一般用医薬品ネット販売のルールの落としどころ(Update2)

 もう1か月ほど前の話なので、記事にするのはやめておこうかと思いましたが、関係記事にアクセスが多いので一応整理することにしました。

 すでにご存じの方がほとんどかと思いますが、一般用医薬品のインターネットの販売のルールや考え方について、2つの検討会がとりまとめを行っています。

「一般用医薬品の販売ルール策定作業グループ」のこれまでの議論を取りまとめました
(厚生労働省 2013.10.8)
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000025519.html

(とりまとめ全文・概要は下記図、クリックで拡大)
http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11121000-Iyakushokuhinkyoku-Soumuka/0000025518.pdf

「スイッチ直後品目等の検討・検証に関する専門家会合」のこれまでの議論を取りまとめました
(厚労省 2013.10.8)
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000025621.html

(とりまとめ・概要は下記図、クリックで拡大)
http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11121000-Iyakushokuhinkyoku-Soumuka/0000025619.pdf

  ネット販売のルールについては、9月11日の検討会での議論(TOPICS 2013.09.16)を反映させたものとなり、インターネット販売を行う店舗での開店時間の当初の週40時間から週30時間に緩和されています。

 とりまとめの2ページに 「インターネット販売だけを行うことを狙って、形式的に店舗を設けるために、購入希望者が来店できないような場所に店舗を構えることは認められないものである。」と追記されていますが、たった週30時間の営業しかしないのであれば、形式的なリアル店舗も現れるのではないのかと思います。(平日の10時~16時、または午後だけの営業だけでクリアできでしまう。そもそも配送センターみたいなところやビルの一室に実際に購入しに行く人がどれだけいるのでしょう?) 

 また、販売個数制限等については次のような記載があります(7ページ)

  1. 乱用等のおそれがある医薬品については、販売個数の制限や、多量・頻回購入の際の購入理由の確認、若年購入者に対する氏名、年齢等の確認、他店での購入状況の確認等を義務付けることとする。
  2. 個々の店舗の販売制限に加えて、インターネットモール内やチェーン展開している店舗間での販売制限を行うことについては、自主的な取組を進めることとするほか、厚生労働省においても多量・頻回購入を防止するための措置の検討を行うこととする。

 ここでいう多量・頻回購入を防止するための措置とはどういうことなのでしょうか?

 ルールが決まっていない現在、痛み止めや総合感冒剤の大包装を10個まとめうりとか、警察庁が注意を呼びかけている(TOPICS 2011.05.18)プソイドエフェドリン配合の鼻炎薬のまとめ売り(120日分というのもあった)というのが、某ショッピングモールのショップや単独サイトでも数多く散見されます。(今回の指摘でページが削除されたら、キャッシュも示します。モールはこういうのを自主規制するとかというのはこれっぽちもないみたい)

 競争激化を予想して、うちの店舗はたくさん安く売っていることを意識づけたいのでしょうが、これらについては潜在的な依存・乱用や悪用があることをこれらのショップは全く考えていないといえます。依存に手を貸しているといっても過言ではありません。

 厚労省は数量制限をする措置を検討するのであれば、なぜ大量・頻回購入が望ましくないのかの理由をきちんと示さないと、購入を求める生活者だけではなく、売る側もモラルを感じてもらうことはできないでしょう。(検討会ではほとんど議論されていない)

 一方、今回最も注目を集めたのは、TOPICS 2013.09.16 のコメント欄にあるように、第1類医薬品については、店舗販売でも、販売記録を義務付けることになった点です。(8ページ)

 販売を行った相手方の連絡先の記録については、努力義務になりましたが、専門家が情報提供・販売を行った時刻、対応した専門家の氏名、販売品目、購入した者が提供された情報を理解した旨については、記録を作成し保存することが義務付けられました。

