OTC医薬品の使用環境における問題点と今後の課題(学会シンポ)

 日本アプライド・セラピューティクス学会(http://www.applied-therapeutics.org/)の第1回学術大会のシンポジウム「OTC医薬品の使用環境と問題点 ~安心・安全な使用のために~」で話をさせて頂きました。シンポを終わって感じたことを少しお話ししたいと思います。

第1回日本アプライド・セラピューティクス学会学術大会
 http://www.jsat01.org/

プログラム
  http://www.jsat01.org/program.html

 シンポジウムでは、まず武政文彦氏(東和薬局)がOTC医薬品の使用環境について、「くすりの責任者(プロフェッション)不在により、日本人はOTC医薬品を賢く使えていない」と指摘し、次のような3つの課題を示しています。

  1. 薬の開発から使用後モニタリングまで薬剤師の関与が少ない
  2. 必要な薬が必要なときに適正に供給されていない
    ~改正薬事法施行後に露呈したOTC医薬品へのアクセス問題に有効な対策が見いだせていない
  3. 第一類医薬品に対する認識が変わっていない(特に現場の薬剤師)

  そして武政氏は、上記2ついては、インターネット販売の問題を忌避しないこと(私も、武政氏の意見に同感です。日薬は厚労省が必ず守ってくれると信じているのでしょうが、政府・民主党は着々とネット販売の規制緩和の為の地ならしをしていますよ)、上記3については専門家向けの情報の充実と販売実践ガイダンスの作成など、今後の取り組むべき課題を示しています。

 次に私が、WEBから入手した国内外のOTC医薬品に関する情報を紹介し、「OTC医薬品としての積極的再評価」「UPDATEされた情報の迅速な発信」「現状の把握」「安全な製品の供給の仕組み作り」などの今後の課題について示させて頂きました。

 一方、佐々木圭子氏(昭和大学薬学部)は、OTC総合感冒薬と睡眠改善薬(ジフェンヒドラミン)についての生活者を対象とした調査結果を紹介し、卒後教育を含めたOTC薬の販売に焦点をあてた教育の必要性を強調しました。

 また、西沢元仁氏(日本OTC医薬品協会)は、医療用医薬品のOTCへのスイッチについて、そのメリットと国内外の動きを紹介し、今後スイッチ化される成分は「短期間の使用や急性症状(Short-term use/acute condition)」「自己診断や治療が可能(Self-diagnosis & self managment)」という視点に加え、「生活者の症状やOTC医薬品への認識度」といった視点での検討が必要だとしています。

 実はシンポジウム前にも1時間以上、座長の二人も交えた6人でシンポジウムの打ち合わせでさまざまな意見を交わしたのですが、これがかなり盛り上がりました。詳しい内容はお伝えできませんが、改めてOTC医薬品についてさまざまな問題や課題があることを知った次第です。

