新型FLUに抗インフルンザ薬の積極投与は必要か?

 WHOなどでは持病のない新型インフルエンザ患者への投与は不要(TOPICS 2009.08.22)とされている、抗インフルエンザ薬ですが、日本感染症学会(http://www.kansensho.or.jp/)は15日、新型インフルエンザ感染者の重症化を避けるためには、持病のない成人、子どもらにもタミフルなどの抗ウイルス薬を早期に投与すべきだとする提言と診療指針をまとめ、同学会ウェブサイトで公開しています。

日本感染症学会緊急提言
「一般医療機関における 新型インフルエンザへの対応について」(第2版)
(日本感染症学会2009.9.15)
 http://www.kansensho.or.jp/news/090914soiv_teigen2.html

新型インフルエンザ 診療ガイドライン (第1版)
(日本感染症学会2009.9.15)
 http://www.kansensho.or.jp/news/pdf/influenza_guideline.pdf

 提言によれば、世界で感染が拡大している新型インフルエンザによる我が国での死亡などの被害が少ないのは、患者の早期受診と抗インフルエンザ薬による早期治療開始によるものと考えられるとして、妊婦、乳幼児及び10歳代の小児を含め、新型インフルエンザ感染症患者へはタミフルやリレンザ等の抗インフルエンザ薬で早期から積極的に治療することを勧奨しています。

 また、WHOの新型インフルエンザの治療ガイドライン(後、米国疾病対策センターでも同様のものが発表)に記載された「軽症の若年者や健常成人ではオセルタミビル(タミフル)やザナミビル(リレンザ)等の抗インフルエンザ薬の投与は必ずしも必要ではない」との見解に対しては、死亡者が多く出たメキシコやニューヨークの事例を引き合いに「危険」だと指摘するとともに、「新型インフルエンザは弱毒で季節性と変わらないので厳重な対策は緩めていい」という国内の一部意見についても、重症度はmoderate(中等度)であり、近い過去に人類が経験した(当時の)新型インフルエンザであるいわゆるアジアかぜや香港かぜの出現当時と同じようなレベルの重症度であると考えなければならないとしています。

 一方、抗インフルエンザ薬の予防投与についても、流行初期の対処が重要だとして、「新型インフルエンザ感染症により重篤化するリスク群」「医療従事者が、適切な個人防護具を着用せずに曝露(新型インフルエンザ感染症患者に、2m以内の近接した環境に、一定時間以上(すれ違っただけなどは除外)接触するなどの濃厚接触)した場合」「集団感染事例した場合のリスクが高い群(医療施設の入院患者、社会福祉施設の入所者など)が、新型インフルエンザ患者と同室していた場合」などでリスクに応じた積極的投与の検討を求めた他、医療機関の職員についても抗インフルエンザ薬の予防投与を考慮すべきとしています。(職員の家族が先に罹患していることも予想されるからだそうです)

 感染症の専門家ですから、感染拡大を最小限に食い止めるという観点で出した提言でしょうが、これをそのまま実行すれば、病院・診療所はタミフル投与希望者が殺到し、患者が溢れることでしょう。そして、備蓄が潤沢とはいえ、抗インフルエンザ薬が必要なときに必要なところに行き渡らない可能性があります。既に、簡易検査のキット不足も問題化しています。また、投与しなかった症例で予期せぬ重篤な経過をとった場合、その決断をした医師の責任が追及されることも予想されます。

 また、「世界の多くの国では、健康小児、成人までも治療するだけのノイラミニダーゼ阻害薬の備蓄がないが日本は備蓄が十分であるので積極的に使おう」という趣旨の内容にも釈然としません。感染症学会としては、発病する人が少なくなれば、病室の不足、レスピレーターの不足、抗菌薬の不足が少しでも解消され、なお、余裕があればその分を発展途上国に援助できるとしていますが、これは先進国のエゴのようにも思えてなりません。

 ブログの書き込みをみると、同学会の今回の提言について、「エビデンスがあるのか」という厳しい書き込みもあります。健康な子どもや成人に積極的な使用は必要としないとしたWHOやCDCのガイドラインは、エビデンスを踏まえたものです。日本感染症学会は、積極的な(予防)投与を勧奨するのであれば、「神戸や大阪で効果的だった」というだけではなく、臨床の現場の人たちが納得するようなエビデンスも示すことも必要ではないでしょうか。(あくまで個人的な見解です)

関連ブログ:
感染症学会が、抗インフルエンザ薬全例投与を提言したが・・・
(ステトスコープ・チェロ・電鍵 2009年9月16日)
  http://nuttycellist.blog77.fc2.com/blog-entry-1518.html

新型インフル「陰性証明」求め無用受診殺到
(内科開業医のお勉強日記 2009年9月15日)
  http://intmed.exblog.jp/8967186/

関連情報:TOPICS
 2009.08.22 普段健康な新型Flu患者に抗ウイルス薬は不要(WHO勧告)
 2009.08.11 抗インフルエンザ薬は子どもに投与すべきではない(英国研究)

参考:朝日新聞9月16日
   http://www.asahi.com/health/news/OSK200909150134.html


2009年09月17日 00:06 投稿

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