医薬品ネット販売に関する国内外の情報(Update3)

 今後、医薬品のネット販売についての何らかのルールづくりが行われることになりますが、各国でどのようなものがあるか、資料がないか調べてみました。

 いろいろとググったのですが、英語力の乏しさもあって、ガイドラインや法律などの原文がほとんど見つかりませんでした。わずかに参考になるかもしれないものをピックアップしてみました。(他に見つけましたらUpdateします)

Safety and security on the Internet Challenges and advances in Member States
(WHO 2011)
http://www.who.int/goe/publications/goe_security_web.pdf
(インターネット全般について記述、39ページからの Internet Pharmacy についての調査結果が興味深い)

  • 114か国に調査したところインターネット薬局の規制は66%で対応が決まっておらず(禁止するなどの法律がない)、19%で禁止、7%が許可制になっている。
  • 先進国の約40%で法制化されていて、うち半数を超える国では禁止をしている
    (処方せん薬に限るものかどうかは現在確認中)

 WHOには関連ページがあったんですね。現在最新の調査中のようです

Global Observatory for eHealth(WHO)
http://www.who.int/goe/en/

 最近のものとしては、ウクライナの研究チームのレビューがヒットしました。欧州の様子や旧ソビエト連邦諸国の状況が紹介されていて興味深いです。結構禁止されている国も。

INTERNET-PHARMACIES – ANALYSIS OF THE WORLD EXPERIENCE
(International Journal of Pharmaceutical Sciences Review and Research
Volume 13, Issue 2, March – April 2012; Article-003)
http://globalresearchonline.net/journalcontents/v13-2/003.pdf

 一方、海外の状況については第二審の東京高裁の判決で次のように触れています。

第二審(東京高裁)判決文

事件番号 平成22(行コ)168
事件名 医薬品ネット販売の権利確認等請求控訴事件
裁判所 東京高等裁判所
裁判年月日 平成24年4月26日
(裁判所判例 WATCH 判決情報2012/10/23 13:00 更新)
http://kanz.jp/hanrei/detail/82657/

①英国において,インターネット・ファーマシーとしてライセンスが与えられているのは4薬局であること,P(Pharmacy Medicine)のカタログ販売,インターネット販売も可能であるが,王立薬剤師協会の許可を得なければならず,許可を得るためには電話,電子メール等何らかの方法で薬剤師が介入できるということを証明しなければならないこと,Pのカタログ販売,インターネット販売の場合でも,薬剤師の供給拠点における常駐義務がある旨の,

②ドイツにおいて,2004年1月より電子商取引を利用した医薬品販売が事実上合法化されたこと,インターネットを利用した医薬品販売ができる薬局には,厳しい条件が課せられていること,インターネットを利用した販売を可能とさせる前提であった郵送による医薬品販売も合わせて可能となったこと,郵送による医薬品販売については,監督官庁の許可を得た薬局にだけ,薬局義務医薬品に限って許されると薬局法11条に規定されたとの各記載がある。(甲175の1・10)

サ 平成17年3月に作成された平成16年度厚生労働科学研究費補助金による医薬品・医薬機器等レギュラトリーサイエンス総合研究事業の「薬剤師の質の向上と充実した薬学教育に関する研究」は,各国における一般用医薬品の販売供給状況等に関する調査研究として,次のような記載がある。

①フランスの公衆衛生法典に,情報通信技術(特にインターネット)を介しての医薬品の販売については明記されていないが,幾つかの法律文書からの総合判断としてその種の販売行為は禁止の対象となっていて,2003年12月11日のEU司法裁判所の判決(Doc Morris 事例)の解釈をめぐってフランスでも将来のこの種の販売に対する法的対策(その要点は,インターネットを介して販売できる医薬品は処方箋を要しない非償還医薬品のみであり,そのサイトは,適切な対話形式によってその依頼を有効なものと認められるような注文の可能なものでなければならないなどとされている。)が検討され始めている。
(※紹介していませんでしたが、フランスWEBニュースでは最近非処方せん医薬品のインターネットでの販売について官報で告示されて、話題になっている)

②ドイツでは,2004年に医療保険制度改革が施行され,医薬品の分類に処方箋用医薬品と一般用医薬品(OTC)があり,一般用医薬品のうち Self-Medication(SM)には,薬局のみで販売できる医薬品と薬局以外のところで販売できる自由販売医薬品があって,インターネット販売,カタログ販売は自由販売医薬品については認められているが,薬局のみで販売される医薬品については原則的に禁止されている。

