ロゼレム錠8mgに関する学習メモ

 16日開催したアポネット研究会は、武田薬品工業さんにお願いしてロゼレム錠8mgについてについて学びました。今回も理解を高めようと下記サイトの資料にざっと目を通してから学習に臨み、一問一答でいろいろな質問をしてみました。

ロゼレム錠8mg 審査報告書/審査結果報告書(→リンク)、申請資料概要(→リンク
(PMDA 新薬の承認に関する情報 平成22年4月承認分→リンク

 添付文書は武田HPの医療関係者向けに掲載済み、インタビューフォームは現時点ではまだアップされていません。

 なおロゼレム錠は、米国では2005年に既に販売が開始されています。

Rozerem (Ramelteon) Tablets
(FDA Drug Approval Package, Approval Date: 7/22/2005)
http://www.accessdata.fda.gov/drugsatfda_docs/nda/2005/021782s000_RozeremTOC.cfm

PRESCRIBING INFORMATION(2008.10.20 Update)
http://www.accessdata.fda.gov/drugsatfda_docs/label/2008/021782s008s009s010lbl.pdf

Medication Guide
http://www.fda.gov/downloads/Drugs/DrugSafety/UCM143463.pdf

Medline Plus Drug Infomation
http://www.nlm.nih.gov/medlineplus/druginfo/meds/a605038.html

 一方、欧州では欧州医薬品庁(EMEA、現在はEMA)の医薬品委員会(CHMP)が2008年6月に negative option を発出し(事実上の不承認)、2008年9月に承認申請が取り下げられています。(経緯については、審査結果報告書のp68-71に記載)

QUESTIONS AND ANSWERS ON RECOMMENDATION FOR THE REFUSAL OF THE MARKETING AUTHORISATION for RAMELTEON
(EMEA 2008.05.30)

Takeda withdraws its marketing authorisation application for Ramelteon
(EMEA 2008.9.25)

WITHDRAWAL ASSESSMENT REPORT FOR Ramelteon Takeda Global Research and Development Centre (Europe) LTD
(EMEA 200810.23)

 以下は、上記の資料と16日のアポネットR研究会での学習を基に整理したメモです。誤り等があるかもしれませんが、皆さんの地元で勉強会を行うときは、どうかこれを参考に確認してみて下さい。

  • 本剤は従来の不眠症治療薬と作用機序が異なり、抗不安作用を有していない。抑うつ状態や不安、ストレスなど精神的な問題を背景とする不眠には不向きであることを正しく認識する必要がある。(十分効果が得られない可能性がある)
  • 本剤は、効能・効果が「不眠症における入眠困難の改善」となっているが、これは総睡眠時間及び中途覚醒覚醒回数に関する改善効果がはっきりしていないためである。(承認審査報告書p74)
  • 一方で、作用が異なるということからベンゾジアセピンとの併用が行われたり、切り替えに伴い、一時的に同時処方される可能性が考えられる。しかし、併用による臨床試験のデータはなく、また相互作用についても検証されていないので、併用は推奨されないと思う。(保険上も認められるかどうかは現時点では不明)
  • 睡眠・覚醒リズムの調節という作用機序を考えると、「朝起きたら日光を取り入れる、夕方以降の昼寝を止める」など、自然な眠りを導くための規則的な生活リズムや、「寝る前はカフェイン類を摂取しない、就寝前は喫煙しない」など、睡眠に影響を及ぼす生活習慣の確認と指導も合わせて行うことも重要である。
  • 数日の服用でも効果が発現するが、睡眠・覚醒リズムの調節という作用機序を考えると、不眠時頓用ではなく、連日投与の方が好ましいのではないか。(ロゼレム錠8mg 1錠 不眠時頓用 という処方はよくない?)
  • 不眠症治療薬による前治療歴のある患者では、本剤による有効性は認められていない。(審査結果報告書p58) また、第III相試験でベンゾジアゼピン系の治療歴があった患者が組み入れられていないことを考慮すると、切り替えによる効果は過度の期待をしない方がいいかもしれない。
  • フィルムコート錠であるが、半錠にしたり、粉砕は可能の様子。(遮光は必要)
  • 一方、臨床試験の結果や薬理作用を考慮すると、4mg/日の減量処方は臨床的にはあまり意味がないように思われる。
  • 吸収の問題から、食直後服用は避けることとなっているが、食後1時間経過すれば、影響はなくなる。
  • 翌日への残遺効果(日中での活動力、注意力、集中力などの機能の低下)は国内での臨床試験では認められなかった。しかし、海外での臨床試験では影響があるとの一部結果があることから、添付文書には注意喚起の記載が行われている。(使用上の注意:2.重要な基本的注意(1))
  • 一方、米国では既存の不眠症治療薬と同様に、服用後の異常行動(もうろう状態。夢遊症状等)や意識障害(入眠まであるいは中途覚醒時の記憶障害)についての注意喚起(日本では警告欄)があるが、日本ではその記載がない。臨床試験で意識障害に関する有害事象が傾眠を除きほとんどなかったことが理由。(審査結果報告書p63)
  • 米国では、Abnormal thinking についての注意喚起の記載があるが、日本ではない。また、欧州の評価書(WITHDRAWAL ASSESSMENT REPORT)では、65歳の高齢者でdepression の発現が高いと指摘されているが、日本ではうつ症状に関する副作用の記載はない。(臨床試験で、これらについての項目の検討が行われていたかどうか確認中)
  • 精神疾患を有する患者さん(統合失調症・うつ病等)への有効性・安全性は検討されていない。(臨床試験の対象から除外) 精神科の医療機関ではなく、内科の医療機関から処方される可能性が高いのでは。
  • プロラクチン値の上昇に関連した有害事象の報告は日本ではなかったが、海外では月経異常などの関連が疑われる症状が報告されており、服薬指導で留意することが必要かもしれない。(使用上の注意:2.重要な基本的注意(3))
  • フルボキサミンとの併用によりAUCがかなり上昇する(併用禁忌)が、血中濃度上昇(過量服用も含む)による有害事象は過度に心配する必要はないかもしれない
  • また、濫用による問題も心配する必要はない(向精神薬・習慣性医薬品には指定されていない)

