病院薬局業務のあるべき姿(FIP)

 今年の8月29日〜9月4日、スイスのバーゼルでFIP(世界薬剤師・薬学連合)第68回年会が、120カ国3000名以上が参加して開催されていますが、30日〜31日に行われた病院薬局のセクションでは病院薬剤師のあるべき姿が話し合われています。

Global Conference on the Future of Hospital Pharmacy 30-31 August 2008 in Basel, Switzerland(FIPウェブサイト)
  http://www.fip.org/www/index.php?id=277

FIP Global Hospital 2008
  http://www.fip.org/CONGRESS/globalhosp2008/?id=702

 このセクションには、98カ国から348人が参加し、世界各国で行われた調査(WHO加盟192カ国中85カ国から回答。全世界の人口の83%を網羅)を基にまとめられた、今後の病院薬局業務について、75のコンセンサス(原案では74)がステートメントとしてまとめられています。

Global Survey on Hospital Pharmacy Practice
  http://www.fip.org/CONGRESS/globalhosp2008/?id=696

Consensus Statements
  http://www.fip.org/CONGRESS/globalhosp2008/?id=767

 75のステートメントは、病院薬局業務全体にかかわる下記15項目(原案では13項目で、★印が最終ステートメントで追加された項目)の他、テーマごとにまとめられた60項目(薬品購入に関するもの9項目、処方への影響にに関するもの8項目、医薬品の調整と搬送に関するもの9項目、薬剤投与に関するもの16項目、薬物療法のモニタリングに関するもの8項目、人的資源とトレーニングに関するもの10項目)で構成されています。(独自訳です。誤訳があると思いますので、原文を参考にして下さい。日病薬も日本語訳をまとめています→リンク

1 The overarching goal of hospital pharmacists is to optimize patient outcomes through the judicious, safe, efficacious,appropriate, and cost effective use of medicines. 病院薬剤師の全体にかかわるゴールは、妥当かつ、安全かつ、有効かつ、適正かつ、費用効果が高い医薬品使用を通じて患者のアウトカムを最適化することである。
2 At a global level, ‘Good Hospital Pharmacy Practice’ guidelines based on evidence should be developed.
These guidelines should assist national efforts to define standards across the levels, coverage, and scope of hospital pharmacy services and should include corresponding human resource and training requirements.
世界標準で、‘Good Hospital Pharmacy ’指針は、エビデンスに基づいて展開されるべきである。
これらの指針はレベル、適用範囲、病院薬局サービスの範囲の基準を明確化にする全国の取り組みの助けとなるだろう。そして、人的資源とトレーニング要件の対応を含まれるべきである。
3 The five rights (the right patient, right medicine, right dose, right route, and right time) should be fulfilled in all medicines-related activities in the hospital. 5つの適切さ(適切な患者、適切な医薬品、適切な用量、適切な投与方法、適当な投与時間)が、病院におけるすべての医薬品関連の活動において実行されるべきである。
4 Health authorities and hospital administrators should engage hospital pharmacists in all steps in the hospital medicines-use process. 保健衛生当局と病院管理者は、病院における医薬品使用プロセスの全ての段階において、病院薬剤師を携わらせるべきである。
5 Health authorities should ensure that each hospital pharmacy is supervised by pharmacists who have completed specialized training in hospital pharmacy. 保健衛生当局は、いずれの病院薬局も病院薬局で専門トレーニングを完了した薬剤師によって監督されていることを確認すべきである。
6 The Chief Pharmacist/Director of Pharmacy should be the senior professional responsible for co-ordinating the judicious, safe, efficacious, appropriate, and cost effective use of medicines in the hospital. 薬局の薬局長、もしくは責任者は、病院における医薬品の妥当性、安全性、有効性、適正、費用効果の調整に責任をもつ上級の専門家をあてるべきである。
7 Hospital pharmacists’ authority over the medicine-use process should include authority over the selection and use of medicinerelated devices such as administration devices, giving sets, infusion pumps and computer-controlled dispensing cabinets.★ 医薬品使用に関わる病院薬剤師の統括者は、投与機器、投与器具、インフュージョンポンプコンピューターで制御された調剤機器などの医療関連器具の選択・使用も監督すべきである。
8 Hospital pharmacists should take responsibility for all medicines logistics in hospitals. 病院薬剤師は、病院における全ての医薬品ロジスティックスについての責任を担うべきである。
9 Hospital pharmacists should serve as a resource regarding all aspects of medicines use and be accessible as a point of contact for health care providers. 病院薬剤師は、医薬品使用のすべての状況における医療資源として、また医療従事者のつなぎ役として役目を果たすべきである。
10 All prescriptions should be reviewed, interpreted, and validated by a hospital pharmacist prior to the medicine being dispensed and administered. すべての処方は、調剤または投与される前に、病院薬剤師によって内容の検討、判断、検証が行われるべきである。
11 Hospital pharmacists should be allowed to access the full patient record. 病院薬剤師は、全ての患者記録へのアクセスするのを許可されるべきである。
12 Hospital pharmacists should ensure that patients are educated on the appropriate use of their medicines.★ 病院薬剤師は、患者が医薬品の適切な使用法について教育を受けているかどうか確認すべきである
13 Hospital pharmacists should provide orientation and education to nurses, physicians, and other hospital staff regarding best practices for medicines use. 病院薬剤師は、医薬品使用における向けの最も適切な業務について、看護師、医師その他病院スタッフに対して、方針や訓練を提供すべきである。
14 Undergraduate pharmacy curricula should include hospital-relevant content, and post-graduate training programs and specializations in hospital pharmacy should be developed. 学部教育のカリキュラムには、病院関連の内容が含まれるべきである。そして、卒後トレーニングプログラムや病院薬局の専門化が発展させられるべきである。
15 Hospital pharmacists should actively engage in research into new methods and systems to improve the use of medicines. 病院薬剤師は、医薬品使用を改善するための新しい方法やシステムの研究に、意欲的に関与すべきである。

