ネキシウムとプラビックスの併用大丈夫?(Update)

 12日の官報(→本紙5638号3ページ)で、日本での4つ目のPPIのネキシウムカプセル10mg/20mg(成分名:エソメプラゾールマグネシウム水和物)が薬価収載され販売が開始されます。

 エソメプラゾールはオメプラゾール(製品名:オメプラール他)の一方の光学異性体(ラセミ体であるomeprazoleのS体)で、新規PPIでありながら、ヘリコバクターピロリの除菌の補助(1回20mg)、NSAIDs投与時における胃潰瘍又は十二指腸潰瘍の再発抑制(1回20mg)の適応も取得しており、比較的早く処方が進むように思われます。

 オメプラゾールの光学異性体ということで、頭に思い浮かべるのは、クロピドグレル(製品名:プラビックス)との併用によるクロピドグレルの作用減弱という相互作用の問題です。

 しかし、手元のパンフレットや薬事分科会の資料(→リンク・日刊薬業行政情報)を見ると骨折リスクについては記載があるのですが、クロピドグレルとの相互作用については一切触れられていません。また、承認の審議を行った医薬品第一部会でも議論に上らなかったようです。(→議事録

 なぜかと思い、PMDA掲載の審議結果報告書(→リンク・p64)を見たところ、次のように記されていました。

 申請者(メーカー)の回答(クロピドグレルとの併用について)

 クロピドグレルは各CYP 分子種(CYP1A2、2B6、2C19、2C9、3A4)により活性代謝物に変換されるが、CYP2C19 の寄与が大きいことが報告されていることから(Drug Metab Dispos 38, 92-99, 2010)、CYP2C19 を阻害する薬剤とクロピドグレルを併用すると、クロピドグレルの活性代謝物の生成が低下することにより抗血小板作用が低下し、心血管系イベントが増加するおそれがある。

-中略-

 本薬の代謝におけるCYP2C19 の寄与度はOPZ(オメプラゾール) よりも小さいことが報告されており(Clin Pharmacokinet 43: 279-285, 2004)、クロピドグレルの作用に本薬が与える影響の程度はOPZ とは異なる可能性が考えられるものの、試験成績からは実証されていない。一方、複数の薬剤疫学調査、社内及び社外の安全性データベース、並びに合計47,000人以上の患者を対象とした海外臨床試験など(-中略-)の結果を解析したところ、クロピドグレル単独投与時と比較し、心血管系イベントの発現にPPI の併用が好ましくない影響を与えるという結果は得られなかった。

 以上より、クロピドグレルとPPIの併用により心血管系イベントのリスクが増大するというエビデンスは得られていないと考えるため、現時点では、本薬とクロピドグレルとの併用について注意喚起する必要はないと考える。

 ただし、□□□□□□□□□。今後、PPIとクロピドグレルとの薬物相互作用について、□□□□□□□□□、継続的に新たなデータを入手次第詳細な評価を行い、注意深く観察を行う予定である。

 なお、海外では、クロピドグレルとの併用について、欧州医薬品庁は2010 年3 月にPPI の中でもOPZ 及び本薬の併用は避けるべきとの安全性情報を公表したが、米国では、米国食品医薬品局からOPZ については併用を避けるように注意喚起が出されたものの、本薬については注意喚起が必要との指示を受けていないため、特段の注意喚起は行われていない。

これに対しPMDAは、次のように考えたそうです。

 本薬とクロピドグレルの相互作用が臨床に及ぼす影響については、現時点で結論に至るだけの十分な情報が未だ得られていないことから、本薬の添付文書において具体的な注意喚起を行うだけの根拠はないと考える。しかし、本薬を含め、PPI とクロピドグレルとの薬物相互作用について今後も引き続き情報収集を継続し、□□□□□□□□□、重要な知見が得られた際には速やかに対応する必要があると考える。

 肝心なところが伏字なんですよね。

 また、米国では、本薬については注意喚起が必要との指示を受けていないため、特段の注意喚起は行われていないの部分ですが、FDA 2009.11.17 発出(EMAより前)の専門職向けアナウンス(→リンク)には次のように記されています。

  • Since the level of inhibition among other PPIs varies, it is unknown to what amount other PPIs may interfere with clopidogrel.
    他のPPIの間の抑制のレベルが異なるので、他のPPIがどんな量にクロピドグレルに干渉するかもしれないかは知られていない。
  • However, esomeprazole, a PPI that is a component of omeprazole, inhibits CYP2C19 and should also be avoided in combination with clopidogrel.
    しかし、esomeprazole(オメプラゾールの構成要素であるPPI)もCYP2C19を妨げて、クロピドグレルと結合するので避けられるべきである。

