ピオグリタゾン製剤(アクトス)の調査結果報告書(PMDA)

 厚労省HPにはまだ掲載されていませんが、PMDAは3日、ピオグリタゾン製剤(アクトス他)について、7月29日開催の平成23年度第1回医薬品等安全対策部会に報告した調査報告書を公表しています。

ピオグリタゾン塩酸塩・調査結果報告書
(平成23年7月28日独立行政法人医薬品医療機器総合機構)
http://www.info.pmda.go.jp/riscommu/PDF/riscommu110803frep.pdf

 これまでの各国の各国の対応状況、関連の研究や資料(これまで非公表のものも含む)の概要も記されており、私たちも一読しておく必要がありそうです。

 フランスでは回収、ドイツでは新規患者への投与が制限されるなど、日本でも新規患者への投与の是非が注目されるところですが、これについてPMDAでは、「これまでの知見からは、新規使用患者への投与だけを制限する合理的理由はない」と結論づけたそうです。このPMDAの判断について、下記の理由で専門委員も支持しています。

  • これまでに得られている知見からは、長期投与者における膀胱がんリスク上昇の可能性を示しているものであり、新規患者への使用制限が必要とする根拠はない。
  • 今回の結果を基に、患者が自己判断で服用を中止することが最も危険である
  • CNAMTS研究にはデータ解釈上の問題点があるため、CNAMTS研究に基づく処方制限は過剰であり、KPNC研究の最終結果の確認が必要と考える。
  •  フランスの措置は、本薬のリスク評価が終了するまでの対応ということであれば合理的であるが、糖尿病治療における本薬の有効性も考慮して判断すべきである。
  •  本薬の臨床的位置付けは、ほぼ確立されており、肥満やインスリン抵抗性を伴う2型糖尿病患者の第一選択薬となっている。したがって、新規使用患者への投与を禁止することは過剰であり、膀胱癌の治療中といった一部の患者のみに限定すべきである。

また、今後行うべきリスク最小化策として、安全対策や添付文書改訂等の必要性について、メーカーについて見解を求めたところ、以下のように回答し、PMDAではこれを了承したそうです。

  • 今般の欧州添付文書の改訂では、①定期的な安全性と有効性の確認を行うことや、②高齢者は心不全と同様に膀胱癌のハイリスク患者であることから、低用量から投与を開始することが、注意喚起されているが、これらの内容については既に国内添付文書に記載されている内容で注意喚起としては、網羅されると考えるため添付文書の更なる改訂は必要ない。
  •  厚生労働省医薬食品局安全対策課長通知(薬食安発0624第1号、平成23年6月24日付)に基づいた添付文書改訂に伴い、医療関係者にMRより「お知らせ」を配布するとともに、製造販売業者HPへ「お知らせ」を掲載し医療関係者への周知徹底を行っている。
  •  医療関係者から患者へ膀胱癌のリスクを説明する情報提供資材を作成、配布することにより(私のところはまだもらっていないけど)、膀胱癌の早期発見の観点から①患者又はその家族に膀胱癌発生リスクを十分に説明する(これは処方医が行うものですよね。実際やってるのでしょうか?)こと、②投与中は血尿、頻尿、排尿痛等の症状がみられた場合には、直ちに受診するよう患者に指導すること、及び③投与中は定期的に尿検査等を実施することへの対応を図る。
  • 添付文書改訂の医療機関への伝達について、確実に実施されていることの確認を行う。
  • 今後得られる膀胱癌の自発報告については定期的に見なおし、特に問題となる傾向がないか、確認を行う
  • 欧米の動向を注視しつつ、国内における疫学研究の実施可能性について検討を実施していくとともに、新たな情報を入手した場合、医療関係者へ情報提供することにより、膀胱癌のリスクについてリマインドし、継続的に注意喚起していく。

