安定ヨウ素剤の(事前)配布に薬剤師の役割が重要になる

 医薬品のネット販売解禁の発表と重なり紹介が遅れてしまいましたが、原子力規制委員会は5日開催の定例会で、原発事故時の甲状腺被ばくを防ぐ安定ヨウ素剤の事前配布方法などが盛り込まれた「原子力災害対策指針」の改定を決めています。

第9回 原子力規制委員会(2013.06.05)
 資料:http://www.nsr.go.jp/committee/kisei/20130605.html
議事録:http://www.nsr.go.jp/committee/kisei/data/20130605-kisei.pdf

 ご存じの通り、福島原発事故時の安定ヨウ素剤の配布と予防的服用については、備蓄が十分にあったにも関わらず十分な活用が行われなかったとされています。

 そこで、原子力規制員会は今年4月、原発の半径5キロ圏内の住民を対象にした安定ヨウ素剤の事前配布の方法や放射線モニタリング(測定)の枠組みを盛り込んだ原子力災害対策指針の改定案をまとめ(TOPICS 2013.04.10)、パブリックコメントを開始しました。

 改定案では事前配布でくすりの専門家である薬剤師の関与が全く記されていませんでしたが、最終案を確認したところ、TOPICS 2013.04.10 で指摘した通りの修正が行われました。(パブコメを出していただいた方ありがとうございます)

③ 安定ヨウ素剤予防服用の体制
(ⅰ)安定ヨウ素剤の予防服用について
 放射性ヨウ素は、身体に取り込まれると、甲状腺に集積し、数年~十数年後に甲状腺がん等を発生させる可能性がある。このような内部被ばくは、安定ヨウ素剤をあらかじめ服用することで低減することが可能である。このため、放射性ヨウ素による内部被ばくのおそれがある場合には、安定ヨウ素剤を服用できるよう、その準備をしておくことが必要である。

 ただし、安定ヨウ素剤の服用は、その効果が服用の時期に大きく左右されること、また、副作用の可能性もあることから、医療関係者の指示を尊重して合理的かつ効果的な防護措置として実施すべきであり、ある。また、体制整備に際しては、関連法制度及び技術面等の最新の状況を反映するよう努めるとともに、以下のような点に留意する必要がある。

  • 服用の目的や効果とともに副作用や禁忌者等に関する注意点等については事前に周知する必要がある
  • 地方公共団体は、原子力災害時の副作用の発生に備えて事前に周辺医療機関に受入の協力を依頼等するとともに、緊急時には服用した者の体調等を医師等が観察して必要な場合に緊急搬送が行うことできる等の医療体制の整備に努める。
    また、平時から訓練等により配布・服用方法の実効性等を検証・評価し、改善に努める必要がある。

(ⅱ)事前配布の方法
 原子力災害対策重点区域のうちPAZ(※ Precautionary Action Zone、予防的防護措置を準備する区域。施設から5km 圏内目安)においては、全面緊急事態に至った場合、避難を即時に実施するなど予防的防護措置を実施することが必要となる。この避難に際して、安定ヨウ素剤の服用が適時かつ円滑に行うことができるよう、以下の点に留意し、平時から地方公共団体が事前に住民に対し安定ヨウ素剤を配布することができる体制を整備する必要がある。

  • 地方公共団体は、事前配布用の安定ヨウ素剤を購入し、公共施設(庁舎、保健所、医療施設、学校等)で管理する。
  • 地方公共団体は、事前配布のために原則として住民への説明会を開催する。説明会においては、原則として医師により、安定ヨウ素剤の配布目的、予防効果、服用指示の手順とその連絡方法、配布後の保管方法、服用時期、禁忌者やアレルギーを有する者に生じ得る健康被害、副作用、過剰服用による影響等の留意点等を説明し、それらを記載した説明書とともに安定ヨウ素剤を配布する。
  • 地方公共団体は、説明会に参加できない住民に対しては、医師による説明を受けることができる公共施設や医療機関に住民が出向き、説明を受けた上で受領できるよう対応する必要がある。歩行困難である等のやむを得ない事情により説明が受けられない者には、説明会に参加した家族や公共施設等に出向いた家族等が代理受領し、説明書とともに説明内容を当該対象者に伝えることを確認した上で配布する。
  • 地方公共団体は、配布や代理受領に際しては、他の者に譲り渡さないよう指示するとともに、調査票等への回答や問診の実施等を通じて禁忌者やアレルギーの有無等の把握に努める。
  • 地方公共団体は、配布等を円滑に行うために、説明会等において、薬剤師に医師を補助等させることができる 。
  • 地方公共団体は紛失等により安定ヨウ素剤を即時に服用できない住民や一時滞在者等に対して追加配布できるよう予備の安定ヨウ素剤を備蓄する。また、追加配布方法等について説明会等を通じて説明する。
  • 地方公共団体は、放射性ヨウ素による内部被ばく予防が必要な住民に対して必要な量以外に安定ヨウ素剤を事前配布しない。必要な量の安定ヨウ素剤のみを事前配布する。
  • 地方公共団体は、原子力災害時の副作用の発生に備え、事前に周辺医療機関に受入の協力を依頼する等の救急医療体制の整備に努める。((ⅰ)の項に移動)
  • 地方公共団体は、転出者又は転入者があった場合は速やかに安定ヨウ素剤を回収又は配布するよう努める。また、安定ヨウ素剤の更新時期の管理方法と期限切れ製剤の確実な回収方法についてあらかじめ定め、実施する。

