アセトアミノフェンと喘息リスク

 Lancet 誌の最新号に掲載された、アセトアミノフェンが喘息発症リスクを増やす可能性があるとしたニュージランドの研究グループの論文が各国で話題になっています。

Association between paracetamol use in infancy and childhood, and risk of asthma, rhinoconjunctivitis, and eczema in children aged 6–7 years: analysis from Phase Three of the ISAAC programme(The Lancet 2008; 372:1039-1048)
  http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140673608614452/abstract

 アセトアミノフェン使用は胎児や乳児・こどもの喘息・鼻結膜炎・湿疹リスク増加をもたらす
   (内科開業医のお勉強日記 2008年9月19日)
     http://intmed.exblog.jp/7499577

 この研究は、上記ブログ示されているように、ISAC(International Study of Asthma and Allergies in Childhood)という、小児における喘息とアレルギーに関する国際研究で得られた6歳〜7歳児のデータ(31カ国205,487人)を解析したもので、1歳までに発熱時にアセトアミノフェン(パラセタモール)を使ったことのある子どもは、使わなかった子どもに比べ、喘息で1.46倍、湿疹で1.35倍、鼻炎・結膜炎(rhinoconjunctivitis)で1.48倍多かったそうです。

 また、過去1年間のアセトアミノフェンの使用頻度と喘息発症との関連性も解析し、中程度の使用(1回以上)の場合、喘息で1.61倍、湿疹で1.18倍、鼻炎・結膜炎で1.32倍、また頻繁使用(1ヶ月に1回以上)の場合、喘息で3.23倍、湿疹で1.87倍、鼻炎・結膜炎で2.81倍として、これらアレルギー疾患がアセトアミノフェンの用量依存的に増加するとしています。

 知らなかったのですが、アセトアミノフェンが喘息リスクを高めるかもしれないとする論文は実は今回だけではありません。PubMedで、“acetaminophen” “asthma” をキーワードに検索すると、多くの論文がヒットします。このため、研究者の中には近年の喘息の増加は、アセトアミノフェンの使用量の増加が関連しているのではないかと主張する人もいるようです。

Study of the Relationship Between Acetaminophen and Asthma in Mexican Children Aged 6 to 7 Years in 3 Mexican Cities Using ISAAC Methodology
  (J Investig Allergol Clin Immunol 2008; Vol. 18(3): 194-201)
  http://www.jiaci.org/issues/vol18issue3/vol18issue03-8.htm

The relation between paracetamol use and asthma: a GA2LEN European case-control study
 (Eur Respir J 2008;Published online before print June 25, 2008)
  http://erj.ersjournals.com/cgi/content/abstract/09031936.00039208v1

 しかし、いずれもその研究方法から関連性を確実にすることはできておらず、Lancet 誌の研究者らもランダム化比較試験(実施はむずかしいでしょうが)で関連性を検討すべきだとしています。

 一方今回の論文発表を受け、英国のNPA(全国薬局協会)の関係者はTelegragh紙に対し、「パラセタモールは子どもには安全な薬剤であるが、必要に応じて与えられなければならない。パラセタモールを使うことで喘息を引き起こすことを決定的に証明するものではないが、パラセタモールの頻繁な使用は関連があるかもしれない。」とするコメントを発表、同紙はまた、パラセタモールを含有する子ども向け製剤の薬局用医薬品から一般販売品へのスイッチにNPAが反対していることも伝えています。

 アセトアミノフェンは子どもにも比較的安心なくすり(アスピリン喘息には禁忌)として、日本でも広く処方・販売(多くの風邪薬の成分として配合)されていますが、やはりその使用は必要最小限にすることが求められているのかもしれません。とりわけ、小児向けはより慎重な使用が求められます。(医薬品のリスク分類は、指定なしの第二類で大丈夫?)

資料:The International Study of Asthma and Allergies in Childhood(ISAAC)
     http://isaac.auckland.ac.nz/

参考:
Acetaminophen in Infancy May Be Risk Factor for Asthma
 (Medpage TODAY 2008.9.18)
 http://www.medpagetoday.com/AllergyImmunology/Asthma/tb/10967
Paracetamol: does it cause asthma?(NHS Choice 2008.9.19)
 http://www.nhs.uk/news/2008/09September/Pages/Paracetamoldoesitcauseasthma.aspx
Paracetamol and asthma(NHS Choice 2008.9.18)
 http://www.nhs.uk/news/2008/09September/Pages/Paracetamolandasthma.aspx
Pharmacists reassure worried parents about Calpol and asthma risk
 (Telegragh.co.uk 2008.9.19)
 http://www.telegraph.co.uk/news/newstopics/politics/health/2990587/
     Pharmacists-reassure-worried-parents-about-Calpol-and-asthma-risk.html


2008年09月20日 14:45 投稿

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