バルサルタンの効果に関する論文3本が異例の撤回

 この分野はあまり得意ではないのですが、日刊薬業の記事が気になり調べてみました。

ノバルティス  ディオバン有力エビデンスを使用中止
(日刊薬業WEBフリーサイト 2013.02.06)
http://nk.jiho.jp/servlet/nk/kigyo/article/1226571916071.html?pageKind=outline

 最初の記事はどうも毎日だったようです。(スクープ?)

バルサルタン:京都府立医大の効果に関する論文3本撤回
(毎日新聞 2013.02.06)
http://mainichi.jp/select/news/20130206k0000m040120000c.html

 毎日新聞が示した論文というのは次の3つです。(引用するなにはなっているが、オンラインジャーナルから削除されるわけではないらしい?)

Effects of valsartan on morbidity and mortality in uncontrolled hypertensive patients with high cardiovascular risks: KYOTO HEART Study.
Eur Heart J. 2009 Oct;30(20):2461-9)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19723695
http://eurheartj.oxfordjournals.org/content/30/20/2461.long

(撤回公告)
Retraction of: Effects of valsartan on morbidity and mortality in uncontrolled hypertensive patients with high cardiovascular risks: KYOTO HEART Study
Eur Heart J. 2013 Feb 4. [Epub ahead of print])
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23376450
http://eurheartj.oxfordjournals.org/content/early/2013/02/04/eurheartj.eht030.full.pdf

Enhanced cardiovascular protective effects of valsartan in high-risk hypertensive patients with left ventricular hypertrophy–sub-analysis of the KYOTO HEART study.
Circ J. 2011;75(4):806-14. Epub 2011 Mar 19.)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21436597
https://www.jstage.jst.go.jp/article/circj/75/4/75_CJ-11-0059/_pdf

Effects of Valsartan on Cardiovascular Morbidity and Mortality in High-Risk Hypertensive Patients With New-Onset Diabetes Mellitus.
Circ J. 2012 Sep 12. [Epub ahead of print])
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22987054
https://www.jstage.jst.go.jp/article/circj/advpub/0/advpub_CJ-12-0387/_pdf

(撤回公告)
Urgent Announcement From the Editor-in-Chief  Concerning Article Retractions
Circ J. 2012 Dec 28.)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/circj/advpub/0/advpub_CJ-66-0058/_pdf

 この研究は4週間以上、ARB以外の降圧治療または食事療法を行ったにもかかわらず血圧管理が不十分で、狭心症などのリスクファクターを有する高血圧患者約3000人を対象に行われた研究で、PROBE法(前向き・無作為化・オープン・エンドポイント非開示)という手法が用いられたそうです。(→日経メディカルオンライン記事(キャッシュ)・削除することはないと思うんだけど。見れるのはせいぜい1か月くらい)

(23:20追記、ツイートありがとうございます)
EBMについて(4) PROBE法という試験デザイン
地域医療の見え方 2012.10.11)
http://syuichiao.blogspot.jp/2012/10/ebmprobe.html

 毎日新聞記事にあるように、この研究に対してはこれまでも専門家からなどから不自然さが指摘されていました。

日本の高血圧関連の臨床試験に“統計学上の懸念”
(MT Pro 2012.04.16)
http://mtpro.medical-tribune.co.jp/mtpronews/1204/1204042.html

Concerns about the Jikei Heart Study
(Lancet Published 2012 Apr 14)
http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(12)60599-6/fulltext

 今回の撤回を受けて、研究者は「論文における結論になんら影響を及ぼすものではない」などとしたコメントを発表しています。

「Kyoto Heart Study 主論文及びサブ解析論文」の論文撤回について
(京都府立医科大学 2012.02.05)
http://www.f.kpu-m.ac.jp/k/med2/what/130205.pdf

ディオバン論文撤回問題  統括責任者「不注意による間違い」「結論に影響ない」
(日刊薬業WEBフリーサイト 2013.02.06)
http://nk.jiho.jp/servlet/nk/rinsho/article/1226571927707.html?pageKind=outline

 一方、バルサルタン(ヂィオバン)を販売するノバルティスファーマ社では、プロモーションでこのSTUDY を利用していたそうですが、この撤回で今後は利用しないとしています。