③米国のアラバマ州では,各業態ごとの販売方法として,薬局は店舗販売のほかインターネット販売も可能であり,一般小売店も処方箋薬を取り扱わない以外は薬局と同様であり,インターネット販売が認められている。

④英国では,インターネットを通して医薬品を購入することができるが,そもそも,ほとんどの消費者は,薬剤師との対面購買を望んでおり,インターネットを通した購入様式は,時間が取れないなどの特殊な場合の非常手段として認識されており,普及の程度は低く,イギリス保険省は,最近,新たな規制緩和の一環として,店舗を構えることなくインターネット上のみで営業する薬局も許可する方針を明らかにしている。

⑤豪州では,インターネットを利用したオンライン薬局がすでに存在すること,薬局薬についてはオンライン薬局で自由に購入することができるが,薬剤師薬については薬剤師がその販売に関与することのできないオンラインでは販売することができず,処方箋を郵送するかあるいは電話で薬剤師にアドバイス・指示・相談を受けた後に販売することができる。

 上記で紹介されている厚生労働科学研究は、下記サイトから見ることができます。(下記検索画面で、薬剤師の質の向上または200401183Aというキーワードを入れ、検索をかけて下さい)

 厚生労働科学研究成果データベース検索トップ
   http://mhlw-grants.niph.go.jp/niph/search/NIST00.do

PROMOTION AND SUPPLY OF MEDICINES OVER THE INTERNET
(ニュージーランド PHARMACY COUNCIL STATEMENT 2011.4 Update)
http://www.pharmacycouncil.org.nz/cms_show_download.php?id=210
(仮に日本でネット販売が認められてもこのくらいの指針は必要)

 厚生労働科学研究「諸外国におけるセルフメディケーション・OTC販売に関与する専門家の役割及びトレーニングの状況調査に関する研究」(TOPICS 2012.03.22)によれば、ニュージランドでは上記ステートメントに合致したインターネット薬局認定プログラムを作成しているそうです。(有用なんだけど、原文はWEBで見つからず。下記リンクをを参考にして下さい)

 厚生労働科学研究より→ファイル1ファイル4
(いきなりだと開けませんが、TOPICS 2012.03.22 からたどって検索トップページに1回アクセスすると開けるようになります)

 ファイル4の申請用チェックリストというのがすごい。具体的な販売制限、広告(証言広告を使用しない、必要な製品情報を確認した後でなければ医薬品を購入できない)、医薬品の価格設定(広告で特色をアピールする際、顧客が自分の症状に合わない不要な医薬品を購入したり、不適切な数量を購入したりするように誘導していない)などは日本でも導入すべきですね。

Professional Standards and Guidance for Internet Pharmacy Services
(英国王立薬剤師会 2009.4)
http://www.rpharms.com/archive-documents/coepsgintpharm.pdf

PROFESSIONAL STANDARDS AND GUIDANCE FOR INTERNET PHARMACY SERVICES
(The Pharmaceutical Society of Northern Ireland 2009.6)
http://www.psni.org.uk/documents/316/Standards+on+Internet+Pharmacy.pdf 

医薬品のインターネット販売をめぐる動向
(国立国会図書館 ISSUE BRIEF NUMBER 727(2011.11. 1)
http://www.ndl.go.jp/jp/data/publication/issue/pdf/0727.pdf

 米国では、NABP:National Association of Boards of Pharmacy が、1999 年に「Verified Internet Pharmacy Practice Sites:VIPPS」と呼ばれるインターネット薬局の認証制度を発足、NABPが定めた19 の基準を満たすインターネット薬局に認証を与える仕組みになっている。

VIPPS Criteria
(NABP)
http://www.nabp.net/programs/accreditation/vipps/vipps-criteria/

 しかし、最近のNABPによる1万以上のサイトの調査結果によれば、認証が与えられるなど安心できるサイトははわずか0.7%で、96%のサイトは勧められないとしています。

Global Collaboration Effective in Dismantling Rogue Online Prescription Drug Sellers, Reports NABP
(NABP 2012.10.31)
http://www.nabp.net/news/global-collaboration-effective-in-dismantling-rogue-online-prescription-drug-sellers-reports-nabp
http://www.nabp.net/programs/assets/NABP%20Internet%20Drug%20Outlet%20Report_Oct2012.pdf

