Priscus-Liste (ドイツ版 Beersリスト)(Update)

 ドイツの研究グループはこのほど、高齢者に対し潜在的に不適当な薬(PIM:potentially inappropriate medications)のリストを、Die Priscus-Liste(the PRISCUS List) としてまとめ、Deutsches Ärzteblatt International 誌で発表しています。(論文は英文です)

Potentially Inappropriate Medications in the Elderly: The PRISCUS List
(Dtsch Arztebl Int 2010; 107(31–32): 543–51)
http://www.aerzteblatt.de/int/article.asp?id=77857
http://www.aerzteblatt.de/v4/archiv/pdf.asp?id=77857
http://www.aerzteblatt.de/pdf.asp?id=77857
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2933536/

 このThe PRISCUS List は、米国のBeers list を始め、カナダ、フランスで作成されたPIMなどをもとに、まず24の薬効群131の成分をリストアップ(p.17のe-BOX1)、これを老年医学・臨床薬理学・神経医学・精神医学・薬局など20人以上の専門家によって、検討が加えられました。

 その結果、18の薬効群83成分がPIMに該当するとしています。(その他の46成分については証拠が不十分などとして、リストには該当しないとされる)(薬効分類は、下記表と一致しません。p.17のe-BOX1を参照して下さい)

薬効群 成分名 理由 代替薬等
NSAIDS インドメタシン
アセメタシン
ケトプロフェン
ピロキシカム
メロキシカム
phenylbutazone
etoricoxib
消化管出血など致死的な副作用の高いリスク アセトアミノフェン弱オピオイド
(Tramadol、コデイン)弱NSAIDS
(イブプロフェン)
オピオイド鎮痛剤 ペチジン 錯乱
転倒リスク
抗不整脈薬 キニジン 中枢神経系副作用
死亡率増加
β遮断薬
ベラパミル
ジルチアゼム
アミオダロン
細動除去装置
フレカイニド 有害事象の発症率が高い β遮断薬
アミオダロン
ソタロール   心臓選択性β遮断薬
(メトプロロール、カルベジノール、bisoprolol)
アミオダロン
プロパフェノン(一部のタイプ)
ジゴキシン
acetyldigoxin
メチルジゴキシン
男性より女性の方が配糖体への感受性が高い
中毒のリスク
心房細動:β遮断薬心不全:ACE阻害薬+利尿薬
抗生物質 Nitrofurantoin 長期の使用で肺への有害事象や肝臓にダメージに セファロスポリン系などの他の抗生剤
抗ヒスタミン薬
(抗コリン薬)
ヒドロキシジン
クレマスチン
dimetindene
クロルフェニラミン
triprolidine
便秘・口乾
認知機能の低下
心電図の変化
(QT延長)
非鎮静・非抗コリン作用の抗ヒスタミン薬
(セチジリン・ロラタジンなど)
泌尿器用薬
(抗コリン薬)
オキシブチニン
トルテロジン
ソリフェナシン
便秘・口乾
心電図の変化
(QT延長)
非薬物的療法
抗血小板薬 チクロピジン 血球への影響 アスピリン
クロピドグレル
Prasugrel 75歳以上ではベネフィットを上回る好ましくないリスク
三環系抗うつ薬 アミトリプチン
ドキセピン
イミプラミン
クロミプラミン
マプロチリン
トリミプラミン
抗コリン作用
(便秘、口乾、起立性低血圧、不整脈)
中枢性抗コリン作用
他のSSRI(シタロプラム、セロトラリン)ミルタザピン行動療法などの非薬物療法
SSRI フルオキセチン 吐き気、不眠、めまい、錯乱などの等の中枢神経系副作用
低ナトリウム血症
MAO阻害薬 tranylcypromine 悪性症候群 フルオキセチン以外のSSRI行動療法などの非薬物療法
制吐薬 ジメンヒドリナート 抗コリン作用 ドンペリドン
メトクロプラミド
(副作用に注意)
降圧薬 クロニジン 低血圧・徐脈・失神
中枢神経系副作用
(鎮静・認知障害)
ACE阻害薬ARB利尿薬β遮断薬カルシウム拮抗薬
(長時間作用型)
α遮断薬 ドキザゾシン
プラゾシン
テラゾシン
(降圧剤として使用される場合)
低血圧・口乾
中枢神経系副作用
降圧薬 メチルドパ 起立性低血圧・徐脈・鎮静
降圧薬 レセルピン 起立性低血圧・鎮静・抑うつ
カルシウム拮抗薬 ニフェジピン(非徐放性)  
従来型抗精神病薬 チオリダジン
fluphenazine
レボメプロマジン
ペリフェナジン
ハロペリドール
(2mgを超えるもの)
抗コリン作用性副作用
パーキソニズム
低血圧
鎮静
転倒リスク
認知症患者での死亡率増加
リスペリドンなどの非定型薬をリスクとベネフィットを考慮してmelperonepipamperone