 毎日新聞記事にあるように、「一連の論文撤回で日本の臨床試験の信頼性が失われた」ことは確かで、また何らかの利益相反があったのではないかと思われても仕方ないでしょう。

関連記事:
Prominent Japanese Cardiologist Accused of Scientific Misconduc
(CardioBrief 2012.03.13)
http://cardiobrief.org/2012/03/13/prominent-japanese-cardiologist-accused-of-scientific-misconduct/

Two Retractions For Embattled Chief Investigator Of Kyoto Heart Study
(Forbes 2013.01.08)
http://www.forbes.com/sites/larryhusten/2013/01/08/two-retractions-for-embattled-chief-investigator-of-kyoto-heart-study/

Important Study Of High Blood Pressure Medicine Retracted
(Forbes 2013.02.02)
http://www.forbes.com/sites/larryhusten/2013/02/02/european-heart-journal-retracts-main-paper-of-the-kyoto-heart-study/

関連ブログ:
日本人に対する ARB の効果:KYOTO HEART Study
(ROCKY NOTE)
http://rockymuku.sakura.ne.jp/zyunnkannkinaika/KYOTO%20HEART%20Study.pdf

疑惑の論文(一般の方は読んじゃだめ!?) [噂のヘルス情報]
(raison d’être 2012.06.08)
http://wangoro.blog.so-net.ne.jp/2012-06-07

京都府立医大松原グループの2論文がデータ解析の誤りを理由に撤回!
(世界変動展望 2013.01.11 2013.02.05 追記)
http://blog.goo.ne.jp/lemon-stoism/e/cc20c6ce5ac9ba7bc959bc77bd40701a

 

2月6日23:20、2月7日10:15 リンク追加


2013年02月06日 22:26 投稿

コメントが10つあります

  1. この京都府立医科大学のグループからの論文には、顕微鏡画像の不正な複製や、ウェスタンブロっティング画像の不正な複製が疑われています。

  2. アポネット 小嶋

    関連記事です。

    EHJ誌がKYOTO HEART STUDYのメインの論文を掲載撤回
    (海外医薬ニュース2013年2月10日号)
    http://medicineblog.blog32.fc2.com/blog-entry-171.html

  3. アポネット 小嶋

    この問題を追っている毎日新聞が28日、記事を掲載しています。

    クローズアップ2013:
    降圧剤 京都府立医大の論文撤回騒動 製薬社員も名連ね~1億円の寄付金/製品のPRに利用
    (毎日新聞 2013.03.28)
    http://mainichi.jp/opinion/news/20130328ddm003040148000c.html
     

  4. アポネット 小嶋

    毎日新聞の続報です。

    京都府立医大:降圧剤の全論文を撤回…松原元教授チーム
    (毎日新聞 2013.04.20)
    http://mainichi.jp/select/news/20130420k0000e040209000c.html

    3つのうち2つまではPubmed でひっかかったのですが、もう一つは不明です。

    WITHDRAWN: Cardio-cerebrovascular protective effects of valsartan in high-risk hypertensive patients with overweight/obesity: A post-hoc analysis of the KYOTO HEART Study.
    (Int J Cardiol. 2012 Jul 12.)
    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22795716

    WITHDRAWN: Enhanced cardio-renal protective effects of valsartan in high-risk hypertensive patients with chronic kidney disease: A sub-analysis of KYOTO HEART Study.
    (Int J Cardiol. 2012 Feb 13)
    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22336256

  5. アポネット 小嶋

    メーカーも調査に乗り出したそうです。

    論文撤回問題、製薬会社が専門家調査 ノバルティス
    (朝日新聞アピタル 2013.04.25)
    http://apital.asahi.com/article/news/2013042500004.html

    降圧剤臨床:スイスの製薬本社、京都の試験で調査開始
    (毎日新聞 2013.04.25)
    http://mainichi.jp/select/news/20130425k0000m040080000c.html

    また、波紋は他の研究にも広がっています。

    降圧剤臨床試験:慈恵医大も調査へ 京都府医大論文問題で
    (毎日新聞 2013.04.24)
    http://mainichi.jp/select/news/20130424k0000m040151000c.html

    Valsartan in a Japanese population with hypertension and other cardiovascular disease (Jikei Heart Study): a randomised, open-label, blinded endpoint morbidity-mortality study.
    (Lancet. 2007 Apr 28;369(9571):1431-9.)
    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17467513