(2013.01.26追記)
こういった資料はどんどん出した方がいい
(医薬品のネット販売に関する議員連盟第3回総会資料(2013.01.25)より引用)

 諸外国における一般用医薬品のインターネット販売規制

  • 一般用医薬品の販売の仕組みや種類などが各国間で一律ではないため、一般化することは難しいが、諸外国においては、一般用医薬品の一部について、薬局等の許可を得ている店舗がインターネットを通じて販売することは認められているところ。
  • 一般用医薬品のインターネット販売に当たっては、許可制や届出制が導入されている国がある。具体的な許可等の基準としては、倫理規定を遵守していること(イギリス)や、購入者に対して医薬品のリスクを通知する仕組みがあること(ドイツ)等がある。
  販売業態 インターネット販売が可能な一般用医薬品の種類 具体例 備考
一般小売店 非処方せん医薬品 解熱鎮痛薬、鎮咳薬、かぜ薬、胃腸薬、抗アレルギー薬等 全国薬事評議会連合会(Nalonal Assodalon of Boards of Pharmacy,NABP)が運営するウェブサイト(VIPPS)には、信頼できるオンライン薬局のウェブサイトのリンクが掲載されており、米国食品医薬品庁(FDA)も当該サイトからの医薬品の購入を推奨している。
薬局 薬局販売医薬品 解熱鎮痛薬等 インターネット販売を行うためには、各店舗は、事前に王立薬剤師会(RPSGB)に登録し、発行されたロゴマークを取得する必要がある。
一般小売店 自由販売医薬品 小包装の解熱鎮痛薬、鎮咳薬、胃腸薬、禁煙補助剤等  
薬局 薬局販売医薬品 解熱鎮痛薬、鎮咳薬、かぜ薬、
胃腸薬等
インターネット販売を行うためには、各店舗は、表示に関するドイツ国内の団体が発行するロゴマークを付けることが推奨されている。
薬局・薬店 自由販売医薬品 植物由来医薬品、ビタミン剤  
薬局 特定の一般用医薬品 胃腸薬、解熱鎮痛薬 等 インターネット販売を行うためには、各店舗は、所管の地方保健当局の許可を得る必要がある。

 ※ 英国には一般小売店での販売できるGSLというカテゴリーがある。(包装単位など細かく規定)

  厚労省もそろそろこういったページが必要だと思うけど。

Buying Medicines Over the Internet
(米FDA)
http://www.fda.gov/drugs/resourcesforyou/consumers/
buyingusingmedicinesafely/buyingmedicinesovertheinternet/default.htm

Buying Medicines and Medical Products Online FAQs
(米FDA)
http://www.fda.gov/Drugs/ResourcesForYou/Consumers/
BuyingUsingMedicineSafely/BuyingMedicinesOvertheInternet/ucm202675.htm

 法律的なもの

一般用医薬品リスクの制御と販売規整に関する一考察
(早稲田法学 2010.3)
http://dspace.wul.waseda.ac.jp/dspace/
bitstream/2065/33005/1/WasedaHogaku_85_3_Shimoyama.pdf

Progress in the challenge to regulate online pharmacies
(Journal of Law and Health, 23(2) p113-142, 2010)
http://devel-drupal.law.csuohio.edu/currentstudents/studentorg/jlh/documents/KarbergFinal.pdf

Internet Pharmacies: Global Threat Requires a Global Approach to Regulation
Hertfordshire Law Journal , Vol. 4, No. 1, pp. 12-25, 2006
https://www.herts.ac.uk/fms/documents/schools/law/HLJ_V4I1_George.pdf

詳細なレポートも出ているようです。安ければ買って読んでみたいけど

Mail Order & Internet Pharmacy in Europe
http://www.james-dudley.co.uk/market-reports/mail-order-and-internet-pharmacy-in-europe

関連情報:TOPICS
 2013.01.14 医薬品ネット販売上告審判決に思う
 2012.03.22 海外におけるセルフメディケーション(厚生労働科学研究)

1月20日 15:30、1月21日 0:40更新 1月26日11:30 更新


2013年01月19日 17:25 投稿

コメントが5つあります

  1. アポネット 小嶋

    25日開催の医薬品のネット販売に関する議員連盟第3回総会で、米英独仏のネット販売状況が紹介されています。(こういう資料はどんどん出した方がいい)