(ⅲ)事前配布以外の配布方法
 PAZ外においては、全面緊急事態に至った場合、プラント状況や空間放射線量率等に応じて、避難等の防護措置を講じることとなる。そのため、以下の点に留意して、避難等と併せて安定ヨウ素剤の服用を行うことができる体制を整備する必要がある。

  • 地方公共団体は、緊急時に備え安定ヨウ素剤を購入し、避難の途中に際に学校や公民館等で配布する等の配布手続きを定め、適切な場所に備蓄する。
  • 緊急時の住民等への安定ヨウ素剤の配布・服用は、原則として、原子力規制委員会が判断し、原子力災害対策本部又は地方公共団体の指示に基づき行う。
  • 安定ヨウ素剤の配布・服用は、原則として医師が関与して行うべきである。ただし、時間的制約等のため必ずしも医師が関与できない場合には、薬剤師の協力を求める等、状況に応じて適切な方法により配布・服用を行う。

 なお、EAL(※ Emergency Action Level、緊急時活動レベル)の設定内容に応じてPAZ内と同様に予防的な即時避難を実施する可能性のある地域、避難途中の際に学校や公民館等の配布場所で安定ヨウ素剤を受け取ることが困難と想定される地域等においては、地方公共団体が安定ヨウ素剤の事前配布を必要と判断する場合は、前述のPAZ内の住民に事前配布する手順を採用して、行うことができる。

議事録(p8)より

具体的にいただいた御意見の中で、薬剤師の活用も考えるべきであるという御意見を頂戴いたしました。通常は医薬品、医師の処方に基づく取扱いで、安定ヨウ素剤についてはやることを原則としておりますけれども、医師の説明でありますとか、あるいは緊急時の配布に関しまして、こういったものを補助する、あるいは医師が不在の場合に説明をする者としての薬剤師の役割についても今回指針に追加をして、位置づけさせていただきました。

意見の募集結果より

2.安定ヨウ素剤に関する御意見

  • 安定ヨウ素剤を事前配布する範囲を拡大すべき。
  • 事前配布を行わない地域における配布・服用方法について明確化すべき。
  • 甲状腺被ばくの健康影響が大人に比べて大きい子供への対応について明確化すべき。
  • 安定ヨウ素剤の取り扱いをより柔軟にすべき。
  • 安定ヨウ素剤の副作用等の対応について具体化すべき。
  • 安定ヨウ素剤の整備については、国が主体的に関与すべき
  • 緊急時の指示系統等を明確化すべき。
  • 国の指示を待つのではなく、地方公共団体や個人の判断で服用できるようにすべき。
  • そのほか安定ヨウ素剤の取り扱いについて具体化すべき。
  • 安定ヨウ素剤の服用以外の対策も充実すべき。

(具体的意見・抜粋してすみません)

(意見17)

 安定ヨウ素(ヨウ化カリウム、以下KI)について。

今回の指針で、KI配布に関して薬剤師の関与が全く触れられていないのは残念です。医師が関与するのは当然ですが、医薬品の専門家である薬剤師がもっと関わってもよいのではないでしょか。

薬剤師法第1条では薬剤師は医薬品の供給を業務とし、薬剤師法25条の2では情報提供を義務化しております。薬剤師は医薬品の最高責任者といえます。法的にも。備蓄、配布に関しても管理薬剤師のいる薬局の利用なども考慮してもよいと思う。

また、小児等への投与ですが、原末の劇薬を使用しシロップにしたりする必要もあるかと思います。これは調剤行為となり薬剤師の独占業務になります。この問題もクリアになっていません。

