医薬品へのアクセスの拡大のためのTPP貿易目標

 前記事で、TPP参加で日本に医薬品の規制改革が求められるとした報道を紹介しましたが、WEBでは詳しく報じているところが今のところ少ないので、前記事と重複しますが、改めて詳しく記事にしました。

TPP交渉、米が医薬品販売で貿易目標 民主PTで説明
(朝日新聞 2011.11.02)
http://www.asahi.com/politics/update/1102/TKY201111020722.html

米国、TPPで医薬品改革を要求 販路拡大狙う
(47NEWS 2011.11.08 共同通信配信)
http://www.47news.jp/CN/201111/CN2011110801000909.html

 上記記事で、民主党に外務省が提示されたとする文書は、9 月12日に米通商代表部(USTR)が公表し、外務省が仮訳した下記文書だと思われます。

Trade Enhancing Access to Medicines
(USTR Press Release 2011.09.12)
http://www.ustr.gov/about-us/press-office/
press-releases/2011/september/trade-enhancing-access-medicines

文書本文(→Google 翻訳
TRANS-PACIFIC PARTNERSHIP TRADE GOALS TO ENHANCE ACCESS TO MEDICINES
http://www.ustr.gov/webfm_send/3059

「医薬品へのアクセスの拡大のためのTPP 貿易目標」
(本年9 月12 日米通商代表部(USTR)公表)
(公表文書中の個別項目(仮訳))
(外務省 平成23年11月)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/tpp/pdfs/tpp02_01.pdf

貿易目標は全部で9項目あり、外務省仮訳を抜粋します。

Expedite access to innovative and generic medicines through a “TPP access window”

革新的医薬品・ジェネリック医薬品へのアクセスの、「TPP アクセス・ウィンドウ」を通じた迅速化

医薬品限定の知的財産の保護の申請に際して、合意される期間内に発明者がTPP 域内市場に医薬品を供給することを条件付けることにより、TPP 域内市場への生命を救い延ばす医薬品の供給を促進すると同時に、同市場にジェネリック医薬品が可能な限り早期に参入する途をひらく。
Enhance legal certainty for manufacturers of generic medicines

ジェネリック医薬品の製造業者にとっての法的予見性の強化

発明者の知的財産の保護とのバランスを維持しつつ、特許の例外とジェネリック医薬品に対するインセンティヴを通じて、TPP 全域においてジェネリック医薬品製造業者にとっての法的予見性を強化する。
Eliminate tariffs on medicines

医薬品に対する関税撤廃

医薬品及び医療機器にかかる関税を即時撤廃することにより、特に病院、診療所、援助機関及び消費者にとってのコストを低減する。例えばアモキシシリン、ペニシリン及び抗マラリア薬にかかる現行関税の撤廃も、これには含まれる。
Reduce customs obstacles to medicines

税関における障壁の低減

差別的、高負担また予見可能性のない税関手続きといった、革新的医薬品及びジェネリック医薬品へのアクセスを妨げる輸入障壁を最少化する。
Curb trade in counterfeit medicines

模倣医薬品の貿易阻止

不正商標を付した医薬品のTPP 各国の市場への流入を防止するため、税関及び刑事上の執行措置を利用可能とし、それにより、かかる偽医薬品が患者にもたらす重大な危険を手当てするためのTPP 諸国の取り組みを支援する。
Reduce internal barriers to distribution of medicines

各国内における医薬品の流通障壁の低減

医薬品に関する輸入、輸出及び流通の権利を保証し、必要とする者への医薬品の効率的流通の妨げとなり得る国内障壁を最少化する。
Promote transparency and procedural fairness

透明性と手続きの公平性の強化

ジェネリック医薬品及び革新的医薬品双方がTPP 各国の市場に参入する最も公正な機会を確保するため、政府の健康保険払戻制度の運用において透明性と手続きの公平性の基本規範が尊重されることを求める。
Minimize unnecessary regulatory barriers

不要な規制障壁の最小化

TPP 域内での規制の今後の一貫性を促進しつつ、安全で有効な医薬品の公衆にとっての利用可能性を高めるため、透明で無差別な規制構造を促進する。
Reaffirm TPP Parties’ commitment to the Doha Declaration on TRIPS and Public Health

TRIPS 及び公衆衛生に関するドーハ宣言の再確認

TRIPS 及び公衆衛生に関するドーハ宣言に基づく公衆衛生措置の利用可
能性に関する重要な理解を織り込む。

  外務省仮訳では訳されていませんが、本文後半では

  • 品質が保証された安全で効果のある薬が世界中でアクセスできないさまざまな要因がある
  • 関税の問題、差別的で分かりにくい医薬品の規制制度、不必要で負担となる税関要件、革新的医薬品やジェネリック医薬品の供給を妨げる貿易障壁がある
  • 効果的で透明性があり、予測が可能な知的所有権のシステムは革新的な医薬品メーカーやジェネリック医薬品メーカーのために必要である

などの記述があり、日本における医薬品承認制度や特許の問題、薬価制度についても今後交渉の対象となる可能性は否定できません。

 交渉参加国とこれらの要求について「目標を達成するために協力する」としているものの、米国製薬大手の利益を反映する内容であるとの共同通信が配信した記事(宅配版)の指摘は正しいと思います。

 また、宅配版記事では、下記 TOPICS で取り上げた米韓のFTA(自由貿易協定)についても触れており、韓国で薬価の決め方に米製薬大手は不服がある場合、見直しを申請できる独立機関が設置されることを紹介し、TPP交渉参加国にも同様の規定を要求する恐れがあると指摘し、TPPの交渉次第では、日本の薬価算定方法に何らかの影響が及ぶことが予想されます。

 おそらく私も、世界でも模範とされている日本の(保険)医療制度については現時点では交渉の対象となることは少ないと考えていますが、その見返りといっては変ですが、医薬品のさまざまな規制について、今後交渉の対象となることは否定できないでしょう。(医薬品をとりまく環境は各国大きく異なり、一致して協力は難しいのでは。日本の製薬会社はどう考えているのでしょう。)

関連情報:TOPIS
  2011.11.09 TPP参加による医療・くすり・厚生行政への影響
  2011.11.08 たばこ包装への警告写真義務化に待った(米国)

参考:
下野新聞11月9日宅配版(おそらく共同通信配信記事)
日経ビジネスオンライン 11月9日(ログインなしで全文見られるのは今日だけ)
 http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20111107/223666/


2011年11月09日 10:47 投稿

コメントが1つあります

  1. アポネット 小嶋

    10月27日の参議院予算委員会で、日本共産党の田村智子議員がこの問題を取り上げています。

    動画(参議院インターネット審議中継)→リンク 議事録→リンク