2012 Beers Criteria(Update)

 ほとんど報道がなかったので今まで気づかなかったのですが、あの Beers Criteria(Beers リスト) の2012年版が公表されています。

 2012年版は、米国老年医学会(AGS:The American Geriatrics Society)の11人の専門委員が中心となって医療専門職によってまとめられたもので、2003年以来のUpdateとなります。

 専門委員では今回の更新にあたっては、この10年間に発表された2000を超えるシステマティック・レビューやメタアナリシスのレビューを行ったそうです。

Dozens of common medications identified as risky for the elderly
(FOX NEWS 2012.03.02)
http://www.foxnews.com/health/2012/03/02/dozens-common-medications-identified-as-risky-for-elderly/

AGS Updated Beers Criteria for Potentially Inappropriate Medication Use in Older Adults (2012)
http://www.americangeriatrics.org/health_care_professionals/
clinical_practice/clinical_guidelines_recommendations/2012
 

 2012年版では、

  • 潜在的に不適切な医薬品(Potentially Inappropriate Medication)
  • 特定の疾患で使用に注意すべき医薬品(Due to Drug-Disease or Drug-Syndrome Interactions)
  • 使用に注意すべき医薬品

の3つのカテゴリーに分け、53の薬効群(医薬品)をリストアップしています。

American Geriatrics Society Updated Beers Criteria for Potentially Inappropriate Medication Use in Older Adults
Journal of the American Geriatrics Society Online First 2012.02.29)
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1532-5415.2012.03923.x/full
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1532-5415.2012.03923.x/pdf

AGS Beers Criteria Summary – For Patients & Caregivers
http://www.americangeriatrics.org/files/documents/beers/BeersCriteriaPublicTranslation.pdf

以下は、上記2つの資料を基にまとめてみました。OTC医薬品でも注意すべきものが数多くあります。(誤りがありましたらご指摘ください) 

