豪ビクトリア州では、コミュニティ薬剤師の役割拡大に向けての試行サービスがおこなわれていましたが、このほどこのプログラムが恒久化され、同州保健省では ‘get it at the chemist without a visit to the GP’キャンペーンを開始しています
Chemist Care Now~Get it at the chemist
https://www.betterhealth.vic.gov.au/chemist-care-now
ビクトリア州では、薬局が一般開業医の診察を受けなくても、より多くの症状を治療できるようになりました
- 避妊薬が手元になくなったら、薬局で入手できます
- 尿路感染症で治療が必要な場合は、薬局で入手できます
- 帯状疱疹の疑いがあり、治療が必要な場合は、薬局で入手できます
尿路感染症の治療から乾癬など、時間が節約でき薬局で入手できます
市民向けにはこのような説明があります
・薬局を訪れた際の注意事項
適切なケアを受けるため、薬剤師は相談の前後にお尋ねします。年齢、性別、症状、病歴など、治療の適否を判断するための情報です。
服用中の薬の情報と、お持ちの場合はメディケアカードをご持参ください。
薬剤師との相談は個室で行われます。薬剤師が「Chemist Care Now」の仕組みを説明し、連絡先情報と同意書への署名をお願いします。
治療が適切と判断された場合、薬剤師が必要な医薬品を提供します
・費用はかかりますか?
ほとんどの「Chemist Care Now」相談は無料です。
ただし、薬局で受け取る医薬品には費用がかかります。
旅行医療相談や予防接種については、薬局が相談料を請求する場合があります。また、旅行健康相談やその他の予防接種相談で接種したワクチン代も別途請求されます。
診察開始前に費用について確認してください。
治療が適切と判断された場合、薬剤師が必要な医薬品を提供します。
薬剤師はChemist Care Nowによる治療をサポートできますが、総合的な健康状態や重篤な疾患については、かかりつけ医に相談することが最善です。
・どれくらい時間がかかりますか?
コンサルテーションには約15分から30分かかります。
・薬局での治療は大丈夫ですか?
はい、薬剤師はChemist Care Nowの治療を提供するために追加の研修を受けています。
薬剤師は臨床管理プロトコルに従い、判断を行います。
これらのプロトコルは、ビクトリア州保健省が医療および薬学の専門家と協議して策定したもので、国際的なベストプラクティスに基づいています。
とあります。
一方、薬剤師向けには、次のようなリソースを提供して協力を呼び掛けています
Community Pharmacist Program – Resources for pharmacists
https://www.health.vic.gov.au/primary-care/community-pharmacist-program-resources-for-pharmacists
Q:Community Pharmacist Programの目的は何ですか?
A:本プログラムは、地域薬局を通じて提供されるプライマリ・ヘルス・ケアの選択肢を増やし、一般的な低リスク医薬品へのタイムリーなアクセスを改善することを目的としています。
これは特に、女性や一般開業医(GP)の予約が取りにくい地域に住む人々にとって有益となる可能性があります。また、GPの負担を軽減し、より複雑なケアの提供に集中できるようにすることも目的としています。
Q:プログラムの「構造化された処方(structured prescribing)」制度は地域薬剤師にとって何を意味しますか?
A:体系的な処方箋の取り決めが整備されていることにより、参加する地域薬剤師は、医師または看護師からの処方箋なしに、特定のスケジュール4「処方箋医薬品」を調剤・投与・供給・販売する限定的な権限が付与されます。
これは確立されたガイドライン、プロトコル、または定時指示に従って行う必要があります。
「自律的処方(autonomous prescribing)」に比べリスクが低く、包括的なトレーニングもそれほど必要ありません。
Q:コンサルテーションの費用は?