 PMDAではこれを踏まえ、「添付文書の記載事項が遵守されるのであれば、現時点において、本薬の使用を中止するまでの新たな情報は得られていないと判断した。」と安全対策会議部会で報告し、了承されたそうです。(欧州では、「処方医は、3~6ヵ月ごとにピオグリタゾンによる治療について再検討するべきで、十分な利益が認められない患者については投与をやめる。処方医は定期的にレビューを行い患者への利益が維持されることを確認すべきである。」となっているけど、日本では改めてそこまで言及する必要性はないということみたい)

 なおPMDAが、2011年7月15日までに受付けた、ピオグリタゾンを含有する製剤の膀胱がんに関する国内副作用報告は、膀胱癌65件、尿管癌及び膀胱新生物各2件、再発膀胱癌、膀胱移行上皮癌、及び膀胱扁平上皮癌各1件で、これらの報告を副作用発現年で分類すると、2007年2件、2008年4件、2009年5件、2010年17件、2011年23件、及び不明21件であったそうです。(いずれも、フランスでの使用制限の措置が行われた今年6月9日以降に報告されたものだそうです)

関連情報:TOPICS
 2011.07.22 EMA、ピオグリタゾンはベネフィットがリスクを上回る
 2011.07.07 ピオグリタゾン製剤は中止を(npojip)
 2011.06.23 アクトス問題、国内でも膀胱がんリスクの対応へ(Update)

関連記事:
【ピオグリタゾン】国内は現行措置変えず‐PMDAが結論
(薬事日報 HEADLINE NEWS 8月3日)
http://www.yakuji.co.jp/entry23900.html


2011年08月03日 23:37 投稿

コメントが3つあります

  1. アポネット 小嶋

    患者向医薬品ガイドも更新されています。
    http://www.info.pmda.go.jp/downfiles/ph/GUI/400256_3969007F1024_1_25G.pdf

    膀胱がんリスクについての記載は次のように行われています。

    【この薬を使う前に、確認すべきことは?】
    ・外国において、この薬を使用した場合、その期間が長くなるにしたがって膀胱(ぼうこう)がんになる可能性が高くなるとの報告があります。この薬を使用する場合は、以下の点に注意してください。
    ・膀胱がんの治療を受けている人はこの薬の使用を避けてください。また、過去に膀胱がんになったことがある人は医師に伝えてください。
    ・この薬を使う前に、患者さんや家族の方は膀胱がんのリスクについて説明を受けてください
    ・この薬の使用中は定期的に尿検査などが行われます。血尿、頻尿、排尿時の痛みなどがあらわれたらすぐに医師に伝えてください。
    ・この薬の使用後も引き続きこれらの症状に気をつけてください。

  2. アポネット 小嶋

    医薬品等安全対策部会の資料もアップされました。

    資料2-7 ピオグリタゾン塩酸塩含有製剤の安全対策について
    http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001le8l-att/2r9852000001lenp.pdf

    当面の対応案

    (1) フランス、米国での疫学研究のデータからみて、わずかであるが、アクトス使用者において、投与期間に依存して膀胱癌の発生リスクが上昇する可能性があるため、当面の対応として、以下の内容の使用上の注意の改訂を指示する(詳細は別添)。ただし、疫学研究における限界も踏まえて慎重にリスク評価をすべきである。
     ・ 膀胱癌治療中の患者等には使用を控える。
     ・ 膀胱癌のリスクについて患者への説明を行う。
     ・ 血尿等の兆候について定期的に検査する。 等

    (2)使用上の注意の改訂に伴い、リスクに関する説明用資材を製造販売業者から提供する等の対応を行う。

    (3)引き続き、米国で継続実施中の前向き疫学調査の結果や欧米当局の評価を含め情報収集を行い、必要に応じ、追加の対策を検討する。

  3. アポネット 小嶋

    9月28日公表の医薬品・医療機器等安全性情報283号で、改めてPMDAの調査結果等が紹介されています。

    糖尿病治療薬ピオグリタゾン塩酸塩含有製剤による膀胱癌に係る安全対策について
    (医薬品・医療機器等安全性情報283号)
    http://www1.mhlw.go.jp/kinkyu/iyaku_j/iyaku_j/anzenseijyouhou/283-1.pdf