医薬品ネット販売についての現時点における厚労省のスタンス

 もしかすると、もうご存知の方もいるかと思いますが、厚労省は1日、一般用医薬品のネット販売の1月11日の最高裁判決を受けて、都道府県などの衛生主管部(局)薬務主管課宛てに出された1月17日発出の通知文(事務連絡)を厚労省ウェブサイトにアップしています。

医薬品のインターネット販売訴訟(最高裁判決)を受けた対応について
(厚生労働省医薬食品局総務課 2013.01.17)
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iyakuhin/ippanyou/dl/130117-01.pdf

 この事務連絡は、最高裁判決及び厚労大臣の談話(→PDF)を踏まえ、現時点での郵便等販売に係る厚生労働省のスタンスと郵便等販売に関する問い合わせがあった場合の応答要領を暫定的に取りまとめたものだそうです。

現時点での郵便等販売に係る厚生労働省のスタンスについて

一般用医薬品のインターネット販売の訴訟について、国が最高裁判決で敗訴となったが、今後の対応如何。 厚生労働省としては、早急に、関係者からなる検討会を設置
し、できる限り早く安全の確保された郵便等販売のためのルー
ルを策定することとしている。
一般用医薬品のインターネット販売の訴訟について、国が最高裁判決で敗訴となったが、今後の対応如何。
  1. 最高裁判決では、厚生労働省令で第1類・第2類医薬品の郵便等販売を一律全面的に禁止していることは、薬事法の委任の範囲内と認めることはできないと判断されたところ。
  2. このため、最高裁判決を踏まえつつ、従来の規制に代わる郵便等販売についての新たなルールを作る必要があると考えており、早急に安全の確保された郵便等販売のためのルールをご議論いただく検討会を設置することとしている。
  3. なお、一般用医薬品の使用は、有益な効果をもたらす一方で副作用の発生のリスクを伴うものであり、薬剤師又は登録販売
    者と相談しながら、購入していただくことが重要である。
  4. したがって、今後郵便等販売に関する新たなルールが決まるまでの間は、関係者及び国民に対しても、慎重な対応をお願いしている。
省令のどの部分が無効なのか。 最高裁判決においては、第1類・第2類医薬品について、郵便等販売を一律に禁止することとなる限度において、原告2社に対して、法の委任の範囲を逸脱した違法なものとされた。
新たな販売のルールについては、いつまでに結論を得る予定か。 新たな販売のルールを作るためには、郵便等販売の実態や副作用の実態把握・検証が必要であるため、そのような実態把握等も含め、新たに設置する検討会において議論していただくこととしており、一定の時間がかかると考えているが、できるだけ早く結論を出してまいりたい。
違法だとされた省令は撤回することになるのか。
  1. 最高裁判決では、厚生労働省令で第1類・第2類医薬品の郵便等販売を一律全面的に禁止していることは、薬事法の委任の範囲内と認めることはできないと判断されたところである。
  2. このため、郵便等販売については、新たなルールを作る必要があると考えており、制度を整備する上では、新たなルールが決まるまでの間は、現行の省令を何らかの形で改めることは難しく、そのままにしておかざるを得ないと考える。
第1類・第2類医薬品のインターネット販売を行っても薬事法違反 に問われないのか。
  1. 最高裁判決において、ケンコーコム社等の原告2社の第1類・第2類医薬品の郵便等販売を行う権利が確認されたことから、原告2社については、郵便等販売を行ったとしても薬事法違反に問われることはない。
  2. その場合、インターネットでの販売であっても、店頭での販売の場合と同じく、薬事法に基づき、第1類、第2類医薬品の販売に当たって、薬剤師等の専門家が購入者に対して必要な情報提供を行う義務(第2類医薬品については努力義務)があり、専門家による必要な情報提供が確保されるよう、都道府県等を通じて、指導等を行っていくこととしている。
  3. 一方で、原告以外の事業者については、その権利は確認されていないものの、今回の判決の趣旨からすれば、郵便等販売を行ったとしても、それだけで薬事法違反を問うことは考えていない。
  4. しかしながら、厚生労働省としては、郵便等販売に関する新たなルールが決まるまでの間は、関係者には慎重な対応をお願いしている。具体的には、第1類・第2類医薬品については、新しい販売のルールが出来るまでの間、郵便等販売による販売を控えていただくようお願いするものである。
裁判所の判決でインターネット販売が認められたにもかかわらず、インターネット販売が危険であるとして、自粛を要請しているのはおかしいのではないか。
  1. 最高裁判決では、厚生労働省令で第1類・第2類医薬品の郵便等販売を一律全面的に禁止していることは、薬事法の委任の範囲内と認めることはできないと判断されたところである。
  2. このため、郵便等販売については、新たなルールを作る必要があると考えている。
  3. なお、一般用医薬品の使用は、有益な効果をもたらす一方で副作用の発生のリスクを伴うものであり、薬剤師又は登録販売者と相談しながら、購入していただくことが重要である。
  4. したがって、今後郵便等販売に関する新たなルールが決まるまでの間は、関係者には慎重な対応をお願いするとともに、国民に対してもインターネット販売の利用については、一般用医薬品の使用のリスクを十分に認識いただき、適切に対応いただくようお願いしているものである。
新たなルールは法律の改正により定めるのか、それとも省令の改正で対応するのか。 検討会の議論を踏まえ、新しいルール作りを行うものであり、
法律改正によるか省令改正によるか等については、検討結果に
依るものと考えている。

