雑談系の話題です。下記の記事が気になり、いろいろググってみました。
金沢刑務所、投薬ミス処分57件 過去5年半、別受刑者らに
(共同通信 2012.09.30)(リンク切れ)
http://www.47news.jp/CN/201209/CN2012093001001680.html
たぶん上の記事
金沢刑務所、投薬ミスで職員処分57件 07年以降
(日本経済新聞 2012.09.30)
https://www.nikkei.com/article/DGXNASDG3001B_Q2A930C1CC1000/
刑務所内の投薬がからんだこういった記事は最近しばしば見かけるのですが、受刑者でも慢性疾患を持っている人がいることを考えると、受刑者の薬の管理はどのようにされているのかと思いました。
元記事は削除(ググるコピペが出てくる)されているのですが、8月19日の毎日新聞の記事によると、全国で定員は226人となっている、刑務所や拘置所など刑事施設の常勤医不足が深刻化していて、今年4月時点で過去最低の187人しか確保できていないとのことです。
また、受刑者を外部の医療機関に連れて行く場合も、逃走防止の観点から1人につき3人の刑務官が付き添っての監視が必要とのことで、刑務官の負担が少なくないそうです。
古いのですが、下記法務省のヒアリングの議事録を見ると、各刑務所に薬剤師(厚労省の管轄ではないので、法務技官になる。給料も厚生技官とは違うのでは?)も配置されているものの、「刑務所の薬剤師」でぐぐると求人がいっぱい出てくるので、非常勤も含め充足されていないことがうかがえます。(海外も同じようだけど)
行刑改革会議 第3分科会 第2回会議
(2003.09.22 開催)
http://www.moj.go.jp/shingi1/kanbou_gyokei_bunka03_gaiyou02.html
矯正医療の現状(別紙2)
http://www.moj.go.jp/content/000002281.pdf
(医師の定員が226人、看護師が252人に対し、薬剤師は35人にしかなっていないので、医療刑務所などの医療重点施設にしか常駐していないことがうかがわれる)
議事録
http://www.moj.go.jp/shingi1/kanbou_gyokei_bunka03_gijiroku02.html
今は、おそらく改善されていると思うのですが、薬に関する事項について、次のような証言ありました。
○村瀬氏 (横浜刑務所で)実際に投薬者数で見ますと約1400名中の900名,60%以上が投薬を受けており,精神科薬の処方は250名,17%に上ります。データは,当所被収容者の高齢化,有病率の高さ,薬剤依存性の高さを示唆するものと考えられ,先の犯罪傾向の高さとあわせて,横浜刑務所は医師にとって,医療を行う上で非常に困難を伴う場であるということが言えると思います。
○高久会長 それから,精神科薬17%とおっしゃいましたが,この中に睡眠薬は入っていないのですね。
○村瀬氏 睡眠薬も入っています。ただし,刑務所の生活というのは非常に睡眠時間が長い。それで運動もあまりしないという状態で,医者の立場からすれば,そんなにフルに寝られるはずはないというふうに考えております。それに対して被収容者たちは,やはり周りが寝ていれば自分も寝たいという欲求があります。それで,基本的にはなるべく出さない方針で行っており,精神科医が診て,必要であると判断された場合には,眠剤を出すという形をとっております
○高久会長 一つは,詐病とか被収容者が非常に薬を欲しがる。それで,保険ですと,3割払えということができるのですが,今は全部国費ですから医者も困るわけですね。被収容者の人達は薬をよこせ,何をせよという要求を限りなく言っている・・・・
○大橋課長 恐らく外の世界ですと利益があるように薬を出しましょうけれども,刑務所の方はそんなことは考えない。基本的に安く抑えながら出していますから,薬だけでも恐らく安いと思います。
○江川委員 先ほどドクターの方に聞くのを忘れたのですけれども,薬の種類とかそういうのは,例えば医者はこういう薬を使いたいのだけれども,刑務所にはそういうお薬がないから,あるいは仕入れてもらえないから,仕方がないから違う薬を使うとか,そういうことはあるのですか。
○大橋課長 それはあると思います。しかし,それはどこの病院でも,恐らく外でもそうだと思いますが,効能が同じような薬だとすれば,その先生が使いたい薬ではなくても,似たような薬なら使うということはあると思います。そうでないと薬の在庫が多くなって管理が大変でしょうから。刑務所でも恐らくそういうことは当然あると思いますが,一方,施設において薬の購入は,医師が薬剤師と相談しながら決めるわけですから,来たばかりの先生は「これしかない。」と言うかもしれませんが,自分が責任を持ってやれば,主導権を握れるわけです。
もう一つ,私どもがやっているのは,各施設でそれぞれ薬を持っていますよね。それで在庫などは一応登録してありますので,自分たちのところにない薬でほかにあれば,管理換えという形で,ほかの施設から取り寄せることもできますし,あるいはまとまった薬,これからこの患者が結構長く使うとなれば,新しくそれを購入するということはあります。ただ,在庫だけが残ってしまう,ちょっとだけ使って,あとは残しておくということはなるべくしないように,そういう努力をしているということだと思います。