 その他、まだ分からない点、理解を深めたい点として今後情報を整理したい点(コメントを頂ければ幸いです)

  • サプリメントとしての「メラトニン」と「ロゼレム錠」の違いは?
  • 動物実験では、「ロゼレム錠」によりメラトニンの分泌には影響を受けないとしているが、メラトニン受容体にロゼレム錠が結合することにより、メラトニンの作用が増強したり、セロトニンの代謝(メラトニンはセロトニンから合成)や作用に影響を及ぼすことは全くないのか?
  • 脳内に働く、薬剤でありながら、添付文書上に記載された副作用が少ないことが気になる。(臨床試験では、精神神経系の副作用の発現が非常に少ない。人種差も関連?)
  • 添付文書の用法・用量に、「本剤の投与開始2週間後を目処に入眠困難に対する有効性及び安全性を評価し、有用性が認められない場合には投与中止を考慮し、漫然と投与しないこと」と記載されているが、服薬指導時に、「2週間服用して、効果がないと感じたら医師にはっきりと伝えて下さい」と説明すべきかどうか。(米国では、7~10日以内悪化するか、改善しない場合には別の問題も考えられるとして、医師に相談することとなっている)
  • また、同様に本剤により不眠状態が改善された患者について、継続・長期の服用の意義があるかどうか?(投与2週目ではプラセボ群との有意差が認められなかったという結果もある)

 ベンゾジアゼピン系が使いにくい不眠症の方に、新しい選択肢となる期待される薬剤ではありますが、対象となる患者さんが適切に選択される必要がありそうです。

 まだまだわからないことが多く、広く使われるようになってから、新たに分かることも少なくないのではないかと思います。日々新しい情報にアンテナを張って、患者さんにわかりやすい、最新の正しい情報を提供する必要があるでしょう。

関連WEB情報:
医薬品のイノベーション・プロセスとマネジメント
 -武田薬品「ロゼレム錠」の事例-
(東京大学ものづくり経営研究センター・ディスカッションペーパー)
http://merc.e.u-tokyo.ac.jp/mmrc/dp/pdf/MMRC233_2008.pdf
「自然な眠りを求めて -ロゼレムの研究開発」
宮本 政臣  武田薬品工業㈱ 医薬研究本部副本部長
(創造性の育成塾・夏合宿レポート 動画有・中学生向け講義)
http://juku.netj.or.jp/summer2009/report/report_090806_10.html

7月16日リンク再設定


2010年06月18日 11:34 投稿

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