厚労省では2024年8月26日、国際保健の取組を強力に進めていくためのドライビングフォースとなる、、厚生労働省としての国際保健への取組方針及び具体策としてまとめた「厚生労働省国際保健ビジョン」を公表しています。
「厚生労働省国際保健ビジョン」の公表について
(厚労省 2024.08.26)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_42939.html
ビジョンを読んで気になったのは、
厚生労働省では、保健医療に関し、1961 年の導入から発展してきた「日本版ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(Universal Health Coverage:UHC)」とも言える国民皆保険制度をはじめ、医療へのアクセスの確保、結核等の感染症対策、「健康日本21」による健康増進運動、介護保険・認知症対策などの高齢者対策、これらを踏まえた医療・福祉連携の「地域包括ケア」など、世界で最も高水準の健康長寿社会を、公平性を担保しつつ、比較的低い費用で達成維持するための知見や試行錯誤の経験が存在する。
そして、
低中所得国(LMICs)における UHC 達成のための知見収集や人材育成を行う世界的な拠点、「UHC ナレッジハブ」を日本に設置する。
という部分でした。
JICAのサイトをみると、UHCとは「すべての人が、適切な健康増進、予防、治療、機能回復に関するサービスを、支払い可能な費用で受けられる」ことを意味し、すべての人が経済的な困難を伴うことなく保健医療サービスを享受することを目指しているとしています。
ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)
(JICA)
https://www.jica.go.jp/about/policy/sdgs/UHC.html
この定義を見て果たして、日本において、地方部・へき地居住者、女性など社会的に弱い立場にある層への保健医療サービスがしっかりしたものになってるのか疑問に思いました。
とりわけ日本においては緊急避妊薬の市販化を先延ばしにされていて、「すべての人々が基礎的な保健医療サービスを、必要なときに、負担可能な費用で享受できる状態」というUHCの視点が日本は十分とは言えず、果たして「低中所得国のUHC達成に向けた支援を行う拠点」と名乗れるのかと思いました。
今年2月にアップされたWHO紀要でも、今後はパンデミックへの対応だけでなく、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の達成と維持のためにセルフケア介入が必要だとしての緊急避妊薬のあり方を問いかけています。
Self-care interventions and universal health coverage
(Bull World Health Organ. 2024 Feb 1; 102(2): 140–142.)
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10835638/
世界の多くの国で女性は処方箋なしで、薬局やドラッグストアで、over-the-counter か behind-the-counter で緊急避妊薬で購入している。
薬局やその他の民間セクターを通じた入手は、患者の自己負担となっている。
緊急避妊薬の使用は、しばしばモーニングアフターピルと呼ばれ、モラルの欠如や無責任な女性の性的嗜好を示すものとして、スティグマ(烙印)を押されることもある。
さらに、医療従事者の中には、処方箋のみでの使用を好み、事前提供に反対する者もいれば、処方を拒否する者もいる。
無防備な性交後に使用できる唯一の方法である緊急避妊は、性交前の避妊法が使用されなかった、または間違って使用された、バリア法が失敗した場合、性的暴行を受けた場合などの状況での避妊方法の組み合わせの重要な構成要素であり、したがって、それを必要とするすべての人に利用可能にする必要がある。
日本でも、NPO法人ピルコン理事長の染谷明日香氏が、UHCという視点で緊急避妊薬がなぜ市販化されないのかと問いています。
誰もが当事者になり得る「避妊の失敗」 緊急避妊薬、薬局販売の未来に必要なこと
(YaHOO!ニュース 2020.12.16)(もう4年以上前なのか)
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/219cbd32bb3a1cfd2d1134980e4268edebe59f8c
FIPでも、2022年にセビリアで開催されたFIPにおいて、薬剤師はプライマリヘルスケア(PHC)に関わり、”ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ “を実現するためには、薬局を通じた必須医療サービスの提供・利用の拡大がさらに加速されなければならないとしたプレスリリースを発表しています。
Growth in provision of essential health services by pharmacy must accelerate further, says FIP president
(FIP 2022.09.18)
https://www.fip.org/press-releases?press=item&press-item=138
今やUHCやPHCは、世界の地域薬局が目指す課題となっています。
セルフケアの支援や緊急避妊薬の供給について問われている日本においては、こういった視点でしっかり考えなければいけないと考えます。
しかし日本においては、ちょうど、「厚生労働省国際保健ビジョン」と同時期に公表された、「近未来健康活躍社会戦略」においても、「UHCナレッジハブ」を取り上げる一方で、「健康活躍社会」といいながら、生活者のセルフケアの支援といった文言が入っていませんでした。
女性・高齢者・外国人の活躍促進というけど、こういった人たちを守る制度がしっかりあるの?
多くの国で行われている薬剤師によるワクチン接種を認めず、感染症の分野において世界をリードする体制なの?
緊急避妊薬の市販化を先延ばしにしているのに、日本は本当にUHCを推進してきたといえるの? pic.twitter.com/Z6z71hvuBE
— 小嶋 慎二@community pharmacist (@kojima_aponet) August 30, 2024
国は今の日本の国民皆保険制度や医師中心の保健医療のありようを見直す気は一切ないのかもしれません。
改めて、緊急避妊薬の市販化ができない、ワクチン接種を医師以外の職種に認めない日本に「UHCナレッジハブ」を名乗る資格が果たしてあるのかと思っています。
そして、今問われている日本の医療提供体制のなかで、UHCやPHCの実現のために地域薬局・薬剤師は何をすべきかということを考える必要があるのではないでしょうか。
2025年05月05日 20:18 投稿