薬剤師、心理士、ボランテイア、家族などが含まれる。チームのメンバーは、持ち得る知識と技術のすべてを患者の必要に応じて提供すべきである。」、また立場9で、「緩和医療及びケアの普及」などが記されているように、高齢者の終末期における適切かつ最善な医療およびケアにおいて、私たちもその職能を発揮することが求められています。

 しかし、その際にはわが国特有の家族観や倫理観、患者個々の死生観、価値観および思想・信条・信仰なども考慮することが必要であり、薬学的知識・技術以外の幅広い分野の知識も要求されます。このため、普段からカンファレンスや研修会などにも積極的に参加し、さまざまな職種の方たちの意見や考え方にも耳を傾けることも必要でしょう。

 同学会では今回の「立場表明」について、「現場においてさまざまな困難に直面している医療者に対する指針となるだけでなく、終末期を迎えつつある高齢者に最善の医療およびケアを提供し、その家族の心の平安を保障するうえでの指針となることを願っている」としており、今後の終末期医療やケアのあり方に影響を与えることになりそうです。

関連情報:TOPICS
 2011.12.08 高齢者ケアの意思決定プロセスに関するガイドライン(試案)

参考:
47NEWS 1月31日(共同通信配信)
 http://www.47news.jp/CN/201201/CN2012013101002427.html
読売新聞1月31日
 http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20120128-OYT1T00924.htm


2012年02月03日 14:27 投稿

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