 いわば、ネット販売だけに厳格なルールを求めるのは不公平というのがその背景ですが、「店頭では、購入者と専門家の間で、適切なやりとりを通じた情報提供・販売を行っており、また、口頭で同意を得た者にしか販売しないこととしているため、殊更に記録を作成・保存する必要はない」といった意見が薬剤師会やドラッグストア協会などから示され、あまり評判はよろしくないようです。

 しかし、購入者には面倒といわれても、第一類の販売の仕組みを改めて理解してもらうことにつながり、新たな分野のスイッチにつながるための環境づくりのためにも、個人的には導入してもいのではないかと思います。

 次に、スイッチ直後品目等の取扱いですが、上記図(下の方)の留意点にあるように、事実上のネット販売の一定期間の禁止を求めた他、 「使用者以外への代理人への販売や、症状が出ていない時点での常備薬としての購入は認めるべきではない」などが記載されています。

これに対し、各団体が申し入れを行っています。

医薬品のネット販売に関する再申し入れ
(一般社団法人新経済連盟 2013.10.14)
http://jane.or.jp/uplode/topic203/topic_1.pdf

「医薬品のインターネット販売規制を行おうとする薬事法改正に関する意見(阿部泰隆 神戸大学名誉教授)」を提出
(日本オンラインドラッグ協会 2013.10.31)
http://www.news2u.net/releases/117541
http://blog.kenko.com/company_pr/files/20131031.pdf

 このうち、上記意見の第11項の部分が気になりました。

11.大量購入・濫用は、まともな消費者のネット購入を禁止する理由にならないこと

 大量購入をして悪用する消費者を防止する必要については、ネット業者も薬局でも販売数を制限することによって対処できる。同じ消費者が、いくつもの業者から少量ずつ買って、大量に使用するということはありうるが、これを防止することは不可能である。この点でのネットと対面での差はない。また、それは自己責任であり、その故にネット販売を禁止することは、普通の自己責任を果たしている消費者の権利を奪うことで、およそ合理的な理由はない。無謀運転する者がいるからといって、車の適切な使用が禁止されるいわれがないのと同じである。

 法律家の解釈とはいえ、かなり乱暴な解釈ではないでしょうか。大量購入や濫用する人は、意図的に使用する人もいるかもしれませんが、知らず知らずに依存となって、大量購入を求める人もいるはずです。

 現状では、自己責任を求めようにも、潜在的な依存のリスクなどの判断基準となる情報が不十分であり、そのために生活者も潜在的リスクの存在の認識もありません。また、欧州などで行われている大包装品の禁止や外箱へのリスク表示などの対策が日本ではとられていません。

 また、楽天の三木谷氏は29日の産業競争力会議で下記のような意見を述べています。

医薬品のネット販売について
(2013.10.29 産業競争力会議委員 三木谷 浩史)
http://jane.or.jp/uplode/topic206/topic_1.pdf

 処方箋薬まで展望した薬のネット化は、今後増大が予想される医療費(今後10年で60兆円規模に)の削減にするとしていますが、これは何を意味するのでしょう。(三木谷氏は某紙のインタビューで、医療用医薬品は医師が対面で診断した上で処方するものであり、論理的に考えれば、薬を渡すときにもう一度対面する必要はないとまで述べたらしい)

 また、ネットが危険であり対面でないと安全が確保できないとする立法事実はないとしていますが、楽天モールやアマゾンでは、個人輸入(これも正式な手続きを経ているものかどうかはあやしい)の品目がヒットするほか、ツイッターでの再三の指摘にもかかわらず、排卵検査薬を“第2類医薬品”と偽り販売を続けるショップを放置していることを考えれば、三木谷氏の発言には説得力はありません。

「表示できません」と表示されたら、キャッシュを

【楽天市場】
【第2類医薬品】(新)ドゥーテストLH 排卵検査薬
http://item.rakuten.co.jp/fortress/10000058/(→キャッシュ
http://item.rakuten.co.jp/fortress/10000059/(→キャッシュ
http://item.rakuten.co.jp/fortress/10000001/(→キャッシュ

