プロトピック軟膏の小児への安全性(米FDA)

 共同通信での報道があるまで気付かなかったのですが、22日に開催される米FDAの小児科諮問委員会(Pediatric Advisory Committee)で、他の10の薬剤とともにプロトピック軟膏の安全性についての検討が行われるそうです。

March 22, 2010: Meeting of the Pediatric Advisory Committee Meeting Announcement
http://www.fda.gov/AdvisoryCommittees/
CommitteesMeetingMaterials/PediatricAdvisoryCommittee/ucm201876.htm

 検討会で検討されるレビュー結果についての資料は下記のページに掲載されています。

Briefing Information for the March 22, 2010 Meeting of the Pediatric Advisory Committee
http://www.fda.gov/AdvisoryCommittees/
CommitteesMeetingMaterials/PediatricAdvisoryCommittee/ucm204710.htm

 諮問委員会に提出されるレビューには、Calcineurin Inhibitorsのプロトピック軟膏とElidel (pimecrolimus) Creamを使用した0~16歳の有害事象の報告がまとめられていて、FDAには2004年1月1日から2009年1月1日までの5年間に両剤合わせて、リンパ腫が17例(ホジキン病3例、非ホジキン性リンパ腫14例)、白血病13例(急性リンパ性白血病9例、急性骨髄性白血病2例、その他白血病2例)、皮膚の悪性腫瘍8例(メラノーマ5例、その他悪性腫瘍3例)、その他悪性腫瘍8例(肺がんなど)の合計46例(プロトピックが15例、Elidelが27例、両剤使用が4例、海外報告が9例)の報告があり、このうち死亡は4例(プロトピック1例、Elidel3例)だったそうです。

 またこの他に、感染症が71例、ヘルペスなどの皮膚感染症が43例あったそうですが、感染症にさらされやすい年齢であることから、因果関係は明確ではないとしています。

 なお症例には、悪性例(9ヶ月の乳児と5歳児の2例)、感染症例共に日本の症例も含まれていてます。

Topical Calcineurin Inhibitors: Safety Review (PDF – 374KB)
Topical Calcineurin Inhibitors: Safety Review – Addendum (PDF – 63KB)

 FDAによれば、症例の中には適応対象外の子ども(2歳未満)に使ったり(50%)、長期間(1年以上)使い続ける(41%)、大人用の0.1%製剤を使用(26%)するなど、使用法が守られていないケースが少なくなく、今後これらのリスクを黒枠警告に盛り込むことが検討されるようです。

Topical Calcineurin Inhibitors: Update on Safety Profile: FDA Presentation Slides (PDF – 200KB)(off-label use に関する記載は p18-19)
Topical Calcineurin Inhibitors: Regulatory Background: FDA Presentation Slides (PDF – 55KB)

 なお、米国では両剤の使用は、発がんリスクが指摘されてからは急減し、2004年頃のピーク時の1/4以下に大きく減っているようです。(シェアはElidelの方がかなり多いので、両剤のリスクは同等?)

Topical Calcineurin Inhibitors: Use Review (PDF – 298KB)

 日本でも、以前からプロトピック軟膏の発がんリスクは指摘されているところですが、日本でも同様の報告がないのか、また、実際処方する際にどれだけ患者(保護者)に情報提供が行われているか検証する必要がありそうです。

関連情報:『薬のチェックは命のチェック』インターネット速報版No.36(2003.3.10)
 http://www.npojip.org/sokuho/031010.html

参考:
米でアトピー薬使用後にがん 5年間で子ども46人
(47NEWS 3月21日 共同通信配信)
http://www.47news.jp/CN/201003/CN2010032101000343.html

3月23日 11:10 リンク追加


2010年03月22日 00:11 投稿

コメントが3つあります

  1. アポネット 小嶋

    米医薬品監視団体 Public Citizen のSidney M. Wolfe 氏はこの問題について、小児への使用はさらなる注意喚起ではなく、禁止すべきだとしています。

    Testimony on the Cancer Risk of Calcineurin Inhibitor Skin Medications Tacrolimus (Protopic) and Pimecrolimus (Elidel)
    (Public Citizen 2010.3.22)
    http://www.citizen.org/Page.aspx?pid=3126

    同氏は昨年12月に The Annals of Pharmacotherapy 誌に掲載された論文を取り上げ、tacrolimus を臓器移植に伴う拒否反応に対して内服で使用することについてベネフィットがあるものの、T細胞リンパ腫のリスクを増すことが知られているものを子どもに与えることは臨床的な価値がないとしています。

    Association Between Exposure to Topical Tacrolimus or Pimecrolimus and Cancers
    (Ann Pharmacother 2009;43:1956-1963)
    http://www.theannals.com/cgi/content/abstract/43/12/1956

    この研究は、アトピー皮膚炎または湿疹の診断を受けた953,064人のデータを解析(retrospective cohort observational study)したもので、tacrolimus または pimecrolimus の外用薬を使用している人たちの間で発がんリスク全体では増加リスクは見られなかったものの、T細胞リンパ種については、tacrolimus で5.44倍(有意差有り)、pimerolimus で2.32倍(有意差なし)リスクが高まったそうです。

    同氏は、大人についても同様のデータがはっきりしたのならば、禁止の勧告をしたいとしています。

  2. アポネット 小嶋

    新聞報道に対する、ブログ記事をピックアップしました。

    脱ステロイド関連の文献を読む。
    (Doctors Blog 医師が発信するブログサイト 3月23日)
    http://blog.m3.com/steroidwithdrawal/20100324/1

    プロトピック軟膏については、過去の記事でもわかりやすく触れています。

    一方、次の記事は一般向けの解説といったところでしょうか

    プロトピック軟膏で死亡例が報告→リンク
    (あとぴナビブログ 3月27日)

    使わざるを得ない患者さん、とりわけ子どもが使う場合、即ち保護者に対して、処方医はきちんとベネフィットとリスクを伝えるべきでしょう。しかし、ブログ記事を読むと、必ずしもそうではないようです。

    説明を受けていなかった人が薬局で質問した場合、どのように答えるかは難しい問題だと思います。

  3. アポネット 小嶋

    8月4日開催の平成22年度第1回薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会で、2010年3月31日までの発がん関連の副作用報告状況が公表されています。

    資料7-4 タクロリムス軟膏製剤の副作用報告状況について
    (平成22年度第1回薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会)

    これによれば、プロトピック軟膏0.1%で17例(16歳以上15例、15歳以下2例、うち、不適正使用によると思われるもの2例=いずれも禁忌である小児に使用)、プロトピック軟膏0.03%小児用で2例(16歳以上0例、15 歳以下2例、うち、不適正使用によると思われるもの0例)だったそうです。