ヒブワクチンと肺炎球菌ワクチンの接種を一時見合わせ(Update)

 公費投与で一気に接種者が増えたヒブワクチン(アクトヒブ)と肺炎球菌ワクチン(プレベナー水性懸濁皮下注)ですが、接種後の死亡例が4例報告されたことから、因果関係の評価を実施するまでの間、念のため、接種を一時的に見合わせると発表し、自治体及び関係製造販売業者に連絡したそうです。

小児用肺炎球菌ワクチン及びヒブワクチンを含む
同時接種後の死亡報告と接種の一時的見合わせについて
(厚労省プレスリリース 2011年3月4日)
http://www.info.pmda.go.jp/happyou/file/PMDSI_110304.pdf

小児用肺炎球菌ワクチン及びヒブワクチン接種の一時的見合わせについてのQ&A
(厚労省 2011年3月9日 Update)
http://www.mhlw.go.jp/stf/kinkyu/2r98520000013zrz-img/2r985200000149fp.pdf

プレスリリースの通り、死亡例はいずれも複数のワクチンを同時接種したケースで、もしかすると同時接種が関連性があるかもしれません。

 ワクチンについては詳しくないので、詳細はリンク先を見て頂きたいのですが、審査報告書(アクトヒブ1/アクトヒブ2プレベナー)によれば、海外では複数のワクチンと同時に行うケースはあるようで、効力への影響という懸念はあるものの、安全性についてはあまり問題なく同時接種の制限もないようです。

 しかし、プレベナーの審査報告書には次のようにも記載されています。

海外臨床試験で同時接種されたDTaP ワクチンは国内で使用されているDTaP ワクチンとは、抗原の種類や製造方法、抗原量又は力価、アジュバント量等が異なっており、提出された資料及び回答からは、本剤を国内既承認DTaP ワクチンと同時接種した場合の影響を類推することは困難である。また、DTaP に含まれる抗原だけでなく、本剤のIgG 抗体濃度が同時接種ワクチンにより低下する可能性もある。

今後、本邦において、本剤の接種時期と同時期に接種されるワクチンが増える可能性が考えられることから、本剤と他のワクチンとの同時接種を不可とする必要はないものの、本剤と国内既承認ワクチン、少なくとも定期接種ワクチンを同時接種した際の影響について、製造販売後に臨床試験を実施し検討する必要があると考える。

本剤と同時期に接種されうるワクチンを同時接種した際の影響等は確認されていないことから、製造販売後調査等において適切に情報を収集し、評価する必要があると考える。

とも記されており、プレベナーと他のワクチンとの同時接種についての有効性や安全性は承認時には必ずしも確立していないことを示唆しています。

 一方、ヒブワクチンについては、DPT3種混合ワクチンの同時接種の有効性、安全性について調べた臨床試験の中間結果が昨年発表され、初回免疫後の有効性や安全性は、単独接種と同時接種の間で大きな差はなかったとしています。

有効性と安全性は単独接種と大差なし
HibワクチンとDPTワクチンの同時接種で国内初のエビデンス
第14回日本ワクチン学会学術集会
(日経メディカル 2010.12.13 要会員登録)
 http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/hotnews/int/201012/517789.html

 添付文書では、両ワクチン(アクトヒブプレベナー)とも、「他のワクチン製剤との接種間隔」 の項で次のように記載されています。

 生ワクチンの接種を受けた者は、通常、27日以上、また他の不活化ワクチンの接種を受けた者は、通常、6日以上間隔をおいて本剤を接種すること。ただし、医師が必要と認めた場合には、同時に接種することができる(なお、本剤を他のワクチンと混合して接種してはならない)。(この文言はワクチン共通の記載らしい)

となっており、今回の死亡例は医師の裁量で行ったことになるので、医師の責任となってしまうのでしょうか?

 サーバリックスの記事でも紹介した昨年12月9日の全国都道府県担当者会議の資料Q&Aをを見ると、同時接種の可否についての質問に対しては、「医師が必要と認めた場合に限り行うことができます。」と答える一方、「3つのワクチンを同時に接種する場合はどのように接種したらよいか。」の質問に対しては、「上腕伸側(上腕後側)でおおよそ下3分の1の部位を第一とし、三角筋外側部でも接種することが可能です。左右の腕に分けて接種することも可能です。」と答え、同時接種を推奨しているともとれます。

 また、日本小児科学会でも同時接種を推奨していますね。

「日本小児科学会の予防接種の同時接種に対する考え方」
(日本小児科学会 2011年1月19日)
 
http://www.jpeds.or.jp/saisin/saisin_1101182.pdf

 サーバリックの供給困難(TOPICS 2011.03.04)もそうですが、公費を投入することにより政策の実現を早く結果として残したいという政治の都合の影響がもしあったとしたら、ちょっと考えさせられます。

資料:
医療用医薬品の承認審査情報(PMDA)
 http://www.info.pmda.go.jp/approvalSrch/PharmacySrchInit?

