健康食品の保健機能表示とトクホ承認の簡素化が必要(成長戦略)

  5日で発表した安倍総理の成長戦略の第3弾の中には、インターネットによる市販薬の販売解禁だけではなく、私たちと関係の深い事項が規制緩和をの俎上に上っています。これも、5日に公表された規制改革会議(http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/meeting/meeting.html)の答申に記されているので紹介したいと思います。 

規制改革に関する答申~経済再生への突破口~
(平成25年6月5日 規制改革会議)
http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/meeting/2013/committee/130605/item3.pdf

「一般健康食品の機能性表示を可能とする仕組みの整備」の記述の部分を抜粋します。(気になった部分は赤字にしています)

(規制改革に関する答申54ページ~)

a いわゆる健康食品をはじめとする保健機能を有する成分を含む加工食品及び農林水産物の機能性表示の容認【平成25年度検討、平成26年度結論・措置(加工食品、農林水産物とも)】

 
 保健機能を有する成分を含む食品には、いわゆる健康食品(現在、法制上の定義はない。)をはじめとする加工食品及び農林水産物がある。しかし、現状では、これらの食品が国民のセルフメディケーションに資する場合であっても、食品に関する保健機能の表示は、保健機能食品(栄養機能食品、特定保健用食品)を除いて認められていない。

 また、現行の栄養機能食品は、規格に基づき自社の責任において機能性表示が認められている一方、特定保健用食品は、個別製品毎に国が審査し、許可する仕組みとなっており、手続きの負担が大きく、制度の活用を阻害しているとの指摘がある。

 したがって、特定保健用食品、栄養機能食品以外のいわゆる健康食品をはじめとする保健機能を有する成分を含む加工食品及び農林水産物について、機能性の表示を容認する新たな方策をそれぞれ検討し、結論を得る。なお、その具体的な方策については、民間が有しているノウハウを活用する観点から、その食品の機能性について、国ではなく企業等が自らその科学的根拠を評価した上でその旨及び機能を表示できる米国のダイエタリーサプリメントの表示制度を参考にし、企業等の責任において科学的根拠の下に機能性を表示できるものとし、かつ、一定のルールの下で加工食品及び農林水産物それぞれについて、安全性の確保(生産、製造及び品質の管理、健康被害情報の収集)も含めた運用が可能な仕組みとすることを念頭に検討を行う。

b サプリメント等の形状による無承認無許可医薬品との判別の廃止【平成25年度措置】

 
 薬事法の観点による無承認無許可医薬品の取締りにおいては、成分、効能効果、形状、用法・用量の解釈から、総合的に医薬品としての判定をすることとされている。その結果、特定保健用食品の認可においては、形状規制が既に廃止されているものの、錠剤、カプセル等形状のサプリメント等については、実態として、申請が認められないケースがあるとの指摘がある。

 したがって、現行の特定保健用食品制度において、錠剤、カプセル等形状の食品(サプリメントを含む)を認めることを改めて明確にするとともに、指導等の内容に齟齬がないよう各都道府県、各保健所設置市、各特別区の衛生主管部(局)に対して周知徹底を図る。

c 食品表示に関する指導上、無承認無許可医薬品の指導取締りの対象としない明らかに食品と認識される物の範囲の周知徹底【平成25年度措置】

 
 無承認無許可医薬品の指導取締りについて(昭和46年6月1日薬発第476号)の別紙「医薬品の範囲に関する基準」において、
・明らか食品については原則として、通常人が医薬品としての目的を有するものであると認識しないものと判断して差し支えない。
・成分、効能効果、形状、用法・用量等の解釈から、総合的に医薬品としての判定をする
とされているが、外観、形状等から明らかに食品と認識されるものについて指導を受けるケースがあるとの指摘がある。

 したがって、食品表示に関する指導において、薬事法における「無承認無許可医薬品の指導取締り」の対象としない「明らかに食品と認識される物」の範囲を運用上も明確にするため、厚生労働省は、その範囲について周知徹底する。併せて、食品表示に関する規制において禁止されている虚偽誇大な表示等に該当するかどうかの指導を行う際に、薬事法における指導取締りの内容との齟齬がないよう、消費者庁は、各都道府県、各保健所設置市、各特別区の衛生主管部(局)に上記の「明らかに食品と認識される物」の範囲及び虚偽誇大な表示等に該当するものの指導の根拠等について周知徹底する。

d 消費者に分かりやすい表示への見直し【平成25年度検討・結論、平成26年度上期措置】

 
 現行の特定保健用食品や栄養機能食品は、極めて限定的に、固定的な表現しか認められておらず、消費者に分かりにくいとの指摘がある。

 したがって、特定保健用食品や栄養機能食品においても、適切な摂取を促すとともに、消費者の選択に資する分かりやすい表示について検討の上、早期に見直しを図る。併せて、表示を行う事業者等が、表示に関するルール(広告等との違いを含む)を的確に理解でき、適切な表示(及び広告等)がなされるよう、現在、法・制度ごとにあるガイドラインやパンフレット等を、医薬品との判別も含めて、食品表示全般に係るものとして一本化する。

