炭酸リチウム投与時は血中濃度測定の遵守が必要

 厚労省は25日、シベンゾリンコハク酸などについて、添付文書の変更の指示を行っています。

 使用上の注意改訂情報(平成24年9月25日指示分)(PMDAウェブサイト)

 今回の変更指示で注目したいのは炭酸リチウム(リーマス錠他)で、「PMDAからの医薬品適正使用のお願い」でもあわせて注意喚起が行われています。

変更指示部分:http://www.info.pmda.go.jp/kaitei/notice/20120925no6.pdf
    報告書:http://www.info.pmda.go.jp/kaitei/file/20120925frepno6.pdf

炭酸リチウム投与中の血中濃度測定遵守について
(PMDAからの医薬品適正使用のお願いNo.7 2012年9月)
http://www.info.pmda.go.jp/iyaku_info/file/tekisei_pmda_07.pdf

 PMDAによれば、医科・調剤及びDPCレセプトデータを用いた調査の結果、炭酸リチウムが処方された患者2309例のうち、1200例(52%)で血清リチウム濃度測定が一度も実施されていない可能性があるとする一方、血清リチウム濃度を上昇させる要因(食事及び水分摂取量不足や血中濃度上昇を起こす可能性がある薬剤(NSADsなど)の併用開始等)との関連が疑われるリチウム中毒症例(要因により(知らないうちに)リチウム濃度が上昇)が26例報告されているとして、下記のようにこれまでの注意喚起がより強められています。 

 用法・用量に関連する使用上の注意

変更前 変更後
過量投与による中毒を起こすことがあるので、投与初期又は用量を増量したときには1週1ないし2回、維持量の投与中には1月1回程度、早朝服薬前の血清リチウム濃度を測定しながら使用すること。 「過量投与による中毒を起こすことがあるので、投与初期又は用量を増量したときには維持量が決まるまでは1週間に1回をめどに、維持量の投与中には2~3ヵ月に1回をめどに、血清リチウム濃度の測定結果に基づきトラフ値を評価しながら使用すること。なお、血清リチウム濃度を上昇させる要因(食事及び水分摂取量不足、脱水を起こしやすい状態、非ステロイド性消炎鎮痛剤等の血中濃度上昇を起こす可能性がある薬剤の併用等)や中毒の初期症状が認められる場合には、血清リチウム濃度を測定すること。

 重要な基本的注意

変更前 変更後
本剤による中毒に関する注意について、患者及びその家族に十分徹底させること 患者及びその家族に、本剤投与中に食事及び水分摂取量不足、脱水を起こしやすい状態、非ステロイド性消炎鎮痛剤等を併用する場合等ではリチウム中毒が発現する可能性があることを十分に説明し、中毒の初期症状があらわれた場合には医師の診察を受けるよう、指導すること。」

 留意点としては、投与初期や増量時にはには血清リチウム濃度の測定を遵守することと、OTC医薬品も含めたNSAIDsの併用時には、リチウム中毒の可能性について患者及び家族にをきちんと伝えることが求められていることになります。(こういうのは、個別指導で間違いなくチェックされるでしょうね)

 後者については、薬情に反映させ服薬指導できちんと情報提供を行うことで可能ですが、前者については診療側がどこまできちんと行うかにかかっています。

 保険薬局で特に問題となってくるのは、初めて炭酸リチウムが処方されたり、増量された場合の処方日数で、次回の受診日が2週間後とか1か月後となっていて、かつ次回までに採血する予定はないというケースです。(当然、疑義照会も必要になってくる)

 過去にもチクロピジン(パナルジン)やサラゾスルファピリジン(アザルフィジンEN・サラゾピリン)、チアマゾール(メルカゾール)などで、投与初期の臨床検査実施の遵守が求められていますが、精神科領域で使われる機会の多い炭酸リチウムの血中濃度測定がきちんと行われるかどうかは、懸念が残るところです。

 PMDAでは、適切な血清リチウム濃度測定が実施されずに重篤なリチウム中毒に至った症例などは、基本的に医薬品副作用被害救済制度においても、適正な使用とは認められない症例とされ、救済の支給対象とはなっておりませんとしており、処方せんを発行した医療機関への確認も必要となります。


2012年09月25日 23:06 投稿

コメントが1つあります

  1. アポネット 小嶋

    関連記事です。スルーしていたのですが、「PMDAからの医薬品適正使用のお願い」は4月の更新版だったんですね。(でも手元にファイルしているのを見たら、下記にも使われている図表が入っていて、症例も違っていた。前のバージョンをわざわざ消す必要があったんだろうか?)

    -炭酸リチウム製剤(躁病・躁状態治療剤)適正使用のお願い-
    血清リチウム濃度測定遵守について(2012.4 発売メーカー共同)
    http://www.info.pmda.go.jp/iyaku_info/file/kigyo_oshirase_201204_4.pdf

    炭酸リチウム処方例の半数で血中濃度の測定行われず
    (MT Pro 2012.09.26 要会員登録)
    http://mtpro.medical-tribune.co.jp/mtpronews/1209/1209078.html

    上記関連記事の下記記事を見ると、維持療法中の血中濃度の測定については、双極性障害治療GLの意見が反映されているんですね。

    双極性障害治療GL改訂「抗うつ薬使用の“誤解”を解く」
    (MT Pro 2012.05.28)
    http://mtpro.medical-tribune.co.jp/mtpronews/1205/1205046.html

    お薬手帳を活用し、副作用の初期症状をきちんと伝えるだけでもかなり重篤なケースを防ぐことができると思いますが、英国のように啓発の資材や、服用カードのようなものも必要かもしれません。

    Safer lithium therapy
    (NHS Patient safety resources)
    http://www.nrls.npsa.nhs.uk/alerts/?entryid45=65426

    MT PRo にもありますが、日本うつ病学会がまとめた双極性障害の治療ガイドラインでは、NSAIDsは併用すべきでないとはっきり書かれています。

    日本うつ病学会治療ガイドライン Ⅰ.双極性障害
    http://www.secretariat.ne.jp/jsmd/mood_disorder/img/120331.pdf