短期間のパロペリドールの使用(3日以内)

非定型抗精神病薬 オランザピン
クロザピン
 
エルゴタミン類 dihydroergocryptine
ジヒドロエルゴトキシン
   
下剤 流動パラフィン   マクロゴール
ラクツロース
筋弛緩薬 バクロフェン
tetrazepam
記憶喪失
転倒
トルペリゾン
チザニジン
長時間作用型ベンゾジアゼピン系 クロルジアゼピン
ジアゼピン
フルラゼパム
dipotassium clorazepate
ブロマゼパム
クロバザム
ニトラゼパム
フルニトラゼパム
メタゼパム
転倒(股関節骨折)精神神経的反応
(短気・幻覚など)認知障害抑うつ
短時間型BZ系薬を低用量でopipramol鎮静作用のある抗うつ薬(ミルタザピン)

melperone

pipamperone

短時間作用型ベンゾジアゼピン系 アルプラゾラム
テマゼパム
トリアゾラム
トラゼパム
(2mg/日 超えるもの)
オキサゼパム
(60mg/日超えるもの)
lormetazepam
(0.5mg/日超えるもの)
ブロチゾラム
(0.125mg/日超えるもの)
カノコソウ鎮静作用のある抗うつ薬(トラゾドン、ミアンセリン、ミルタゾラム)低用量のゾルピデム

opipramol

melperone

pipamperone

非ベンゾジアゼピン系 ゾルビテム
(5mg/日 超えるもの)
ゾピクロン
(3.75mg/日超えるもの)
zaleplone
(5mg/日 超えるもの>
鎮静薬
(抗ヒスタミン剤)
Doxylamine
ジフェンヒドラミン
抗コリン作用性副作用
めまい
鎮静薬 抱水クロラール  
認知症治療薬等 Pentoxifylline
naftidrofuryl
ニセルゴリン
ピラセタム
有用性が証明されていない アセチルコリンエステラーゼ阻害薬
メマンチン
抗てんかん薬 フェノバルビタール 鎮静作用 ラモトリジン
バルプロ酸
levetiracetam
ガバベンチン

 日本でもほとんどが発売されている成分ばかりですが、未発売のPrasugrel も入っているんですね。BZ系の代わりにミルタザピンなどの鎮静作用のある抗うつ薬で代替というのも目に引きました。

 このリストは3年毎に見直すとのことですが、日本版Beersリストの見直しはそろそろ行われるのでしょうか?

 ドイツ語による詳しいリストは、PRISCUS(www.priscus.net)の下記ファイルとしてまとめられています。

PRISCUS-Liste potenziell inadäquater Medikation für ältere Menschen
http://priscus.net/download/PRISCUS-Liste_2010_final.pdf
http://priscus.net/download/PRISCUS-Liste_PRISCUS-TP3_2011.pdf

資料:研究者らが参照した4つのPIM

Explicit criteria for determining potentially inappropriate medication use by the elderly.
Arch Intern Med. 1997;157(14):1531-1536.)
http://archinte.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=623574
(Full-Text は下記フリーアクセスの論文引用からのリンクでみれます)

Updating the Beers Criteria for Potentially Inappropriate Medication Use in Older Adults
Arch Intern Med. 2003;163:2716-2724)
http://archinte.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=757456

Defining inappropriate practices in prescribing for elderly people:a national consensus panel
(CMAJ 1997; 156: 385–91.)
http://www.cmaj.ca/cgi/content/abstract/156/3/385
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1226961/

Potentially inappropriate medications in the elderly: a French consensus panel list
(Eur J Clin Pharmacol 2007; 63: 725–31.)
http://link.springer.com/article/10.1007%2Fs00228-007-0324-2

関連情報:TOPICS
 2008.04.02 Beersリスト日本版が公表
 2007.09.15 高齢者に対して特に慎重な投与が求められる薬

2015年4月3日 リンク更新


2010年08月29日 00:48 投稿

コメントが1つあります

  1. アポネット 小嶋

    追記です。

    日本で作成された同じ方法(リッカート・スケール)で、リストが作成されたようです。

    Beers criteriaの日本版の開発
    (財団法人ファイザーヘルスリサーチ振興財団 第13回ヘルスリサーチフォーラム講義録)
    http://www.pfizer-zaidan.jp/fo/business/pdf/forum13/fo13_4_01.pdf

    日本のリストと異なるところは、代替薬(代替の治療法)や、投与された場合の留意点(モニターすべき点)が記されているところでしょうか。(ハイリスク対策として使えそう)