e 特定保健用食品の許可申請手続きの合理化、迅速化【平成25年度上期工程表策定・公表、平成25 年度検討・結論、平成26 年度措置】

 
 特定保健用食品については、消費者庁、消費者委員会、食品安全委員会、厚生労働省、国立健康・栄養研究所(又は登録試験機関)での審査を経て消費者庁長官の許可を得る仕組みであるが、申請受領からの標準審査期間が6か月とされているところ、2年以上かかった事例もあるとの指摘がある。特に、中小規模の企業にとっては、費用面からも実質的に取得が困難と言われており、制度が有効に機能していないとの指摘がある。

 したがって、特定保健用食品の許可申請手続きについて、有効性及び安全性の確認を前提として、審査工程の見直しを行うことで審査の合理化、迅速化を図り、申請企業の負担を軽減する。これに当たり、これまで申請されたものの許可に至らなかった件数(申請者が取り下げたケースも含む)や、手続きの負担(費用、期間等)がその要因と考えられる事例等を把握し、改善点を明確にし、審査内容、手続きの透明化も含め、見直しに至るまでの具体的な工程表を策定・公表する。

f 栄養機能食品の対象拡大【平成25年度検討、26年度結論・措置】

 
 栄養機能食品として機能を表示できる対象成分は、現在、ビタミン(12 種類)、ミネラル(5種類)のみであり、極めて限定的である。

 したがって、栄養表示基準や食事摂取基準との整合を図るとともに、海外の事例も参考に、栄養機能を表示できる対象成分を拡大する。

 簡単に言えば、健康食品に具体的な保健機能(医薬品でいう効能・効果)を認めること、トクホの承認を容易にするというもので、 しかもデータは、企業自らが科学的根拠を示せさえすればよいというものです。

 今回の、規制緩和の要望は、大阪大学大学院医学系研究科教授でアンジェスMG株式会社取締役の森下竜一氏が提案し、健康・医療ワーキング・グループでの議論を経て、答申に盛り込まれたわけですが、あまりにも、企業寄りのスタンスと思って、いろいろ調べたのですが、アンチエイジングなどの対応ににサプリメント等を活用したいという純粋の思いで、今回の提案をしたようです。(でもこの人、バルサルタン(ディオバン)問題でも名前が出てくるんだけどなあ)

規制改革による 成長産業育成を目指して
(第2回規制改革会議 森下委員提出資料)
http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/meeting/2013/committee/130215/item4.pdf
(機能性表示制度や安全性表示がされれば、医療費削減・輸出産業育成・国内雇用が促進されるというけど・・・)

健康食品表示の改革、道筋は引かれた~規制改革会議・森下委員インタビュー
(NET IB NEWS 2013.06.03-04)
http://ib-kenko.jp/2013/06/post_835_0603_dm1248_1.html
http://ib-kenko.jp/2013/06/post_835_0604_dm1248_1.html

『一般健康食品の機能性表示の容認』
にかかわる規制・制度改革の要望
(規制改革会議 第2回健康・医療WG 健康食品産業協議会提出資料)
 (その1)(PDF形式:848KB)、(その2)(PDF形式:890KB)
 (その3)(PDF形式:948KB)、(その4)(PDF形式:792KB)

 でも、これらすべてが日本において導入されたらどうなってしまうんだろうという思いはあります。 

 ツイッター上でも、「製造販売側の影響力が強い米国の状況を「先進的」とするのは誤りであり、国民の健康と安全を危険にさらす」とか、「魅力的な宣伝文句信じて医学知識のない一般人は食いつくのでは」といった懸念する声もあります。(NET IB  NEWS によれば、米国の制度をそのまま導入する意図はなく、「参考」に留めるとのこと)

フラッシュバック”規制改革会議”~健康食品の機能性表示にGOサイン
(NET IB NEWS 2013.06.07-10)
http://ib-kenko.jp/2013/06/go_0607_dm1248_4.html
http://ib-kenko.jp/2013/06/go_0610_dm1248_1.html

健食は規制改革が必要だ
(通販新聞 2013.04.29)
http://www.tsuhanshinbun.com/column/2013/04/post-155.html

米国食品安全近代化法とサプリメント
(NET IB NEWS 2013.01.01-02)
http://ib-kenko.jp/2013/01/post_834_0101_ik_ib1217_01.html
http://ib-kenko.jp/2013/01/post_834_0102_ik_ib1217_02.html

 一方、こういった規制緩和が行われれば当然、近い将来こういった商品が薬局・薬店でもあふれることになり、また生活者や消費者に取扱いの要望を受けることになります。

 答申の中で気になったのが、「これらの食品が国民のセルフメディケーションに資する」という部分です。健康食品についてはその効用を否定するものではありませんが、まずは食生活やライフスタイル改善が優先されるべきであり、「こういったものさえとれば、健康が改善される」とも取れる、この答申には若干の懸念があります。