丸剤内服困難者へのシロップ調製、原末の分包は完全に薬剤師法にいう調剤行為で薬剤師の独占業務です。

また、メーカが規定している『使用期限』はいわいる患者に交付後の期限として規定されていません。あくまでも、管理薬剤師等の医療従事者が適正に管理した状態での流通上の期限です。一般人が家庭で保管した場合の期限に関して全くデータがありません。シロップや原末の分包などはなおさら。

また、薬剤師は薬害を予防する責務があります。KIは臨床試験が行われておらず副作用の種類や発現率、併用薬との相互作用、妊婦、授乳婦への安全性など添付文書上クリアになっていない部分もあります。放射線障害への使用は適応外使用ですが、これは承認の動きがあると聞いていますが、有害事象が出た場合の救済の問題も出てきます。

もう少し薬剤師会、薬学者等と連携をとり、薬あるところに薬剤師ありで薬剤師の活用を考慮してください。

 

(意見24)

「原子力災害対策指針(改定原案)」について、下記のように修正すべきである。

1 修正箇所
第2の(7)の〇3の(iii)「事前配布以外の配布方法」の次の部分

  • 安定ヨウ素剤の配布・服用は、原則として医師が関与して行うべきである。
    ただし、時間的制約等のため必ずしも医師が関与できない場合には、状況に応じて適切な方法により配布・服用を行う。

2 修正後の記載
次のとおり(下線部分が修正箇所及び追加内容)。

  • 安定ヨウ素剤の配布・服用は、原則として医師が関与して行うべきである。
    ただし、時間的制約等のため必ずしも医師が関与できない場合には、看護師、薬剤師等の医療関係者が、状況に応じて適切な方法により、配布し、服用させる。
  • 安定ヨウ素剤の配布に際しては、安定ヨウ素剤の配布目的、予防効果、禁忌者やアレルギーを有する者に生じる健康被害、副作用、過剰服用による影響等の留意点等を説明し、それらを記載した説明書を交付する。
  • 地方公共団体は、安定ヨウ素剤の配布を受けた住民に対して、他の者に譲り渡さないよう指示するとともに、禁忌者やアレルギーの有無等の把握に努める。
  • 地方公共団体は、歩行困難である等のやむを得ない事情により説明が受けられない者については、説明を受けた家族等が説明内容を当該者に伝えることを確認した上で、説明書とともに配布する。
  • 地方公共団体は、住民に対して必要な量以上の安定ヨウ素剤を配布しない。

3 修正の理由
(1)「医師が安定ヨウ素剤の配布に関与できない場合でも、できる限り薬剤師等の医療関係者に関与させることを明記すべきである。
※ 福島県薬剤師会では、平成25年度から「放射線ファーマシスト」の養成に着手した。福島県内で薬剤師として働く上で、県民に対して放射線に関する的確な知識の啓発を行うことが求められている。この養成の一環として、安定ヨウ素剤に関する研修も行う。

(2)「(ii) 事前配布の方法」の項に記載されている事項であって、「(iii) 事前配布以外の配布方法」項においても明記すべきと考えられる事項を追加した。

 学校での安定ヨウ素剤の備蓄の可能性、事前配布や緊急時における配布での薬剤師の関与、訓練等により配布・服用方法の実効性等を検証・評価といったことが盛り込まれたことで、原子力関連施設が身近にある薬剤師(とりわけ学校薬剤師)には、その役割が今後重要になると思われます。(福島県薬の「放射線ファーマシスト」というのはどういうものだんだろう?)

関連情報:TOPICS
 2013.04.10 ヨウ素剤事前配布、医師が立ち会い説明会で。薬剤師は?
 2012.07.29 原子力災害時における安定ヨウ素剤の使用と薬剤師の役割

参考:
事故時のヨウ素剤、説明会で配布 原子力規制委が原発災害指針改定
(47NEWS 共同通信 2013.06.05)
http://www.47news.jp/CN/201306/CN2013060501001469.html


2013年06月07日 23:42 投稿

コメントが1つあります

  1. アポネット 小嶋

    関連記事です。「放射能ファーマシスト」は主に学校薬剤師が担うようです。

    県薬剤師会が養成へ 放射線詳しい「ファーマシスト」
    (福島民友 2013.06.24)
    http://www.minyu-net.com/news/news/0624/news5.html

    福島県薬では、放射能医学総合研究所の協力を得て、初級、中級、上級の3種類のテキストを作り、会員を対象とした講座を開講するそうです。

    福島県薬では、放射線ファーマシストとして養成された学校薬剤師を通じ、子どもたちにも放射線に関する正しい理解を広めていきたいとのことです。