薬のネット販売は全面自由化を前提にすべき(規制改革会議)

 安倍政権になって衣替えした規制改革会議の実質的な審議が始まっていますが、25日の会議では37項目の検討課題と般用医薬品(大衆薬)のインターネット販売など4項目の最優先議題を決めています。

規制改革会議
http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/meeting/meeting.html

第3回規制改革会議(内閣府 2013.02.25開催)
http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/meeting/2013/committee/130225/agenda.html

 経済成長の観点から早急に取り組むべきであり、かつ困難な項目として取り上げられた「一般用医薬品のインターネット等販売」については、利用者の立場で法制化の状況を注視し、規制改革するとしています。

6月までに取り組む規制改革の項目について
http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/meeting/2013/committee/130225/item1.pdf

 議事議題にもありますように、同会議では、一般用医薬品のインターネット等販売規制の現状についての厚労省からのヒアリングがあったそうですが、日本経済新聞記事によれば、大田弘子議長代理より、「規制内容が国際比較されていないのはおかしい」と指摘され、薬のネット販売規制を説明した厚労省の担当者に追加の資料を求める一幕もあったそうです。 

厚生労働省提出資料
http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/meeting/2013/committee/130225/item5.pdf

(1月25日開催の医薬品のネット販売に関する議員連盟第3回総会で出された、米英独仏のネット販売状況の資料はどうして提出しなかったのでしょう。海外では認められいるからいいのではないか指摘されることを懸念して?)

医薬品のネット販売に関する議員連盟第3回総会資料
(日刊薬業WEB行政資料)
http://nk.jiho.jp/servlet/nk/release/pdf/1226591201296#page=7

 一方、同会議では今後、「健康医療分野」など、4つのワーキング・グループを設置し、重点的に議論する項目を決めていきます。

ワーキング・グループにおける検討項目(案)
http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/meeting/2013/committee/130225/item3.pdf

4ワーキング・グループの構成員
http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/meeting/2013/committee/130225/item2.pdf

 このうち、健康・医療分野は10項目です。(「革新的医薬品・医療機器の薬価算定ルール等の見直し」などが新たに加わった)

再生医療の推進 再生医療を推進する観点から、再生医療の研究に使用する細胞を円滑に入手できる仕組みの構築や医工連携による細胞加工の医療機関以外への外部委託を可能とするルール整備等再生医療の推進に向けた環境を整備すべきではないか。
医療機器の承認業務の民間開放の推進 高度管理医療機器は大臣承認の対象とされ、その審査は独立行政法人医薬品・医療機器総合機構(PMDA)が一元的に行っている。
医療機器の審査期間を短縮する観点(いわゆるデバイス・ラグの解消)から、高度管理医療機器についても民間の登録認証機関が審査・認証を行えるようにすべきではないか。
革新的医薬品・医療機器の薬価算定ルール等の見直し 革新的医薬品・医療機器について、開発者のインセンティブを十分に引き出せるよう、日本製薬団体連合会が提言している「類似治療比較方式(仮称)」等を参考にしつつ、薬価算定ルールの見直しを行うべきではないか。
治験前臨床試験の有効活用 医薬品の審査期間を短縮する観点(いわゆるドラッグ・ラグの解消)から、治験開始前のデータであっても一定の条件の下で治験データとして活用することを認めるべきではないか。
一般健康食品の機能性表示の容認 付加価値の高い農産物・加工品の開発を促進する観点から、ヒトによる治験を経て、健康増進に対するエビデンスが認められた素材を含有する健康食品について、その効能・効果に関する表示を認めるべきではないか。
保険外併用療養の更なる範囲拡大 保険診療と保険外診療の併用制度について、先進的な医療技術の恩恵を患者が受けられるようにする観点から、先進的な医療技術全般(薬剤を用いない医療技術、再生医療等)にまでその範囲を拡大すべきではないか。
遠隔診療の普及 患者の利便性の向上の観点から、対面診療と比べて低い診療報酬を見直すとともに遠隔診療を医療機関の判断で可能とすべきではないか。
処方箋等の電子化の推進 電子カルテシステムの標準規格の普及・接続の促進、処方箋の電子化(電子的手法による処方箋の交付・提出等)の許容、レセプト等医療データの利活用を推進すべきではないか。
介護事業の効率化 社会福祉法人の経営の透明性を向上させるとともに、競争原理によるサービス向上を実現する観点から、経営の一層の効率化を図り得る仕組みにすべきではないか。
保育に係る規制改革 認可保育所の保育士の配置基準の見直し、認可保育所への株式会社等の参入の促進、事業所内保育施設の充実、経営主体にかかわらず保育の質を評価する仕組みの確立(独立機関による監督・評価など)、所管が複数にまたがる保育行政の在り方の見直し等を検討すべきではないか。

