ネット販売、規制改革会議の疑問にどう答えるか?

 7日に開催された規制改革会議(http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/)の第3回重点事項推進委員会で、医薬品のインターネット販売に関する規制強化について、厚労省と公開討論が行われています。

第3回重点事項推進委員会(2008年10月7日開催)
 http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/minutes/wg/2008/1007/agenda.html

 公開討論では、まず事前に規制改革会議が示した質問に、厚労省が回答(資料3、下記に抜粋)したのち、同会議の委員と厚労省の担当者が討論を交わしたようです。

質問内容 厚労省の回答
「対面」の具体的内容及び原則とする理由 「対面」とは専門家が購入者と直接顔を合わせることを求めるものであり、「対面」による適切な情報提供や適切な相談応需を通じて、購入者側の状態を的確に把握するとともに、購入者と専門家との間で円滑な意思疎通を図ることが、医薬品の安全性と効能を確保し、購入者に安心と安全を提供していくために必要不可欠と考えている。
「対面」を確保することを前提とすれば、リスク分類ごとに対応する専門家が不在の場合、当該医薬品の販売を中止すべきであると考えるが、このような措置を厳格に遵守させるのか 新しい販売制度の下では、法令を厳格に遵守し、専門家が不在の場合に医薬品販売が行われないよう、薬剤師又は登録販売者が常時従事していること、医薬品を販売しない時間帯は医薬品を陳列する区画を閉鎖することができる構造設備を有していることを規定する予定である。
インターネット等による販売方法と、対面による販売方法を比較して、安全確保上、インターネット等による販売方法が劣っていると判断される根拠を、具体的かつ網羅的に示されたい インターネット等による販売では、購入に当たって製品を示しながらコミュニケーションを取ることができないこと、購入者側のその時点における状態を把握することが困難であること、購入者側が情報提供を求めた場合に、その対応に時間を要し、また、専門家によって行われているかどうかを確認することが難しい点において、対面による販売と比べて問題があると考えている。
消費者の利便性を犠牲にしても、インターネット等による販売方法を禁止する必要性についてインターネット等による販売方法について新たに規制を課すに当たっては、具体的なデータに基づいて国民が納得できるような説明がなされるべきと考えるか 今般の法改正全体を見れば、登録販売者等を確保することにより、コンビニエンスストア等における販売などが容易となり、コミュニケーションや製品入手にタイムラグが発生するインターネット等による販売に比べ、消費者はより身近なところで、的確な情報を得ながら、一般用医薬品を購入できるようになる。
なお、ある調査では、消費者の多くは医薬品をインターネットで購入しておらず、インターネットによる販売を規制すべきとする意見が規制すべきでないとする意見を上回り、今後インターネットで購入したいという希望も少なかった。また、国会における審議でもインターネット等による販売に対して否定的な質疑がなされている。
インターネット等による販売において発生した副作用被害の実績(件数、内容等)を把握することなく、これを禁止することとした理由を示されたい 医薬品は、一般に使用することにより人体に作用を及ぼして効能効果を発現させるものであるが、同時に、程度の差こそあれリスクを併せ持つ。このような医薬品の本質を考えれば、副作用被害の発生件数等にかかわらず、想定しうる事態に対して予防原則に従った制度設計を図る必要がある。特にインターネット等による販売については、専門家において購入者側の状態を的確に把握することが困難という点と、購入者と専門家の間で円滑な意思疎通を図ることが困難という点において、対面による販売と相違しているため、国民に安心と安全を提供することが困難と考えている。
省令改正に伴う、インターネット等による一般用医薬品販売市場、消費者への影響に関する貴省の認識を示されたい 提供側にとっては、現在、通知によりインターネット販売が可能な医薬品の範囲を定めているが、改正後はリスクの程度に応じた区分のうち第三類医薬品を省令で定めることになるため、販売可能な医薬品の範囲等にある程度の変更は生ずるものと予想している。
一方、消費者にとっては、今回の制度改正によって、専門家による対面販売が徹底されることにより、医薬品の適切な選択と適正な使用につながり、また、インターネット販売に関する規定も明確になるため、好影響があると考えている。

 各紙によれば、同会議は改めて「消費者の利便性が損なわれる」などとして、全てのOTC薬についてネット販売解禁することや第3類薬以外のOTC薬のネット販売を禁止する法的根拠を示すことを求めた他、委員からは、「ネット通販やカタログ通販など対面でない形で売られた結果、副作用や事故が把握していないのに全面禁止するのはおかしい」などの意見が出されたようです。

議事録:
 http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/minutes/wg/2008/1007/summary1007.pdf

公開討論後記者会見録:
 http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/minutes/wg/2008/1007/interview1007.pdf 

 一方、同会議では、この討論会に先立ち、医療タスクフォース(TF)がこの問題についてのヒアリングを関係団体・厚労省に行っています。

開催日 出席者
第2回(2008年8月14日) 楽天、ヤフー、ケンコーコム 議事概要 資料
第3回(2008年8月14日) 日薬 議事概要 資料
第4回(2008年9月12日) 厚労省 議事概要 資料

