2020年東京五輪開催までに医薬関係者が考えておきたいこと

 7日(日本時間8日早朝)、国際オリンピック委員会で2020年夏季五輪の東京開催が決まりました。

 五輪は国際的な最大のイベントであり、選手の他、大会関係者や関係者など、今までにない数の外国の方が日本に訪れます。

 つまり、今まで知られなかった日本の現状というのも広く知られる機会にもなります。

 医薬・医療制度やpublic health 分野についても日本の現状が世界に紹介されることは間違いなく、その際、世界標準と比較してどこまで進んでいるか、またどこが遅れているかについての評価が行われるものと思われます。

 日本の保険医療制度については、海外からは評価が高いようですが、public health や 医薬品販売制度については、対応が遅れている部分も散見されます。

 現時点で思いついたものについて、書き出してみました。(ネット・ツイッターなどでの指摘あったら、追記します)

1.たばこ対策

 何と言ってもこれについては、世界標準に近づける必要があります。

 「公共の場での禁煙」「たばこ包装での写真包装を用いた健康リスク表示」「目につかない場所での陳列」「自販機の禁止」など、日本で取り組むべき対策は、あげたらきりがありません。(もちろんJTの五輪スポンサーもダメですよ)

 「一般の人が利用している食堂・レストランで食事をしたら、当然のようにたばこを吸っている人がいた」などと海外の人に言われないように、五輪開催を機にたばこ対策の強化を検討すべきです。

 ちなみに、2010年の上海五輪ではも多くのたばこ対策が取られ、来場者の97.1%が煙のない環境に満足したそうです。

Results from an evaluation of tobacco control policies at the 2010 Shanghai World Expo
Tob Control published Online 25 May 2013)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3756464/

2.感染症対策

 一般論で考えても、五輪が開催されると、これまで以上に多くの国のさまざまな方が入国したり、さざまな食材などが日本国内に持ち込まれます。

 専門家の方は常日頃留意していると思いますが、日本ではこれまで見たことのない感染症に遭遇するリスクが上がることは間違いありません。ツイッター上ではそういったときに備えて、あまり使うことがないような抗菌剤備蓄も検討すべきではないかとの意見も。

 また、選手村などでの食中毒なども想定する必要があります。 

 さらに、まだまだ猛威をふるっている風疹の流行など、予防接種で流行を防ぐことができるものについては、大会期間中に流行することがないよう、長期的視点での対策が必要ではないでしょうか。

3.熱中症対策

 東京五輪の会期は7月24日~8月9日で、まさしく猛暑の季節です。

 多湿に加え、35℃を超える猛暑日が会期中続く可能性もあり、屋外競技については観戦する人の健康対策にも留意する必要がありそうです。

4.OTCへのアクセス

 これまでにたびたび指摘していますが、日本では処方せん医薬品のスイッチが諸外国に比べると大きく遅れています。(→TOPICS 2016.05.05TOPICS 2011.02.22

  海外ではPPIやドンペリドン(日本でも処方せん医薬品ではないが)がスイッチされている国が多く、旅行者などがそういった薬を求めることがあるかもしれません。

 そして、何よりも苦情が出そうなのが緊急避妊薬です。

 コンドームが選手村に配られるくらいですから、五輪期間中のニーズというのは想像に難くありません。緊急避妊が必要になったときに時刻自国であれば薬局に飛び込めば何とかなるのに、 日本では医療機関に行かないと入手ができなかったとなると、いろいろと問題が出そうな気がします。

 大会期間中だけ規制緩和するという方法も考えられますが、世界標準にあわせて、7年後までに何とかした方がいいかもしれません。

5.問題成分が含まれるものが大量購入可能となっている現状

 一方で、海外では販売規制が行われているのに、日本ではあまり問題視されていないものもあります。

 代表がプソイドエフェドリンで、国外への持ち出しは規制されていますが、日本で覚せい剤の密造がないからといって、配合製品が簡単に沢山買えてしまう(未だ楽天モールで180日分が買えるショップがある)というのは、国際的にみてもどう考えても異常です。

 また、OTCのNSIADsやアセトアミノフェン、コデイン+イブプロフェン/アセトアミノフェンが配合された鎮痛薬が各国で規制の方向(少包装での販売)にあるのに、日本では、これに近い配合が行われている総合感冒薬の大包装品が大量陳列され、簡単に買えるというのも、おそらく指摘されると思います。