  また、これまでに構成委員が課題についての検討方法や意見などを述べたさまざまな資料を提出しています。関連がありそうなものを抜粋します。

政策研究大学院大学 大田弘子 議長代理(第3回提出)
http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/meeting/2013/committee/130225/item8.pdf

  • 法律に基づかず通達や行政指導による規制
    原則廃止する措置を6 月までに徹底し、残すべき規制があるとすればその妥当性を規制改革会議で説明・了承されるべきではないか

一般用医薬品のネット販売の即時全面自由化を求める
 (中央大学法科大学院教授 安念 潤司 第2回提出 私案・未定稿)
http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/meeting/2013/committee/130215/item6.pdf

(ネット販売規制には何の根拠もない)

 先の最高裁判決は、直接には、新施行規則による規制が新薬事法の委任の範囲を超えている,としただけなので,法律本体によって郵便等販売を禁止すれば問題は解消されるという形式的な解釈もなされ得るところであり、現にそうした法改正の動きもあると聞く。しかし,問題の本質は,規制の根拠法令の選択にあるのではない。郵便等販売の禁止には、そもそもそれを正当化する如何なる根拠もないのである。 

 ここで重要なのは,①郵便等販売が医薬品服用に伴うリスクを管理する上で、対面販売よりも劣っているのか、②仮に劣っているとしても、郵便等販売を広汎に禁止しなければならないのか、という点であろう。

 まず①についてであるが、医薬品の副作用に関する各種の調査資料を見ても,一般用医薬品を販売する経路・態様によって副作用の出現に有意差が生ずるとする報告は存在しない。

 これは理屈で考えても当然であろう。まず,一般用医薬品が原因になり得ると考えられている副作用のうち重篤なもの(スティーブンス・ジョンソン症候群〔SJS〕,劇症肝炎,間質性肺炎,アナフィラキシー・ショック,など)には、稀少な疾患が多い上に(特にSJSは,発症頻度は100 万人に1 人程度といわれている),原因物質や発症機序も十分解明されておらず,対面販売によって発症リスクを低減することは不可能であると思われる。なお,広汎かつ激甚な副作用をもたらした市販薬として著名なサリドマイドやキノホルムが,対面販売されていたことはいうまでもない。

 中等度・軽度の副作用については、服薬に際して、適正な摂取量や禁忌について情報が適時適切に与えられれば回避できる可能性があるが、この点の情報提供において、郵便等販売がいかなる意味で対面販売よりも劣っているのか、説得的な理由が示されたことはない。むしろ、購入者の追跡が容易な郵便等販売,とりわけネット販売においては,最新の副作用情報を即時に同報できるメリットがある。

 この点に関連して、対面販売(服薬者ではない第三者であってもよい。したがって,対面でさえあれば,例えば,第二類医薬品である妊娠検査薬〔妊娠中に胎盤で産生されて尿中に排出されるホルモンを検出するもの〕を男性が購入することもできる)にあっては,購入者の顔色や挙措動作を販売に当たる薬剤師等が直接観察できるので,より適切な助言をすることができる,と言いなす向きがあり,あろうことか本件第一審判決もそれに従っているのであるが,顔色や挙措動作のどこをどう観察し,それに基づいてどのような助言をするのかについて,マニュアルや事例集の類さえ存在していない。

 ②についていえば、仮に郵便等販売がリスク管理の上で対面販売よりも劣るとしても,購入者は,対面販売をいつでも選択できる以上,郵便等販売を禁止する必要はない。規制擁護派のなかには,消費者は十分に愚かなので対面販売の優位性を知らない場合があると説く向きもあるが,そうであるならばなぜ新薬事法36 条の6 第4 項が,第一類医薬品についてさえ,説明を要しない旨の意思を表明した購入者に対しては薬剤師による情報提供を要しない,と規定しているのかが説明できなくなる。

 いずれにせよ、新施行規則の規制はまったく正当化根拠のないものであるから,ただちに全面自由化すべきである。

一般用医薬品の郵便・ネット販売の自由化について(私見)
(弁護士 林 いづみ 第3回提出)
http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/meeting/2013/committee/130225/item11.pdf