 日薬に対しては、対面販売の原則についての法的論拠や対面販売についてのメリットについての質問が行われた他、下記のような厳しい指摘もありました。(議事概要より抜粋。主に後半部) 日薬のこの問題への取り組み不足が痛感させられます。

  • リスク分類の基準をはっきりすると言っていますが、対象要件に対するEBMを明らかにして、販売ガイドラインというものがつくられているんですか。例えば患者さんに対する問いかけや質問でも、基本的に薬剤師さんであれば薬を買いに来た方に対してどういう質問をしなければリスク管理ができないということは、きちっとマニュアル化できるはずですし、診療というか販売ガイドライン化できます。そうすると、1人の薬剤師さんが自分の経験だけで判断したり、効能書だけを読んで判断するよりは、すべての事例や症例、副作用情報等をネット上のデータベースですべて押さえて、システム的にチェックできる方がより確実性が増すのではないですか。
  • 厚労省さんの通達に対して違反があった場合の罰則規定が全くないんです。例えば薬剤師会でも何でも、現実的に全国の薬局ですべてが常駐していなくて対面できていないのに、薬剤師会としても事後的な管理チェックが充分にできていない中で、薬事法や通達でどう言おうが対面でなければ絶対だめだと言っているのは、主張そのものが非常に情緒的なんです。
  • エビデンスベーストメディスンだと言われている世の中で、薬剤師会の主張は明らかにエビデンスが何にもない、非常に少ない。だから、これでは説得をするということは非常に難しいと思う。(日薬がくすりと健康の週間に行ったアンケート調査は、エビデンスと呼べるようなものではない)
  • 大衆薬で薬害がどうなっているのか。一類、二類、三類というリスク基準があるならば、その一類、二類のリスクというものの基準はどういう基準なんだ。何十年間大衆薬を売ってきて、どういう問題があって、どういう課題かあったから、この類型としてリスク分類をしましたといった基準、EBMが全くない。医療用医薬品の情報を基に大衆薬のリスク評価が行われたとのことですが、大衆薬になったんだったら大衆薬という全く違った分類の中でエビデンス生成を当然やっていくべきではないですか。
  • 大衆薬に関してもインターネット販売が反対であるならば、一般薬と同じようにエビデンス生成について薬剤師会として、もっときちっとした対応をとられて、組織的にやられた方がいいのではないか。
  • 構成員の中には、薬剤師でインターネット通販をやっていらっしゃる方が必ずいるはずです。薬剤師が関与しているインターネット出展薬局が、一類、二類、三類を売っている。これも当事者、関係者から私どもは聴取しているんです。それを薬剤師会が御存じない。私たちは直接売っているわけではありませんから、知りませんとおっしゃるんですか。
  • 「こう考える」とおっしゃって、こういう行動指針をとるべきだとおっしゃっているにもかかわらず、その実態を全く把握していないということは全く責任を遂行していないということです。薬剤師会として薬剤師、薬局としては、こういうものが望ましいと考えるといって表明しているわけですね。しかし、現実にはその実態がなくて、それを遵守せず、遺脱していることに対して、どういうふうに指導していくんですか。薬剤師会はそういう仕事をしなくてはいけないのではないでしょうか。

 同会議の指摘は、「今まで薬剤師が不在の状態で対面による販売を行ってこなかったのに、何を論拠に今さら必要性を主張するのか」 「会員が実際にOTCのネット販売を行っているのに、会としてそれを止めさせるようにしてきたか」「ネット販売を会として反対と言っているが、ネット販売についてきちんと実態調査を行ったうえで意見なのか」というもので、一般の方から見れば当然の疑問と言えます。議事録でのやりとりを見るとお粗末としか言いようがありません。はっきり言ってとても恥ずかしいです。

 この20年、調剤に偏重する一方で、OTC薬の販売の実態(セルフ販売・ネット販売)に目を向けず、職能団体として取り得るべき対応を何ら行ってきてこなかったことが、今になって取り返しがつかないことになっているといえましょう。委員からの「薬剤師会は親睦団体ではないでしょう。」という言葉は胸に刺さります。

関連情報:[医薬品ネット販売]規制改革会議の暴論(薬局のオモテとウラ 2008年8月25日)
         http://blog.kumagaip.jp/article/18376186.html

 TOPICS 2008.10.09 医薬品ネット販売における問題点(省令案パブリックコメント)
       2008.09.17 薬事法施行規則等に関するパブリックコメント
       2008.08.07 医薬品のネット販売制限は消費者の利便を損なうか?

参考:【ネット販売】規制改革会議 VS 厚労省−お互い譲らず
      (薬事日報HEADLINE NEWS 10月9日)
     http://www.yakuji.co.jp/entry8231.html
   医療介護CBニュース10月7日(一定期間を過ぎるとログインが必要です)
     http://www.cabrain.net/news/article/newsId/18580.html

12月28日更新


2008年10月09日 22:08 投稿

コメントが1つあります

  1. アポネット 小嶋

    議事録と公開討論後記者会見録がようやく掲載されています。

    本記事を更新しました。