日本における個人輸入の実態とネット販売規制の国際的動向

 TOPICS 2010.01.18 に続き、厚生労働科学研究成果に掲載されている報告書の紹介です。社会薬学会年会のポスターで概要が紹介されていたので、掲載を楽しみにしていました。(報告書自体は既に公開されているので、ご存知の方もいるかと思いますが)

 この報告書は、金沢大学医薬保健研究域薬学系の木村和子教授らの研究グループがまとめた「医薬品等の個人輸入における保健衛生上の危害に関する研究」というもので、下記サイトからその内容を見ることができます。

医薬品等の個人輸入における保健衛生上の危害に関する研究
(平成20(2008)年度 厚生労働科学研究)
http://mhlw-grants.niph.go.jp/niph/search/NIDD00.do?resrchNum=200838071A

 報告書は、4つの分担研究報告と木村氏らによる総括研究報告書で構成されており、いずれもが興味深い内容となっています。以下4つの分担研究の概要を紹介します。

1.個人輸入に関する消費者の実態調査(ファイル1の後半から)

 医薬品の個人輸入というと日本での実態はなかなか明らかにされてきませんでしたが、研究者らは、質問票を作成しプレテストを実施した上で、インターネットリサーチ会社の登録者を対象に調査に興味を持った会員13,229人から回答を得たというものです。

 その結果、回答した5%(663人)が実際に医薬品の個人輸入を経験したと答え、このうちの86.3%(572人)がインターネット上で注文したことがあると答えたそうです。個人輸入した医薬品で最も多かったのが性機能増強薬(22.0%)で、育毛・養毛薬(18.4%)、ダイエット関連薬(18.3%)が続き、避妊関連薬(5.7%)や性病治療薬(2.7%)もいたそうです。

 また、個人輸入をした動機について尋ねると、値段が安かった(55.7%)、インターネット上で手軽に注文できた(56.6%)と答えた人が多かった他、日本では販売されていない医薬品の効果を試したかったという人もいたそうです。

 一方、購入者の29.3%(194人)が期待した効果が得られなかった答えた他、15.8%(105人)の人が副作用のような症状を経験したと答えています。

 研究者らは結論の中で、「輸入医薬品には偽造医薬品や品質不良品が含まれる危険性がある」ことや「輸入医薬品による過去の重大な健康被害がある」ことを知りつつも、個人輸入を行う消費者が少なくなく、危険性だけを記述したキャンペーンだけでは効果がないと指摘し、くすり教育の普及が重要であると訴えています。

2.インターネットを介した個人輸入によるダイエット薬試買調査(ファイル2の後半から)

 シブトラミンを含む製品9種53サンプルを32の個人輸入代行業者から実際に購入し、添付文書や日本語の説明書の有無、製品が本物であるかどうか、製造販売業者の合法性(それぞれの国の薬事関連法)などを調べたものです。

 このうち、正規の添付文書が同封されていたのは37サンプル(しかも英語とは限らない)で、日本語の説明書が添付されていた者は18サンプルにとどまったそうです。(しかも1日最大使用量を多く記載したものがあった)

3.個人輸入したシブトラミン製剤の品質(ファイル3の後半から)

 おそらく上記と同じシブトラミン製品のうち32品目について、含有量などの品質を調べたものです。

 結果は、概ね適切な含有量を示し、品質的には特に問題点はなかったそうです。

4.医薬品・医療機器のインターネット販売規制の国際的動向(ファイル3の後半から)

 諸外国におけるインターネット医薬品・医療機器の販売規制の動向を、文献調査や国際会議への参加を通じてまとめていて、多くの国がインターネット販売の弊害き気づき始めたとしながらも、現時点ではネット販売に特化誌が規制法を有している国はなかったそうです。

 報告書では、各国のインターネット販売の規制状況がまとめられている他、2007年9月に欧州評議会閣僚委員会が採択したネット販売に関する欧州のガイドラインの「患者の安全及び配送医薬品の品質の品質を守る医薬品通信販売の優良規範(Good practices for distributing medicines via mail order which protect patient safety and the quality of the delivered medicines)」の紹介、ニュージーランド、英国、米国薬剤師会による認証制度やWHOの取り組みなどが紹介されています。

 1.の実態調査はあくまでもネットユーザーの一部をサンプリングしたものに過ぎず、実態の全てを示したものとは言えませんが、日本でもようやく徹底的な取締の動きも出てきましたが、医薬品の個人輸入は決して少なくないことは確かなようです。

資料:
Resolution ResAP(2007)2
on good practices for distributing medicines via mail order which protect patient safety and the quality of the delivered medicine(Council of Europe)
  →HTML  →PDF

International Medical Products Anti-Counterfeiting Taskforce — IMPACT(WHO)
 http://www.who.int/impact/en/

Medicines: counterfeit medicines(WHO 2010.1)
 http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs275/en/

関連情報:TOPICS
 2010.01.22 欧州医薬品庁、シブトラミンの使用中止を勧告
 2010.01.18 海外でOTC薬はどのように販売されているか
 2009.11.20 コードネーム Pangea II(国際刑事警察機構)


2010年02月14日 00:12 投稿

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