Minor Health Conditions Service は医療へのアクセスを向上させる(NZ)

ニュージーランド保健省(Te Whatu Ora)は、2023年に10の重点地域の700を超える薬局で行われた地域薬局を基盤とした軽症患者向け試験的サービス(MHCS:Minor Health Conditions Service)の結果を公表した。(Xに2024.08.29に投稿した投稿を再構成しました)

【Health New Zealand】
Minor Health Conditions Service Pilot Evaluation 2023
https://www.tewhatuora.govt.nz/health-services-and-programmes/community-pharmacy/service-documents

(報告書)
2023 Minor Health Conditions Service Pilot Evaluation Report
https://www.tewhatuora.govt.nz/assets/Health-services-and-programmes/Community-Pharmacy/2023-Minor-Health-Conditions-Service-Pilot-Evaluation-Report.pdf

MHCSは、

  • 一般的な軽症疾患の相談、アドバイス、治療へのアクセスを改善し、健康結果の不公平を減らす
  • 相談や治療の最初の窓口として地域薬局の利用を促すことにより、地域薬局を通じたケアを促進する
  • 適切な需要を薬剤師に移すことにより、一般診療所、緊急医療、救急部門への圧力を軽減する

を目的として、保健省では、急性下痢及び脱水症、目の感染症及び炎症、痛みと発熱、疥癬、アタマジラミ、湿疹・皮膚炎、軽度の皮膚感染症の7つの症状などを対象にサービスが行われた。

対象は、マオリ族とパシフィカ族の患者、14歳未満のこどもとその家族、およびコミュニティサービスカードの所有者を対象としたため、利用者の68%は14歳未満であった。

このサービスは、利用者はまず薬剤師から クリニカルコンサルテーション(clinical consultation)を受けたのち、必要に応じて、「承認された医薬品リストからの医薬品の提供」「GP、救急部、専門医への紹介」がこの行われ、利用者負担は無料。

一方、薬局に対しては、平均10分と推定されるコンサルテーションに基づき、1回のコンサルテーションにつき25ニュージランドドル(2150円、物品・サービス税をを除く)が支払われ、治療補助具(アタマジラミ用コームまたはシリンジ)が提供された場合は、その費用が払い戻された。(総額800万ニュージーランドドル・約6億9千万円の資金提供)

利用件数が一番多かったのは、痛み・発熱で、57%を占め、次いで軽度の皮膚感染症(17%)、湿疹・皮膚炎(14%)が続いた

MHCSパイロット期間中、74,058人のサービス利用者に133,625の医薬品が調剤された。

サービス利用者の62%が、MHCSによる診察の結果、少なくとも1種類の医薬品を受け取っている。

最も多く処方された医薬品は、痛みや発熱の対症療法(パラセタモール26%、イブプロフェン13%)であった。

抗生物質の点眼薬(クロラムフェニコール)、皮膚の軟化剤と消毒薬、疥癬の治療薬、脱水治療薬も、コンサルテーションの結果としてしばしば提供された。

症状が長引いたり悪化したりした場合に、いつ、どのように支援を求めたらよいかをアドバイスを行ったり、コンサルテーションの結果として、非薬物療法が提供されることもあった。

期間中、約12万⼈がこのサービスにアクセスし、延べ157,000 件を超える相談が⾏われたが、国⺠のMHCSへの認知度は著しく低かった。

試験的プログラムにより、GPの診察に比べて費用対効果が高いことが判明した。

参加した薬剤師は仕事への満足度が高まり、臨床スキルがより有効に活用されたと感じた。

報告書では、これらのシナリオのいくつかについてコスト削減を検討し、軽症患者サービスを提供することは、ほとんどの場合において費用対効果が高いことを明らかにした。

全体として、薬局での軽症患者相談は、23.26ドル、薬局での相談治療費も考慮すると15.21ドルのコスト回避またはより高度な治療への再投資の機会を提供することがわかった。

報告書の著者はまた、薬剤師がより多くの臨床サービスを行えるようにすることで、仕事の満足度を向上させることができるため、全国的な軽症疾患スキームが薬剤師の労働力確保を改善するかもしれないと考えている。

保健省はこの報告書を受け、全国的なプログラムの開発に取り組む予定だ。

Pharmacy minor ailments pilot improves access to healthcare
(Pharmacy Today 2024.08.24)
https://www.pharmacytoday.co.nz/article/news/pharmacy-minor-ailments-pilot-improves-access-healthcare

なお、この報告書では、アメリカ、オーストラリア、スペインでも同様のサービスが費用対効果に優れているという調査結果も記載されている。(まさしくこれから世界の地域薬局の主力業務として向かおうとしている内容だと思う)(International Literature p10-11)

国際的には、各国政府は医療システムの効率化のために、軽度の健康状態のセルフケアを促進する薬剤師の支援に投資している。

スコットランド、北アイルランド、ウェールズ、イングランド、オーストラリア、カナダでは、軽度疾患スキーム (Minor Ailments Schemes:MASs) (英・豪州) 、軽度疾患処方サービス (Minor Ailment Prescribing Services)(カナダ) を通じて、地域薬局での軽度症状の患者セルフケアを促す戦略がある。

海外の地域薬局を基盤としたMHCSのモデルから、有効性に関する中程度のエビデンスが得られている。

ほとんどの研究で臨床的有効性を実証し、費用対効果の可能性を指摘している。

ユーザーの満足度は概して高く、サービスの強みとしては、効果的な症状の解決、一般診療の作業負荷の軽減、救急外来(ED)と一般診療医(GP)への訪問の減少などが挙げられる。