1.潜在的に不適当(Potentially Inappropriate Medication Use)
  薬効群(医薬品)名  勧告  主な理由など
抗コリン薬
(三環系抗うつ薬は除く)
第一世代の抗ヒスタミン薬
・カルビノキサミン
・ジフェンヒドラミン
(OTC医薬品に配合)
・クロルフェニラミン
・クレマスチン
・シプロヘプタジン
・プロメタジン など
避ける 混乱、口乾。便秘などのリスク
パーキンソン病治療薬
・トリヘキシフェニジルなど
避ける 錐体外路症状のリスク 
鎮痙薬
・ベラドンナアルカロイド
・ジサイクロミン
・プロパンサイン
・スコポラミン など
短期の緩和医療での使用以外は避ける 分泌物の低下
抗血小板薬 短時間型のジピリダモール(経口)  避ける  転倒をもたらす起立性低血圧のリスク
チクロピジン 避ける 他により安全な選択肢がある
Anti-infective ニトロフラントイン 長期使用、腎機能低下者は避ける 肺毒性のリスク
腎機能低下者では有用性が劣る
心臓血管病薬
(Cardiovascular)
α遮断薬
・ドキサゾシン
・プラゾシン
・テラゾシン
高血圧治療薬としての使用は避ける 転倒をもたらす起立性低血圧のリスク
中枢性α作動薬
・メチルどパ
・クロニジン
・0.1mg/日を超えるレセルピン など
避ける
(クロニジンは第一選択として避ける)
中枢神経系作用のリスク
徐脈と起立性低血圧のリスク
抗不整脈薬
(クラスIa、Ic、III)
・アミオダロン
・フレカイニド
・プロカインアミド
・プロパフェノン
・キニジン
・ソタロール など
心房細動の第一選択として避ける 不整脈のコントロールのベネフィットは」少ない
アミオダラオンは甲状腺疾患、肺障害、QT延長のリスク
ジソピラミド 避ける 心不全誘発の可能性
抗コリン作用による副作用
Dronedarone 永久的心房細動・心不全は避ける 服用者で悪いアウトカム
ジゴキシン
(0.125mg/日を超える場合)
避ける 心不全患者で毒性リスク↑の可能性
ニフェジピン
(速放タイプ)
避ける 血圧低下の可能性心筋虚血のリスク
スピロノラクトン
(25mg/日を超える場合)
心不全・腎機能低下時は避ける 心不全で、NSAIDs、ARB、ACE阻害薬、カリウム剤を併用する患者で高カリウム血症のリスク
中枢神経薬 三環系抗うつ薬
・アミトリプチン
・イミプラミン など
避ける 強力な抗コリン作用
鎮静作用
起立性低血圧
抗精神病薬 薬物療法以外の対応がうまくいかないとき、患者の自傷た他者への危害があるときを除き避ける 認知症患者で脳卒中の増加
・チオリダジン
・Mesoridazine
避ける 強力な抗コリン作用
QT延長リスク
バルビツール系誘導体
・フェノバルビタール など
避ける 身体的依存が高い
過量投与のリスク
ベンゾジアゼピン系薬 不眠、興奮、錯乱の治療目的での使用を避ける 認知機能の障害、錯乱、転倒、骨折、自動車事故のリスクが増大
抱水クロラール 避ける 耐性が起こりやすい
メプロバメート 避ける 身体的依存が高い鎮静作用が強力
非ベンゾジアゼピン系眠剤
・エスゾピクロン
・ゾルピデム など
90日を超える常用は避ける 錯乱、転倒、骨折のリスクが増大
エルゴタミン
Isoxsuprine
避ける 有用性はない
内分泌薬 アンドロゲン
・テストステロン
・メチルテストステロン
中等度~重度の性機能低下の場合を除き禁忌 心リスク
乾燥甲状腺 避ける 心リスク
エストロゲン
(プロゲステロンの有無にかかわらず)
経口薬・パッチ製剤・局所の膣クリームは避ける
性交時痛時に用いる低用量のものは可
発がんリスクなど
成長ホルモン 下垂体除去後のホルモン補充の場合を除き避ける 浮腫、関節痛、手根管症候群、女性化乳房との関連性
インスリン
sliding scale
避ける 血糖管理の難しさ
Megestrol 避ける 血栓イベントの増加
長時間作用SU剤
・クロルプロパミド
・Glyburide
避ける 遷延化する低血糖
胃腸薬 メトクロプラミド 胃不全麻痺の場合を除き避ける 錐体外路障害
Mineral oil(経口) 避ける 誤吸引の可能性
Trimethobenzamide 避ける 錐体外路障害
効果が低い
痛み関連 Meperidine 避ける 神経毒性
非COX-選択的NSAIDs(経口)
・ジクロフェナク
・ジフルニサル
・エトドラク
・フェノプロフェン
・イブプロフェン
・ケトプロフェン
・メフェナム酸
・メロキシカム
・ナブメトン
・ナプロキセン
・オキサプラジン
・ピロキシカム
・スリンダク
・トルメチン など
他の選択肢が効果的でない時、PPIやミソプロストロールの併用ができない場合は常用を避ける 出血リスク
潰瘍リスク
(75歳以上の高齢者か65歳以上の高齢者でプレドニゾロン、ワルファリン、クロピドグレルなどの併用患者)
インドメタシンなど 避ける 出血リスク
潰瘍リスク
ペンタゾシン 避ける 幻覚や錯乱などの副作用
骨格筋弛緩薬
・クロルゾキサゾン
・メトカルバモール など
避ける 抗コリン作用
鎮静
骨折リスク
2.特定の疾患や症状で使用に注意すべき医薬品
(Due to Drug-Disease or Drug-Syndrome Interactions)
疾患・症状 薬効群(医薬品)名 勧告 主な理由など
心不全 NSAIDs
比シクロオキシナーゼ阻害薬
非ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬
・ジルチアゼム
・ベラパミル
ピオグリタゾン
rosiglitazone
シロスタゾール
Dronedarone
避ける 体液を貯留させ、心不全を悪化させる可能性
失神、意識消失 アセチルコリンエステラーゼ阻害薬
・ドネペジル
・ガランタミン
・リバスチグミン
末梢性α遮断薬
・ドキザゾシン
・プラゾシン
・テラゾシン
三環系抗うつ薬
・クロルプロマジン
・チオリダジン
・オランザピン
避ける 起立性低血圧、徐脈リスクの増加
長期にわたる発作、てんかん ブプロピオン
クロルプロマジン
クロザピン
マプロチリン
オランザピン
チオリダジン
チオチキセン
トラマドール
避ける 発作の閾値を下げる
錯乱 すべての三環系うつ薬
すべての抗コリン作用薬
ベンゾジアセピン系薬
クロルプロマジン
コルチコステロイド
H2ブロッカー
Meperidine
鎮静睡眠薬
チオリダジン
避ける 高齢者で錯乱を誘発させたり、悪化させる可能性
禁断症状を避けるため、常用的に使用する場合は漸減を
認知症認知機能の障害 抗コリン作用薬
ベンゾジアゼピン系薬
ソルピデム
抗精神病薬
避ける 薬物療法以外の対応がうまくいかないとき、患者の自傷た他者への危害があるときを除き避ける
抗精神病薬は認知症患者で脳卒中や死亡率の増加リスクと関係がある
転倒または骨折の既往歴がある人 抗けいれん薬
抗精神病薬
ベンゾジアゼピン系薬
非ベンゾジアゼピン系眠剤
・エスゾピクロン
・ゾルピデム など
三環系抗うつ薬
SSRI
より安全な選択肢が利用できるときは避ける
発作疾患をの除いて抗けいれん薬は避ける
運動失調、失神、転倒のリスク
不眠症 経口のうっ血除去薬
・プソイドエフェドリン
・フェニレフリン
(OTC鼻炎薬に配合)
Stimulants
・アンフェタミン
・メチルフェニデート
・ペモリン
その他
・テオフィリン
・カフェイン
避ける 中枢神経系に影響し、不眠を悪化させる
パーキンソン病 抗精神病薬
(クロザピンを除く)
制吐薬
・メトクロプラミド
・プロクロルペラジン
・プロメタジン
避ける トパミン受容体拮抗作用によるパーキンソン病の悪化
慢性の便秘 尿失禁のための経口の抗ムスカリン薬
・オキシブチニン
・ソルフェナシン
・トルテロジン など
非ジヒロドピリジン系カルシウム拮抗薬
・ジルチアゼム
・ベラパミル
第一世代の抗ヒスタミン薬
・カルビノキサミン
・ジフェンヒドラミン
(OTC医薬品に配合)
・クロルフェニラミン
・クレマスチン
・シプロヘプタジン
・プロメタジン など
抗コリン作用薬
鎮痙薬
他の選択肢があれば避ける 便秘の悪化
潰瘍の既往歴の人 325mg/日を超えるアスピリン
非COX-2選択的NSAIDs
他の選択肢が効果的でない時、PPIやミソプロストロールの併用ができない場合は常用を避ける 潰瘍の悪化もしく新たな潰瘍のリスク
ステージIV、Vの慢性腎炎の人 NSAIDs
トリアムテレン
避ける 腎障害の悪化
女性の尿失禁 エストロゲン(経口、パッチ) 避ける(女性) 失禁の悪化
下部尿路症状、前立腺肥大 吸入抗コリン薬
・イプラトピウム吸入
・チオトロピウム吸入
強力な抗コリン作用薬
(尿失禁時の抗ムスカリン薬を除く)
避ける(男性) 尿入量を低下させ、尿閉の可能性
ストレスなどによる尿失禁 α遮断薬
・ドキサゾシン
・プラゾシン
・テラゾシン
避ける(女性) 失禁の悪化
3.使用に注意すべき医薬品(Be Used with Caution)
注意すべき薬(薬効群)  勧告  主な理由など
心イベント予防目的のアスピリン 80歳以上は慎重使用 80歳以上での有用性のエビデンスは不十分
ダビガトラン 75歳以上、
CrCl <30 mL/min時は慎重使用
75歳以上の高齢者ではワルファリン使用時のよりも出血リスクが高い
CrCl <30 mL/min 時は有用性安全性のエビデンスは不十分
Prasugrel 75歳以上は慎重投与 抗高齢者で出血リスクが高い
抗精神病薬
カルバマゼピン
カルボプラチン
シスプラチン
ミルタザピン
SNIR
SSRI
三環系抗うつ薬
ビンクリスチン
慎重使用
(血清ナトリウムなどのモニターも必要)
抗利尿ホルモン不適合分泌症候群や低ナトリウム血症の発症または悪化の可能性
血管拡張薬 慎重使用 失神の既往歴者で再燃の可能性

