薬害再発防止のための医薬品行政等の見直しについて(最終提言)

 薬害の再発防止と薬事行政の在り方を検討してきた、厚生労働省の薬害肝炎事件の検証及び再発防止のための医薬品行政のあり方検討委員会は28日、医薬品行政を監視する第三者組織の設置や総合的な基本法(仮称・医薬品安全基本法)制定、承認申請の透明性の確保などを求める最終提言を長妻昭厚労相に提出しました。

 薬害肝炎検証・検討委員会「最終提言」について(厚労省2010年4月28日)
 http://www.mhlw.go.jp/shingi/2010/04/s0428-8.html

 薬害再発防止のための医薬品行政等の見直しについて(最終提言)
(薬害肝炎事件の検証及び再発防止のための医薬品行政のあり方検討委員会 2010.4.28) 
 http://www.mhlw.go.jp/shingi/2010/04/dl/s0428-8a.pdf

 今回の提言は、昨年4月30日公表された「薬害防止のための医薬品行政のあり方第一次提言」(TOPICS 2009.05.07)を土台に、その後の調査や議論を踏まえてまとめられたもので、現場の薬剤師にとっても関連する多くの提言が含まれています。

 今回の「最終提言」では、「第一次提言」を基礎に、「専門家の育成と薬剤疫学研究等の促進」、「審査手続、審議の中立性・透明性等」、「新たなリスク管理手法の導入」、「リスクコミュニケーションの向上のための情報の積極的かつ円滑な提供と患者・消費者の関与」、「製薬企業に求められる基本精神等」、「医薬品行政組織について」、「第三者監視・評価組織の創設」等についての項目で追記・修正が行われた他、薬害肝炎の被害者、患者団体、医療関係者や医薬品開発に携わる人からのヒアリング、厚生労働省医薬食品局や総合機構の職員を対象とするアンケート調査等の結果も盛り込まれています。

 「最終提言」で、新たに盛り込まれたのは次のような事項です。(ごく一部の抜粋です)