プラスの影響としては、質調整生存年(QALY)の増加も挙げられる。

オーストラリアの研究では、薬剤師主導のMHCSの臨床的・人間的アウトカムが、地域薬局の通常ケアと比較して改善したことが示された。

MHCSは、通常の地域薬局でのケアと比較すると、薬剤師が合意されたプロトコルを満たす適切な薬剤を推奨する可能性が1.2倍高かった。

薬剤師が患者の希望よりも安全または適切な代替薬を推奨する可能性も2.6倍高かった。

サービス利用者はまた、通常の薬剤師によるケアと比較して、適切な紹介を受ける可能性が1.5倍高く、その紹介を遵守する可能性が5倍高かった。

費用対効果分析では、MHCS は通常の薬剤師ケアと比較して費用はかかるが、より効果的 (症状の解消と QALY の向上) であることが示された。

経済学的知見から、、オーストラリアにおける軽症疾患サービスの全国的な導⼊は費⽤対効果が⾮常に高いことが示唆された。

その他の国・地域でも、様々な軽症疾患サービスが行われているが、10年以上委託しているため、その評価は古い。

2013年のシステマティック・レビューでは、イギリス(英国)の31の薬局を拠点とするMHCSの評価が検討されている。

患者の 68%~94% が、診察後に軽度の健康状態が改善したと報告している。

ほとんどのMHCSでは、コンサルテーション1件ごとに参加薬剤師に報酬が支払われ、薬局には供給した医薬品が払い戻されていた。

このレビューでは、GP における軽度の健康状態に関する診察回数に対する MHCS の影響を測定した 6 件の評価も報告され、再診率や紹介率が観察されたことから、MHCSがGPの受診率を低下させることが示唆された。

1つの評価では、軽度の健康状態に対するGP受診件数の減少が示されたが、MHCSの一環として実施された受診件数によって相殺されたと報告しており、他の2つの評価では、GP受診件数全体には影響を受けていないにもかかわらず、MHCSの同時実施により軽度の健康状態に対するGP受診件数が有意に減少したことが観察された。

10件の評価では、MHCS が利用できなかった場合、患者の 47%~92% が GPを利⽤し、次に可能性の高い結果は市販薬 (OTC) の購⼊であることが示された。

MHCS利用者の満足度は、非利用者のGP診察に対する満足度と同程度であった。

GPは、軽度の健康状態の管理における薬剤師の参加拡大と制度の拡大に前向きな姿勢を示した。

2つの評価では、GPが認識している軽症患者に関する業務量への影響は肯定的であったが、MHCSの導入後に全体的な受診が減少したかどうかについては疑問があると報告している。

英国のある評価では、軽度の健康状態に対するGPの診察件数は、ベースラインと比較して介入期間中に有意に減少したが、すべての状態(軽症・非軽症)に対するGPの診察件数の合計は影響を受けなかった。

NHS臨床コミッショナー(NHS Clinical Commissioners)とNHSイングランドは2018年にガイダンスを発表し、「自然に治る(self-limiting) 」または「セルフケアに適している(suitable for self-care)」特定の軽度の健康状態は、プライマリケアにおける処方箋の発行によって治療されるべきではないと推奨した。

このガイダンスは、年間薬剤費からより大きな価値を確実に達成し、GPの予約や薬の服用に代わる選択肢を強調するというNHSの広範な野心をサポートするものであった。

英国医薬品サービス交渉委員会は2022年に、薬局が軽度の病気の治療をさらに支援することで、NHSは毎年最大6億4,000万ポンドを節約できると推定していると報告した。

彼らは、コミュニティ薬剤師相談サービスを通じてGPの予約4,000万件がGPから薬剤師に移行された場合、NHSの純コストは5億6,000万ポンドになると推定しました。

これは、GPのみを利用する現在のシステムでは12億ポンドのコストと比較した物である。

その後、NHSイングランドは、2023年のNZ MHCSパイロットに似ているが、はるかに幅広い症状をカバーするPharmacy First Serviceを開始した。

関連情報:
OTCで入手可能で、「自然に治る(self-limiting) 」「セルフケアに適している症状(appropriate for self-care.)」の場合、これらは、プライマリケアで日常的に処方すべきではない

Policy guidance: conditions for which over the counter items should not be routinely prescribed in primary care
(NHS England 2024.03.12)
https://www.england.nhs.uk/long-read/policy-guidance-conditions-for-which-over-the-counter-items-should-not-be-routinely-prescribed-in-primary-care/

今回の調査報告について、職能団体のPSNZ(Pharmaceutical Society of NZ )の担当者は、軽度の健康状態に関するアドバイスや治療を求める患者からの一般開業医や救急外来への不必要なプレッシャーを軽減し、一部のニーズの高い集団に対する医療へのアクセスを改善するための費用対効果の高いアプローチになる可能性があると述べている。

HNZ releases evaluation report for Minor Health Conditions Service pilot
(Pharmaceutical Society of NZ 2024.08.28)
https://www.psnz.org.nz/Story?Action=View&Story_id=265

医療提供体制が問われている日本でも、こういった試行事業の展開が必要ではないでしょうか。


2025年05月05日 18:54 投稿

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。


*

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>