【第2類医薬品】チェックワン LH・II (排卵検査薬)
http://item.rakuten.co.jp/fortress/10000060/(→キャッシュ
http://item.rakuten.co.jp/fortress/10000064/(→キャッシュ

楽天内で、“排卵検査薬で検索”→リンク 

 今週にも関係閣僚などが集まって、最終的な落としどころを決めるようですが、各報道によれば、スイッチ直後は3年間はネット販売を認めない方向にあるようです。

 また、政府の対応が遅いとして、ルールを定めた薬事法の改正案を議員立法で今の国会に提出されるという報道もあります。

 ネット販売を必要とする人もいるので、とにかく適正使用を促す仕組みを踏まえたルール作りが望まれるものです。

田村厚労相定例記者会見要旨
10月29日
http://www.mhlw.go.jp/stf/kaiken/daijin/0000027881.html
10月25日
http://www.mhlw.go.jp/stf/kaiken/daijin/0000027592.html
10月22日
http://www.mhlw.go.jp/stf/kaiken/daijin/0000027178.html

関連情報:TOPICS
 2013.04.18 OTC鎮痛薬の販売制限(デンマーク)
 2013.04.16 OTC薬の大量・頻回購入の対象はブロンだけではない
 2013.02.10 OTC鎮痛薬・風邪薬の包装(販売)制限は必要か
 2012.09.14 日本人はOTCの副作用や依存性はあまり気にかけない?
 2012.07.30 OTC薬の乱用・依存の実態(厚生労働科学研究)
 2012.06.30 OTC鎮痛薬は4日分までに制限すべき(ドイツ)
 2011.05.18 プソイドエフェドリン大量購入者へは購入理由の確認が必要
 2010.06.04 コデイン配合OTC薬販売規制、鎮咳去痰薬のみで十分?
 2010.05.01 コデイン配合OTC鎮痛薬の販売規制が開始(豪州)
 2009.09.04 ジヒドロコデイン配合OTC風邪薬,事実上使用禁止へ(英国)

11月4日 17:00更新 11月5日 0:20更新


2013年11月03日 19:52 投稿

コメントが7つあります

  1. >小児用ジキニンシロップ 24ml×24本セット
    >小児用 ヒストミンかぜシロップ S 30ml ×100本
    >カイゲン感冒液小児用 30ml×120本

    小児用風邪薬を小児が飲むわけではなく、大人が1本一気飲みというタイプのかぜシロップ。
    副作用事故が発生しても、用法が違うから救済を受けられないはずです。
    万一の時、どのように責任を取るのでしょうか?あくまで小児用シロップだから対象は小児と言い張るのか???
    いまだにこんな商売をしている薬屋があるとは・・・・・というのが正直な感想です。

  2. アポネット 小嶋

    こんなのも見つけました。第3類だってこんな販売はまずいでしょう。

    エスタロンモカ12 400錠(20錠×20)→ショップ
     (しかも3箱1200錠分まで買える)

    カフェインも原末は立派な劇薬。店舗じゃ絶対こんな販売はしません。

    こんなのを野放しにしたら、犯罪だってできてしまいますね。

    液剤は2店舗も。カフェインの量はドリンクの剤の3倍。
    購入する人はカフェイン中毒に違いないですね。

    エスタロンモカ内服液 (30mLx2)x 50個→ショップショップ

    劇薬該当成分が配合されたものは成分ごとの総量規制にしないと危ないと思ってきた。

  3. アポネット 小嶋

    いったんは協議は持ち越しとの報道がありましたが、決着がついたようです。

    薬ネット販売で最終合意 安全評価期間、3年程度に
    (47NEWS 共同通信 11月6日 0:30 配信)
    http://www.47news.jp/CN/201311/CN2013110501002955.html

