NSAIDSとアルツハイマー型認知症リスク

 アルツハイマー型認知症は、脳病変としてβアミロイドの異常蓄積が知られていますが、近年NSAIDSがこの蓄積を抑えるのではないかとする研究がすすめられています。

 ボストン大学の研究グループはこのほど、55歳以上の退役軍人のデータを分析し、NSAIDSを5年間使用している人は使用していない人に比べ24%、イブプロフェンに限ると44%アルツハイマー型認知症のリスクが減少するとする研究結果をNeurology 誌に発表しています。

Protective effects of NSAIDs on the development of Alzheimer disease
   (Neurology 2008; 70: 1672-1677.)
   http://www.neurology.org/cgi/content/abstract/70/19/1672

 分析は、アルツハイマー型認知症患者49,349人とアルツハイマー型認知症と診断されていない196,850人のデータが用いられ、使用した期間の他、使用薬剤について「全てのNSAIDS」「アスピリンを除いた全てのNSAIDS」「βアミロイドをするとされるNSAIDS(イブプロフェン・ジクロフェナク・フルルビプロフェン)」などに分類して行われています。

 この研究はランダム化比較試験ではないため、因果関係を証明するには至っていませんが、各紙によれば専門家からは興味ある結果だとのコメントが寄せられているようです。

 研究者らは今回の結果を受けて、長期間のNSAIDの使用(特にイブプロフェン)はアルツハイマー型認知症に保護的に作用すると結論づけていますが、NSAIDSによる潰瘍等のリスクを考えると現時点では低用量アスピリンのように推奨できるものにはならないようです。

 またこの作用は必ずしもNSAIDS共通のものではなく、Archives of Neurology 誌のオンライン版で12日発表されたセレコキシブとナプロキセンのランダム化比較試験では、予防効果はなかったとの結果が得られています。(NSAIDSを常用しているリウマチ患者さんにアルツハイマー型認知症が少ないとのデータもあるようですが)

Cognitive Function Over Time in the Alzheimer’s Disease Anti-inflammatory Prevention Trial (ADAPT)(Arch Neurol Early Release 2008.5.12)
  http://archneur.ama-assn.org/cgi/content/full/2008.65.7.nct70006

関連情報:アルツハイマー型認知症 予防をめぐる最近の話題
       (調剤と情報2007.11)
    「アルツハイマー病の分子病態と根本治療方法確立へのパスウェイ」
     (東京大学第7回ジェントロジーセミナー2007年7月24日)
      http://www.gerontology.jp/home/04/img/0407_02.pdf

参考:NSAID Use Linked to Reduced Alzheimer’s Risk
     (MedPageTODAY 2008.5.6)
   http://www.medpagetoday.com/Geriatrics/AlzheimersDisease/tb/9356
    Ibuprofen Linked to Reduced Alzheimer’s Risk
     (Healthday News 2008.5.5)
     http://www.healthday.com/Article.asp?AID=615214
    Painkiller may cut dementia risk
     (BBC NEWS 2008.5.5)
     http://news.bbc.co.uk/1/hi/health/7380064.stm
    NSAIDS Don’t Keep the Brain Nimble
     (MedPageTODAY 2008.5.12)
     http://www.medpagetoday.com/Geriatrics/AlzheimersDisease/tb/9413
    CNN日本版5月17日
     http://www.cnn.co.jp/science/CNN200805170002.html


2008年05月07日 14:20 投稿

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