 

郵便等販売に関する問い合わせへの応答要領

事業者等からの問い合わせについて 今回の最高裁の判決を受けて、新たに第1類・第2類の一般用医薬品の郵便等販売を始めたいのですが、郵便等販売を開始しても、薬事法には違反しないものと考えてよろしいですか。 (ア)薬局又は店舗販売業の許可を既に持っている事業者からの場合

(答)
今後、厚生労働省で郵便等販売のための新たなルール作りを行うための検討会を設置することとなっており、その検討会の取りまとめに基づく郵便等販売のルールが決まるまで、差し控えていただくようお願いします。

(イ)薬局又は店舗販売行の許可を持っていない事業者からの場合

(答)
今後、厚生労働省で郵便等販売のための新たなルール作りを行うための検討会を設置することとなっており、その検討会の取りまとめに基づく郵便等販売のルールが決まるまで、差し控えていただくようお願いします。

(第1類・第2類の一般用医薬品の郵便等販売を開始することについて、事業者に対してそれを控えてほしい旨お願いしたこと等に対して)今回の最高裁判決により、第1類・第2類の郵便等販売が可能になったはずなのに、どうして、それを控えるようにお願いするのか。
  1. 最高裁判決では、厚生労働省令で第1類・第2類医薬品の郵便等販売を一律全面的に禁止していることは、薬事法の委任の範囲内と認めることはできないと判断されました。
  2. このため、郵便等販売については、新たなルールを作る必要があると考えています。
  3. なお、一般用医薬品の使用は、有益な効果をもたらす一方で副作用の発生のリスクを伴うものですので、薬剤師又は登録販売者と相談しながら、購入していただくことが重要です。
  4. したがって、今後郵便等販売に関する新たなルールが決まるまでの間は、関係者には慎重な対応をお願いするとともに、国民に対してもインターネット販売の利用については、一般用医薬品の使用のリスクを十分に認識いただき、適切に対応いただくようお願いしているものです。
一般の方からの問い合わせについて 一般用の医薬品(かぜ薬など)がインターネットで購入できるようになったという報道がありましたが、本当ですか。 今後、厚生労働省で郵便等販売のための新たなルール作りを行うための検討会を設置することとなっており、その検討会の取りまとめに基づく郵便等販売に関する新たなルールが決まるまでの間は、一般用医薬品の使用のリスクを十分に認識いただき、適切にご対応いただくようお願いします。
インターネットで一般用の医薬品(かぜ薬など)が買えるようになりましたが、安全なのですか。 一般用医薬品の使用は、有益な効果をもたらす一方で副作用の発生等のリスクを伴います。このため、薬剤師又は登録販売者と相談しながら、購入していただくことが重要です。
インターネットから購入した一般用の医薬品(かぜ薬など)により、副作用が出たらどうすれば良いですか。
  1. まずは、医薬品の購入先又は医療機関等へご相談ください。
  2. なお、医薬品の副作用の健康被害の迅速な救済を図ることを目的とする「医薬品副作用被害救済制度」がございますので、独立行政法人医薬品医療機器総合機構のホームページ等をご確認ください。ただし、医薬品の用法・用量や使用上の注意などに従わなかった場合や、薬局等の許可を有していないお店から購入した医薬品を使用した場合などには、この救済制度の対象とならないことがございます。
どこにある薬局(又はドラッグストア)が運営しているか分からないウェブサイトで一般用の医薬品が売っていましたが、買っても問題ないのでしょうか。
  1. 医薬品を販売するためには、薬局や店舗販売業の許可を取得する必要があります。購入前に、薬局等の許可があるか、ご確認いただきますようお願いします。
  2. 過去にも、日本での承認を受けていない健康食品、医薬品等を個人輸入するなどして服用し、頭痛、動悸、胸痛等の健康被害が発生した事例がありますので、十分注意してご対応いただくようお願いします。

