患者本位の医薬分業の実現へ向け、厚労相リフィル処方を検討(Update)

 23日、政府の経済財政諮問会議が開催され、人材への投資を抜本的に強化や、社会保障費の抑制などを通じて財政健全化に取り組むことなどを盛り込んだ経済財政運営と改革の基本方針(いわゆる「骨太の方針」)の骨子の取りまとめが行われています。

平成29年第8回経済財政諮問会議(2017年5月23日開催)
http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2017/0523/agenda.html

「経済財政運営と改革の基本方針2017(仮称)」骨子案
http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2017/0523/shiryo_06.pdf
 
 注目点は、骨太の方針の社会保諸分野の改革の取組として掲げられた、「薬価制度の抜本改革、調剤報酬の見直し、薬剤の適正使用」に関して、「後発品使用割合80%目標達成時期を2020年9月に設定」「薬価制度の抜本改革」などともに、リフィル処方の検討を含む、「患者本位の医薬分業の実現に向けた薬局・薬剤師業務の推進」を厚労大臣が打ち出していることです。(画像クリックで内閣府資料に別ウインドウで表示)

薬価制度等の抜本的見直し・国保制度のインセンティブ改革(塩崎臨時議員提出資料)
http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2017/0523/shiryo_02.pdf

 今回こういった提案がなされた背景には、社会保障制度改革を通じて、国民生活の質(QOL)を向上させるとともに、社会面・産業面の課題解決を進めたいとする民間議員の要望が背景にあります。

国民生活の質の向上と社会面・産業面の課題解決に向けた社会保障制度改革
(有識者議員提出資料)
http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2017/0523/shiryo_01-1.pdf
http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2017/0523/shiryo_01-2.pdf

 このうちか「かかりつけ薬局の普及」については次のような記載があります。

1. 患者本位の調剤へ:処方せん依存から服薬管理へ

  • 調剤報酬体系について、外来投薬の技術料は、院内・院外処方で約3倍違う。技術料の水準の違いの妥当性を検証し、 適切に評価していく べき。
  • 実質的に特定の医療機関の処方箋のみを取り扱う、いわゆる門前・門内薬局につ いては、院内調剤と同程度の機能であることを踏まえ、評価を見直すべき。一方、 かかりつけ薬局の機能を強化すべき。
  • 重複投薬の是正、リフィル処方箋に基づく残薬抑制など、対人サービスを重視した 調剤を推進すべき。
  • あらゆる薬局で活用可能な電子版 お薬手帳の 普及や、医療等分野におけるI Dを基礎とした服薬情報 のオンライン化 を早期に進めるべき。 患者の 同意の下、受診情報や検査情報を一覧できるようにし、服薬管理を徹底できる環境 を整備すべき。

2. 非保険サービスによる健康増進支援拡大:地域の健康ハブ化

  • 保険調剤からの収入依存度を低下させ、地域医療の担い手として、健康サービス一般にかかる事業を一層拡大できるよう推進すべき。

 つまり、今回の厚労大臣のリフィル処方の推進といった提案は、民間議員の要望に沿ったものになっており、現時点で断定はできませんが、来年の診療報酬(調剤報酬)の改定に大きな影響を与える可能性があります。

 また厚労大臣は方針に示しませんでしたが、今回も民間議員は国民皆保険の持続性確保のために、次のような事項の実現も求めています。(今回はどうだろう)

  • 高額療養費制度の下、高額な医療の費用対効果を考慮するインセンティブが働きにくい仕組みになっており、高額薬剤の適正使用や後発医薬品やバイオシミラー等、高額医薬品の代わりとなる医薬品へのシフトの促進に向けルールを改善すべき。
  • セルフメディケーションを促進するため、スイッチOTC医薬品を増やしていくべき。
  • フランスのように、代替性のない高額医薬品ほど自己負担割合を減らすことも含め、薬の有効性等に応じて保険償還率を設定する仕組み等について検討すべき

 すでにこれまでのツイートでご存知だと思いますが、技術料の妥当性についてはいろいろな意見があるようですが、医薬分業の意義や、地域薬局の活用については諮問会議でのコンセンサスを得られているように思われます。(以下これから追記します)