  • 医師、薬剤師、歯科医師、看護師となった後、薬害事件や健康被害の防止のために、薬害事件の歴史や健康被害、救済制度及び医薬品の適正使用に関する生涯学習を行う必要がある。
  • また、薬害事件や健康被害の防止のためには、専門教育としてだけではなく、初等中等教育において薬害を学ぶことで、医薬品との関わり方を教育する方策を検討する必要があるほか、消費者教育の観点から、生涯学習として薬害を学ぶことについても検討する必要がある。このため、学習指導要領に盛り込まれるよう関係者が努力すべきであり、また、例えば、学校薬剤師等による薬物乱用対策等の教育活動等も参考にしつつ、各種メディアの活用なども含めた、医薬品教育への取組を行うこと等を関係省で連携して検討すべきである。
  • 承認審査の透明性を図るため、薬事・食品衛生審議会での承認に係る審議や資料を公開することを含め、審議会の公開等の在り方を見直すべきである。必要に応じ、サリドマイドの再承認に際し、承認前に審査報告書等を公開してパブリックコメント募集手続を行い、安全管理方策については、公開の検討会で審議した例にならって、より積極的な公開手続を組み入れるべきである。
  • 一方、承認審査の専門性を高め、効率的な承認手続とすること等により、医療上必要性が高く、十分なエビデンスの備わった医薬品が迅速に承認されるようにすることが必要である。その際に、総合機構での審査終了から厚生労働省での審議会等の手続に要する期間の短縮についても考慮すべきである。
  • 製薬企業には承認審査時点以降も、必要に応じ速やかに、かつ、定期的に最新の知見を添付文書に反映することを義務付けるとともに、安全対策にとって重要な内容を変更する場合には、承認時と同様に、迅速性の確保にも留意しながら改訂方法などを見直し、行政が定めた基準に基づき事前に確認手続を行うことを義務化すべきである。
    また、医療現場に対する注意喚起の機能を十分に果たしていないという指摘もあることから、添付文書の記載要領の見直しのみならず、改訂情報の周知を迅速に行うことができるよう、様々な情報提供の手段を活用すべきである。
  • 医療上の必要性が高く、既に十分なエビデンスがあって、新たに臨床試験を実施する必要性がない場合には、患者の当該医薬品へのアクセスが遅れることがないよう、上記の医療保険上認められる仕組みや、医学薬学上公知のものとして、承認申請を速やかに行う等の柔軟な対応も併せて検討すべきである。
  • その際、薬害防止の観点からリスク管理を行うことが重要である。明らかに不適切な適応外使用を防ぎ、また、後日安全性・有効性の評価・検証を可能とするためには、使用実態を把握し、収集されたデータを活用可能としておく必要があることから、例えば、医療関係データベースを活用した体制の整備も検討すべきである。
  • 欧米の制度等を参考に、添付文書や必要な承認に係る内容が最新の科学的な知見に基づき、定期的に見直されるような制度を新たに構築すべきである。
  • 「患者からの副作用報告制度」(患者からの副作用に関する情報を活かせる仕組み)を創設すべきである。
  •  また、おくすり相談の充実を図るとともに、相談から得られた情報も安全対策に活かせる仕組みを工夫すべきである。なお、その場合には、分析・評価に必要な診療情報が得られていない場合も想定されることから、当該情報の分析評価に必要なより詳細な診療情報の入手方法についても検討すべきである。
  • 医薬品の副作用・感染症、医療機器の不具合・感染症、医療現場におけるヒヤリ・ハット事例等については、相互に関連する場合もあることから、米国のMedwatchのように、医療における安全性情報として一元的に収集し、評価され、対策に結びつけるシステムも将来的な課題とすべきである。
  • 医薬品について問題が生じる可能性がわかったときに、予防原則に立脚して、グレー情報の段階においても、市民や医療関係者に積極的に伝達する姿勢が重要であり、早期リスクコミュニケーションのためのウェブサイトを創設してグレー段階の情報を提供するなど、新たなシステムを創設すべきである。
  • 欧米の制度等を参考に、添付文書や必要な承認にかかる係る内容が最新の科学的な知見に基づき、定期的に見直されるような制度を新たに構築するべきである。
  • 個人輸入された未承認医薬品に係る副作用情報に関して、必要に応じ、広く迅速に注意喚起等を図るべきである。そのためには、使用実態のデータベースの公表のみならず、特にリスクが高い医薬品については、登録制度を導入すべきである。また、医療機関からの副作用情報の積極的な収集・分析・公表はもとより、その他の安全対策についても充実強化を図るべきである。
  • また、個人輸入される医薬品等は、安全性・有効性が十分確認されていないものがあり、そのことについて国民の啓発にも力を入れるべきである。特に、インターネットを通じた未承認薬の個人輸入に関する規制を強化すべきである。
  • 医療機関、薬局及び医療関係者は、医薬品の使用に係る安全確保において重要な役割を担っていることについて、一層認識を高める必要がある。
  • 医療機関内の薬事委員会や薬剤部門等においても、各医療機関内の情報伝達、医薬品の使用に係る安全性と有効性の客観的な情報収集・評価を行い、院内に情報を徹底することなど健康被害の発生や薬害防止の観点から積極的な取組を強化すべきである。
  • 患者、家族を中心に、医師、薬剤師、看護スタッフ等が連携して治療に取り組むチーム医療を推進して、安全対策を講ずる必要がある。
  • 医療安全確保に関する情報伝達の推進及びチーム医療により、患者を支援し、副作用の早期発見・発生防止に資するため、質の高い薬剤師の育成と確保に努める必要がある。特に、医療機関における薬剤師の人員を増員し、病棟に質の高い薬剤師を常駐配置する努力を推進する必要がある。
  • 医師、薬剤師等処方・調剤(処方監査)・投薬に関わる医療関係者は、必ず添付文書やインタビューフォーム等の医薬品情報、特に使用上の注意を確認し、理解の上で処方及び処方せんに対処すべきであることは原則である。
  • 薬剤師師が、薬の専門家として、薬剤に関する業務全般に責任を持って主体的に関与し、薬害防止のための役割を全うできるよう、必要な環境整備を図る必要がある。
  • 医療機関において、適応外使用に関する使用実態を把握し、原則として医療機関の倫理審査委員会における報告や審議を含め、定期的な点検を行い、明らかに不適切な適応外使用を防ぐことが必要である。後日、安全性及び有効性の検証を行うことができるようにする仕組みも検討すべきである。
  • 一方、現実の医療現場では、刻々と変わる患者の状態に合わせた最善の判断を遅滞なく行うことが要求されるため、医療上必要な適応外使用を妨げ、患者が必要な治療の機会を逸することがないようにする視点が必要である。
  • 適応外使用を含め、科学的な根拠に基づく医療が提供されるよう、関連学会においても、EBMガイドラインの作成・普及を行うべきであり、行政もそれを支援すべきである。
  • 医師、薬剤師等の専門職や企業内等の技術者は、高度な専門性にかんがみた職業倫理上の義務があり、専門職団体や学会等による自己規律により、適正な情報の取扱いを確保し、社会的信頼を得ることが重要である。具体的には、添付文書等による正確な情報の確認、保健衛生上必要不可欠な安全性に係る情報を隠蔽せずに公開していくこと、専門家ではない者へのわかりやすい説明等が求められる。

 是非、一読をお勧めします。

 なお、検討会の議事録・資料等は下記ページからリンクが張られています。

 厚生労働省関係審議会議事録等・医薬食品局
  http://www.mhlw.go.jp/shingi/other.html#iyaku

関連情報:TOPICS
 2010.03.10 薬害防止のための第三者機関設置を提言へ
 2009.05.07 薬害防止のための医薬品行政のあり方第一次提言
 2009.06.03 薬害肝炎の検証及び再発防止に関する研究 中間報告書


2010年04月30日 00:56 投稿

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