  • 過去の薬害被害者は「炭鉱のカナリア」というべき存在であり、決して他人ごとではない。医薬品は、安全に製品設計されたものでも、使い方によって毒(副作用)にも薬(効能効果)にもなるものであるから、医薬品の安全な利用を確保するために、国が医薬品の販売について一定のルールを設ける必要があることは言うまでもない。
    インターネット販売における問題は、良心的な事業者にはルールの遵守を期待できる一方で、ルールを無視する違法業者を実質的に取り締まる有効な方策が未だ明らかではないことである。従って、上記の矛盾を解消するためにインターネット販売の自由化(拡大)を認める場合は、安全な利用を確保するためのルールを定めて、業界がルールを守っていくことができるような制度設計をすることが必要であろう。
  • 電子カルテシステムの共通化は、医薬品のインターネット販売の自由化に際しても有益な基盤となる。電子カルテの共通化により患者が自らの個人情報を把握できれば、患者は郵便・ネット販売を利用する際に自らの個人情報を活用して、販売者側に、注文者が従来、病院でどのような処方を受けたかを確認させることができる。
  • インターネットを通じて医師・薬剤師が患者と対面することも可能である。現状の対面販売のメリットは名目的であると言わざるを得ない。対面販売における第1類の説明の多くが紙を渡すだけでありインターネットでPDFを送るのと違いはないし、対面販売において患者の顔色を見るだけで医薬品の販売を断って「受診勧奨」をする場合がどの程度あるのか疑問である。従って、インターネット販売において上記のようなICT活用モデルが実現できれば、現在の対面販売と比較して、総合的な優位性は明白であろう。

情報通信技術を活用して医療の仕組みを国民本位に変える

  • このテーマの有用性は日本でも10 数年来、在宅医療(介護/遠隔医療)、医療コスト削減の観点からも提唱されてきたが,進んでいないi。抵抗勢力を克服するためには、ICTの利活用を、単なる利便性の向上にとどまらず、医療の仕組みを国民本位に変えるための変革として位置付け、国民の支持を得る必要がある。

大阪大学大学院医学系研究科 森下竜一
(第2回提出)
http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/meeting/2013/committee/130215/item4.pdf
(第3回提出)
http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/meeting/2013/committee/130225/item12.pdf

サプリメント(健康食品)・医療用品に対する機能性表示に関する規制改革

  • 増大し続ける医療費を抑制するために新たな食品医療経済コンセプトで健康食品・医療用品を上手に利用し、疾病予防に努め健康寿命を延ばす 。
  •  「機能性表示健康食品(仮称)」「機能性表示医療用品(仮称)」に関する規制改革を行い、理解しやすい健康機能を表示出来る制度を作り、過大広告に頼らず、国民が正しい健康機能・栄養知識を得られるよう教育する仕組みを作る 。
  • 安全・安心の日本の信用の上に、「機能性表示健康食品(仮称)」「機能性表示医療用品(仮称)」で、世界標準化を図り、コスト競争でなく、イノベーションを元にした健康産業を育成し、国内製造産業振興、アジアへの輸出促進と雇用創出を図る。

 (第3回より抜粋)
 海外では、米国など多くの国が安全性と機能性表示を可能にする制度を整備し、予防医学に積極的に活用する活動を行っている。既に積極的にサプリメントを活用することにより、疾患発症と医療費の減少がもたらされることが明らかになっている。国内でも、坂戸市が葉酸を利用して、同様の結果を示している。今後、高齢化に伴う症状に付いてサプリメント(健康食品)で予防することにより、使用者自らの判断で快適に過ごすことが可能となり、医療行政への一助にもなると考えられるが、現在の制度では自分の症状にあったサプリメントを摂取すること
は、困難であり、消費者に理解しやすく、エビデンスに基づいた機能性表示を認めることにより、積極的な予防医療を可能にすべきである。

 各紙によれば、会議では「薬のネット販売は全面自由化を前提にすべきだ」との意見が多数だった(議長が会議後の記者会見で述べた。ということは会議そのものは非公開らしい)そうですが、強力な解禁派の方が委員にいることを考えると、かなり大胆な提言がなされる可能性もあります。

RISFAX 2月26日
http://www.risfax.co.jp/risfax/article.php?id=40594

 なお、規制改革会議とは別に、首相官邸の日本経済再生本部の下、我が国産業の競争力強化や国際展開に向けた成長戦略の具現化と推進について調査審議するため、産業競争力会議というのも開催されています