 社会的に非処方せん薬はどのようなものが必要で、どうあるべきかをこれを機にきちんと議論すべきだと思います。

6.スポーツファーマシストの活用

 おそらく海外ではまだ制度化されていないスポーツファーマシストが、2020年の東京五輪で世界に認知されるものと思います。

 これまでの五輪でも薬剤師がその職能を発揮する場があるとした報告が散見されているように、東京五輪でもさまざまな場で、薬剤師(スポーツファーマシスト)が有する知識が求められる機会が増えるものと思います。

 せっかく制度化され、少しずつ活躍の場が広がっているのですから、これを全国に広げて、東京五輪では新たな薬剤師の職能として世界に発信されることを期待するものです。

 また、五輪期間中に薬剤師はどのようなことができるのか、何を行うべきかも今から考える必要があります。(2012ロンドン五輪の報告がググると結構出てくる)

Pharmacy and the Olympics
(英国王立薬剤師会 個別資料は見れないけど)
http://www.rpharms.com/unsecure-support-resources/pharmacy-and-the-olympics-resources.asp

London 2012 Olympic and Paralympic Games
Hints & Tips: Pharmacy Services during the Games
(NPA)
http://www.npa.co.uk/Documents/olympics/Hint_Tips_pharmacy_services_during_the_games.pdf

London 2012 Olympic Games Pharmacy Guide
(2011.12)
http://www.coe.es/WEB/EVENTOSHOME.nsf/b8c1dabf8b650783c1256d560051ba4f/43e0200dfab4631bc12571410039ed90/$FILE/London%202012%20Olympic%20Games%20Pharmacy%20Guide%20-%20December%202011.pdf
(2012.1)
http://www.paralympic.org/sites/default/files/document/120308172020106_London_Games_Pharmacy_Guide.pdf

 期間中の活動の様子は

Development and delivery of pharmacy services for the London 2012 Olympic and Paralympic Games
Eur J Hosp Pharm publshed Onine 20 Dec 2012)
http://ejhp.bmj.com/content/20/1/42.full

ググったら、こんなサイトも

 SPORTSPHARMACY
http://sportspharmacy.com/

 全部読んでみたい

Innovations in Olympic and Paralympic pharmacy services
Br J Sports Med Published Online 16 Feb 2013)
http://bjsm.bmj.com/content/early/2013/02/15/bjsports-2013-092180


2013年09月08日 23:39 投稿

コメントが3つあります

  1. 「OTCのNSIADsやアセトアミノフェン、コデイン+イブプロフェン/アセトアミノフェンが配合された鎮痛薬が各国で規制の方向(少包装での販売)にあるのに、日本では、これに近い配合が行われている総合感冒薬」に懸念が示されていますが、海外の配合量を見た場合、「これに近い配合」というのは、あまりにおこがましいのではないでしょうか?
    逆に、十分な量の配合が為された鎮痛剤等が無いと言って指摘をされそうに思うのですが?

  2. アポネット 小嶋

    いつもご指摘ありがとうございます。

    記事についての見解は、OTCとしての鎮痛薬の有用性を否定するものではありません。

    またご指摘のように、日本での配合量は海外の1/2~2/3程度です。

    しかも日本では、効果を上げようとして、単剤としてではなく配合剤として販売されている方が主流です。

    その人にとって不要ではないかという成分も当然含まれているかのうせいもあるわけです。

    あくまでも国際標準というか、国際的な流れに対し、今後検討の余地もあるのではないかと思い。いつも書かせて頂きます。

  3. アポネット 小嶋

    日本禁煙学会がさっそく要望書?を都知事に提出しています。

    2020年夏季五輪・パラリンピックの東京開催決定を祝します
    (日本禁煙学会 2013.09.08)
    http://www.nosmoke55.jp/action/1309olympic.html
    http://www.nosmoke55.jp/action/1309olympic.pdf

    >IOCの方針にともないバルセロナ、アトランタ、シドニー、アテネ、北京、ロンドン、
    >リオデジャネイロあるいはロシアのソチなど、オリンピック開催都市にはすべて
    >罰則付きの受動喫煙防止法または条例が存在しています。世界一喫煙率の
    >高い中国ですら、北京オリンピック開催のために、 北京市に受動喫煙防止条
    >例を制定したことは記憶に新しいところです

    国レベルでできないとしても、東京都は条例をつくらないとね。