    Concerns about the Jikei Heart Study.
    (Lancet. 2012 Apr 14;379(9824):e48)
    http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736%2812%2960599-6/fulltext

    JIKEI HEART研究(問題点などが指摘)
    (臨床薬理Vol. 39 (2008) No. 5 P 157-161 )
    https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscpt/39/5/39_5_157/_article/-char/ja/
    https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscpt/39/5/39_5_157/_pdf

    臨床試験のエンドポイントを読む――「心血管イベント」はみな同じ?
    (医学書院・週刊医学界新聞 2009.12.07 論文解釈のピットフォール)
    http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA02858_08

    客観性の低いエンドポイントで治療効果を過大評価する危険性
    (医学書院・週刊医学界新聞 2010.03.08 論文解釈のピットフォール)
    http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA02870_10

    非盲検試験で信頼性の高い結果を得るには
    (医学書院・週刊医学界新聞 2010.05.10 論文解釈のピットフォール)
    http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA02878_10

    プラセボ比較試験と上乗せ試験の落とし穴 その2
    (医学書院・週刊医学界新聞 2010.07.05 論文解釈のピットフォール)
    http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA02886_10

    日本人に対する ARB の効果:KYOTO HEART Study
    (ROCKY NOTE 2009.08.31)
    http://rockymuku.sakura.ne.jp/zyunnkannkinaika/JIKEI%20HEART%20STUDY%20to%20PROBEhou.pdf

    JIKEI HEART STUDY と PROBE 法
    (ROCKY NOTE 2009.09.23 ?)
    http://rockymuku.sakura.ne.jp/zyunnkannkinaika/JIKEI%20HEART%20STUDY%20to%20PROBEhou.pdf

  6. アポネット 小嶋

    (おそらく)28日、ノバルティス社はWEBでコメントを発表しています。

    バルサルタンの医師主導臨床研究について
    http://www.novartis.co.jp/valsartan/

    報道では、KYOTO HEARTとJikei Heartの臨床研究に関連して、ノバルティスの社員が試験に関わった可能性があることや、その社員がノバルティスの社員であることを開示していなかったことなどが指摘されています。

    ノバルティスでは、このような指摘を非常に深刻に受けとめて、検証を行うために、第三者である外部専門家による包括的な調査を開始しました。

  7. アポネット 小嶋

    関連記事です。

    降圧剤論文:他の試験にも社員関与 滋賀医大など3大学
    (毎日新聞 2013.05.02)
    http://mainichi.jp/select/news/20130502k0000m040143000c.html

  8. アポネット 小嶋

    またまた関連記事です。

    降圧剤論文:販売元の社員名外す…京都医大元教授指示か
    (毎日新聞 2013.05.14)
    http://mainichi.jp/select/news/20130514k0000m040112000c.html

  9. アポネット 小嶋

    23日の各紙が報じていますが、ノバルティスファーマ社は22日、以前発表したKYOTO HEART studyにおける同社社員の関与についての見解が事実と相違したものであることが判明したとの発表を行っています。

    バルサルタンの医師主導臨床研究について
    (ノバルティスファーマ株式会社 2013.05.22)
    http://www.novartis.co.jp/valsartan/

    また各紙によれば、「不適切だった」として日本医学会や日本循環器学会などに報告書を提出したそうです。

  10. アポネット 小嶋

    各紙が伝えていますが、日本医学会は24日、記者会見を行い、今回の問題について、「非常に残念で、(日本の臨床研究の国際的な)信頼を揺るがす許し難い行為」と非難し、試験を実施した、京都府立医大・東京慈恵会医大・滋賀医大・千葉大・名古屋大に対し、第三者によるデータの再検証を求めたそうです。

    降圧剤論文:医学会「日本の信頼揺るがす」と検証要求
    (毎日新聞 2013.05.24)
    http://mainichi.jp/select/news/20130525k0000m040069000c.html

    日本医学会長「信頼揺るがす許し難い行為」-臨床研究での「疑惑招く」製薬会社関与で
    (医療介護 CB NEWS 2013.05.24)
    http://www.cabrain.net/news/article/newsId/39972.html
    http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130524-00000006-cbn-soci