産業競争力会議
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/skkkaigi/kaisai.html

 1月23日に行われた第1回会議では、ローソン代表取締役社長CEOの新浪 剛史氏が、次のような提言を行っています。

新浪 剛史 委員資料
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/skkkaigi/dai1/siryou6-6.pdf

現行の登録販売者は専門性が低い。OTC 医薬品第1 類及び第2 類全てを、上記TV 会話等のICT による薬剤師の活用で、安全を担保して24 時間販売が可能。病状によっては、最も近い医師への紹介を行う仕組みを検討。→ ゆえに医療費の削減と新たな雇用機会。

 このように産業競争力や経済活性化の名の下に、今後政府主導で規制改革(規制緩和)が一気に進められる気配があり、こういった議論や発言については、今後注視する必要があるでしょう。


2013年02月26日 14:17 投稿

コメントが4つあります

  1. 規制改革会議の主張は下記の点であると、私なりに理解しました。

    1.副作用発現において、ネットが対面より劣っていることはない。
    2.ネット販売を全面的に禁止する根拠がない。
    3.海外各国のネット販売の実情における参考資料の提示が十分でなかった。
    4.ICT活用等で、ネット販売は対面販売(店頭販売)以上の成果を出すことができる。
    5.改正薬事法の見直しの中で、対面販売を条文に盛り込む必要性が理解できない。

    上記は私の表現も悪く、正確性を欠いているところもあるかと思いますが。
    大体においてはこのようなことであろうと理解しました。

    1.は5.にも通ずるところですが。
    もう、ネットと対面を議論する次元ではないと思います。
    ただ、医薬品たるOTC薬の特性から考えると、対面の良さは大いに取り入れるべきところです。
    つまり、OTC薬(医薬品)の有用性を最大限に引き出すためには、人と人との対面による心温まる直接的な触れ合いが大切です。
    そこに、良質のコミュニケーション力と専門的知識を兼ね備えた資格専門家を関与させることは大いに価値があります。
    上述の補足的なところが、1.にはない。当然、それによって5.の見直し薬事法の条文に盛り込む必要性を感じます。

    2.は全面的な禁止根拠がないという捉え方ではなく、対面販売の補完的役割としてネット販売を位置づけるべきと考える。

    3.は海外各国でもネット販売は実際に行われているが、その実態は薬剤師関与のルール化がしっかりできていて、その区分けのもとでの許認可制で行われている。

    4.は1.で述べたところと重複するが、いくら、情報通信技術が発達しても、OTC薬(医薬品)を用いての治療に帰するところは対面にとって代わることができない。
    まだまだ、このような私の意見では十分でないところがあるかと思います。

    ただ、この規制改革会議ではメンバー構成上、仕方のないところですが、OTC薬が医薬品であるという大前提が十分に考慮されていないままに、使用者本位、利便性を優先しているように感じました。

  2.  海外で、ネット販売が行われているところでも、決してうまくいっているわけではないというのが実情のようです。 ある意味、個人の自由の範囲でどうぞという割り切りで、ネットで騙されても自業自得といった割り切りをしているとみるべきと思われます。
     薬剤師会などが、販売を行う薬局の認証などの整備や実施を図っているからと言って、問題が解決しているわけではないようです。 認証を受けていても、ダメなところもあるといった具合です。

  3. アポネット 小嶋

    議事概要がアップされました。かなりつっこんだやりとりが行われています。

    第3回規制改革会議 議事概要
    http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/meeting/2013/committee/130225/summary0225.pdf

    一方、7日の読売新聞によれば、全面解禁を前提にした、「販売履歴の管理や購入量の制限」「副作用や薬の効果などを薬剤師にメールや電話で相談できる仕組みの策定」などが提示されるようです。(でも規制改革会議に、薬事に関する方針を決める権限がどこまであるのだろうと思う)

    読売新聞2月7日
     www.yomiuri.co.jp/politics/news/20130307-OYT1T00041.htm

  4.  論議の内容自体が、現在の薬事法や既存店舗の対応のことを何にも知らない人が言っていることを暴露しているのではないでしょうか?
     購入者の問い合わせへの薬剤師や登録販売者による応需は、すでに現行法でも求められ、現実の店舗では対応しているものです。 こんな論議を頼りにするということは、ネット販売の権利を主張する人々は、自己利益の追求が先で、生活者の安全と便宜はそっちのけであることを暴露しているようなものではないでしょうか。