  厚労省では、いろいろなことをかなり想定して問答集を作成、都道府県に周知していたわけですが、あまり表に出したくないと想像できるこの事務連絡を、あえて公表した理由は定かではありません。

 ただ、後半の一般からの問い合わせに想定した事項については、もっと消費者に周知させる必要があると思いました。


2013年03月01日 15:39 投稿

コメントが4つあります

  1.  先の第2回検討会で、構成員(検討会委員)の詰問に対し、回答していたことから、公開に踏み切ったものではないでしょうか?
     しかし、これでは、都道府県に対して『取り締まるな』と言っているのに等しく、会議では別な構成員が「直ちに取り締まるべきではないか。」と迫っていたのに対し、回答がこれだとすると、ほかの指導の正当性にも陰りを与えそうです。

  2. 2009年に薬事制度が改正され、一般用医薬品の通信販売が一部を除き禁止された際、不便になる離島の住民などに限って2年間は例外的に通信販売を認めた経過措置が1回延長され2013年の5月末で経過措置期限が切れる。

    最高裁違法判決の後では、経過措置期限の再再度の延長でお茶を濁す訳にはいかず、かといって新ルール造りには賛成反対両者の意見集約にも目途が立たず、5月末までに新ルールはできないだろう。
    6月から医薬品通販市場への参入が相次ぎそうである。

  3. アポネット 小嶋

    関連記事です。私も規制改革会議と産業競争力会議の動きが重くのしかかると思います。

    厚労省ウォッチング~事実上自由化された市販薬販売への本音~
    (集中 MEDICAL CONFIDENTIAL 2013.03.06)
    http://medical-confidential.com/confidential/2013/03/post-523.html

    これも興味深いです。

    一般用医薬品ネット販売に関する意見(2)
    (Yahoo! JAPAN政策企画オフィシャルブログ 2013.03.01)
    http://blogs.yahoo.co.jp/yjpublicpolicy/37293691.html

    >このような自らの判断で使用することが前提とされていた一般用医薬品の性質が忘れ去られ、
    >インターネット販売に限らず、一般用医薬品の性質とは離れた制約がかけられるのではないか
    >と思われるところがあります。

    「生活者にとっては、一般用医薬品の購入にあたっては、専門家によるアドバイスは不要」ということになっているようです。

    現在の一般用医薬品の販売の現状を如実に示すとともに、セルフメディケーションとは何か、くすりとどう関わるかという認識が生活者に浸透していないことがうかがわれます。

  4.  改正薬事法の第25条で設けられた定義でも、「医薬関係者から提供された情報に基づき、需要者が自らの判断」で、とされて居たものと思います。
     この規定は、相当程度、生活者の自己判断を重んじてはいますが、薬剤師等の専門家関与を排除するものではなく、むしろ活用するよう促しているものと考えるべきと受け止めています。
     米国のように、処方せん医薬品(Rx)から外れると、何処で販売しても差し支えない(日本で言えば、医薬部外品並み)となるのは、世界でも珍しいのですが、そのような法律の規定とは別に、ほとんどの医薬品流通は薬剤師の居るドラッグストア(薬局)が担っている現状があります。