刑務所内での医療に関する課題はさまざまなものがあるようで、改善がなかなかすすまないものもあるようです。
各刑事施設視察委員会の意見に対する措置等報告一覧表
(2009年4月末日現在)(リンク切れ)
http://www.moj.go.jp/content/000003118.pdf
一方下記によれば、一般施設である甲府刑務所では1回の非常勤の薬剤師が、また医療重点施設である府中刑務所では2名の常勤薬剤師が、八王子医療刑務所では3名の常勤医師がいるそうです。
矯正医療の現状と課題(レファレンス2007.1)
http://www.ndl.go.jp/jp/diet/publication/refer/200709_680/068005.pdf
http://www.ndl.go.jp/jp/data/publication/refer/200709_680/068005.pdf
では、海外ではどうかというと、英国では受刑者に対する薬物治療に関する指針があります。
A pharmacy service for prisoners
(保健省 2003.10)
http://webarchive.nationalarchives.gov.uk/20120503225854/http://www.dh.gov.uk/prod_consum_dh/groups/dh_digitalassets/@dh/@en/documents/digitalasset/dh_4065707.pdf
http://www.dh.gov.uk/en/Publicationsandstatistics/Publications/PublicationsPolicyAndGuidance/DH_4007054
Medication in-possession
A guide to improving practice in secure environments
(August 2005)(リンク切れ)
http://www.npc.nhs.uk/controlled_drugs/resources/Medication_in_possession/Medication_in-possession_guide.pdf
Clinical Management of Drug Dependence in the Adult Prison Setting
Including Psychosocial Treatment as a Core Part
(保健省 2006)
http://www.drugslibrary.stir.ac.uk/documents/adultprisons.pdf
PJ Online の記事によれば、刑務所の薬剤師というのは、ちょうど病院薬剤師と地域薬剤師を兼ね備えているそうで、テクニシャンもいるそうです。
また、三環系うつ薬など一般とは異なる医薬品の分類があるそうです。
Pharmacy behind bars
(Tomorrow’s Pharmacist 2012.07.12)
http://www.pjonline.com/tomorrows-pharmacist/placements/prison_pharmacy(→キャッシュ)
生涯学習プログラムもありました
Prison pharmacy(CPPE)
http://www.cppe.ac.uk/sp/sp1.asp?pid=123&ID=98
日本における薬剤師の定員を見てもわかるように、薬剤師がいたとしてもおそらく調剤だけで精いっぱいで、また受刑者という事情から受診行動と治療環境(薬の管理)に刑務官が関わる必要があり、必要な人に服薬指導や服薬管理というのは実際には難しいと思います。
行刑改革会議 第4回会議
(2003.07.14開催)
http://www.moj.go.jp/shingi1/kanbou_gyokei_kaigi_gaiyou04.html
行刑施設における医療について(別紙1)
http://www.moj.go.jp/content/000002309.pdf
議事録:http://www.moj.go.jp/shingi1/kanbou_gyokei_kaigi_gijiroku04.html
しかし、近年の高齢受刑者の増加や薬物中毒者や依存者へのアプローチや薬の管理には、薬剤師の必要性も考えられます。
また、限られた予算内でどのように医薬品を効率的に使用するかという提案も可能ではないかと思います。(下記記事によれば、米国では専門的に携わっている人もいるという)
受刑者の薬選びにも求められる薬剤師のスキル
(日経DI 2010.11.30)
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/di/column/oono/201011/517570.html
受刑者でも必要な服薬情報を含めた医療は受ける必要があり、これだけ、刑務所内での薬がらみのトラブルが少なくないのであれば、まずは実態調査が必要かも。
2017.11.08 リンク確認
2012年10月01日 01:40 投稿
関連記事です(読売なので、見出し・リンクなしのアドレスだけです)
読売新聞 2013年6月15日
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20130615-OYT1T00558.htm
