医療技術評価(HTA)における費用対効果の導入

 診療報酬の改定の作業が終わり一段落がついた中医協ですが、今後改定結果の検証を行うのと並行して注目の議論が開始されます。

第233回中央社会保険医療協議会 総会
(2012.04.11開催)
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000027ha4.html

(資料総-1)医療技術(薬剤、材料を含む)評価における費用対効果導入の検討について(案)
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000027ha4-att/2r98520000027lk1.pdf

 医療技術評価(Health Technology Assessmrnt:HTA)とは、個々の医療技術の臨床効果、経済効果、社会的影響などを多面的に検討する研究領域のことをいい、多くの国ではHTA研究が医薬品や医療材料等の保険償還の可否の判断等の政策立案や診療ガイドライン等の臨床判断に用いられているそうです。(下記総説から引用。とても参考になります)

医療技術評価(HTA)の政策立案への活用可能性(前編)
(医療と社会 21(3)163-174,2011)
http://www.jstage.jst.go.jp/article/iken/21/2/163/_pdf/-char/ja/
(韓国・タイにおけるHTAの概要を紹介)

医療技術評価(HTA)の政策立案への活用可能性(後編)
-海外の動向とわが国における課題-
(医療と社会 21(3)233-247,2011)
http://www.jstage.jst.go.jp/article/iken/21/3/233/_pdf/-char/ja/
(英・独・仏におけるHTAの導入を紹介)

 中医協では、日本でもこのHTAの導入を目指して、基本問題小委員会、薬価専門部会、保険医療材料専門部会などで構成される委員で、まずは評価の枠組みについて検討、将来的には、保険導入や診療報酬上の取扱いについての検討を行うことを決めています。

 今回の動きに対して、製薬協は18日、「医薬品の価値、特にイノベーションを適切に評価することは大変重要であるが、費用対効果の導入については、さまざまな問題点がある」として、性急に導入することに反対する見解を示しています。

医療技術等の評価における費用対効果の導入の検討について
(日本製薬工業協会 2012.04.18)
http://www.jpma.or.jp/media/release/news2012/120418.html

 日本では、薬価収載されれば承認の範囲であれば保険の適用を受け続けるることができますが、このHTAが導入されるとそういうわけにはいかなくなります。

 海外の導入状況をみると、費用対効果が低いと判断された場合には、保険償還から外す(保険が使えない)、保険の償還率を下げる(即ち患者負担率が上がる)、参照価格を適用するといったことにつながっています。

 製薬協の「費用対効果分析の際に必須の疫学的データ(疾病毎の罹患率、死亡率等)や当該疾病の治療に必要な医療費のデータベースすら完備されておらず、客観的・科学的な評価に使用できる環境にはない」とした指摘には同意しますが、やはり多額の投資をしてせっかく開発した新薬がHTAによって保険で使われなくなったり、費用対効果が低いとレッテルを張られることを恐れているのでしょう。

 しかし、医療費には限りがあります。課題は多いものの、医療費の効率的な使用にHTAの導入の検討は避けて通れないのではないでしょうか?

 そして、おそらく海外の事例を見れば、HTAが導入により、「風邪や水虫など軽度の疾患に使われる薬の負担率のアップ→OTC医薬品で対応しても費用的には変わらなくなる」となり、セルフメディケーションの推進 につながっていくのではないかと考えています。

関連情報:TOPICS
  2011.06.03 長期高額医療の患者負担をどう軽減するか
  2011.06.01 チャンピックスは公費助成には向いていない?(フランス)
  2010.06.22 TZD・グリニド系は保険償還から除外すべき(ドイツ)
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2012年04月19日 01:16 投稿

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