 なお、2003年更新版は下記です。

Updating the Beers Criteria for Potentially Inappropriate Medication Use in Older Adults
Arch Intern Med. 2003;163:2716-2724)
http://archinte.ama-assn.org/cgi/content/full/163/22/2716
http://archinte.ama-assn.org/cgi/reprint/163/22/2716

関連情報:TOPICS
  2010.08.29 Priscus-Liste (ドイツ版 Beersリスト)
  2008.04.02 Beersリスト日本版が公表
  2007.09.15 高齢者に対して特に慎重な投与が求められる薬

3月18日 20:47掲載 3月21日0:40更新


2012年03月21日 00:40 投稿

コメントが1つあります

  1. アポネット 小嶋

    日本では今回の更新版についてはあまり話題になっていませんが、いくつかの雑誌で解説記事が掲載されています。

    Commentary on the New American Geriatric Society Beers Criteria for Potentially Inappropriate Medication Use in Older Adults
    (Am J Geriatr Pharmacother. 2012 April; 10(2): 151–159.)
    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3381503/
    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3381503/pdf/nihms-383856.pdf(Beers2003、STOPP 2006 criteria と比較している)

    2012 Beers Criteria Update: How Should Practicing Nurses Use the Criteria?
    (J Gerontol Nurs. 2012 Jun;38(6):3-5.)
    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22657720
    http://www.healio.com/nursing/journals/JGN/%7B2E316F56-184D-4886-B01C-CC42AEBBA8D9%7D/2012-Beers-Criteria-Update-How-Should-Practicing-Nurses-Use-the-Criteria

    2012 Beers Criteria Update: How Should Practicing Nurses Use the Criteria?
    (Geriatr Nurs. 2012 Jul-Aug;33(4):253-5.)
    http://www.gnjournal.com/article/S0197-4572(12)00203-0/fulltext

    また、EMAで3月22日~23日に行われたワークショップでもさまざまなプレゼンテーションがあります。

    European Medicines Agency workshop on medicines for older people
    (→リンク

    Beers Criteria には問題点もあるとの指摘も

    Medication Errors & STOPP/START criteria
    http://www.ema.europa.eu/docs/en_GB/document_library/Presentation/2012/04/WC500125149.pdf