「安心と希望の医療確保ビジョン」と薬剤師

 2006年度の医療制度改革以後、 医師不足や救急医療に対する不安など、医療に関する様々な問題が指摘されていることは皆さんもご存知だと思いますが、厚労省では今年6月、医療制度改革を進め、地域医療や必要な医師の確保など、将来をしっかりと見据えた長期的な施策「安心と希望の医療確保ビジョン」をまとめて、公表しています。

「安心と希望の医療確保ビジョン」(厚労省医政局総務課2008年6月18日)
  http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/06/s0618-8.html

 このビジョンでは、「安心と希望の医療確保」のための3本柱として
 1.医療従事者等の数と役割
 2.地域で支える医療の推進
 3.医療従事者と患者・家族の協働の推進
が掲げられ、患者・家族にとって最適の医療を効率的に提供し、職種間の役割分担と協働に基づくチーム医療を推進することや、これを行うために看護師をはじめとしたコメディカル(病院薬剤師も含まれる)の雇用数を増やすことなどが盛り込まれています。

 そして、7月からはこのビジョンに盛り込まれた各種施策の具体化に向けての検討を行う『「安心と希望の医療確保ビジョン」具体化に関する検討会』が設置、医療関係者を中心とした委員が中心となって、医療の現状などを踏まえた中期的・短期的な目標が検討されてきました。(これまでの主な意見:第7回資料1-11-21-3、リンク先WAM NET)

第1回 2008年7月17日開催 厚労省資料 WAM NET資料 議事録
第2回 2008年7月30日開催 厚労省資料 WAM NET資料 議事録
第3回 2008年8月5日開催 厚労省資料 WAM NET資料 議事録
第4回 2008年8月21日開催 厚労省資料 WAM NET資料 議事録
第5回 2008年8月23日開催 厚労省資料 WAM NET資料 議事録 
第6回 2008年8月24日開催 厚労省資料 WAM NET資料 議事録
第7回 2008年8月28日開催 厚労省資料  WAM NET資料 議事録

 検討会では、病院薬剤師の役割についても取り上げられ、「病棟薬剤師が100床当たり2.5人増えると死亡率が1000人当たり約20人滅る」とした海外報告などを示して、我が国の医療の安全性向上のためには、病床当たり看護師、薬剤師等の雇用数増加が必要不可欠であるとの意見が出された他、8月21日に開催された第4回の検討会では、海野信也委員(北里大学産婦人科学教授)より、「薬物療法に関わる業務を見直し、専門性を活かした役割分担を行うことで、患者にとってより安全かつ有効な薬物療法の実施に繋がる」とした資料(資料6-2、6-3、日病薬作成?)が提示されています。(以下資料より抜粋。議事録では、この資料についてはあまりふれられていません)

1.安全で安心な薬物療法の遂行には病院薬剤師の関与が不可欠であり,そのためには薬剤師の増員が必要である.

 高度・複雑化する医療環境において,患者に良質な医療を提供するには「チーム医療」の実践が必須であり,医薬品に関わる事項は薬剤師の役割分担として担うべきである。また、患者の安全で安心で安心な薬物療法を遂行するためには、24時間365日薬剤師による質の高い薬物療法への参画をはじめ、すべての医薬品に係る管理体制が必要不可欠である。

2.安全で安心な薬物療法の遂行のため病院薬剤師は次のような業務も可能ではないか

 

1)薬剤師の病棟への常駐

 薬剤師が病棟に常駐することにより、医薬品に関する最新の情報が治療に反映されるとともに、治療に関する現場のニーズに細かく対応し、医療安全に大きく関与できる。また、病棟等での薬剤管理や、服薬指導の充実が図れる。チーム医療に参画することで、医師・看護師などとの協働が推進され安全で安心な薬物療法が遂行できる。役割分担を明確化することにより、医療の質や患者満足度に貢献できる。

2)診断書、診療録及び処方せんの作成

 薬剤師の増員により、診察室や病棟での処方せんの作成を薬剤師が代行することができる。また、作成の補助と同時に「処方薬の相互作用チェツク」や「当該患者への使用が禁忌に薬か否かのチェック」などを兼ねて行うことが出来るため安全な薬物療法に貢献できる。