A:薬局は、帯状疱疹、軽度の尋常性乾癬の再発、単純性尿路感染症、または避妊薬の再提供に関する対象となるコンサルテーション1件につき、ビクトリア州政府から20ドルの支払いが受けられます。(利用者からは、薬剤費のみ受け取る。通常の保険の対象外)
Travel health およびその他の予防接種の診察の一環として、少なくとも1つの承認済みワクチンの投与に対して、ビクトリア州政府から20ドルの支払いを受けられます。
薬局は、患者に追加の診察料と、投与されたワクチンの費用を請求することができます
臨床管理プロトコル
尿路感染症管理プロトコル
(Protocol for Management of Urinary Tract Infections)
https://www.health.vic.gov.au/sites/default/files/2023-10/clinical-protocol-urinary-tract-infections.pdf
経口避妊薬補充プロトコル
(Protocol for Resupply of the Oral Contraceptive Pill)
https://www.health.vic.gov.au/sites/default/files/2023-10/clinical-protocol-oral-contraceptive-pill.pdf
ワクチン投与プロトコル
(Protocol for Vaccine Administration)
https://www.health.vic.gov.au/sites/default/files/2024-02/protocol-for-vaccine-administration.pdf
軽度尋常性乾癬の急性増悪管理プロトコル
(Protocol for Management of Acute Exacerbation of Mild Plaque Psoriasis)
https://www.health.vic.gov.au/sites/default/files/2024-02/protocol-for-management-of-acute-exacerbation-of-mild-plaque-psoriasis.pdf
帯状疱疹管理プロトコル
(Protocol for Management of Herpes Zoster (Shingles))
https://www.health.vic.gov.au/sites/default/files/2024-02/protocol-for-management-of-herpes-zoster-shingles.pdf
研修のためのプログラムは薬剤師会などを通じて提供されていて、時間は機関によってまちまちですが、オンラインのみで可能のようです。
研修費用に係る費用も薬剤師会会員であれば無料といった措置もとられています。
(例えば避妊に関して、豪州薬剤師会が行うものは非会員は270豪ドル(27000円))
一方、この Chemist Care Now の取組を推進するため、保健省では下記のような広告(ちらし?)を展開していることから、豪州のGPの団体からは、極めて問題があると反発の声がでています。
「GPの受診を避けるための制度は、本質的に政府が推奨する優れた制度であるというサブリミナルメッセージを流すのは非常に問題です
‘Extremely problematic’: Pharmacy ads raise concern
(News GP 2025.11.18)
https://www1.racgp.org.au/newsgp/professional/extremely-problematic-pharmacy-ads-raise-concern
こういった海外の取組についてXで投稿すると、「薬剤師なのにそんなことができるのか」「責任をとれるのか」といったレスポンスが、医師クラスターだけでなく一般の方から多く寄せられます。
さらに現在の薬学生の資質や大学教育まで揶揄する書き込みもありますが、あくまで、プロトコルにそった必要に応じた薬剤の供給であり、セルフケア支援の延長上のものが少なくありません。
Q&Aにもあるように、この取り組みは地域薬局を通じて提供されるプライマリ・ヘルス・ケアの選択肢を増やし、一般的な低リスク医薬品へのタイムリーなアクセスを改善することが目的です。
今後はこういった取り組みは、アイルランドの Common Conditions Service(→TOPICS 2025.11.15)など、各国の医療制度の違いに関わらず、ますます必要となっていきます。
しかしながら、日本の職能団体は必ずしも今すぐのトレーニングの必要性を感じていませんし、何よりも、日本の保険医療(システム)は世界一と日医に信じ込まされている政治家はその必要性を気付いていません。
またここ至るまでには、地域を限定としたパイロットプログラムも行われていたことも事実です。
Victorian Community Pharmacist Statewide Pilot: Summary report
https://www.health.vic.gov.au/publications/victorian-community-pharmacist-statewide-pilot-summary-report
日本もまずは政治家に、地域を限定して導入するという働きかけも必要かもしれません。
参考:
Backing Our Frontline To Deliver Free And Lifesaving Care
(豪ビクトリア州政府 2025.05.20)
https://www.premier.vic.gov.au/backing-our-frontline-deliver-free-and-lifesaving-care
関連情報:TOPICS
2025.11.15 Common Conditions Service(CCS)が数か月以内に開始へ(アイルランド)
2025年11月18日 22:20 投稿

