バレニクリンと有害事象(米国)

 医薬品の安全使用を目指す米国の非営利団体のInstitute for Safe Medication Practices(ISMP)(http://www.ismp.org/)は23日、2008年の第一四半期(1月〜3月)に“FDA adverse event reports”で公表された有害事象を分析した“Quarter Watch: 2008 Quarter 1” を発表しました。

Quarter Watch: 2008 Quarter(ISMP 2008.10.23)
  http://www.ismp.org/QuarterWatch/2008Q1.pdf

 レポートによれば、2008年の第一四半期にFDAには104,823件の有害事象の報告があり、うち海外からの報告などを除いた20,745件が重篤な症例(前の四半期と比べ38%増)で、死亡例に限ると4,824件と前の四半期と比べ約2.6倍にも達し、2004年以降最も大きな数字となっています。

重篤例数 死亡例数
1 バレニクリン 1001 1 オキシコドン 185
2 ヘパリン 779 2 アルプラゾラム 163
3 フェンタニル 631 3 アセトアミノフェン 160
4 インターフェロンβ 582 4 アセトアミノフェン+ブタルビタール+カフェイン 156
5 インフリキシマブ 463 5 フェンタニル 131
6 エタネルセプト 401 6 モルヒネ 115
7 クロピドグレル 297 7 イブプロフェン 114
8 Pregabalin 280 8 メタドン 111
9 アセトアミノフェン 273 9 アセトアミノフェン+ヒドロコドン 111
10 オキシコドン 272 10 ヘパリン 102

 重篤例報告の多くは、医薬品が原因による有害事象ですが、1464例(7.1%)については、調剤過誤や医療過誤によるmedication errorsが含まれています。

 症状別では不整脈(disruptions of the heart rhythm 推定2658例)が最も多く、次いで自殺と自傷(suicide and self injury 推定1932例)、と薬物依存と離脱症状(drug dependence and withdrawal 推定1814例)と続いた他、レポートでは、血管性浮腫(Angioedema ヘパリン103例、Pregabalin58例、バレニクリン52例)、自殺・自傷(Suicide/Self Injury バレニクリン226例、オキシコドン89例、アセトアミノフェン+ヒドロコドン 87例)、出血(Hemorrhage クロピドグレル170例、ワルファリン161例、ヘパリン88例)などのデータを注目しています。

 また、レポートではバレニクリン、ヘパリン、アセトアミノフェン+ブタビタール+カフェインについて個別に分析を行っています。

 このうち1001例の重篤な副作用(うち死亡50例)の報告があったバレニクリンについては、他の禁煙補助剤(ニコチン17例、bupropion(抗うつ薬としても使用)44例)と比べ遙かに多く、また売り上げ上位ベスト10で報告された副作用数の合計837例をも上回っていると指摘、またこの中には交通事故15例、意識消失52例が含まれていたとしています。(2006年の承認以降では、3325例の重篤な副作用(うち死亡112例))

 FDAの副作用報告システムでは、性別や年齢や背景がはっきりしていないものが少なくなく、この結果だけをもって因果関係を特定することはできませんが、 全米各紙は今回のレポートを受けて、バレニクリンについてFDAがさらなる注意喚起を行うのではないかと伝えています。

 一方、アセトアミノフェン(過量服用による肝障害)やイブプロフェン(消化管出血)関連の死亡数が少なくない現状には驚かされます。日本との用量が異なるので一概に比較はできませんが、日本でもこういった事例は本当にないのでしょうか?

 是非日本でも、こういった視点での、副作用報告の(症状ごとの)分析を行ってもらえればと思います。

関連情報:TOPICS 2008.05.22 バレニクリン、パイロットは使用禁止(米国)

参考:Smoking Cessation Drug Linked to 1,001 New Serious Adverse Events
     (Medpage TODAY 2008.10.22)
    http://www.medpagetoday.com/PrimaryCare/Smoking/11428


2008年10月23日 15:47 投稿

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