参考:Conferees Adopt Global Vision of Hospital Pharmacy
       (Health-system Phamacy News 2008.10.14)

 当日の講演のビデオやスライドは、Presentationsのページからみることができる他、詳細なレポート等がAmerican Journal of Health-System Pharmacy 誌の2009年3月1日号の別刷として掲載(オープンアクセス)されています。

FIP Global Hospital 2008-Presentations
  http://www.fip.org/CONGRESS/globalhosp2008/?id=772
(“Applying the consensus statements of the Global Conference on the Future of Hospital Pharmacy”の項目の中の ClicK here をクリックするとビデオタイトルが出てきます)

Proceedings of the Global Conference on the Future of Hospital Pharmacy
Am J Health-syst Pharm. 2009;66 Supplement)
  http://www.ajhp.org/content/vol66/5_Supplement_3/

また、各項目ごとへの評決結果を含む、最終的なステートメントもFIPのサイトにアップされています。

FIP Global Conference on the Future of Hospital Pharmacy Final Basel Statements(2008.12.4) 

 日本でも、昨年8月にまとめられた『病院における薬剤師の業務及び人員配置に関する検討会報告書』で、「病院薬剤師のあるべき業務と役割」がまとめられていますが、このセクションでまとめられたものと比較することで、さらにどのような取り組みが日本でも必要か、また取り組みあたって必要なことは何かがわかるのではないかと思います。

関連情報:TOPICS
     2007.08.01 病院における薬剤師の業務及び人員配置に関する検討会報告書

2009年3月14日 15:20更新 6月18日 22:30更新


2008年10月25日 00:04 投稿

コメントが2つあります

  1. アポネット 小嶋

    Am J Health-syst Pharm 誌にレポートが掲載されたので、リンクを張りました。(オープンアクセス)

     レポートはビデオに準じていますが、講義録ではないようです。

     下記の記事が目を引きました。

    Global survey of hospital pharmacy practice
    Am J Health Syst Pharm 2009 66: 13-19.)
     http://www.ajhp.org/cgi/content/full/66/5_Supplement_3/s13
    (世界各国の病院薬局の業務の状況調査の結果をまとめたものです。日本を含む85の国と地域から回答)

    Current status of pharmacist influences on prescribing of medicines Lisa Nissen
    Am J Health Syst Pharm 2009 66: 29-34.)
      http://www.ajhp.org/cgi/content/full/66/5_Supplement_3/s13
    (後半の方で、英国の薬剤師による独立処方などについても触れられています)

    Current status of administration of medicines Rita Shane
    Am J Health Syst Pharm 2009 66: 42-48.)
      http://www.ajhp.org/cgi/content/full/66/5_Supplement_3/s42
    (薬物投与時の過誤を防ぐための各国の取り組みが紹介されています)

    Opportunities for global collaboration Wen-Shyong Liou
    Am J Health Syst Pharm 2009 66: 71-74.)
     http://www.ajhp.org/cgi/content/full/66/5_Supplement_3/s71
    (台湾の薬科大学の准教授がまとめたもので、アジアの多くの国では欧州のように医薬分業がすすんでいないとして、病院薬局の業務のあり方を考えるに当たっては文化の違いなどを考慮すべきと訴えると共に、アジアでは処方薬とハーブ・伝統薬などと一緒に服用するケースがあり、アジアの薬剤師はこれらとの相互作用を管理しなければならないとしています)

    開局の領域でも、こういったビデオやレポートにフリーアクセスできれば、FIPに参加した気分になれるのですが

  2. アポネット 小嶋

    日病薬の国際交流委員会が75のステートメントの全てについて翻訳を行い、日病薬ウェブサイトに掲載しています。

    FIP(国際薬学会議)病院薬剤師声明について
     (社団法人 日本病院薬剤師会 国際交流委員会 2009年6月16日)
     http://www.jshp.or.jp/cont/090616.html

    確認したら、かなり誤訳がありました。すみませんでした。さすがに、病院薬剤師の方が訳すとよくわかりますね。私との翻訳と大分違います。

    原文(→リンク)を見ながらこの日本語訳と比較するとよいでしょう。

    最終ステーメントでは全体にかかわる項目が増えていました(気づきませんでした)。元記事も更新しました。