女子マラソン選手がエリスロポエチン(EPO)の使用で資格停止

 見落としていたのですが、JADA(日本アンチ・ドーピング機構 http://www.playtruejapan.org/)は23日、去年12月9日開催のホノルルマラソン4位に入賞した女子マラソン選手について、エリスロポエチン(EPO)の代謝物が検出されたとして、資格停止1年の処分を科したと発表しています。

ドーピング防止規律パネル決定報告
(JADA 2013.05.14)
http://www.playtruejapan.org/downloads/disciplinary_panel/dopingcontravention130522.pdf

 原因は、女子選手の深刻な貧血症状を治療するために投与されたエリスロポエチンが原因で、診察に当たった医師が(禁止物質と知らずに?)競技者に告げずに投与しなかったこともあり、検出結果が通知されるまで、女子選手も投与されていることも知らなかったそうです。

 エリスロポエチンは赤血球を増加させ、筋肉への酸素供給量を高める機能を持つことから、海外では持久力が求められる競技(自転車ロードレース、クロスカントリー等)を中心にドーピングの問題がこれまでも摘発され、有名なプロスポーツの選手も処分を受けています。 

 日本でエリスロポエチン製剤というと、その適応症は透析施行中の腎性貧血や未熟児貧血(ウィキペディアによれば、欧米では各種悪性疾患にともなう貧血などにも用いられているという)となっており、いくら深刻な貧血だからと言って、しかもマラソン競技の直前の11月にこういった治療を行ったことには疑問が残ります。(貧血が深刻というのなら、そもそも過酷なマラソンに体力的に出場できるものなの? ちなみにホノルルマラソンは3位までは賞金がでているらしい)

 通常、1回目の処分の場合は2年間の資格停止が一般的なのですが、ディープインパクトの記事が示すように、いくら本人の不注意だからといって処分の期間が1年間に緩和されたことにも違和感が残ります。

 ちなみに、最近の研究では、エリスロポエチンは運動能力パーフォーマンスを向上させるどころか、健康を害しパーフォーマンス低下を導く物質である可能性があるとした論文が出されています。(論文あれこれ 2012.12 で紹介。下記論文)

Erythropoietin doping in cycling: Lack of evidence for efficacy and a negative risk–benefit
Br J Clin Pharmacol Pubulished Online  6 Dec 2012)
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/bcp.12034/full

上記関連記事

自転車競技におけるエリスロポエチン(EPO)ドーピングで運動能力向上を示す科学的根拠なく、健康を害するリスクが明らかに
(ワイリー・ヘルスサイエンスカフェ 2012.12.10)
http://www.wiley.co.jp/blog/health/?p=1112 

エリスロポエチンは本当にパーフォーマンスを高めるか?
(LINK DE DIET 2012.12.10)
http://www.nutritio.net/linkdediet/news/FMPro?-db=NEWS.fp5&-Format=detail.htm&kibanID=38002&-lay=lay&-Find

関連ブログ:
ホノルルマラソンでドーピング違反者。
(ディープインパクト、ドーピング事件。 2013.05.27)
http://blog.livedoor.jp/dope_impact/archives/51916832.html

吉田香織選手のドーピング違反処分について
(婦人科スポーツドクターのマラソン日記 2013.05.23)
http://running-doctor.blogspot.jp/2013/05/blog-post.html

EPO日本初検出(ドーピング)
(竜胆輪道 (りんどうりんどう)2013.05.25)
http://plaza.rakuten.co.jp/sayzz/diary/201305250000/

貧血とドーピング。
(スポーツファーマシスト遠藤敦の毎日MAX!)
http://atraq.co.jp/max/yousei/%E8%B2%A7%E8%A1%80%E3%81%A8%E3%83%89%E3%83%BC%E3%83%94%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%80%82/

参考:
ドーピングとの闘いー事例紹介~エリスロポエチン(EPO)
(日本分析センター)
http://www.jcac.or.jp/service/antidoping/base_sample_epo.html


2013年05月29日 14:29 投稿

コメントが1つあります

  1. アポネット 小嶋

    JADAは日本スポーツ仲裁機構に処分を重くするよう求め、認められたそうです。

    マラソン吉田資格停止2年に延長 薬物違反で処分重く
    (共同通信 2013.08.20)
     http://www.47news.jp/CN/201308/CN2013082001001942.html
     http://s.nikkei.com/16aGtMv

    仲裁判断(公益財団法人日本スポーツ仲裁機構 JSAA-DP-2013-001)
    http://www.jsaa.jp/award/DP-2013-001.html
    http://www.jsaa.jp/award/DP-2013-001.pdf

    ドーピング違反の仲裁で、選手への処分が重くなったという異例のケースですが、日本ドーピング防止規律パネルはJADAとは独立した機関なんですね。

    今後も、処分に対してJADAがおかしいと思えば、このように仲裁機構に申し立てが行われることも出てくるかもしれません。

    なお、国際陸連では世界陸上の開催にあわせて開催された総会で、ドーピング規定の初回の違反者に対し、現行では2年の資格停止期間を4年に延長する罰則強化案を承認したそうです。

    ドーピング罰則を強化へ 国際陸連、資格停止4年に
    (共同通信 2013.08.08)
    http://www.playtruejapan.org/dopingnews/20130808-2/