 米FDAでも、併用は避けられるべきだとはっきり書いているんですよね。

(09.12 18:50追記)
米国Label を念のため見ましたが、Label情報としてははっきりとは書かれていませんでした。
(アストラ社の回答は一応間違いではない。Label の変更までの指示は行われていない模様。日本は、相互作用などはFDAに沿った内容となっている)

NEXIUM Label (FDA 2011.06.30 update)
 
http://www.accessdata.fda.gov/drugsatfda_docs/label/2011/022101s007,021153s038,021957s010lbl.pdf
  (記載なし)

PLAVIX Label (FDA 2011.06.05 Update)
 
http://www.accessdata.fda.gov/drugsatfda_docs/label/2011/020839s051lbl.pdf

  • Reduced effectiveness in impaired CYP2C19 function: Avoid concomitant use with drugs that are strong or moderate CYP2C19 inhibitors (e.g., omeprazole).(WARNINGS AND PRECAUTIONS)

 今回、クロピドグレルとの相互作用について、今までの慣例であればせめて少なくとも海外の注意喚起がある(英国やニュージランドでも併用避けるよう注意喚起)ということくらいは添付文書に盛り込まれるはずなのに、今回全く触れられていないのは一体なぜなんでしょうね?

資料:
医薬品安全性情報Vol.7 No.25(2009.12.10)
http://www.nihs.go.jp/dig/sireport/weekly7/25091210.pdf

医薬品安全性情報Vol.8 No.08(2010.04.15)
http://www.nihs.go.jp/dig/sireport/weekly8/08100415.pdf

医薬品安全性情報Vol.8 No.10(2010.05.13)
http://www.nihs.go.jp/dig/sireport/weekly8/10100513.pdf

関連情報:TOPICS
 2010.03.22 欧州医薬品庁もクロピドグレルとオメプラゾールを併用しないよう勧告
 2009.11.18 クロピドグレルとオメプラゾールの併用は避けるべし(米FDA)
 2010.03.13 プラビックスの使用前に遺伝子検査が必要?

9月12日 18:50 追記


2011年09月12日 01:23 投稿

コメントが2つあります

  1. アポネット 小嶋

    第一三共の医療関係者向けページに行って、添付文書・インタビュビューフォーム、使用上の注意の解説を見たんですが、すべてスルーでしたね。

    (9月15日 追記)
    PMDAに添付文書・インタビューフォームがアップされました。(→リンク

    (2013.5.12追記)
    上記リンク切れ、現時点での最新は→(PMDA)ネキシウムオメプラゾール

  2. アポネット 小嶋

    ツイートでふれましたが、米国でも最近処方情報の変更が行われ、2012年10月の改訂版から相互作用があると追記されています。

    Interaction between Esomeprazole/Omeprazole and Clopidogrel Label Change
    (FDA 2012.11.12)
    http://www.fda.gov/Safety/MedWatch/SafetyInformation/ucm327922.htm

    NEXIUM Label (FDA 2012.11 update)
    http://www.accessdata.fda.gov/drugsatfda_docs/label/2012/021153s044,021957s014,022101s011lbl.pdf#page=10

    Concomitant use of esomeprazole 40 mg results in reduced plasma concentrations of the active metabolite of clopidogrel and a reduction in platelet inhibition.

    として

    Avoid concomitant administration of NEXIUM with clopidogrel.

    と記されています。

    プラビックスの方は、2011年12月の改訂で

    「WARNINGS AND PRECAUTIONS」の項で

    Reduced effectiveness in impaired CYP2C19 function: Avoid concomitant use with omeprazole or esomeprazole. と追記されています

    PLAVIX Label (FDA 2011.12 update)
    http://www.accessdata.fda.gov/drugsatfda_docs/label/2011/020839s055lbl.pdf

    少し古いですが関連ブログです。

    プラビックスとPPIの併用はダメ?
    (くすりの勉強 -薬剤師のブログ- 2012.02.06 2013.05.04 Update)
    http://yakuzaic.main.jp/archives/5379

    ネキシウム
    (薬学生の気まぐれ研究日誌 2011.11.23)
    http://pippikatu.blog.fc2.com/blog-entry-19.html