政権交代と薬剤師・くすり政策

 政権交代で,今後4年間は民主党が消費者・生活者の視点で政治主導で政策が実行されることが予想されます。当然,くすりや薬剤師に関わる分野についても例外ではありません。思い当たる部分について,下記に列挙してみました。(あくまでも個人な見解で,期待的なものもありますのでご承知おき下さい)

1.薬事法省令の見直し

 今回の選挙で政権与党民主党では,3名の薬剤師議員が当選していますが,TOPICS 2009.08.17 にもありますように,党の見解として「すぐれた特徴を有するITの利用と医薬品についての専門知識を有する人材の活用とを、うまく組み合わせることにより、より適正な医薬品販売を実現することが可能」であるということが示されていることから,現在の第3類までとした医薬品の通信販売の規制を一部緩和することは間違いないと思います。

 代理人であっても店頭に来てもらって話をすれば「対面販売」となるというのはやはり無理があると思います。リアルタイムで専門家が電話などで相談に応じる,専門家が直接自宅に届けて説明するなどのケースは「対面販売」とみなしてもよいと思いますね。ケンコーコムが覆面調査で省令が守られていないという指摘は省令を守りたいとする日薬にとっても大きな痛手ですね。

 また,情報提供の中身についてももう少し検討すべきだと思います。特に,小児用かぜ薬の販売(2歳未満は原則使用しない),総合風邪薬の販売(依存の可能性,連用による肝臓への負担,抗ヒスタミン剤による前立腺肥大症の悪化)などについては,パッケージや(ネット販売での)広告において,もっとはっきりとした注意喚起を行うようにすべきです。

関連情報:ケンコーコムがOTC医薬品販売の実態調査を行う
     (薬局のオモテとウラ 2009年9月2日)
      http://blog.kumagaip.jp/article/31814796.html 

TOPICS
  2009.09.04 ジヒドロコデイン配合OTC風邪薬,事実上使用禁止へ(英国)
  2009.08.31 規制改革会議、医薬品通信販売の規制等に対し再検討を要請
  2009.08.31 若い世代ほど、注意が必要なOTCをネットで購入(国内研究)
  2009.08.17 政権交代で医薬品の通信販売の規制緩和は不可避?
  2008.10.11 風邪薬販売時に薬剤師からの情報提供は必要とされていない?

2.薬剤師職能の活用

 民主党の医療政策マニフェストには,「専門的な臨床教育等を受けた看護師等の業務範囲を拡大し、医療行為の一部を分担します。」と記されており,処方権の容認なども含む看護師の業務範囲の拡大は間違いなくすすめられるでしょう。

 一方で,より幅広い知識をもった6年制薬剤師の活用することも社会にとっては有用でしょう。診療の現場ではやはり看護師の活用が優先されるでしょうから,薬剤師は健康増進や疾病予防・プライマリヘルスケア(医療への橋渡し役)の分野での活用を模索すべきでしょう。

 具体的には,医師が行う禁煙支援を薬局の薬剤師にも広げる(報酬もつける),適切なトリアージが行われば一般用医薬品での対応が可能な症状や病態について薬局店等での対応できるよう,薬局医薬品(処方せん医薬品ではない医療用医薬品)の活用やスイッチOTCを推進を行うことなどがあると考えます。

 ただ,これらを行うには現状ではあまりにも時間的に余裕がありません。調剤の簡素化や助手の導入,「薬歴至上主義」ともいえる現状を変える必要もあります。

関連情報:TOPICS
  2009.08.29 第1回チーム医療の推進に関する検討会
  2009.01.07 専門薬剤師 vs 専門看護師
  2009.08.29 日本は本気でセルフメディケーションを推進する気があるのか?

3.医薬品安全対策の推進

 薬害被害者の方が議員にもなっていますので,今まで以上に医薬品安全対策の推進が行われるでしょう。

 英米などのような「副作用患者直接報告」の仕組みや,オンラインでの報告もおそらく実現されると思います。ただ,個人的にはくすりについてのベネフィットとリスク(副作用など)の情報を誰が・どのように・どこまで伝えていくべきかをきちんとさせることも必要だと思います。

関連情報:TOPICS
  2009.05.17 薬害防止のための医薬品行政のあり方第一次提言
  2009.03.19 第3回医薬品安全使用実践推進検討会
  2009.02.19 オンライン報告で成果を上げるイエローカード副作用報告システム
  2009.01.10 患者副作用直接報告は、医療専門職からの報告を補完する

4.調剤報酬の見直し

 2010年4月の改定は,現在の延長線上で行われるでしょうが,医師などの診療報酬とともに,2012年4月の改定は大きな見直しがあるでしょう。

 おそらく薬剤師の職能をきちんと評価していく方向になると思いますが,一方で薬局間や解釈の仕方で異なる一部負担金など,患者さんにとってわかりにくい調剤報酬の算定方法は見直される可能性があると思います。

 個人的には,「薬剤費の定率負担」+「定額負担(かかりつけ薬局を推進するtめ,一薬局=レセプト一枚ごとに負担)」を基本として,どこで薬を受け取っても同じ料金となる仕組みを目指すべきだと思います。

5.薬物対策の強化

 大麻や覚せい剤などの違法なものへの対策はもちろんですが,表面化しにくい処方薬や一般用医薬品による濫用や依存についてもきちんと対策を行うべきです。

関連情報:スポーツニッポン9月7日
  http://www.sponichi.co.jp/society/news/2009/09/07/01.html

 この他にも,「後発医薬品」「統合医療の確立ならびに推進」などが政策として掲げられていますので,これらについても具体的な政策が示されることでしょう。

資料:民主党政策集INDEX2009 医療政策
 http://www.dpj.or.jp/policy/koseirodou/index2009_medic.html

関連情報:TOPICS 2009.01.01 新年雑感


2009年09月08日 00:00 投稿

コメントが1つあります

  1. アポネット 小嶋

    一部報道で既にご存じと思いますが,日薬はケンコーコムの覆面調査を受け,1日付で都道府県会長宛に通知を行っています。

    改正薬事法の遵守について(日薬定例記者会見9月11日)
     http://www.nichiyaku.or.jp/contents/kaiken/pdf/090911_2.pdf

    通知文を見ると,「一部会員薬局において,引き続き一般用医薬品の郵便販売等を行っている実態があるとのことです」とケンコーコムのプレスリリースを引用しただけで,「日薬として現在指摘された点について事実確認を行っている」とか,「薬事法施行後にこういった指摘があることは遺憾である」などは一切なく,いくら内部文書とはいえ,職能団体として,こんな通知でいいのだろうかと思います。

    ましてや,この通知文を示して記者会見に臨むというのは,組織としてきちんと対応していませんと言っているようなものです。職能団体としての日薬の神経を疑いますね。

    参考:
    ■ケンコーコム、改正薬事法全面施行後の一般用医薬品販売状況を調査結果およびコメントを発表(ケンコーコムプレスリリース9月1日)
     http://www.kenko.com/company/pr/archives/2009/09/post_72.html