漢方・鍼灸を活用した日本型医療創生のため調査研究

 業界紙で既にご存じの方もいるかもしれませんが、漢方・鍼灸の活用を検討してきた『漢方・鍼灸を活用した日本型医療医療のための調査研究』班会議(班長:黒岩祐治国際医療福祉大学大学院教授)が提言をまとめ、2月25日に発表しています。

 この調査研究は、漢方・鍼灸の積極的活用を通じた「新しい日本型の医療」創生に向けた諸課題の検討するため、平成21年度厚生労働科学特別研究事業として行われたもので、1)科学的根拠(エビデンスの確立)、2)人材(専門的な医療従事者の養成)、3)生薬資源(安定的確保と地域振興)、4)情報発信(社会全般における理解の深耕)、5)体制(調査・研究機関の整備等)、6)国際的な課題への対応、など私たちにも関連深いテーマで調査・研究が行われました。

 この調査研究で特筆すべき点は、非公開で行われた第5回の会議を除き、討議の様子が詳細な議事録とプレゼンテーションスライドがWEBで公表されており、漢方や鍼灸をめぐる諸問題についてのディスカッションの様子を知ることができる点です。

漢方・鍼灸を活用した日本型医療創生のため調査研究
平成21年度厚生労働科学研究費補助金(厚生労働科学特別研究事業)
http://kampo.tr-networks.org/sr2009/

 まず目を引いたのは、漢方薬・生薬に関する薬剤師教育の充実について問題提起した佐竹元吉氏(富山大和漢医薬学総合研究所)のプレゼンテーションです。 

 佐竹氏は34ページのスライドで、「漢方薬・生薬製剤には多種多様な生薬類が配合されており、含有成分はさらに複雑多岐にわたる。吸収、代謝、排泄、体内動態のパターンはほとんど不明で、効能・効果の評価、副作用の発現、原因の把握は困難であり、有効性・安全性に関するいわゆる科学的根拠に基づくデータが不足」「大衆保健薬のレベルにおける医薬品情報の提供が行き届かない」「適正使用のための選択、使用上の注意に関する情報が不足」などを指摘し、次のような具体例を挙げています。

  • 「葛根湯」には発汗を促す作用が期待されるので汗の出やすい状況で服用し麻黄成分エフェドリンの吸収促進のため胃内pHの高い状況で服用す る
  • 一方、「小青竜湯」は有効性を確保しエフェドリンによる副作用回避のため何回かに分けて服用する
  • 「八味地黄丸」「真武湯」などの附子配合処方ではいないpHによりアコニチン吸収が変化する。H2ブロッカーやプロトンポンプ・インヒビターとの併用は危険である

 また、日本薬剤師研修センターの「漢方・生薬認定薬剤師」の認定制度ができたいきさつも興味深いものがあります。

 この他にも、エビデンスや生薬の供給の問題など、さまざまな問題が提起されており、漢方を取り組まれている方は是非一読することをお勧めします。

 そして、2月25日に示された提言では、次の5項目についての具体的対応を行うことを求めています。

  1. 体質にあった「オーダーメイド医療」実現のための基盤整備
  2. 生物資源の安定的確保
  3. 国際ルール作りへの迅速・積極的な対応
  4. 国民への知識普及
  5. 施策推進のための組織的整備

提言:http://kampo.tr-networks.org/sr2009/wp-content/uploads/2010/03/proposal-100225.pdf

参考:
漢方をどうしたいか国民に問う 班会議が提言
(ロハス・メディカル2月25日)
http://lohasmedical.jp/news/2010/02/25170242.php
【厚生労働科学研究班】伝統医学発展で提言‐EBMの確立が必要
(薬事日報 HEADLINE NEWS 3月1日)
http://www.yakuji.co.jp/entry18291.html


2010年03月11日 01:01 投稿

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