 そこで、今回のシンポなどで学んだことを踏まえ、OTC医薬品の安全使用のための今後の課題についてまとめてみました。

  • OTC医薬品へのスイッチ推進のための環境づくり
    ~将来のスイッチをも念頭においた医薬品承認制度や薬価制度の見直し
      (現状だと、薬価制度と適応症追加などでOTCにスイッチするよりも保険薬として
       売り続ける方がメリットあり)
    ~OTC医薬品の販売価格を保険でもらうより安くする
      (湿布薬や風邪薬など、医者でもらう方が安く、インセンティブが働かない。 OTC
       医薬品の販売価格を下げるか、保険償還率を薬の種類(軽度な疾患で使う薬、
       医療用医薬品で処方せん医薬品でないもの)などで変えることも必要)
    ~開局の薬剤師もOTC医薬品の開発者として積極的に関わる
      (AUT(使用実態試験)やPMS(市販後調査)に積極的に参加)
    ~海外のスイッチ化を参考に、生活者のニーズを考慮した医薬品のスイッチ推進
      (ドンペリドン、PPI、抗肥満薬などの生活改善薬、緊急避妊薬)
  • 専門家向け情報の充実
    ~成分ごとのレビュー、OTC版のインタビューフォームの作成
    ~承認や安全性に関する情報の積極的開示、海外情報の発信 
  • 販売に関する情報やツールの充実
    ~ケーススタディを含んだ実践的販売ガイダンスの作成(誰がどのように作成するか
      という課題はあるが)
    ~第一類医薬品の販売メーカーに専門者向 け情報サイトの開設を義務づける
  • 現場の薬剤師のOTC医薬品販売への関心をいかにして高めるか
    ~調剤重視(厳格な保険薬局業務が要求されるので、時間的余裕もありませんが)や
     効率経営(薬剤師不在で第一類は販売中止)を理由とした、OTC薬販売の軽視は、
     「生活者に必要な医薬品の供給」という薬局の役割の放棄
  • 共同医療のモデルづくり
    ~来局者の病態とその重症度・緊急度を見極め(=トリアージ)、受診勧告を心がける
      一方、OTC医薬品の活用のためのサポート(消費者による「適切な選択」と、OTC医
      薬品「適切な使用」への支援)を通じて、プライマリ・ケアの提供者の一員としての役
      割を果たす
    ~医師などその他医療関係者や消費者と共同して、それぞれの持つ資源や能力を活
      かしたケア(=共同医療)のモデルをつくる
  • 生活者向け情報の検討と充実
    ~メリットだけではなく、リスクについても積極的に伝え、くすりとの関わり方を認識し
      てもらう
    ~外箱記載事項や添付文書の見直し、職能団体やメーカー、厚労省による適正使用
      ための一般向けの積極発信
  • 安全性や適正使用に関する情報の積極的収集と検討
     ~有害事象・誤用や濫用に関する情報の積極的収集
      (生活者による副作用直接報告の制度の確立)
     ~リスク区分ルールの見直し
      (年齢、剤形、包装入り数なども考慮する)
     ~配合剤の見直しと単剤の積極使用
      (総合感冒剤による排尿困難、潜在的依存(コデインリン酸塩配合))
  • ネット販売についての議論の先送りはやめる
    ~将来を見据え、ネット販売ガイドラインを検討し、認証制などの導入も視野に入れる
    ~ネット販売の監視機関をつくる

参考:セルフメディケーション・ビッグバン(Clinical Pharmacist 2010 vol.2 No.3)
     (私と武政氏、座長を務めた陳氏が執筆した特集記事です)

資料:
SWITCH. Prescription to Nonprescription Switch(WAMI 2009.11)
  http://www.wsmi.org/pdf/wsmi_switchbrochure.pdf

清水 直容:セルフメディケーションを視野に入れた新一般用医薬品の開発と評価
 〔臨床評価(Clinical Evaluation ) 2000; 27(Suppl XIV): 1-19〕
  http://homepage3.nifty.com/cont/27sup/OTC.html

関連情報:TOPICS
  2010.04.28 第2ステージの医薬分業(日本アプライド・セラピューティクス学会)
  2010.04.08 OTC薬は病院でもらう場合と比べた割高感の払拭も必要(厚労相)
  2010.03.31 医薬品ネット販売規制は適法(東京地裁判決)(コメント)
  2010.01.28 海外でOTC薬はどのように販売されているか
  2009.10.30 医薬品と健康・高校生用(日本学校保健会)
  2009.10.25 生活者からの副作用自発報告システムは日本でも必要(国内研究)
  2009.09.04 ジヒドロコデイン配合OTC風邪薬,事実上使用禁止へ(英国)
  2009.04.29 OTC解熱鎮痛剤に潜在的リスクの明示を求める(米国)
  2008.12.28 第一類の販売には、販売実践ガイダンスの開発が必要
  2008.09.16 OTC販売時の業務指針・チェックリスト(英国)


2010年04月29日 21:35 投稿

コメントが1つあります

  1. アポネット 小嶋

    私を含めた3人のシンポジウム講演の要旨は、日本アプライド・セラピューティクス学会の学会誌 アプライド・セラピューティクス vol.2 No.1 2010 に掲載されています。

    興味ある方は、ご入手下さい。