 また有害事象があった場合の日本の報告制度も現状では十分でなく、これについての検討も必要です。

 私たちは、今後この規制緩和の成り行きに注視するとともに、生活者・消費者に適切なアドバイスができるよう、エビエンスの評価についての能力を身に着ける必要があるのではないでしょうか。

関連情報:TOPICS
 2013.01.30 健康食品の表示や広告の適正化の取組強化が必要(消費者委)
 2012.05.29 消費者の「健康食品」の利用に関する実態調査(消費者委)
 2012.04.29 食品の機能性評価モデル事業(消費者庁)

 関連論文・記事:
薬学雑誌・誌上シンポジウム(Vol. 128(2008) No. 6)
https://www.jstage.jst.go.jp/browse/yakushi/128/6/_contents/-char/ja/

先進国における健康食品に関する 安全性評価のための調査報告書
(2007.3 財団法人 未来工学研究所)

欧米におけるサプリメントに対する取組み
(薬学雑誌 128(6) p839-850,2008)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/yakushi/128/6/128_6_839/_article/-char/ja/
https://www.jstage.jst.go.jp/article/yakushi/128/6/128_6_839/_pdf

「食品機能と健康」に関するアンケート 報告書
(財団法人 医療経済研究・社会保険福祉協会 食品機能と健康ビジョン研究会 2009.11)
http://www.shafuku.jp/healthfood/pdf/shokuhin_kino.pdf

第18回健康食品フォーラム報告書(2009.10.05)
http://www.shafuku.jp/pdf/18kenkoforum.pdf

GAO → FDA:サプリメントの害を軽視しすぎと・・・日本なら内閣・総務省あたりが厚労省へ指導に相当すると思うのだが・・・
(内科開業医のお勉強日記 2013.03.22)
http://kaigyoi.blogspot.jp/2013/03/gao-fda.html

サプリメーカーが語りたがらない10の事実
(wsj日本版 2013.05.05)
http://jp.wsj.com/article/SB10001424127887324082304578463592291432044.html

6月10日 リンク追加 11日追記


2013年06月09日 00:43 投稿

コメントが4つあります

  1. アポネット 小嶋

    主婦連(主婦連合会)は12日、内閣総理大臣、消費者担当大臣、厚生労働大臣、農林水産大臣、消費者庁長官、消費者委員会委員長に対し、健康食品表示の規制緩和に反対する申し入れを行なっています。

    健康食品表示の規制緩和に反対~主婦連合会が警鐘
    (NET IB NEWS 2013.06.13)
    http://ib-kenko.jp/2013/06/post_835_0613_dm1248_2.html

    消費者被害を助長・拡大させる「いわゆる健康食品」及び「保健機能食品」の規制緩和に断固反対します~規制改革会議の答申は「消費者目線」ではありません~
    (主婦連 2013.06.12)
    http://www.shufuren.net/modules/tinyd9/index.php?id=175

    主婦連では上記答申についての問題点を指摘するとともに、「いわゆる健康食品に対する届出制度・登録制度等の導入」「 いわゆる健康食品への警告表示の義務化」「 特定保健用食品(トクホ)への「更新制度」の早期導入」「事故情報の報告義務化」などについての要望を行ったそうです。

  2. アポネット 小嶋

    NET IB NEWS の配信記事です。

    健康食品の新表示制度は企業・団体の自己責任へ~消費者庁が検討
    (NET IB NEWS 2013.06.21)
    http://ib-kenko.jp/2013/06/post_835_0621_dm1248_1.html

    国がお墨つきを与えるかたちの第三者認証制度は導入せず、企業や団体が自己責任のもと、実施する仕組みを消費者庁が検討しているとのことです。

    マンパワーが足りないとかで、トクホのような仕組みは困難と判断したらしく、商品に「国が認めた表示でない」などと表示させて、表示は企業任せ、購入者は自己判断でということになるということらしいですが、いいんですかね?

    未知の副作用などが出た時に報告や評価のシステムだってきちんとしていないのに。

  3.  『先進国』米国に倣うとすると、健康被害が多発し、死人も出るようになってから、医薬品に準ずる形で重篤副作用事象の報告義務を課する形になるのでしょう。
     米国でも、Disclaim(米FDAの許可にかかわる文言ではない旨の明記)で、供給者責任での標示を許し、消費者の判断に任せるということが先行しましたから。

  4. アポネット 小嶋

    NET IB NEWS の続報です。

    消費者庁の新機能性表示制度、安全対策も焦点
    (NET IB NEWS 2013.06.25)
    http://ib-kenko.jp/2013/06/post_835_0625_dm1223_1.html

    消費者庁主導で、米国のダイエタリーサプリメント制度の全項目をリストアップし、それぞれの項目ごとに新制度への導入の可否について検討するらしいです。

    消費者庁の当事者能力に疑問ですね。

    健康食品の新機能性表示制度の検討は厚労省か食品安全委員会が主導した方がいいと思うんだけど。