港区がん連携パス研究会公開シンポ

 TOPIS 2010.01.15 で、東京都医療連携手帳(がん地域連携クリティカルパス)の試行運用が始まったという記事を掲載しましたが、その運用状況についての紹介などが行われた公開のシンポジウム(第2回港区がん連携パス研究会)が20日都内で開催され、図々しく参加していきました。

港区がん連携パス研究会
(武藤正樹のWeblog 8月27日)
http://mutoma.asablo.jp/blog/2010/08/27/5310631
港区がん連携パス研究会
(武藤正樹のWeblog 9月21日)
http://mutoma.asablo.jp/blog/2010/09/21/5358917

 がんの地域連携クリティカルパスに関する講演を行った武藤氏のスライドは、武藤氏Webサイトの講演のページに掲載されています。

講演:「がん対策基本法とがん連携パス」
(港区がん連携パス研究会2010年9月20日 PDF:8.05MB)
http://masaki.muto.net/lecture/20100920b.pdf

 研究会では、東京都医療連携手帳の現状とその他地域連携に関する都内での取組の状況についての紹介があり、ところどころで地域薬局や薬剤師の役割の重要性についての指摘がありました。

 以下、内容の一部と感じたことを書き留めておきます。

東京都医療連携手帳はどのように作られたか
  • 都内では14の地域がん診療連携拠点病院と10の都認定がん診療病院がある。(2008年4月当時、現在はそれぞれ16施設が指定)
  • また、都内は交通網が発達していており、診療圏も交錯している。
  • このため、「がん対策推進基本計画」(2007年6月閣議決定)でがん診療連携拠点病院に整備が求められている、5大がん(医、大腸、肺、乳、子宮がん)の地域連携クリティカルパス(以下、がんパス)を、各施設がそれぞれ独自のものを作成してしまうと混乱を生じることが必至。
  • 2008年9月、EBM基づく、シンプルで使いやすい、都内の施設の共通のがんパスをつくることで合意。
  • 医師会から1~2名、連携拠点病院と認定診療病院から各1名の医院を出してもらって、5つの委員会を立ち上げ検討を開始。
  • 2009.12に完成し、2010.2より今回の「東京都医療連携手帳」(連携パス)の試験運用を開始
  • 前立腺のがんパスも独自に作成し、近く試用版が完成予定
  • 東京都としては、東京都医療連携手帳を関東全域で活用されることを期待している。
東京都医療連携手帳の特徴
  • おくすり手帳と同じような冊子タイプ(肝がんはバインター)で、患者さんの病状・治療内容等の診療情報が記載される他、今後5年間の診療予定表(乳がんは10年)、診療予定表に基づく受診日の診療記録のページがある(PDF版は、東京都福祉保健局のウェブサイトから入手可能→リンク
  • 連携手帳で取り扱うがんは、がんごとにステージの対象は異なる(胃・肺・大腸はStageIの早期がんのみ、大腸・肝はStageI~IVに対応、港区ではStageII、IIIについては、独自のがんパスを作成)
  • 医師にとっては、標準的診療を漏れなく実施できる他、検査忘れを防げる、標準治療の普及や均てん化にもつながり、がんによる死亡率の低下につながる
  • 患者にとっては、通院の予定・検査の予定が予定表で一目でわかり、安心感を与える
  • 医療機関同士(薬局も含むと考えた方がよい)が患者さんの治療経過を共有できるほか、他の医療機関を受診する際に診療にあたる医師が手帳から患者さんの病状や診療状況を把握することができる。
  • また、患者向けの術後の注意点や連携の医療機関が留意すべき事項(術後に見られる症状や対応のため、どのような処方が行われるかなど)も記載されている。(但し、乳がんについては、患者さん自身がかなり勉強していること、既存のよいものがあるので記載は行わず)
  • 肺・大腸では毎回、クレアチニン値を記載するようになっており、薬剤師がこの数値をチェックをし、腎機能低下が認められる場合には必要に応じて服用薬の減量(ファモチジンや酸化マグネシウム)などの助言をして欲しいとのコメントも
連携手帳の運用の現状と課題
  • 同意書や説明、各種届けや各種書類(診療報酬上の連携加算のいわゆる要件)などの煩雑さ、また専門外の患者さんのフォロー(特に乳がん)への不安から、連携パスの活用は必ずしも進んでいない。(施設基準を申請した施設は、都内約1万のうちの20%にも満たない)
  • 拠点病院や都認定病院以外にも、質の高い医療を提供している施設があるが、都の認定基準が高いため、認定病院の数もなかなか増えない
  • 東京都では、施設基準の申請に当っては医師会が中心になってまとめて申請できたが、都外から来院する患者さんの場合には、連携する診療所等に対し、施設基準申請のための情報の提供が必要(ある病院では、都民の占める割合は6割、埼玉県や神奈川県の患者も1割程度づつある)
  • 施設基準のクリア=連携手帳の交付とイメージしがちだが、連携手帳を医療連携で活用することの意義は現場では高く、算定の有無にかかわらず連携手帳の活用をすすめていきたいとの考え。(首都圏の薬局の皆さんも連携手帳を見る機会が増えるかも)
  • また、がん患者の生存率を向上させるためには、がん以外の病気の発見も重要であり、専門や得意分野が異なる医師の連携・共同治療のツールとしても活用が可能
  • 食事指導の項目の追加など、今後も現場のニーズや最新のエビデンスに基づいた見直しを行うことが必要
その他の動き
  • 東東京緩和ケアネットワークにより、東京都医療連携手帳に準じた緩和ケアの連携パスが試作され、おくすり手帳とセットで、近く試験運用が開始される予定。(武藤氏スライド)
  • また、介護に関する連携パス作成の取組もスタートしている。
  • 連携パスという言葉は一部にわかりにくく、治療計画(care plan)という言葉に置き換わりつつある。
シンポジウムに参加して感じたこと
  • 現場では保険算定を行うか否かにかかわらず、この連携手帳を活用した医療連携の必要性が現場に浸透しつつあることを実感した。
  • 厚労省も、診療報酬に点数をつけることで、一生懸命にこれを後押しをしているが、実際の保険算定となると、要件をクリアすることは容易ではない。また、結果的に患者さんの負担が増える。(コメント:こういった患者さんに余り目に見えない加算は、一部負担金から除外した方がよい。調剤でもこういったものが結構ありますよね。)
  • 薬歴と一緒で証拠のための文書等の要件が求められるのは仕方ないと思いますが、腎機能や腫瘍マーカーの記載だけでも、診療や指導に必要な情報として有用であり、おくすり手帳と同じように、診療情報を記載すれば点数がとれるなど、もう少し算定の要件を緩和してもよいのでは
  • そして将来的には、薬局もこのがんパス(心筋梗塞、糖尿病など他の連携パスも同様)の情報を基に指導を行った場合には、調剤報酬の一項目として評価することも必要ではないか。
  • 薬剤師はまず、こういった連携パスの存在を知ることが必要であり、作成や見直しに際しては、薬剤師(病薬・開局)の意見(指導で必要な項目)が反映されるようにしたい。
  • 地域事情もあり、全て統一することは難しいかもしれないが、少なくとも患者・医療者が共通で活用できる東京都地域連携手帳のようなものは、ある程度地域ごと(関東圏や関西圏、中京圏など)に統一してもよいのではないか。
  • 今後のがん治療の医療連携は、「おくすり手帳+連携手帳」の活用が鍵となる。(コメント:糖尿病・心筋梗塞など、連携パスの作成が可能な疾患は全てそうだと思います。) そして、薬剤師の関わりも鍵を握ることになる。

