OTC咳止め薬は、本当に有用か?(米国)

 胸部疾患を専門とする内科医・外科医などで構成される、The American College of Chest Physicians (米国胸部疾患学会議、ACCP)は9日、「咳治療に関するガイドライン」をまとめたと発表、「多くのOTC薬は咳治療のために勧められない」としたことから、国内外から大きな波紋を呼んでいます。

New Cough Guidelines Urge Adult Whooping Cough Vaccine,
 Many OTC Medications Not Recommended for Cough Treatmen
  (ACCP Press Release 2006.1.9)
   http://www.chestnet.org/about/press/releases/2006/010906a.php

Diagnosis and Management of Cough Executive Summary
  (ACCP Evidence-Based Clinical Practice Guidelines)
   http://www.chestnet.org/downloads/journal/exec_sum.pdf

 ガイドライン自体は現時点では見ることはできないので、各紙の報道を総合すると、以下の通りとなります。

  • 多くのOTC咳止め薬に、実際に咳を和らげるというエビデンスがない(特にグアイフェンシン)
  • 風邪(上気道炎)由来の咳に対しては、デキストロメトルファン・コデイン・グアイフェネシンは推奨しない
  • クロルフェニラミンやジフェンヒドラミンなどの第一世代の抗ヒスタミン薬は、風邪由来の咳に対してはエビデンスがあり、プソイドエフェドリンのような充血緩和薬と共に使うことが望ましい
  • 子どもへのOTC咳止め薬の使用は、有用ではなくむしろ有害である
  • 咳の原因は風邪による場合だけではなく、副鼻腔炎による後鼻漏、逆流性食道炎、ぜんそく、たばこ、ACE阻害剤による副作用、百日咳などによる場合もあり、これらとの鑑別が必要

 特に4.については、子どもへの咳止め薬の有用性が疑わしいとする研究(2004年7月)の他、安全性について問題を指摘する報告も少なくないことから、今後さらに子どもへのOTC咳止め薬の使用については、議論を呼ぶ可能性があります。

Effect of Dextromethorphan, Diphenhydramine, and Placebo on Nocturnal Cough and Sleep Quality for Coughing Children and Their Parents
(PEDIATRICS Vol. 114 No. 1 July 2004, pp. e85-e90)
  http://pediatrics.aappublications.org/cgi/content/abstract/114/1/e85
  http://pediatrics.aappublications.org/cgi/content/full/114/1/e85

Toxicity of Over-the-Counter Cough and Cold Medications
(PEDIATRICS Vol. 108 No. 3 September 2001, p. e52)
  http://pediatrics.aappublications.org/cgi/content/abstract/108/3/e52

Use of Codeine- and Dextromethorphan-Containing Cough Remedies in Children
 (Committee on Drugs:PEDIATRICS Vol. 99 No. 6 June 1997, pp. 918-920)
  http://pediatrics.aappublications.org/cgi/content/abstract/99/6/918

 FDAでは「デキストロメトルファンなどは、安全で効果ある薬剤である」とコメントを発表、今回のACCPの発表に対しては困惑しているようです。確かにこれらの成分の有効性が疑わしいとする報告は少なくありませんが、米国内ではOTC薬は自由販売であり、おそらく自己判断で咳止め薬が使われたり、購入時に不適切な薬剤の選択が行われた可能性も否定できません。

 日本では、総合感冒剤や咳止め薬の多くに、コデインやグアイフェネシン、デキストロメトルファンが含まれており、この勧告に照らせば、風邪薬としてこれらを販売することは不適となってしまうのでしょうか。

 いずれにせよ私たちも、来局者からOTC咳止め薬を求められたときには、十分状況を聞いた上で、適切な薬剤の選択や、必要に応じた受診勧告が求められていることには間違いないでしょう。

 参考:Most Over-the-Counter Cough Remedies Have No Value
    (Medpage TODAY 2006.1.10)
      http://www.medpagetoday.com/InfectiousDisease/URItheFlu/tb/2454
    ニッポン消費者新聞(2006.1.11)
      http://www.jc-press.com/kaigai/200601/011102.htm
    No evidence cough syrups work: panel
    (ABC NEWS 2006.1.9 ロイター通信配信)
      http://abcnews.go.com/US/wireStory?id=1488356
    Doctors: OTC Cough Syrups Not Effective
    (ABC NEWS 2006.1.9 AP通信配信)
      http://abcnews.go.com/Health/wireStory?id=1488378
    Cough medicines ‘of little help’(BBC NEWS 2006.1.9)
      http://news.bbc.co.uk/1/hi/health/4598006.stm
        


2006年01月11日 23:00 投稿

コメントが1つあります

  1. アポネット 小嶋

    各国での小児への風邪薬・咳止め薬の使用規制のきっかけとなったこのガイドラインですが、現在はフリーアクセスになっています。(一方、プレスリリースなどはリンク切れになっていました)

    Guidelines for Evaluating Chronic Cough in Pediatrics
    ACCP Evidence-Based Clinical Practice Guidelines
    (Chest. 2006 Jan;129(1 Suppl):260S-283S.)
    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16428719
    http://chestjournal.chestpubs.org/content/129/1_suppl/260S.long