2011年新年雑感

新年あけましておめでとうございます。

 2010年も多くの方に本サイトへの訪問を頂き、ありがとうございました。昨年は、個人の立場ですが日本アプライド・セラピューティクス学会の学術大会のシンポジストやClinical Pharmacist 2010 vol.2 No.3の特集企画(セルフメディケーション・ビッグバン)の分担執筆など、新たな経験をさせて頂きました。

 一方、薬剤師や薬局をとりまくさまざまな動きがある一年でもありました。中には、地元の話題もあり複雑な思いです。

 まだまだ、不勉強ではありますが、今年も訪問される方の期待に沿えるよう、私たちと関連の深い情報を中心にわかりやすく提供したいと思います。

 情報等の整理、海外報道の翻訳等には十分注意を払っておりますが、もし誤り等がございましたら、ご指摘頂ければと思います。また、ご意見・ご提言等ございましたら、是非メールまたは投稿のほどよろしくお願いします。

 また、地元の方におかれましては、引き続き新薬や新しい薬物療法を理解するための勉強会をはじめ、別の切り口の研究会を行いたいと思います。

 さて、今年2011年も薬局や薬剤師、くすりをめぐる話題や課題は思いついただけでも次のようなことがあります。新年雑感として、皆さんに問題提起をしたいと思います。

1.調剤報酬は抜本的に見直しか

 行政刷新会議、規制・制度改革に関する分科会のライフイノベーションWGで調剤基本料を24点に一元化すべきとの提言がまとめられるなど、医療費全体における調剤報酬を抑制しようという動きが本格化しそうです。

 年々膨れあがる(公的)医療費は、これからも効率化・適正化されることは社会の要請であり、調剤報酬も例外ではありません。そういった状況にもかかわらず、大手調剤薬局の社長の高報酬、調剤に対するポイント付与など、まだまだ調剤報酬の引き下げの余地を思わせることを社会に示してしまった影響は大きいと思います。

 調剤基本料の一元化は避けられず、また昨年、検討の対象となると噂された「薬剤服用管理歴指導料」の何らかの見直しも出てくる可能性があります。今年後半に行われる中医協での2012年からの調剤報酬の検討に注目です。

関連情報:TOPICS 
   2010.12.24 ライフイノベーションWG、調剤基本料の24点への統一を求める(Update)

2.スイッチOTCの正念場

 昨年12月にベクロメタソン点鼻薬のスイッチ品が発売開始、また今年1月には、ロキソニンのスイッチ品がいよいよ発売されますが、諸外国と比べれば、またまだ処方せん薬のOTC医薬品への転用が遅れているのが現状です。

 期待されたエパデールのスイッチは遅れそうですし、OTC医薬品への転用と薬剤師を活用したセルフメディケーションを本当にすすめる気があるのかという状況が続いています。 

 現在、望月眞弓康応大教授らが「スイッチOTC医薬品の選定要件」などについての厚生労働科学研究を行っており、春までに報告書がまとめられる予定(日薬雑誌2010年11月号p46)ですが、何らかの突破口が期待されます。

 望月氏は、日薬雑誌2011年1月号で、「少子高齢社会の中で、医療費の増加をいかにコントロールするかが需要となっている現在、健康の維持・増進、セルフケアの実践が求められる時代であると言える。働き盛りで受診時間を取ることが困難な成人では、健康診断で指摘された生活習慣病関連指標の境界領域の異常について、生活習慣の改善に努めてもなお継続する場合に利用可能な一般用医薬品を提供することは、社会的に大きな利益をもたらすと考えられる」と述べており、医師との連携も視野に入れたセルフメディケーションとスイッチOTCの活用のあり方も検討されるべきです。

 さらに、現場の薬剤師向けのOTC医薬品の情報の充実も重要です。調剤と情報でも2011年1月より連載の特集企画が開始されていますが、やはり販売時や使用者向けの資材はメーカー提供のものしかないのが現状です。現場の薬剤師の関心を高めるためにも薬剤師会など職能団体による販売指針(ガイダンス)の作成も期待されるところです。

関連情報:TOPICS
  2010.11.25 OTCエパデールの承認了承は見送り(Update2)
  2010.01.03 セルフメディケーションが根付くか(新年雑感)
  2009.02.01 欧米におけるスイッチOTCの状況
  2008.12.05 英国におけるスイッチOTC25年の歩み
  

3.一般用医薬品の通信販売・ネット販売は一部緩和か

 薬事法の経過措置終了が6月に控え、離島などへの例外措置が認められていた第一類・第二類の通信販売・通信販売の取り扱いが注目です。

 行政刷新会議だけではなく、政府の政策会議でも取上げられ、状況としては規制緩和派の声が大きくなっています。

 対面販売のあり方が大きなカギとなっていますが、遠隔医療などIT活用をすすめる社会の流れの中で、かたくなに反対を唱えるだけではあまりいい結果とならないような気もします。

