スイスでは、2018年までは次の5つのカテゴリーで医薬品が区分されていました。
- Liste A: 医師または獣医師の処方箋に基づく処方箋医薬品(1回限り)
- Liste B: 医師または獣医師の処方箋に基づく処方箋医薬品
- Liste C: 医療専門家による専門的な助言の対応が必要な医薬品
- Liste D: 専門的な助言の対応が必要な医薬品
- Liste E: 専門的な助言の対応を必要としない医薬品
2019年1月、制度の見直しがされ区分Cが廃止に。
同時に、これまで処方箋が必要であった、Liste B を拡大して、一般的な疾患の治療に使用される成分について、Liste B+として改められ、正当な理由のある例外的な場合には、薬剤師はこれまで通り、医師の処方箋なしに患者に処方薬を調剤する仕組みに改められています。
患者本人のみへの販売が可能で、日本で言うところの零売なのかもしれません
Erleichterte Abgabe von Arzneimitteln der Liste B
(スイス連邦公衆衛生局)
https://www.bag.admin.ch/de/erleichterte-abgabe-von-arzneimitteln-der-liste-b
こちらがそのリスト(ドイツ語)、最大調剤量(販売量)も記されている
Liste der Indikationen und der dafür zulässigen Arzneimittel (2024.10)
https://www.fedlex.admin.ch/filestore/fedlex.data.admin.ch/eli/oce/2024/107/de/pdf-a/fedlex-data-admin-ch-eli-oce-2024-107-de-pdf-a-2.pdf
花粉症薬(最大1か月)
- 内服:ビラスチン、セチリジン、デスロラタジン、レボセチリジン、フェキソフェナジン、ロラタジン
- 点鼻:アゼラスチン、フルチカゾン、モメタゾン、トリアムシノロン
眼疾患の薬(最大1か月)
- アレルギー点眼(オロパタジンなど)
- 細菌性結膜炎(ヘキサミン)
- ドライアイ(ヒアルロン酸)
急性呼吸器疾患の薬
- 鼻炎(プソイドエフェドリン)
- 気管支痙攣(最大2週間分:サルブタモール、テルブタリン、1回のみ:ブデゾニド+フォルメテロール)
- 咳(コデイン類、デキストロメトルファン)
胃腸疾患
- 吐き気、嘔吐(ドンペリドン)
- 逆流症状(エソメプラゾールなどPPI、最大2週間分)
- 機能性腸疾患(メベベリン:抗ムスカリン薬、最大2週間分)
- 便秘(ピコスルファート、マクロゴール、使用期間は薬剤師による判断)
- 痔の急性治療(リドカイン+デキサメタソンなど軟膏:最大3日分、ポリクレズレンなど:最大1週間)
- 肥満(オルリスタット:最大12週間)
皮膚疾患
- 細菌性皮膚感染症(スルファジアジン銀クリーム)
- ヘルペス(アシクロビルクリーム)
- いぼ(クロロ酢酸外用液、尿素+トレチノイン+デクスパンテノール クリーム)
- 疥癬(ペルメトリンクリーム)
- 尋常性ざ瘡(アダパレン外用、イソトレチノインゲル、アゼラインクリーム、使用期間は薬剤師による判断)
- 酒さ様皮膚炎(イベルメクチンクリーム)
- 皮膚真菌症(ケトコナゾールクレーム・シャンプーなど、使用期間は薬剤師による判断)
- その他感染性皮膚疾患(クロトリマゾール+ヘキサミジンジイセチオネート+プレドニゾロン クリーム)
- 爪真菌症(アモロルフィン、シクロピロックス、使用期間は薬剤師による判断)
- 感染していない皮膚炎と湿疹(クロベタゾン、ヒドロコルチゾン、トリアムシノロン、1日1回最大3週間)
- 蕁麻疹(ビラスチンなど抗アレルギー薬)
- 男性型脱毛症(フィナステリド 使用期間は薬剤師による判断、投薬ごとに副作用を警告すること)
- 局所麻酔(リドカイン、プリロカイン)
泌尿生殖器疾患
- 細菌性または真菌性膣感染症(シクロピロックス、エコナゾール、デカリウム 膣局所、3か月に1回まで)
- 膣内細菌叢の回復(エストリオール配合膣錠、最大6錠)
- 膀胱カテーテルによる感染症の治療と予防(クロルヘキシジン)
- ED(シルデナフィル、最大4錠)
- 尿路感染症の免疫刺激剤(大腸菌他)
急性疼痛
慢性疼痛、神経障害性疼痛、および投薬前に医師の診断を必要とするその他すべての疼痛状態は除外
- アスピリン1g、ジクロフェナク内服・坐薬、イブプロフェン内服、ケトプロフェンゲル、メフェナム酸内服・坐薬、メタミゾール内服・坐薬、ナプロキセン、アセトアミノフェン1000mg内服・坐薬、最大1週間分
片頭痛
医学的に片頭痛と診断された場合のみ、患者の同意を得た上で、調剤ごとに主治医に報告書を作成
- アルモトリプタン、エレトリプタン、フロバトリプタン、ナラトリプタン、リザトリプタン、スマトリプタン内服・点鼻、ゾルミトリプタン内服・点鼻、最少包装での販売のみ
ビタミンとミネラルの欠乏
- カリウム欠乏(塩化カリウムなど)
- マグネシウム欠乏(アスパラギン酸マグネシウム、クエン酸マグネシウム)
虫歯予防(フッ化ナトリウム、デクタフル)
寝つきが悪い(ドキシラミン、ジフェンヒドラミン)
循環調節障害による低血圧症(エチレフリン)
乗り物酔いと平衡障害(現在、該当成分なし)
緊急避妊(レボノルゲストレル、ウリプリスタール)
オピオイド過剰摂取の緊急治療(現在、該当成分なし)
禁煙(現在、該当成分なし)
最近、この制度変更による影響を調べた研究が報告されています。
Opioid-containing antitussives in Switzerland: a descriptive cross-sectional time-series analysis of pharmacy sales 2013-2022
(Swiss Med Wkly. 2025 Jun 25)
https://smw.ch/index.php/smw/article/view/4188/6288
区分変更により、デキストロメトルファンやコデインなどの販売高がどのように変化をしたかを調べたもので、2013年から2021年の間におおよそ半減したとのこと。
ただ研究者らは法改正以前よりオピオイド含有鎮咳薬の売上は累積的に減少傾向を示していたことや、鎮咳薬の乱用事例がメディアで繰り返し取り上げられたことで、薬局において特に若年層においてオピオイド含有鎮咳薬の推奨がより慎重になったためだとしています。
スイスでは、日本の要指導医薬品や零売に該当する品目については、医師が処方するものと同じものを薬剤師の裁量でいわば零売の形で販売されているものと思われます。
先の薬機法改正で医療用医薬品は、処方箋医薬品ではないものも原則処方箋が必要となりましたが、日本でもこういった制度設計が必要かもしれません。
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