    薬ネット販売:副作用審査期間3年に短縮し解禁へ 政府
    (毎日新聞 11月6日 0:53 配信)
    http://mainichi.jp/select/news/20131106k0000m010142000c.html

    薬ネット販売「安全評価期間3~4年」で合意
    (産経新聞 11月6日 1:11 配信)
    http://sankei.jp.msn.com/politics/news/131106/plc13110601120003-n1.htm

    落としどころは、当初の報道の通りです。

    ・医薬品から転用された市販直後品に関し、現在は原則4年の安全性評価期間を3年程度に短縮する
    ・安全性評価が終わるまではネット販売の対象から除外し、評価期間が経過したものから解禁する
    ・劇薬5品目はネット販売を一切認めない。

    田村厚生労働相が6日朝、正式発表するそうです。

  4. >楽天の三木谷浩史会長兼社長は6日、「科学的な議論もなく一律規制するのは憲法違反」と強く反発した。
    >ケンコーコム後藤社長は「副作用の情報収集は対面よりネット販売の方が優れている。正当な理由もなくネット販売だけ3年間規制するのは受け入れられない」
    --------------------------------------
    また裁判です!!! 裁判を起こすのは日本国国民の権利ですからどんどんやってください。
    店頭での販売とネット販売を差別するには、合理的な説明をしなければならないでしょうね。
    合理的な説明ができなければ、またしても規制側が敗訴となることは確実。2連敗だけは避けたい。
    本音のところでは、医師会に気兼ねしてリップサービスしているようにも見えますがね。

  5. 早々、楽天の優勝セールで問題の記事あり。

    ネットは便利ですけど、アナログ人間にしたら、仮想世界で薬を販売する事は恐ろしい事です。
    優勝セールぐらいなら、お金がだまされた・・・・ぐらいですみますけど、薬は後でわかっても飲んでしまったらどうするんでしょう?

    とにかく三木谷氏に言いたいのは、これだけの発言する以上は店舗で何かあったら連帯責任をとって欲しい。できれば法律で連帯責任の罰則もうけて欲しいですよ。
    知らない出店があったではすまされません。
    例え重大な被害があっても副作用被害者救済制度などは対象外でしょうし。

    結局何か重大な問題が起こらなければわからないんでしょうね。
    何か日本っておかしくなりました。自由、自己責任って何でしょうね。
    重大な被害が起こったら、ちゃんと考えずに薬飲んだ人間が悪いって言うのは何かが違うと思います。
    きちんと専門家の意見として世間に認められない我々も反省すべきところはありますが、何か子宮頚がんワクチンの騒動(すみません)と同じ感じがします。
    一部の人間の強い意見に流されて全体に拡げた結果副作用で中止に近いアナウンス。
    あの時も日本人には果たしてどうなのかと慎重意見は専門家にありましたよね。もっと時間をかけてもよかったはずです。
    うまく言えないのですが、何か一部の強い意見に流されて歯止めがかからない今の世の中の風潮に黄色信号を感じます。

  6. そもそもが、一般用医薬品の価格が高過ぎるのが問題です。
    そこに旨みが生じるから色々な業態が参入したがる。
    製薬メーカーは儲け過ぎです。適正価格を見直し、大幅
    値下げをすれば万事解決する?と思います。

  7. 個人的には、amazonならまだしも
    楽天の三木谷社長が推し進めるのであれば反対です。

    理由は、ぽんたさんが書いているように、
    違法な店舗があったとしても楽天は責任をとることがなく
    場所を提供しただけで、逃げるに決まっているからです。

    楽天市場に出店していても、責任をきちんと取るであろう会社、
    例えばケンコーコムとかがやるのは、反対しませんが、
    そもそも法律ぎりぎりの会社だったら、責任なんて取れない、とる気がないですよね。

    もし、何かあった時に、そういう店舗だったら、楽天は連帯責任をとるのか?
    取るのであれば反対しませんが、取らないだろうと思うので反対します。