    医薬品のネット販売に関する議員連盟第3回総会資料
    (日刊薬業WEB行政資料)
    http://nk.jiho.jp/servlet/nk/release/pdf/1226591201296#page=7

    ヒアリングの様子はこちら

    薬ネット販売の最高裁判決は消費者に不利益- 自民議連ヒアリングで薬害被害者
    (医療介護CBニュース2013.01.25)
    http://www.cabrain.net/news/article/newsId/39084.html
    http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130125-00000002-cbn-soci

  2. いつも興味深く拝見しています。

    市販薬のネット通販については、今後薬事法の改正も予想されるところですが、歪んだ現状を追認するのではなく、将来リフィル処方せんや薬局での生活習慣病管理といった医療資源の理想的な配分を可能とする国民全体の医療文化を醸成する制度設計を望んでいます。現状はあまりに市場経済に委ね過ぎと考えてます。

    言論サイトBLOGOSにて、一連の提言と視聴者による議論が行われていました。私も千早忠如(仮名ですが)名義にて議論では幾つか発言しています。ネット世論の理解の一助になればと思い、ご紹介致します。

    医薬品ネット販売規制(BLOGOS)
    http://blogos.com/news/medicine/?g=economy

    今後とも、貴重な記事の提供を期待しています。

    (すみません。投稿を見やすくしました アポネット小嶋)

  3. アポネット 小嶋

    拝見させて頂きました。「利権」「利権」ってすごいですね。

    それに対してきちんと論じているところはすごいですね。
    私は冷静に反論できない方なので尊敬します。

    良し悪しは別として、売る側の論理で行われてきたり、見て見ぬふりをしてきたこと、

    ・患者の選択に名を借りた専門家を介さないセルフ販売の拡充
    ・いわば薬剤師が確保できないという理由で導入された登録販売者制度
    ・これまで、くすりにはリスクがあるという売り方をしていなかったこと
    (今だって、ドラッグストアの山積みの陳列というのはどれだけ意味があるかと思う)
    ・登録販売者がいないという理由で、まだ営業中なのに医薬品売り場を閉鎖するHCなど
    ・薬剤師がいないという理由で、第一類が買えないという苦情
    ・一般用医薬品を取り扱わない調剤に傾注する薬局
    ・どう考えても必要性を感じない総合感冒薬の大包装
    ・配置販売業の存在
    ・痛○湯を特例販売業という裏ワザで通信販売の継続を可能にしたこと

    などなど、こういったことが、ネット販売の必要性に支持を集めているのです。

    今回のネット販売の問題の本質は、本当に生活者に必要な薬を必要なときに専門家を介して供給されているのかという問題につきあたります。

    ネット販売の厳しい条件をつけるのであれば、私はリアル店舗での専門家の常駐も義務付けるべきだと思いますね。

    登録販売者をいっぱい作ったのですから。

    それと今の陳列の方法も。空き箱の山積みで生活者に訴求というのもやっぱりおかしいと思う。

    みんなが飲むから総合感冒薬の大包装を買い置きってのも変だと思う。

  4. アポネット 小嶋

    4月19日の記事と重複になりますが、第6回一般用医薬品のインターネット販売等の新たなルールに関する検討会で、海外における医薬品のインターネット販売の実情について記した資料が出ています。

    諸外国における一般用医薬品のインターネット販売規制について(資料6)
    (第6回一般用医薬品のインターネット販売等の新たなルールに関する検討会)
    http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r985200000303tz-att/2r985200000303y3.pdf

    英・独・仏・米・伊・ポルトガル・豪州・ニュージーランドなどの状況が紹介されていて、元記事に関連リンクとなるものもありますのです、ご参考下さい。

    なお、今後厚生労働科学研究「諸外国における一般用医薬品の供給と規制に関する状況」としてまとめられるようです。

  5. アポネット 小嶋

    ググっていたら、各国のInternet Pharmacy の監視や各国の規制や関連事件などを紹介したサイトを見つけました。

    LegitScript
    http://www.legitscript.com/

    各国の規制状況など、最近の話題は下記ブログで紹介されています。(日本への注意喚起もあり)

    LegitScript blog
    http://blog.legitscript.com/