 例えば、同じ諮問会議の評価分析WGで、印南一路・慶応大総合政策学部教授は、医薬分業の推進と薬価差益の縮小は、「薬漬け医療(処方量の増加と処方選択の歪み)」を防止している可能性があると指摘、また、診療所の医薬分業率は相対的に低いため、差益がまだ重要な収入源になっている可能性があり、診療所を中心に医薬分業を進める必要性がまだあるとしています。(効率・集約を考えるなら、強制分業もセットにしないといけないのではないかと思う)

第2回 評価・分析ワーキング・グループ(2017.04.06 開催)
http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/reform/wg5/290406/agenda.html

印南委員提出資料
http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/reform/wg5/290406/shiryou1.pdf

議事要旨
http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/reform/wg5/summary_290406.pdf

 また4月11日に開催された社会保障WGで、伊藤由希子委員は、「薬局の半数は1人薬剤師であり、2人薬剤師を含めて8割がいわゆるパパママ薬局と呼ばれる小規模店舗になっている。この小規模店舗で地域のかかりつけ機能が本質的な意味でどの程度担えるのか」 「薬局が保険適用の対物業務だけに頼るのではなく、地域包括ケアの観点から言えば、さまざまな非保険を含めたサービスを提供する仕組みが構築できないかといったことが医薬分業に関する論点」などと指摘、またある委員からも 「健康サポート薬局も同様で、どのような機能を付加していくのかも大事で あるが、将来的に患者がどのようなアウトカムを得るかが重要で、病気の症状が安定していく、再発をしない、検査値がコントロールされていくことが最終像ではないか」との意見が示され、今回の塩崎厚労相の提案に繋がっているといえます。

第19回 社会保障ワーキング・グループ(2017.04.11開催)
http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/reform/wg1/290411/agenda.html

伊藤由希子委員提出資料(「調剤・薬剤費の動向分析」を踏まえた 論点整理)
http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/reform/wg1/290411/shiryou2.pdf

議事要旨
http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/reform/wg1/summary_19th.pdf

 結局、これらを踏まえ6月9日に取りまとめられた骨太方針では、これらの多くが盛り込まれました。

経済財政運営と改革の基本方針2017
http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/2017/decision0609.html

関連部分を抜粋します。果たしてどこまで具現化するでしょうか?

 患者本位の医薬分業の実現に向け、かかりつけ薬剤師・薬局が地域における多職種・関係機関と連携しつつ、服薬情報の一元的・継続的な把握等、その機能を果たすことを推進する。そのための方策の一つとしてICTによる情報共有(あらゆる薬局で活用可能な電子版お薬手帳等)を推進する。

 調剤報酬については、薬剤の調製などの対物業務に係る評価の適正化を行うとともに、在宅訪問や残薬解消などの対人業務を重視した評価を、薬局の機能分化の在り方を含め検討する。これらの見直しと併せて、様々な形態の保険薬局が実際に果たしている機能を精査し、それに応じた評価を更に進める。

 薬剤の適正使用については、病状が安定している患者等に対し、残薬の解消などに資する、医師の指示に基づくリフィル処方の推進を検討する。また、重複投薬や多剤投与の適正化について、医師、薬剤師それぞれの役割を踏まえ、保険者等と連携した取組を推進するとともに、高齢者の生活習慣病治療薬等の重複投薬や多剤投与を含む処方の在り方について検討し、国内外の調査を踏まえ、ガイドラインの作成を含め、適正な処方に係る方策の検討を進める。さらに、効果のある患者に投薬がなされるよう、コンパニオン診断薬の研究開発等により、医薬品の効率的、効果的な使用を促進する。

 このほか、セルフメディケーションを進めていく中で、地域住民にとって身近な存在として、健康の維持・増進に関する相談や一般用医薬品等を適切に供給し、助言を行う機能を持った健康サポート薬局の取組を促進する。

 2020年(平成32年)9月までに、後発医薬品の使用割合を80%とし、できる限り早期に達成できるよう、更なる使用促進策を検討する。

6月11日追記


2017年05月23日 22:02 投稿

コメントが2つあります

  1. アポネット 小嶋

    議事要旨がアップされました

    【内閣府】
    第8回経済財政諮問会議(2017.05.23)議事要旨
    http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2017/0523/gijiyoushi.pdf