 また、薬事法の根幹に関わることを変えるわけにもいかないのでしょうが、調剤薬なら自宅等に配達することができても、第一類・第二類医薬品を薬剤師が自宅等に届けて直接説明するという形であっても対面販売とならないというのは矛盾を感じます。(学校薬剤師などが特に困る)

 各団体が、十分調査や意見を聞いてから検討を行うことを求めるように、経過措置を延長して、具体的な対応策を慎重に検討すると共に、一部ネット業者主導ではなく、職能団体や消費者団体をもまきこんだ通信販売・ネット販売の詳細なガイドラインづくりも必要でしょう。

関連情報:TOPICS
 2010.11.29 IT戦略本部の専門調査会がネット販売等に関するパブコメ開始

4.薬剤師の職能のアピールをどのように行うか

 調剤と情報2011年1月号の特集企画で、厚労省の中井清人氏が執筆された「いま求められる薬剤師の発信力」というのが目をひきました。

 中井氏は、「薬剤師が何ができるのか、薬剤師の業務が医療にどのように貢献しているのかを明確に示すことが必要」と指摘し、薬剤師はエビデンスに基づく明確な主張を行っていくべきだとしています。

 本サイトでも、目に留まった新たな取り組みを紹介していますが、それが一般的な取り組みに広がっていかないのはなぜなのでしょうか?

 業界紙(誌)だけでは、関係者に眼にとまるだけで社会へのアピールにはなりません。中井氏も指摘していますが、新たな薬剤師の取り組みについて「出る杭は打たれる」ではなく、「出る杭は育てていく」ことが重要で、私も医師会などからの批判に恐れず、日薬は地域のさまざまな取り組みを一般国民にもっとアピールすべきだと思います。

 また、新たな職能に関するエビデンスの確立には大学と現場の協力が不可欠です。そして、エビデンスの確立にあたってはチェーンや独立店かかわりなく、さまざまな薬局が取り組めるものとして示すことも必要です。そのためには、立場を乗り越えた地域での調査活動が重要と考えます。当然、薬剤師会を中心とした取り組みと薬剤師会への結集も重要となります。

5.新薬ラッシュにどう対応するか

 ドラッグラグの問題もあり、海外で広く使用されている薬の国内での販売(適応症の追加も含む)が近年急増しています。

 新しい作用機序などを理解し、それを患者さんにわかりやすく伝えることは現場の薬剤師の職能の一つでもあります。

 さらに、緊急避妊薬やワクチンなど、必ずしも薬剤師が直接関わらなくても、知識として当然知っておくべき薬もどんどん増えています。

 そういった薬剤への理解を深めるため、今年も研究会を中心に理解を深めたいと思います。

6.薬の情報をどう伝えるか

 一昨年の新年雑感でも指摘しましたが、患者さんへ調剤薬の副作用について、どの程度までどのような表現で伝えるかは、ケースバイケースとは言え、現場でバラバラでよいのかということを感じます。

 特に、ロキソニンのスイッチ品の販売にあたっての情報提供の内容をみると、医師が処方した「ロキソニン」についての情報提供は、薬情で必要最少限でよいというのは矛盾を感じます。

 製薬協の「くすりのしおり」を渡すという方法もありますが、患者さんに薬を使用することについてのベネフィットとリスクについてどこまで伝えるかということも検討する必要があると考えます。

7.6年制薬剤師を迎えるにあたっての自己研鑽

 いよいよ来年4月には6年制の薬剤師が社会でてきます。ご存じのように6年制の薬剤師が学んでいる知識と実務は、4年制の薬剤師が学んだものとは大きく異なっています。

 自分自身もそうですが、日薬が2009年にまためた「薬剤師に求められるプロフェッショナルスタンダード(PS)」を基に、どこを学んでいなかったかを調べ、しっかりとした研修計画を立てることを痛感させれます。

(番外)処方せん記載のルールが徹底されるか?

 処方記載のルールの見直しが提言され、すでに1年近く経過していますが、導入についての動きは今のところないようです。

 しかし、6年制学生の国家試験も控えており、明確なスケージュールを示す必要があると思います。

関連情報:TOPICS 2010.01.29 内服薬処方せんの記載方法の在り方に関する検討会報告書

以上、本年も応援のほどよろしくお願いします。

関連情報:TOPICS 2010.01.01 新年雑感  2009.01.01 新年雑感


2011年01月01日 13:44 投稿

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