スタチンと有害事象・合併症のリスク(英国研究)

 20日の英国医学雑誌のBMJ 誌とHeart 誌のオンライン版に、スタチン使用と有害事象や合併症の発症の関連を調べた大規模な疫学調査の結果が発表されています。(使用したデータは同じです)(薬剤師関連のstudyについて、一部については下記のスタイルで紹介することにしました。記述法などに誤り等ございましたらご指摘下さい。)
 

研究の
目的や背景
スタチンの 用量や使用期間によって、合併症の発症リスクを数値化する
研究の方法 Prospective open cohort study
どんな患者が研究の対象?  イングランド、ウェールズのGP368施設、30~84歳の2,004,692人のデータ(5年間追跡調査?)
何を指標? 心臓血管病、中等度以上の筋障害、中程度以上の肝障害、急性腎不全、静脈血栓塞栓症、パーキンソン病、認知症、慢性関節リウマチ、白内障、骨粗鬆症に伴う骨折、胃がん、食道がん、大腸がん、肺がん、黒色腫、腎臓がん、乳がん、前立腺がんの発生数
何を比較?  スタチン使用者とスタチン非使用者で合併症の発症リスクに差があるか
わかったこと
  • 225,922人が一定期間中(2002.1~2008.6)に新たにスタチンの使用を開始
  • 内訳はシンバスタチンが70.7%、アトルバスタチンが22.3%、プラバスタチンが3.6%、ロスバスタチンが2.0%、フルバスタチンが1.4%
  • 1969人の急性腎不全、36541人の白内障、15020人の中等度以上の肝障害、1406人の中等度以上の筋障害(うち312人は重篤)、12199人の静脈血栓塞栓1093人の胃がん、1809人の食道がん、4152人の大腸がん、6001人の肺がん、2070人の黒色腫、2996人の腎臓がん、9823人の乳がん、7129人の前立腺がんのの記録があった
  • スタチン使用と食道がんリスク減少と関係していたが、中等度以上の筋障害、中程度以上の肝障害、急性腎不全、白内障ではリスクが増した。
  • スタチンの使用と静脈血栓塞栓症、パーキンソン病、認知症、慢性関節リウマチ、骨粗鬆症に伴う骨折、胃がん、食道がん、大腸がん、肺がん、黒色腫、腎臓がん、乳がん、前立腺がん発症リスクとの関連性はなかった
  • フラバスタチンで肝障害のリスクが高かった以外は、スタチンごとのリスクに差はなかった。
  • 用量が多いと急性腎障害と肝障害のリスクが高まった
  • リスクは使用最初の1年間に多く見られた
  • 白内障のリスクは治療をやめれば、1年で元に戻る
  • スタチンによる治療を受けているハイリスクの女性患者1万人あたり、心臓血管病を271人、食道がんを8人減らす一方、急性腎不全23人、肝機能障害74人、白内障307人、筋障害を39人増やす
  • スタチンによる治療を受けているハイリスクの男性患者1万人あたり、心臓血管病を301人、食道がんを9人減らす一方、急性腎不全29人、肝機能障害71人、白内障191人、筋障害を110人増やす
コ メ ン ト  今回の結果を受け、心臓病の専門家からは発がんリスクが認めらなかったとして、スタチンの積極使用を改めて推奨しています。
 スタチン使用者で白内障が多いというのは初めて知りましたね。 
論 文 名  Unintended effects of statins in men and women in England and Wales: population based cohort study using the QResearch database
掲載雑誌 BMJ 2010;340:c2197
リ ン ク http://www.bmj.com/cgi/content/full/340/may19_4/c2197

 

研究の
目的や背景
スタチン使用者に知られている有害事象の発症リスクが予測できるアルゴリズムを用いて、発症リスクを数値化する
研究の方法 population-based cohort study
どんな患者が研究の対象? イングランド、ウェールズのGP368施設、30~84歳の2,004,692人のデータ(5年間追跡調査?)
何を指標? 4つ有害事象の発症リス
白内障の診断、中等度以上の筋障害(ミオパシーの診断、CPKが女性560超、男性696超が4回以上 など)、中等度以上の肝障害(ALT(GTP)120超が3回以上)、急性腎障害の診断 などの診断・検査記録
何を比較? スタチン使用者とスタチン非使用者で有害事象に差があるか
わかったこと
  • 225,922人が一定期間中(2002.1~2008.6)に新たにスタチンの使用を開始(以下、スタチンユーザー)
  • 内訳はシンバスタチンが70.7%、アトルバスタチンが22.3%、プラバスタチンが3.6%、ロスバスタチンが2.0%、フルバスタチンが1.4%
  • 1969人の急性腎不全、36541人の白内障、15020人の中等度以上の肝障害、1406人の中等度以上の筋障害(うち312人は重篤)の記録があった
  • スタチンユーザーの筋障害の発症リスクは男性で6.15倍、女性で2.97倍で、男性黒人などで高く(アフリカ系黒人で7.87倍、中国人で2倍)、ステロイド使用中の女性3.03倍、肝臓疾患の女性3.47倍と高かった
  • スタチンユーザーの急性腎不全の発症リスクは男性で1.61倍、女性で1.56倍で、1型糖尿病患者や腎臓病の患者やヘビースモーカーで高かった
  • スタチンユーザの肝障害の発症リスクは男女ともに1.53倍で、1型の女性糖尿病患者や女性のリウマチ患者でより高かった
  • スタチンユーザーの白内障の発症リスクは男性で1.3倍、女性で1.32倍で、1型糖尿病患者で高かった
  • アルゴリズムは白内障、急性腎不全、筋障害では機能したが、肝障害は機能しなかった
コ メ ン ト  研究の目的は数値化するためのアルゴリズムの有用性を検証するために行われたものですが、有害事象の発症リスクが合併症や人種毎に具体的な数値が示されています。(人種毎に結構差があります)
 一般紙ではこちらの論文の方を大きく取上げ、心臓病のリスクがある人以外へのスタチン使用は副作用の発現に留意し、慎重に行うべきとの論調も少なくありません。
論 文 名 Individualising the risks of statins in men and women in England and Wales:population-based cohort study
掲載雑誌 Heart doi:10.1136/hrt.2010.199034
リ ン ク http://heart.bmj.com./content/early/2010/05/20/hrt.2010.199034.abstract
http://heart.bmj.com./content/early/2010/05/20/hrt.2010.199034.full

 紹介したのはごく一部ですが、たいへん興味ある内容となっています。おそらくこれから、多くの紹介記事が出てくると思いますが、是非原文でご確認下さい。

 私たちも、スタチン使用と肝障害・筋障害・白内障・急性腎障害との関連に留意する必要がありそうです。

 参考:
‘Unintended’ statin side-effect risks uncovered
(BBC NEWS 2010.05.20)
http://news.bbc.co.uk/2/hi/health/8695102.stm
Statin Use Tied to Eye, Kidney, Liver Troubles
(Healthday 2010.05.20)
http://www.healthday.com/Article.asp?AID=639313


2010年05月21日 18:25 投稿

コメントが1つあります

  1. アポネット 小嶋

    下記サイトでに分かりやすくまとめられています。

    Cohort studies: Unintended effects of statins in men and women in England and Wales and individualising the risks→リンク
    (NeLM News Service 2010.05.21)

    Statin side-effects examined(NHS Choice 2010.05.21)
    http://www.nhs.uk/news/2010/05May/Pages/side-effects-of-statins-studied.aspx