関連ブログ:
Hibワクチン+三種混合ワクチン後死亡事故 誰が責任とる?
(内科開業医のお勉強日記 2011年3月4日)
http://intmed.exblog.jp/12218085/

くそ役人現場丸投げ責任回避通達:ワクチン同時接種
(内科開業医のお勉強日記 2010年10月27日)
http://intmed.exblog.jp/11482553

ワクチンのニュース2つ
(感染症診療の原則 2011年3月4日)
http://blog.goo.ne.jp/idconsult/e/dbcf6b5021f8326cbbd8eda10c57f7f7

ワクチンのニュース2つ その2
(感染症診療の原則 2011年3月5日)
http://blog.goo.ne.jp/idconsult/e/3725cf6387473cb942d753e324b994cd

7価肺炎球菌ワクチン「プレベナー」の話 [医療のトピック]
(六号通り診療所所長のブログ 2010月3月6日)
http://rokushin.blog.so-net.ne.jp/2010-03-06

暗黒の週末(新小児科医のつぶやき 2011年3月5日)
http://d.hatena.ne.jp/Yosyan/20110305

参考:毎日新聞3月4日
http://mainichi.jp/select/jiken/news/20110305k0000m040128000c.html

3月5日 9:30リンク追加 12:55追記 16:30リンク追加


2011年03月05日 01:58 投稿

コメントが2つあります

  1. アポネット 小嶋

    厚労省のウェブサイトにはまだ掲載されていませんが、WAMNETには2月28日開催の安全対策調査会で直近の副反応のデータが公表されています。

    平成22年度第9回薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会安全対策調査会、第3回新型インフルエンザ予防接種後副反応検討会 及び第1回子宮頸がん等ワクチン予防接種後副反応検討会(合同開催)(平成23年2月28日開催)

    28日の検討会では、安全性については確か問題なしの結論だったと思います。

    今回の死亡例の原因については、週明けにも検討会議が開催されるようですが、私も、製品自体にはおそらく問題はないのではないかと思います。

    また、同時接種が原因だったかどうかもわかりません。検討会の判断を待ちたいと思います。

    現場の医師などからは、できるだけ早い接種再開を求める声もあります。

    「同時接種後の死亡報告と接種の一時的見合わせについて」に異議あり!
    (世田谷区で開業予定な小児科医のブログ 3月5日)
    http://setagaya-syouni.cocolog-nifty.com/blog/2011/03/post-c309.html

  2. アポネット 小嶋

    元記事にもリンクを張りましたが、5日、Q&Aが出ています。

    ————————————————————-
    小児用肺炎球菌ワクチン及びヒブワクチン接種の一時的見合わせについてのQ&A
    平成23年3月5日
    健康局結核感染症課
    医薬食品局安全対策課

    問1 なぜ、小児用肺炎球菌ワクチンとヒブワクチンの接種を一時的に見合わせたのですか。

    3月2日から4日までの間に、報告医によれば因果関係は評価不能又は不明とされていますが、小児用肺炎球菌ワクチン及びヒブワクチンを含むワクチン同時接種後の死亡例が4例報告されたため、至急調査をしているところです。

    情報を収集し専門家による因果関係の評価を実施するまでの間、念のため接種を一時的に見合わせることとしたものです。

    なお専門家による会議は3月8日に開催させていただく予定です。

    問2 最近、子どもが小児用肺炎球菌ワクチン又はヒブワクチンを接種したのですが、大丈夫でしょうか。どのようなことに気をつければよいでしょうか。

    我が国でも発売以来それぞれ100万人から150万人程度の子供に接種されたと推定されており、特に著しい問題は生じていないことが先日行われた調査会で確認されております。また、今回の報告については、接種当日(3例)または3日後(1例)に生じており、接種数日を経ている方についてはご心配ないものと考えられます。またこれらの亡くなられた子どもさんの状況についての予防接種との関係については、現在至急調査を行っているところです。

    特に接種直後から数日以内に、高熱、ぐったりしているなど、普段と異なる症状が見られる場合には医師に相談してください。

    問3 小児用肺炎球菌ワクチン、ヒブワクチンを同時接種する場合ではなく、いずれか一方を接種することも見合わせているのでしょうか。

    ワクチンとの関連を評価するまでの間は、念のため、単独での接種も見合わせることといたしました。

    問4 DPT(ジフテリア、百日せき、破傷風)3種混合ワクチンの接種は見合わせていないのですか。

    DPTワクチンは従来から定期接種ワクチンとして広く使用されているワクチンであり、これまでの我が国での接種の実績からみて接種を見合わせることとはしていません。

    一方、小児用肺炎球菌ワクチンとヒブワクチンは我が国での発売以降の期間がそれぞれ1年又は2年程度と短く、また、昨年11月から開始した接種事業により接種者数がそれ以前に比べ増加している状況にあるため、評価を行うまで念のため一時見合わせることとしました。

    問5 接種の見合わせはいつまで続きますか。

    因果関係の評価を行う専門家の会議を3月8日に予定しており、少なくともそれまでの間は接種の見合わせをお願いいたします。その後の対応は、検討結果を踏まえて速やかに決めたうえ、改めてご案内いたします。

    問6 来月、次回の接種を予定していますが、接種できますか。

    3月8日に開催する予定の、専門家の会議の結果を速やかに公表する予定ですので、その結果をご参考にしてください。

    こちらのメッセージも参考を
    ☆3月6日リンク追加
    お子様に肺炎球菌ワクチン・ヒブワクチン接種をお考えの親御様へ
    (世田谷区で開業予定な小児科医のブログ 3月5日)
    http://setagaya-syouni.cocolog-nifty.com/blog/2011/03/post-ee8c.html