3)薬剤の投与量の調整

 医師と薬剤師が治療方針等について充分話し合った上で、投与量の調節を薬剤師が行うことで、投与量調節後の副作用の予兆や容体変化などに対処が可能となる。

4)薬剤の管理

 薬剤師の増員により、注射薬の無菌調製からセッティングや留置カテーテルヘの接続、さらには投与中のモニタリング業務に至る薬物療法に関する一連の業務を薬剤師が責任を持って行うことができ、薬剤の取り違え事故の防止に貢献できる。

第4回検討会/資料6-2「安心と希望の医療確保ビジョン」具体化に関する検討会への意見
第4回検討会/資料6-3「安心と希望の医療確保ビジョン」具体化に関する検討会への意見
   (リンク先WAM NET)

 上記の1)4)については、すでに病院薬剤師の活動としてよく知られているものですが、英国やカナダなどの地域の薬局薬剤師の先進的な活動に近い2)3)のような意見提示は、私の知る限りでは公式な場では初めてではないかと思います。(現時点では、議事録が公表されていないので、どのような経緯で発表されたかは確認できませんが。)

 既に「薬剤量の調節」は、看護協会でも行えるとした要望を出されている現状を考えれば、こういった考えが示されるのは自然の流れであり、むしろ病院薬剤師会レベルでとしても、自分たちの立場をしっかり主張してもよいのではないかと思います。

 こういった議論を経て、第6回検討会では、「患者の安全性向上のため、看護師、病棟薬剤師等、病院のコメディカル雇用数を、まず2倍に増加させることを目指す」ことなどを中長期ビジョンとして盛り込んだ「安心と希望の医療確保ビジョン」具体化に関する検討会報告書骨子(案)」第6回資料2)が示されましたが、第7回検討会で示された「安心と希望の衣料確保ビジョン」具体化に関する検討会中間とりまとめ(案)第7回資料7-8)では、医師については的には50%程度養成数を増加させることを目指すべきであるとしたものの、コメディカルについては、「専門性を持ち、キャリアアップきる仕組みが必要であり、そうしたことへのインセンティブの付与や支援が必要である。同時に、コメディカルの数を増加させることについて具体的な検討が必要である。」といった表現に弱められ、どちらかといえば医師中心の内容となってしまいました。

 8月29日のCBニュースによれば、このように至った背景について、「報告書骨子(案)の内容のままだと、国民や患者への配慮が不十分で、ともすると『医療関係者の安心と希望とキャリアアップのためのビジョン』に進みかねない」とした意見があったためだとしています。このため、第7回検討会では、報告書骨子案は「安心と希望の医療確保ビジョン」具体化に関する検討会への提言と名前を改めて提出されています。(第7回資料5-1資料5-2

 いずれにしても、今回薬剤師を医療の場でより積極的に活用すべきとした意見が示されたことは画期的なことであり、日病薬はもちろんのこと日薬も、近い将来過剰になるともいわれる薬剤師を医療(及び保健)の現場でどう活用していくかについて検討し、社会や所属会員に訴えることも重要ではないかと考えます。

 ちょうど、9月6日、7日に東京の昭和大学旗の台キャンパスで、「10年度の薬剤師の姿を想定した環境整備を進めなければ、社会の薬剤師の受け皿は確保できない。いまこそ薬剤師の底力を社会に示すとき!」として、日本社会薬学会(http://www.syakaiyakugaku.org/)が、「今、試される薬剤師のソコヂカラ」というテーマで、第27年会を開催します。

日本社会薬学会第27年会プログラム
  http://syayaku27.com/program.html

 参加する予定なので、後日レポートができればと思います。

9月12日 更新 12月28日更新


2008年09月04日 20:54 投稿

コメントが1つあります

  1. アポネット 小嶋

    検討会の中間とりまとめが9月22日に発表されています。

    「安心と希望の医療確保ビジョン」具体化に関する検討会中間とりまとめ
     (厚労省2008年9月22日)
      http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/09/s0922-6.html
      http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/09/dl/s0922-6a.pdf