みなと-e-連携パス http://medicalnet-minato.jp/

関連情報:TOPICS
  2010.01.15 地域連携クリティカルパス「東京都医療連携手帳」
  2009.03.18 「地域連携パス」における地域薬局の役割
  2010.08.05 「地域医療連携体制の構築と評価に関する研究事業」報告書
  2010.07.14 OPTIM(緩和ケア普及のための地域プロジェクト)

 都内共通のがん地域連携クリティカルパスを用いたがん診療連携について
   (WEB版 都医ニュース 2010年6月15日)
  http://www.tokyo.med.or.jp/kaiin/toi_news/2010/06/post_1428.html

 がん診療連携が導く新しい医療のかたち
    (週間医学界新聞 2010.07.26)
  http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA02889_01

 9月21日 14:20 16:30リンク追加


2010年09月21日 11:48 投稿

コメントが1つあります

  1. アポネット 小嶋

    Google ブログ検索をかけたら、この医療連携手帳を実際に受け取った乳がん患者さんのブログ記事がありました。

    再開(miyu の 独り言 9月15日)
     http://blog.goo.ne.jp/buchi1029/e/7c1fd654e0644e40a86100e70b2bc9bf
    (個人のブログなので、直接リンクは避けました)

    コメント欄には、この時代にアナログの手帳とは・・との書き込みの一方、期待する意見もあります。