http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=79642
読売新聞の独自の調査で、福島刑務所管内で2010年10月~13年3月までの間に、受刑者に他人の薬を渡したりするなどのトラブルが計42件あったことがわかったそうです。
改めて、調べてみたら、次のような訓令がありました。
被収容者の保健衛生及び医療に関する訓令
(法務省矯医訓第3293号 2006年5月23日)
http://www.moj.go.jp/content/000074522.pdf
第4章 薬剤及び医薬品
(医師等の処方した薬剤の自己管理)
第16条:
刑事施設の長は,被収容者について,自殺のおそれが高いと認められる場合,薬剤を管理する能力が乏しいと認められる場合その他薬剤の自己管理が不適当と認められる場合を除き,被収容者に,その者に対し医師等が処方した薬剤の自己管理をさせることができる。
(一般用医薬品の自弁)
第17条:
規則第32条第1項の規定により指定する刑事施設は,喜連川社会復帰促進センター,島根あさひ社会復帰促進センター及び美祢社会復帰促進センターとする。
2 被収容者に保管することを許す一般用医薬品は,総合感冒薬(かぜ薬),胃腸薬,解熱鎮痛薬,緩下剤,抗ヒスタミン薬(鼻炎又は皮膚掻痒の症状緩和を目的とするものに限る。),点眼薬,点鼻薬又は外皮用薬(塗布して使用する水虫薬及び鎮痛・鎮痒・消炎薬に限る。)であって,その副作用等により日常生活に支障を来す程度の健康被害が生ずるおそれが少ないものとする。
3 前項に規定する一般用医薬品に関し必要な事項は,矯正局長が定める。
また、具体的な運用については
被収容者の保健衛生及び医療に関する訓令の運用について(依命通達)
(法務省矯医第3344号 2007年5月30日、2011年5月23日改正)
http://www.moj.go.jp/content/000074523.pdf
10 医師等の処方した薬剤の自己管理(訓令第16条関係)
(1) 薬剤の種類
被収容者に自己管理させる薬剤については,医師等の処方により投与される薬剤の中から,各刑事施設において適当と認める薬剤を選定すること。ただし,次の薬剤については,原則として,自己管理させないこと。
ア 気管支拡張薬
イ 麻薬
ウ 抗がん薬
エ 抗結核薬(抗酸菌に作用する抗生物質を含む。)
オ 抗HIV薬
カ 冷蔵の必要がある薬剤
キ その他医師等により職員による服薬確認が必要とされた薬剤
(2) 薬剤の所持期間
被収容者に薬剤を所持させる期間については,対象者,自己管理させる薬剤の種類等に応じ,各刑事施設において個々に判断すること。ただし,内服薬については,一度に所持させる量は4週間分を限度とすること。
11 備薬箱の設置等
被収容者に対する応急措置を行うため必要な薬剤,器具及び衛生材料の整備及び取扱いについては,備薬箱の設置及び取扱規程(昭和52年法務省矯医訓第462号大臣訓令),平成3年8月14日付け法務省矯医第1816号当職依命通達「備薬等の品目及び数量並びに薬剤の使用に関する基準について」及び同日付け法務省矯医第1817号当職通達「備薬箱の設置及び取扱規程の実施について」に定めるところによること。
12 一般用医薬品の自弁(訓令第17条関係)
(1) 留意事項
被収容者の従前の一般用医薬品の使用状況,一般用医薬品に含まれる成分等を考慮し,必要に応じて購入量を減じるなど適切に医療上の措置を講ずること。特に,塩酸メチルエフェドリン,リン酸ジヒドロコディンを含有するものは,依存が形成されることがあるので注意すること。
(2) 購入の手続等
ア 購入受付日については,月に1回を下回ってはならないこと。
イ 一般用医薬品の自弁を許す被収容者に対し,用法,用量その他使用上の注意事項を確認させるとともに,体調に異変を感じたときは,直ちに職員に申し出るよう指導すること。
ウ 一般用医薬品は,領置を許さないこととし,現に使用期限が超過しているものについても,その使用を許さないこと。
管理が必要な薬が記されているけど、刑務官が管理するというのは結構負担かも。
また、受刑者の高齢化も進んでいると思うので、いろいろと気苦労もあるかと。
また、「塩酸メチルエフェドリン,リン酸ジヒドロコディンを含有するものは,依存が形成されることがあるので注意すること」っていうのも興味深い。
こういう施設こそ、薬剤師の出番だと思うんだけど。(でも、なり手はいないんじゃないかな)
最近の相次ぐ報道も関係するのか、法務省は7月2日、矯正医官の確保策を始め,今後の矯正医療が採るべき方向性についての検討を行う会議を開催すると発表しています。
矯正医療の在り方に関する有識者検討会の開催について
(法務省 2013.07.02)
http://www.moj.go.jp/kyousei1/kyousei08_00045.html
法務省、刑務所医療の検討会設置 医師不足対策
(47NEWS 2013.07.02 共同通信配信)
http://www.47news.jp/CN/201307/CN2013070201001455.html
法相 矯正施設の医師確保を検討へ
(NHK ニュース 2013.07.02)
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130702/k10015737241000.html
医師不足も問題もそうですが、適切な管理が行われていない薬の問題も取り上げて欲しいものです。