    まず、民間議員が次のような改革の考え方を述べています(薬局関連の部分を抜粋)

    薬局に関して、院内・院外処方で外来投薬の技術料が約3倍違うことに大きな疑問を持っている。もう一度、技術料の水準の違いや薬局の価値を議論して、適切な水準にしていくべきである。方向性としては、重複投薬の是正やリフィル処方箋など、新しい付加価値をかかりつけ薬局に付与していく中で、かかりつけ薬局になるための要件を厳しくする。その上で、かかりつけ薬局とそうではない薬局の報酬に大きな差をつけてはいかがか。門内薬局は、院内調剤と同程度の機能であることを踏まえると、院内処方と同じだと考えている。

    こうした取組を効果的に進めるために、お薬手帳を大変重要視している。これも電子化し、さらにデータヘルスを活用して保健医療データプラットフォームと連携することで、世界最先端の取組になっていくのではないか。

    これに対し、塩崎厚労相は次のように発言しています(関連部分を抜粋)

    昨今の医療費の伸びは、高齢化による影響分を除くと半分以上が薬剤費の伸びによる。他方、我が国は数少ない創薬国でもあり、医薬品産業は担税力も高く、成長戦略の柱として期待されている。また、薬局には、かかりつけとして患者の服薬状況の一元的かつ継続的な把握等が求められるが、いわゆる門前薬局が多く、役割を十分に果たせていない。こうした現状を踏まえ、より良い医療を効率的に提供し、経済再生と財政健全化の一体的な実現にも資するために、薬価制度や調剤報酬等の抜本的な見直しを強力に推進していきたい。

    4ページ、真に患者本位と言える医薬分業の実現は、実はあまり進んでおらず、先の「新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会」で示されたタスク・シェアリング、タスク・シフティング等による新たな保健医療ビジョン等を踏まえて、調剤報酬等を抜本的に見直す。在宅訪問ゼロが6割、高齢者が10種類以上の薬を飲んでいる例が全体の4分の1もあるなど、かかりつけ薬剤師の効果は不十分である。その機能発揮に向けた取組を強化し、重複投薬を防止するとともに、医師の指示に基づく反復使用できる処方箋、いわゆるリフィル処方を推進し、残薬確認の徹底を通じた無駄な投薬の解消などを進める。また、「門内」の薬局について、院内の機能と違いがないのならば、医薬分業の本旨に立ち返って、その機能にふさわしい調剤報酬となるよう、見直しを更に進める。

    KPI、工程表を作るべし、と高橋先生からお話をいただいた。できる限りそれに応えて、どういうペース配分で今お約束した改革を行えるのか、しっかり示していきたい。かかりつけ薬局が十分に機能を果たしていないことが改めて浮き彫りになった。真の意味で医薬分業が国民・患者のためになる制度にするために、抜本的な改革を行おうと思っている。みんな同じように色々な機能を全部やれといっても、一つ一つの薬局にはそれぞれ限界があるから、少し機能分化するなりして、地域に役立つかかりつけ薬局に育て上げていかなければいけないのではないか。

     
     つまり民間議員の要望を踏まえて、リフィル処方推進を含める改革を行うという方針をはっきりとこの場で示したということになります。

    「新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会」の報告書(→リンク)も大きな影響をあたえているようです。

    今後、中医協で医師会からの厳しい反発が出るものと思いますが、方針と掲げた以上、来年の診療報酬改定で俎上に上ることは確実です。

    報道によれば、現在の薬剤師会のスタンスは、医師会の意見を聞いてからとのことのようですが、考えられる課題や問題点は今すぐに検討する必要があるでしょう。

    また、厚労省の担当者が「リフィル処方=分割調剤」と考えていないかです。リフィル処方と分割調剤は似ているようで異なるものです。(実際の運用は、分割調剤の拡大・義務化で落ち着くようなきもするけど)

    あと、図表に対してこういう指摘も


     

  2. アポネット 小嶋

    元記事に追記更新しました。

    元記事で紹介した伊藤由希子委員については、日経DIでインタビュー記事が掲載されています。